魔女教大罪司教『傲慢』担当になってしまったTS僕っ子ロリ   作:あのさぁBOT

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第21話『かつてない陣容』

 ここは、ルグニカ王国が誇る公爵家――カルステン邸の応接室。

 高価な絨毯が敷かれ、格式高い調度品に囲まれたその空間は、今や異様な緊張感に満ち満ちていた。

 

 一堂に会するのは、次期国王の座を争う王選候補者たち、そしてその関係者。

 凛とした佇まいで上座に腰掛ける公爵、クルシュ・カルステン。

 その対面には、どこか落ち着かない様子でありながらも真っ直ぐな瞳を向けるエミリア。

 そして、部屋の隅の高級そうなソファーで、頬をついて事の成り行きを見守るフェルト。

 

 そんな大物たちが顔を揃える中心で、俺は、必死に言葉を紡いでいた。

 

 「――以上が、俺の知る全てだ。魔女教、それも大罪司教の奴らは近いうちに、エミリアのいるロズワール辺境伯領の村を襲撃する。……嘘じゃねえ。今すぐ信じてくれとは言わねえが、俺にはどうしても、奴らを止めるための戦力が必要なんだ!」

 

 一気にまくし立てた俺の言葉に、部屋を沈黙が支配する。

 エミリアは悲痛そうに眉を寄せ、フェルトは「へえ」と不敵な笑みを浮かべた。

 そして、クルシュ・カルステンは、琥珀色の瞳でじっと俺を見つめたまま、微動だにしない。

 

 「ナツキ・スバル。君の持ち込んだ情報、そしてエミリアへの危機が真実だとしてもだ」

 

 クルシュが静かに口を開く。その声には、一国の長たる者に相応しい絶対的な重みがあった。

 

 「我が陣営の戦力を貸し出すには、相応の理由と利害の一致が必要だ。ただの慈善事業で、我が領民や騎士の命を危険に晒すわけにはいかない。君は、私に何を差し出せる?」

 

 俺は喉の渇きを無視して、真っ直ぐに上座の麗人を見据えた。

 

 「あんたの掲げる理想――『竜に頼らない国造り』。それを証明するための、これ以上ない実績をあんたにやる」

 

 彼女はルグニカが長年続けてきた神龍との盟約を破棄し、人の力だけで国を成そうとしている。だが、そのためには王選の本命候補として、圧倒的な正当性と実績が必要なはずだ。

 クルシュの眉が、僅かに動いた。その反応を逃さず、俺は言葉を畳みかける。

 

 「今、ルグニカを脅かしているのは『魔女教』だ。それも複数の大罪司教が同時に動いている。本来なら神龍の助けを借りなきゃならないほどの未曾有の災厄だ。……だが、それをあんたの采配で、人の力だけで退けてみせろ。王国最大の脅威を自力で排除したという事実は、あんたが目指す王道の、揺るぎない第一歩になるはずだ!」

 

 沈黙が流れる。

 クルシュは俺の言葉の端々に吹く『嘘の風』を読み取ろうとしている。だが、俺の心に嘘はない。

 死に戻りの果てに見た、あの凄惨な地獄が網膜に焼き付いて離れない。頭蓋が爆散した村人たち、無残に二つに分かたれたレム、身体中を捻じられたラム、氷漬けのエミリア。

 誰にも言えない絶望を、俺は力ずくで交渉の「カード」へと変えていく。今度こそ人の手で塗り替える。その執念だけが、俺の声を震わせていた。

 

 「……確かに、大罪司教を討ったという名声は王選において絶大な利益となろう。だが、ナツキ・スバル。卿の話が真実ならば、相手は未知の力を持つ怪物だ。我が陣営の騎士たちが全滅するかもしれない。そのリスクに見合うものか?」

 

 クルシュの問いは冷徹だった。その合理的な壁に俺が言い淀んだ時、沈黙に支配された応接室の空気を、静かだが鋼のように硬質な声が切り裂いた。

 背後で控えていたラインハルトが、一歩、前へ踏み出す。

 

 「クルシュ様。一人の騎士として、発言をお許しください」

 

 ラインハルトの声は、いつもの温和さを脱ぎ捨て、鋼のような硬質さを帯びていた。

 

 「王都の近衛騎士団には、すでに『傲慢』アンタレスの手によって、尊厳を汚された十名の騎士がいます。彼らは舌を失わされ、魂の根元をその『牙』で押さえ込まれ、今なお自分自身の命を他者に明け渡したまま、生ける屍として苦しんでいる。……彼らを救い出し、その無念を晴らすことは、騎士の誓いを立てた我ら全ての義務のはずです」

 

 ラインハルトの青い瞳が、クルシュを射抜く。

 

 「近衛騎士団を率いる立場にある公爵閣下――クルシュ様は、自らの剣と魂を魔女教の道具に貶められた同胞の姿を見て、なお、利害のみで剣を振るうかどうかを決めるのですか? 騎士の在り方を問うのは、今、この瞬間ではないのでしょうか」

 

 ラインハルトの言葉は、クルシュの心の芯にある『誇り』を激しく揺さぶった。

 クルシュは瞑目し、数瞬の後、カッと琥珀色の瞳を見開いた。彼女の周囲で、決意の突風が吹き抜ける。

 その風に、俺は確信した。彼女はもう、冷徹な政治家ではない。王道を進む、一人の騎士として立っているのだと。

 

 「――ラインハルト、卿の言う通りだ。騎士の誇りを踏みにじられた同胞を見捨てることは、我が理想とする王道にはあり得ない」

 

 クルシュは毅然と立ち上がると、俺とエミリアに向かって力強く宣言した。

 

 「ナツキ・スバル。卿の提示した利益、そしてラインハルトの問い、確かに受け取った。メイザース領への魔女教襲撃を阻止し、『傲慢』を含む大罪司教を殲滅するため、我がカルステン陣営は全力を以て協力しよう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の全身から力が抜けそうになった。

 だが、まだだ。俺の戦いはまだ終わってない。

 俺は、自分でも指先が震えるのを感じながら、恐る恐る、重い口を開いた。

 

 「もう一つ、どうしても聞いて欲しい、俺の『わがまま』がある」

 

 俺のただならぬ気配に、一同の視線が集中する。

 俺は恐れを、そして決意に満ちた眼光を隠さず、上座のクルシュ、そして傍らに立つラインハルトを見据えて告げた。

 

 「『傲慢』アンタレスを……あいつを、殺さないで欲しい」

 

 その瞬間、部屋の空気が完全に凍りついた。

 エミリアは驚愕に紫紺の瞳を見開き、レムの青い瞳にはスバルの真意を測りかねるような隠しきれない動揺が走る。

 静寂を破ったのは、ソファーに座っていたフェルトの、鋭く突き刺すような問いだった。

 

 「……正気かよ、兄ちゃん。相手は大罪司教なんだぜ? そいつがどれだけヤバい化け物か、一番知ってるのはあんたのはずだろ。なんでそんな奴を助けようってんだよ」

 

 フェルトの言葉はもっともだ。だが、俺は震える指先を強く握り込み、首を振った。

 俺の脳裏から、あの冷徹な大罪司教の仮面の奥で、ただ死の恐怖にガタガタと震えていた一人の小さな少女の姿が焼き付いて離れないのだ。

 

 「あいつを殺しちゃダメな理由は二つある。一つは、あいつの持つ力――『命の掌握』と『身代わり』だ」

 

 俺は、前のループで、ベアトリスが言った「数珠繋ぎの命」とラインハルトが見抜いた「血の糸」の真実を語った。

 

 「アンタレスは、あらかじめ心臓に呪いを植え付けた相手の命を自由に消せる。そしてあいつが絶命するような傷を負った時、その死は繋がった誰かに押し付けられるんだ。つまり、あいつを殺そうとすれば、代わりに罪のない誰かが死ぬことになる」

 

 俺の言葉に、ラインハルトが神妙な面持ちで顎を引いた。命を盾にする最悪の権能。その非道さに、クルシュの眉間にも深い皺が刻まれる。

 

 「そして、もう一つの理由。……あいつの本質は、世界を壊そうなんて大層な志を持った怪物じゃない」

 

 俺は、あの日見た彼女の剥き出しの涙を思い出す。

 それは、あの決裂したループの終わり、正体を暴かれた彼女が最後に見せた、あまりに無様で切実な慟哭だった。それは、ただ独り、死の深淵に怯え、生に縋る子供の剥き出しの恐怖だった。

 「死にたくない」――そのたった一つの、誰もが抱くはずの願いのために、彼女は他者の命を喰らい、自らをも呪いの鎖で縛り付けてきた。頬を伝う大粒の涙は、どんな欺瞞の風も吹き飛ばすほどに熱く、俺の心に消えない火傷を残した。

 あの涙だけは偽りじゃない。醜悪な生存本能の果てに零れた、彼女の魂の叫びそのものだった。

 

 「あいつは、ただの臆病者なんだ。魔女教に故郷を滅ぼされて、他の大罪司教に死の恐怖で縛られて……ただ、ただ『死にたくないだけ』の子供なんだよ。死から逃げるために、他人の命を喰らうことでしか自分を保てない、哀れで未熟な子供なんだ」

 「……だからと言って、その子供が騎士たちの誇りを踏みにじり、命を弄んだ事実は消えない。ナツキ・スバル、卿の願いは、被害に遭った同胞たちへの冒涜とも取れるが?」

 

 クルシュの冷徹な指摘に、俺は深く頭を下げた。視界に入る絨毯が、俺の情けなさを強調するように鮮やかだった。

 

 「分かってる。騎士の誇りを汚し、魂を拘束した相手を生かしてくれなんて、身勝手な願いだってことは百も承知だ。……だけど」

 

 俺は顔を上げ、震える声を絞り出した。

 

 「どうか、あいつに、償う機会を与えてやって欲しい。命を奪うことでしか生きられなかったあいつに、命を救うことで明日を繋ぐやり方を、俺が教えるから。……頼む、あいつを救わせてくれ!」

 

 俺は膝をつき、両手を床についた。一人の少女の、薄汚れた命を繋ぎ止めるために。

 沈黙が流れる。

 ラインハルトは、友のあまりに危うい善意に目を伏せ、クルシュは沈思黙考する。やがて、クルシュは静かに立ち上がると、俺を見下ろして告げた。

 

 「――よかろう。アンタレスの身柄は、メイザース領での事態収拾後、ナツキ・スバル、卿の監視下に置く。だが忘れるな、もし彼女が再び牙を剥くなら、その時は私の剣が容赦なくその首を断つ」

 「……ああ、分かってる」

 

 俺は崩れ落ちるように安堵した。

 

 「――よし、これで話は決まりだな」

 

 部屋の隅、高級そうなソファーで事の成り行きを見守っていたフェルトが、パンと膝を叩いて立ち上がった。彼女は「ふあぁ」と大きなあくびを漏らしながら、その小柄な身体をぐいーっと反らせて、大きく伸びをした。

 

 「ったく、湿っぽい話が長くて身体がなまっちまったよ。兄ちゃんのわがままも公爵様に聞き入れてもらえたんだ、あとはどいつをどっから殴り飛ばすか決めるだけだろ?」

 

 そのあまりに不作法で、けれどこの場の重苦しい空気を一気に塗り替えるような物言いに、クルシュは僅かに目を細めた。

 琥珀色の瞳が、王選のライバルの一人である少女を冷静に観察する。

 

 「フェルト、といったか。ナツキ・スバルがメイザース領を救いたい理由は理解した。……だが、卿がこの危険な賭けに乗る動機は何だ?」

 

 クルシュの問いはもっともだった。

 フェルトの騎士であるラインハルトは最強だ。しかし、不確定要素の多い大罪司教が相手となれば、どんな被害が出るか分からない。大罪司教そのものには勝てても、『傲慢』のアンタレスによる『命の掌握』のように、様々な理由で手遅れになる可能性もあるのだ。

 

 「ああん? そんなの決まってんだろ」

 

 フェルトは不敵な笑みを浮かべると、親指でぐいっと俺を指差した。

 

 「アタシは借りを作るのが大嫌いなんだよ。この兄ちゃんにはさ、例の盗品蔵の一件で、死にそうな目に遭いながらアタシを助けてもらった恩がある。ここらで一発、デカい貸しを返しておかねぇと寝覚めが悪いんだ」

 「フェルト……」

 

 俺の呟きに、彼女は「けっ」と照れ隠しのように顔を背けた。

 だが、その赤い瞳はすぐに鋭い野心の色を帯びて、クルシュを睨み返した。

 

 「それにさ、魔女教の大罪司教をぶっ飛ばしたなんて実績がありゃ、アタシを『貧民街のドブネズミ』だって馬鹿にしてる賢人会のジジイどもも、少しは黙るだろ?」

 

 フェルトは拳を握りしめ、自分を担ぎ上げたこの国の歪な仕組みを壊すかのような、強い意志を言葉に込めた。

 

 「『大罪司教討伐』っていう最高の名誉……そいつをアタシがかっさらって、王選のひっくり返しの足がかりにしてやるのさ!」

 「……なるほど。王としての覇道を見据えた上での判断というわけか」

 

 クルシュは満足げに頷くと、傍らに控えるラインハルトへと視線を向けた。

 

 「ラインハルト、卿の主はこう仰っている。異論はないな?」

 「もちろんです、クルシュ様。主の望み、そして友の窮地……それに応えるのが騎士の務めですから」

 

 ラインハルトはいつもの温和な笑みを湛えながらも、その青い瞳には魔女教という災厄を討つための、静かな闘志が宿っていた。

 エミリア陣営、フェルト陣営、そしてクルシュ陣営。

 かつては反目し合い、あるいは疑い合っていた者たちが、今、一人の少年の執念と、それぞれの誇りのために一つにまとまろうとしていた。

 俺は、自分を信じてくれた全員の顔を見渡し、心の底から熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 

 

 カルステン邸での嵐のような交渉が終わり、最強の布陣が整った。

 一時解散となり、ラインハルトとフェルトを見送った後、俺とエミリア、そしてレムの三人は、夕闇に包まれ始めた王都の街路を宿へと向かって歩いていた。

 街灯が淡い光を放ち始める中、エミリアはそれまで保っていた凛とした佇まいを少しだけ崩し、俯きがちに歩を進めていた。その横顔には、交渉の成功を喜ぶ色よりも、どこか暗い翳りが差しているように見えた。

 

 「――ねぇ、スバル」

 

 静寂を破ったのは、消え入りそうなエミリアの声だった。彼女は立ち止まり、紫紺の瞳を揺らしながら俺を見つめた。

 

 「さっきの交渉の時……私、何もできなかった。クルシュに利益を提示して、道を示したのはスバルだし、ラインハルトは騎士としての誇りを説いて彼女の心を動かした。フェルトだって、自分の意志で協力するって決めてたのに……」

 

 エミリアは自嘲気味に口角を上げ、白く細い指先をぎゅっと握りしめた。

 

 「私はただ、あそこに座っているだけで……王選の候補者だなんて言いながら、結局、スバルの頑張りに寄りかかっていただけだったわ。メイザース領が危ないのに、一番役に立てなかったのは、私じゃないかしら」

 

 彼女の言葉には、自分への不甲斐なさと、他人の役に立ちたいと願う彼女らしい切実さが滲んでいた。

 俺は慌てて彼女の前に回り込み、その両肩を優しく、けれどしっかりと掴んだ。

 

 「そんなことはねぇ! 絶対に! エミリア、俺が言ったことを忘れたのか? 君がそこにいてくれたからこそ、あの交渉は『エミリア陣営』としての公式な場になったんだ。君が隣にいてくれなかったら、俺の話なんてただの平民の妄言として切り捨てられてたはずだ」

 

 俺は真っ直ぐに彼女を見据え、言葉を畳みかける。

 

 「それに、俺が死ぬ気で頭を回せたのは、守りたいエミリアたんがすぐ側にいたからだ。君の存在そのものが、俺にとっての何よりの力なんだよ。だから、役に立ってないなんて二度と言わないでくれ。エミリアたんは、俺たちの中心なんだ…!」

 

 俺の必死な訴えに、エミリアは少しだけ目を丸くし、それから力なく微笑んだ。

 

 「……ありがとう、スバル。そう言ってもらえると、少しだけ救われるわ」

 

 だが、彼女の瞳の奥に宿る翳りは、完全に消えてはいなかった。

 しばらくの沈黙の後、やがてエミリアは、意を決したように口を開いた。

 

 「……ねぇ、スバル。私、決めたわ。私も一緒にメイザース領へ行く」

 

 エミリアのその言葉に、スバルの思考が一瞬で凍りついた。

 

 「ダメだ! 絶対にダメだ、エミリア!!」

 

 反射的に出たのは、猛烈な拒絶の声だった。

 俺の脳裏には、前のループで見た、あの冷たい地下室で物言わぬ氷像と化した彼女の姿が、鮮烈な悪夢となって蘇っていた。

 二度と、あんな冷たい静寂の中に彼女を置きたくない。

 

 「応接間での話を聞いてただろ!? 敵は複数の大罪司教だ! 今回の相手は今までの比じゃないんだよ! 戦うのは俺たちやクルシュの騎士に任せて、エミリアは安全な王都で……」

 「スバル、聞いて」

 

 エミリアがスバルの言葉を遮り、彼の袖を、彼女の細い指先が白くなるほど強く掴んだ。

 

 「私は王選候補者よ。自分の領地が、アーラム村の人たちが危機に晒されているのに、一人だけ安全な場所に隠れているなんて……そんなの、王様になる資格なんてないわ。それに……」

 

 エミリアは顔を上げ、スバルを真っ直ぐに見つめた。紫紺の瞳が、月光の下で激しく揺れている。

 

 「……私、怖いの。スバルやレム、みんなが私の知らないところで傷ついて、私の知らないところでいなくなってしまうのが。私はただ守られるだけの『お人形』になりたいわけじゃないのよ。スバルの隣に、みんなの隣に……私がここにいてもいいんだって、胸を張って言える『居場所』が欲しいの」

 

 その瞳に宿っていたのは、強固な決意ではない。むしろ、自分の存在理由を必死に繋ぎ止めようとする、迷子のような、痛々しいまでの懇願だった。

 これまで「嫉妬の魔女」と同じ銀髪のハーフエルフであるというだけで、世界から居場所を奪われ、不当に差別され続けてきた彼女。彼女にとって、皆と共に歩むことは、単なる戦いではなく、自分がこの世界に存在していいという証明そのものなのだろう。

 俺は、反対の言葉を飲み込んだ。喉の奥が焼け付くように熱い。危険だ、守らなきゃいけない、死なせたくない。そんな正義感が、彼女の剥き出しの魂の叫びを前にして、無残に砕け散っていくのを感じた。

 

 「エミリア……」

 

 俺は、彼女の瞳の奥にある深い孤独と、自分に向けられた切実な縋りを見て、言葉を詰まらせた。ここで彼女の手を振り解くことは、彼女がようやく見つけかけた希望を、最も信頼しているはずの自分の手で握りつぶすことと同義ではないのか。

 長い、あまりに長い沈黙の後、スバルは折れるように肩を落とし、絞り出すように答えた。

 

 「……分かった。分かったよ、エミリアたん。一緒に行こう。その代わり……絶対に、俺の側から離れないって約束してくれ」

 「……っ! ええ、約束するわ、スバル!」

 

 エミリアの顔に、弾けるような、けれどどこか泣き出しそうな安堵が広がった。

 俺は力なく笑った。自分でも気づかないうちに、手は小さく震えていた。一歩後ろで控えていたレムが、複雑な、それでいて何処か哀しげな眼差しで二人を見つめていた。

 

 彼女は「行きましょう」と再び歩き出したが、その背中には、俺への感謝と同時に、自分が「守られるだけの存在」であることへの釈然としない想いが、未だ重く澱のように残っているようだった。

 彼女の頑固なまでの責任感を知っている俺には、言葉だけでその不安を拭い去ることができないのがもどかしかった。

 一歩後ろを歩くレムが、無言でエミリアの背中を見つめている。

 王都の夜風は、結成されたばかりの「最強の陣容」を嘲笑うかのように、冷たく吹き抜けていった。

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