魔女教大罪司教『傲慢』担当になってしまったTS僕っ子ロリ 作:あのさぁBOT
カルステン邸での電撃的な同盟締結から数日後。
俺たち一行は、決戦の地となるメイザース領へと急行していた。
深い森を前にして設営された野営地の天幕。冷たい夜風が幕を揺らす中、俺は、ルグニカ最強の面々を前に、広げられた地図を指し示していた。
「……よし。移動の疲れもあるだろうが、今一度全員で作戦を再確認させてくれ。手違い一つで、誰かが死ぬ」
俺の声に、エミリア、クルシュ、ヴィルヘルム、ラインハルト、そしてフェルトが静かに頷く。隣には、俺を支えるようにレムが控えていた。
「魔女教の奴らは、間違いなくこのメイザース領の森の中に隠れている。あの日、アンタレスが村から逃げて行った方角から、大雑把な潜伏場所は推定済みだ。まずはここを重点的に捜索し、包囲網を絞り込む」
俺は地図上の特定エリアを強く叩いた。
「警戒すべきは複数いる可能性がある大罪司教だ。まずは、緑のおかっぱ頭をした男、『怠惰』ペテルギウス・ロマネコンティ。不条理な念力を使う。そして、白髪で細身の青年、『強欲』レグルス・コルニアス。とんでもねぇ防御力と攻撃力を持ってる。といっても、この二人については、記録を読んだだけで実際に会ったわけじゃねぇ。だから、怪しい奴がいたら下手に近寄らず、大罪司教だと思って用心してくれ」
一呼吸置き、俺は最も神経を研ぎ澄ませて次の一言を放った。
「そして――黒髪に赤い一筋が入った幼女、『傲慢』アンタレス。こいつには最大限の注意を払ってくれ」
天幕の中に、張り詰めた沈黙が降りる。
俺は一度、冷たい夜風を肺の奥まで吸い込み、脳裏にこびりついた『死の光景』を呼び起こした。
前々回のループで見た、何の脈絡もなく風船のように弾け飛んだ村人たちの頭蓋。その無慈悲な力の出所が、あの幼い少女――黒髪に不吉な赤いメッシュを引いた『傲慢』アンタレスであることを、俺は嫌というほど知っている。
俺は、自分に向けられた面々の視線を正面から受け止めた。クルシュの琥珀色の瞳、ヴィルヘルムの鋭い眼光、そして、かつて彼女の魂から伸びる「血の糸」をその目で見抜いたラインハルトの青い双眸。
彼らの前で、俺は神経を研ぎ澄ませ、確かな重みを以て次の一言を放った。
「アンタレスは、必ず生け捕りにすること。決して、殺して終わらせるな」
その言葉が落ちた瞬間、天幕を揺らす風の音さえ消えたように感じた。
「あいつの力は、あらかじめ呪印を刻んだ他者の命を自分の『盾』にする身代わりの呪いだ。安易に刃を向け、あいつの命を奪おうとすれば、その攻撃は繋がった誰かに肩代わりさせられる。……つまり、あいつを殺すことは、罪のない誰かを殺すことと同義なんだ」
俺は拳を強く握りしめ、言葉を畳みかける。
「それに、あいつは……ただ死を恐れて他人の命を喰らうことでしか自分を保てない、救いようのない臆病者なんだ。あいつには生きて、俺たちが奪われた分の落とし前を、その小さな身体で償わせなきゃならねぇ」
俺の執念にも似た決意に、ラインハルトが静かに顎を引く。
彼は、俺の善意と大罪司教の非道さを天秤にかけ、それでも俺の言葉に宿る真実を汲み取ろうとしているのだろう。
「分かっている、ナツキ・スバル。卿の『わがまま』、我が陣営の誇りに懸けて完遂させよう」
クルシュさんの厳かな宣言が、作戦の最終決定を告げた。俺は、胸の奥で燻り続ける怒りと、あの時見た彼女の無様なまでの慟哭を思い出しながら、暗い森の奥を睨み据えた。
―
「……いいか、一瞬の油断もするな」
俺の言葉を合図に、カルステン陣営の私兵たちを含む包囲網が、静かに、そして着実にメイザース領の深奥へと動き出した。
先頭を行くのは、その鋭い眼光だけで森の静寂を威圧するヴィルヘルム。そして、ラインハルトが、全方位への警戒を怠らずに歩を進める。
俺の隣には、複雑な表情を浮かべたレムがいた。彼女は鼻先をわずかに動かし、森の奥から漂ってくる不浄な気配――『魔女の残り香』を嗅ぎ取ろうとしている。
「スバルくん……残り香が、前よりも濃くなっています。間違いなく、この先に奴らは潜んでいます」
「ああ。……村の北西、あの崖沿いだ」
俺の脳裏には、二つ前のループで見た凄惨な景色が、今も鮮明に焼き付いている。何の脈絡もなく村人の頭が弾け飛び、地獄へと変貌したあの広場。その『死の起点』となった場所を、俺はこの足で、今度こそ勝利の起点へと塗り替えるために踏みしめていた。
森の空気は、奥へ進むほどに重く、湿り気を帯びていく。
俺は、瞬きをする間さえ惜しむように、森の隅々を注視していた。
揺れる葉の影、岩の隙間の暗がり、木々の重なりの向こう側。どこに大罪司教が潜んでいてもおかしくない。
特に、あの臆病で、それでいて最悪な権能を持つ少女――アンタレス。
あいつは今、何を感じている? 俺という『正体を知るイレギュラー』に怯え、影で震えているのか? あるいは、再び誰かの命を盾にして、醜い生存競争を勝ち抜く準備をしているのか?
(逃がさねぇ。絶対に、お前だけは逃がしてやらねぇからな……!)
俺は奥歯を噛み締め、神経を極限まで研ぎ澄ませた。
すると、視界の端――鬱蒼とした茂みの向こう、古びた大木の根元付近に、不自然な『何か』が過った。
深い緑と茶色に塗り潰された世界の中で、そこだけが、異質な輝きを放っていた。 宇宙を思わせる、少し青みがかった黒い髪。そして、その隙間に一筋だけ、不吉な鮮血を思わせる赤いメッシュ。
「……っ!」
心臓がドクンと跳ねた。
木漏れ日の下、木陰に紛れてこちらを覗いている、小さな姿。
間違いない。かつて俺に縋り、皆の善意を喰らい尽くし、最後には俺の命を刈り取った少女。
『傲慢』の大罪司教、アンタレスが、そこにいた。
かつて俺が「守る」と誓い、そして「殴り飛ばしてでも止める」と決意した、世界で一番小さな絶望が。
俺は、無意識に震えそうになる指先を強く握り込み、背後に続く面々へと、声を出さずに合図を送った。
まず最初に動いたのは、レムだった。
「そこですね、スバルくん!」
レムが鋭い踏み込みで茂みを切り裂き、続くようにエミリアが微精霊たちの力を借りて周囲の視認性を高める。
木陰に潜んでいた小さな影――アンタレスは、自分に向けられた殺気と執念に気づき、弾かれたように走り出した。その速度は、小さな子供のものとは思えないほどに速い。
「逃がすかよッ!」
俺は地面を蹴った。肺が焼けるような冷たい空気を吸い込み、枝が頬を打つのも構わずに突き進む。
視界の先、木漏れ日を縫うように逃げていく黒髪の少女。かつてのループで俺を『懐柔』し、慈悲の欠片もなく俺の命を喰らった『傲慢』の大罪司教。
だが、今のあいつの背中に、かつての不敵な余裕はない。必死に泥を跳ね上げ、なりふり構わず死の淵から逃れようとする、ただの臆病な子供の背中だった。
「アンタレス! 逃げても無駄だ! お前を捕まえに来た!」
俺の声が、静まり返ったメイザース領の深奥に響き渡る。
一瞬、アンタレスの肩がびくりと跳ねた。彼女は走りながら、縋るような、あるいは呪うような、絶望に染まった瞳で一度だけ俺を振り返った。
その顔は、アーラム村で見せたあの『青ざめた驚愕』そのものだった。俺というイレギュラーが、自分の隠してきた醜い本性を暴き、追い詰めてくることへの、根源的な恐怖。
「こっちに、来るなッ!!」
アンタレスは叫んだ。それは大罪司教の宣戦布告ではなく、死神から逃げ惑う敗北者の悲鳴だった。彼女は立ち止まらず、むしろその叫びを燃料にするように、さらに深い密林の闇へと身を投じた。
「待てッ! 話を聞け! お前を殴り飛ばしてでも、その歪んだ生き方を止めてやるって誓ったんだ!」
俺は足を止めない。
背後では、レムが「スバルくん、深追いは危険です!」と制止の声を上げ、エミリアが俺を援護するように氷の礫でアンタレスの逃走経路を狭めようとしている。
周囲では、クルシュたちの私兵が魔女教徒たちの伏兵を次々と炙り出し、森のあちこちで剣戟の音が響き始めていた。魔女教徒による、自爆覚悟の攻撃が響く。悲鳴が上がる。
あっという間に、この場は戦場と化した。
騎士たちの喧騒を背に、俺は、やるべきことをやるために深い森を駆けていった。
―
メイザース領の深い森。静寂を切り裂く剣戟の音と、魔女教徒たちの狂気に満ちた叫びが響き渡る中、ラインハルトはただ、自分に課せられた役割を淡々とこなしていた。
スバルは、あの少女――『傲慢』の大罪司教アンタレスを追って森の奥へと消えた。彼を支えるべくレムとエミリア様もそれに続く。
ラインハルトは、後方でカルステン陣営の騎士たちを援護しながら、襲いかかる黒装束の集団を手刀で断ち切っていく。
だがその時、異変は唐突に訪れた。
「――なっ、体が!?」
ラインハルトのすぐ側で戦っていた騎士の一人が、不自然な声を上げた。見れば、彼の身体が重力を無視したように宙へと浮き上がっている。首を何者かに掴まれたかのように、彼の顔はみるみるうちに苦悶に染まっていく。
「……これは」
ラインハルトは双眸を凝らした。
空を舞う砂塵。その不自然な揺らぎの向こう側に、騎士の喉元を、そして周囲の空間を埋め尽くすように蠢く、悍ましい透明な腕の群れが見えた。
「不可視の腕か。厄介だな」
不吉な気配だ。触れるだけで魂が汚染されるような、どろりとした悪意を感じる。
ラインハルトは一歩、踏み出した。
抜剣はしない。というより、出来ない。ただ、聖剣の鞘を、宙に浮いた騎士の首を絞め、今まさにその命を握りつぶそうとしているその不浄な腕に向かって一閃させる。
「そこだね」
ブオン、という、物理的な衝突音ではない、ただ風を切っただけのような音が響く。だが、確実に断ち切ったと、己の腕に伝わる感覚が教えていた。
これで騎士を拘束していた不可視の力は霧散した。地面に転がり落ちた騎士を背後へ促すと、ラインハルトはなおも周囲の空間に蔓延る透明な腕を、舞うような動作ですべて叩き斬った。
その直後。
森の暗がりから、鼓膜を抉るような、そして狂気に満ちた絶叫が響き渡った。
「あ、あ、ああ、あああ、あああああああああッ!! ワ、ワ、ワタシの『見えざる手』が見えているのデスかぁぁぁあああ!!?」
木々の影から、奇怪な動きをしながら一人の男が姿を現した。
白髪が目立つ、老齢な男だった。スバルが言った、緑色のおかっぱでは無い。しかし、血走った眼球を限界まで見開いたその貌は、正気という言葉を微塵も感じさせない大罪司教そのものだった。
男は自らの指を噛み砕き、怒りに満ちた表情を浮かべながら、首をボキリと真横に折った。
「ああ、ああああッ! ありえない、ありえないありえないィ! ワタシの『見えざる手』をッ、魔女の寵愛をッ、微塵も愛を受けていない貴様なぞにィィいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!!」
男――ペテルギウスの背後で、再び空間が歪む。
今度は一本や二本ではない。数十という不可視の腕が、黒い翼のように広がり、森の木々をミシミシとへし折りながら僕へと向けられた。全てを断ち切り、霧散させる。
「君はもしや、大罪司教『怠惰』のペテルギウスだね。不可視の念力か、スバルの言っていた通りだ」
ラインハルトは静かに、鞘に収まったままの剣を構え直した。
周囲の空気が、彼の存在に呼応するように清廉なマナで満たされていく。
「あいにくだけど、これ以上君たちの勝手にはさせない。騎士の誇りに懸けて、ここで君の狂気を終わらせよう」
「狂気……そう! ワタシは愛の信徒『怠惰』担当ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!! ワタシは愛に狂っている! 愛されている!! 魔女に! サテラに!! 寵愛を賜っているのデス!! だというのにのにのにのに……ッ!! 貴様はワタシの愛を冒涜した!! 勤勉なる魔女の愛の賜物をその身に受けて、己の愚かさを噛み締めるのデス!!」
ペテルギウスは心底を恨めしそうにラインハルトを睨みつけ、血涙を流しながら、殺意を乗せた咆哮を挙げた。
「『見えざる手』ェ!!!」
百を超える透明な腕が、ペテルギウスの背後から溢れるように姿を現す。その多くが逃げ道を無くすようにラインハルトを取り囲んでいき、残った腕は彼へ一直線に禍々しい殺意を運んだ。
ラインハルトはそれに臆することなく、脚に超人的な力を込めて――。
そして、踏み抜いた。
「なん……デスか、これは」
ペテルギウスが呆然と呟く。
彼が放った百を超える不可視の猛攻は、ラインハルトの振るう聖剣の鞘によって、羽虫を払うかのように一瞬で断ち切られたからだ。
「あ、あ、ああ、あああ、あああああああああッ!! ワ、ワ、ワタシの『見えざる手』がッ、容易く、斯様にも容易くゥ!!」
森の深奥に、耳を貸すのも憚られるような狂気の絶叫が木霊した。
ペテルギウスは、自らの指を噛み砕き、血走った眼球を溢れんばかりに見開いて、いつの間にか背後に立っている『剣聖』を凝視した。
「愛! 愛愛愛愛、愛が、ワタシの勤勉なる愛が足りないとでも言うのデスかぁぁぁ!!」
「君のそれは、愛では無いよ」
ラインハルトが静かに告げると同時に、彼の姿がズレた。
否。ズレているのはラインハルトの身体ではない。ペテルギウスの身体が、真っ二つに切り裂かれているのだ。
「あ……あ………」
断たれた身体から鮮血が噴き出す中、ペテルギウスは不気味な笑みを浮かべた。そして、彼は自らの死を悟りながらも、服の下に隠し持っていた無数の火石爆弾を一斉に起動させた。
「――デスッ!!」
凄まじい爆音と共に、衝撃波が周囲の巨木をなぎ倒し、立ち込める土煙が森を覆い尽くす。
しかし、炎の渦の中から歩み出てきたラインハルトの白い騎士服には、塵一つ付いてはいなかった。
ラインハルトは爆心地を確認する。そこに、あの狂人の姿は無い。塵の一つすら残っていなかった。終わったのだ。大罪司教『怠惰』の命が。だというのに、ラインハルトの心には、大きなしこりが残っていた。
彼はそのしこりについて思考を巡らせて、考えすぎかと頭を振るい、周辺の魔女教徒をあらかた殲滅し終えたクルシュのもとへ報告に向かった。
「……『怠惰』の討伐を完了しました」
ラインハルトは、合流したクルシュに対し、静かに、だが確かな重みを持って報告した。
「よくやってくれた、ラインハルト。……だが」
クルシュは琥珀色の瞳を険しくし、周囲を漂う風の感触を確かめた。彼女の『風読みの加護』が、かつてないほどに不吉で、湿り気を帯びた嫌な気配を捉えていた。
「妙だ。敵の首魁の一人を討ったというのに、この喉元を撫でるような悪寒が消えない。……ラインハルト、卿は避難誘導班と共に、直ちにアーラム村へ向かってくれ。住民たちの無事を確認する必要がある」
「御意に」
クルシュの指示に、ラインハルトは異論は無かった。
騎士としての義務であるのもそうだが、それ以上に、今感じているこのしこりの正体を掴みたかった。
ラインハルトが先行し、フェルトと騎士たちの小隊がそれに続く。道中は不気味なほど静かだった。木の葉のかさつきも、小鳥のさえずりも、まるで息が詰まったかのようだ。
やがて深い森を抜け、辿り着いたアーラム村には、活気あふれる平和な村の光景が広がって――いなかった。
炊事の煙は途絶え、本来なら聞こえるはずの子供たちの笑い声も、家畜の鳴き声すらも、湿った森の空気に飲み込まれたかのように消え去っている。ラインハルトは、隣を歩くフェルトや騎士たちに無言で警戒を促しながら、村の中心部へと慎重に足を速めた。
「!! ……これは」
村の広場に辿り着いた彼の目に飛び込んできたのは、あまりに異常な光景だった。
数十、数百人の村人たちが、広場の中央で折り重なるように座らされ、太い縄で逃げ場を奪うように縛り上げられていた。口元も縛られ、声を上げられないようだ。
「僕が周囲を警戒する。彼らを解放してくれ」
「はっ!」
ラインハルトは騎士たちに縄を解くよう指示を出し、自らは聖剣の鞘を握り直して周囲の木々や民家の屋根に鋭い視線を走らせた。
騎士たちが手際よく縄を切り、猿ぐつわを外していく。拘束から逃れた村人たちは、一様に「助かった……」と安堵の息を漏らし、震える手足で互いの無事を確認し始めた。
だが、広場に広がるその安堵の光景を見つめるラインハルトの表情は、一向に晴れない。それどころか、彼の青い瞳はかつてないほど鋭く、冷徹な光を帯びて一点に凝視されていた。
「おい、ラインハルト。どうしちまったんだよ。まだなんかあんのか?」
隣で首を傾げるフェルトの問いかけにも、彼はすぐには答えなかった。
彼の持つ数多の『加護』、その中でも魂の変質を捉える特異な視覚が、目の前の平穏の裏側に潜む致命的な『毒』を暴き出していたからだ。
ラインハルトの目には、解放されて喜ぶ村人たち一人一人の心臓から伸びる、どす黒い血の色をした無数の『糸』が鮮明に映し出されていた。
「フェルト様……これは、最悪の状況です」
ラインハルトの声は低く、鋼のような冷たさを孕んでいた。彼は村人たちを指し示し、その正体を告げる。
「彼らには刻まれています。王都で近衛騎士団の同胞たち――十人の騎士たちが受けたものと全く同じ、命を掌握する呪いが」
「なッ――兄ちゃんが言ってた、『傲慢』の仕業か!?」
フェルトの驚愕の声を上げる。ラインハルトは深く、重々しく頷いた。
「はい。心臓を介して魂を『牙』で押さえ込まれ、自らの命の所有権を強制的に術者へ明け渡させる術式……。彼らは今、あの大罪司教の命を繋ぎ止めるための『備蓄』として、その命を握られています」
スバルがかつて天幕で必死に訴えていた言葉が、ラインハルトの脳裏に重く蘇る。
『あいつの力は、あらかじめ呪印を刻んだ他者の命を自分の盾にする身代わりの呪いだ』
ラインハルトは、縛られていた村人たちの絶望的な『繋がり』を見つめ、剣を握る手に静かな憤りを込めた。
目の前の人々は縄からは解放された。
だが、その魂に刻まれた『傲慢』の鎖は、未だ彼らを死の淵へと繋ぎ止めたままだった。