魔女教大罪司教『傲慢』担当になってしまったTS僕っ子ロリ   作:あのさぁBOT

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想像以上に伸びて投稿をチキったのは俺なんだよね


第4話『死を恐れるのは傲慢だろうか』

 身体が、熱い。

 『一名消費』。その宣言と共に、信徒の命を燃料にして僕の心臓が爆ぜるように脈動し始めた。

 視界が異常にクリアだ。空を舞う埃の粒、シリウスの包帯のほつれ、ペテルギウスの涎のひとしずく。そのすべてがはっきりと見える。

 大剣を構える。震える剣先を、力尽くで押さえた。

 

 そんな僕を見て、シリウスが言う。

 

 「素晴らしい! 命を分かち合うなんて、なんて愛に満ちた権能なの! でもごめんね? 独り占めは良くないわ。愛は皆で共有してこそですから。だから、私にもその熱を――分けてくださいッ!!」

 

 じゃらり、と火花を散らして鎖が放たれる。

 少し前まで残像を見るのに手いっぱいだったそれは、今の僕の目には確かな形を持った脅威として映っている。

 

 「……邪魔、だっ!」

 

 僕は大剣を横一文字に薙ぎ払った。ギンッと鼓膜を劈くような金属音が響く。

 本来なら鎖に絡め取られるはずの剣筋が、暴力的な筋力によって鎖を弾き飛ばし、そのまま建物の壁に穴を開けた。

 その衝撃に、僕自身の腕が悲鳴を上げる。その痛みに歯を食いしばって耐える。

 一名分の命を上乗せした身体能力は、確かに超人的だ。だが、足りない。権能を抜きにした場合、相手は大罪司教の中でもトップクラスの戦闘能力を持つシリウスだ。もっと強くならないと届かない。

 

 「痛い! 痛いですよね!? でも、それが生きてるってこと! 愛し合ってるってことなんです!!」

 

 シリウスが歓喜の叫びをあげる。

 その歓喜が僕の心を蝕み、戦いに身を投じる恐怖を快楽に染め上げていく。怖いのに嬉しい。嬉しいのに怖い。2つの心が混ざり合い、反発し、僕の判断能力を鈍らせていく。やめろ。

 僕は頭を振る。そして思い出す、死の恐怖を。痛みを。虚無を。

 …長引かせるのはまずい。やるなら短期決戦だ。

 

 「『二名消費』」

 

 がくんと、二名の信徒が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 心臓が跳ねる。一名の時とは比べ物にならないエネルギーが、僕の身体を駆けまわった。

 地面を蹴る。

 爆発的な加速。石畳が粉々に砕け、一瞬でシリウスの間合いに潜り込む。

 大剣を振り下ろす。それに技術などではない。斬撃などない。ただの質量と速度がもたらす破壊だ。

 

 シリウスは笑い、それを幾重にも重ねた鎖で受け止め、即座に受け流す。

 大剣が地面を砕く。振り下ろした勢いで僕の身体は浮かび上がってしまい、無防備となった腹をシリウスの足が突いた。

 

 「が…ッ!!」

 

 肺から空気がすべて絞り出された。衝撃が腹を突き抜け、背骨まで響く。

 吹っ飛ばされた僕は、地面をバウンドし、ゴロゴロと何回転もして地に伏せた。

 

 「うっ……オエェえ………」

 

 口の中が苦い。せりあがった胃液が喉を焼く。視界が点滅し、火花が散る。

 痛い、苦しい。痛い痛い痛い! 日常生活でそうそう感じない痛みに、前世で刺された時の感覚が蘇る。あの時の、内臓が焼け付くような熱。死の冷気が足元から這い上がってくるような絶望感。

 

 「あはは! ありがとう! 伝わってきます、伝わってきますよアンタレスちゃん! あなたのその、煮え滾るような生への執着! 震えるほどの死への恐怖! 素晴らしい、素晴らしいわ! でもごめんね? もっと、もっと私に頂戴! あなたの愛を、その『傲慢』な命を、私と混ぜ合わせて!!」

 

 シリウスが、歓喜に身を震わせながら歩み寄ってくる。

 僕は腹を押さえながら、地面に突き立てた大剣を支えにして立ちあがる。

 正直もう戦いたくない。痛いのはやっぱり嫌なんだ。

 

 「手加減とか、してくれませんかね…?」

 「……それはそれは、怠惰デスねー」

 

 横からペテルギウスの冷たい声が飛んでくる。声の方を見てみると、彼は民家の屋根の上からこちらを見下ろしていた。

 

 「アンタレス。アナタは試されているのです。愛を。魔女からの、シリウスからの、そして自分自身の命からの! この窮地で手加減を望むなど、愛への冒涜! 不敬! 不義! なのにのにのにのにのにのにににににににそれを拒もうとするとは怠惰ぁああ怠惰デス!!」

 

 助けてくれないどころか、もっと「頑張れ(死ね)」と急かされている。

 僕は泣きそうになった。何とか堪えたけど。

 

 「ごめんね? アンタレスちゃん。愛には全力で向き合うって決めてるの」

 「……そうですか」

 

 視界の先では、シリウスが鎖を新体操のリボンのように優雅に、そして殺意を込めてうねらせている。

 僕は戦うための技術を何も持っていない。前世でも、今生でも、戦闘とは無縁の生活を送っていた。それで超人的な身体能力と大剣を持たされたって、その道の達人に正面から勝てるわけがない。先程の流れでそれが痛いほどわかった。

 ならば、奇襲だ。

 

 「『一名消費』」

 

 信徒が一人倒れる。

 僕の権能『螢惑の対抗者』は、マーキングした者の命をエネルギーに変換するもの。先程は身体強化に回したが、今度はそのまま撃ちだす。

 僕の手の平にエネルギーが集まる。それはマナに似て非なるもの。かつて命だったものが、怨念のように渦巻いていた。

 

 「――食らえッ!!」

 

 手の平から放たれたのは、どす黒い漆黒の光弾。魔法のように洗練されたものではない、これから生き続けるはずだった命を無理やり砲弾に加工してぶつけた、不吉な一撃。

 シリウスは目を輝かせ、その攻撃すら愛おしそうに鎖で迎え撃つ。

 

 「ああ! 痛々しい! なんて痛々しい愛の形なの!!」

 

 光弾と鎖が衝突し、凄まじい衝撃波が村を駆け抜ける。視界が爆炎に包まれた。

 やったか? なんて言いはしない。

 僕は爆煙に紛れ、大剣を担いで横に全力で走り、近くの半壊した民家の中へと滑り込んだ。

 

 「あら? 隠れる? 隠れるなんて、恥ずかしがり屋さんなんですね! でもごめんね。無駄ですよ、あなたの鼓動も、震えも、全部筒抜けなんですもの!」

 

 シリウスの狂ったような笑い声が外から響く。僕は壁に背を預け、必死に呼吸を整えた。

 心臓がうるさい。抑えるんだ。これを外せば、次はどうなるか分からない。

 僕はさらに一人分の命を消費し、身体能力を極限まで引き上げた。そして建物の裏窓から飛び出し、屋根を伝って彼女の死角――真後ろの上空へと回り込む。

 

 今だッ!

 

 心中でそう叫び、渾身の力で大剣を振り下ろす。空気さえも切り裂くような一撃。

 勝った、と思った。だが、その時、はっきりと聞こえたシリウスの声がそれを否定した。

 

 「――バレバレですよ、お嬢ちゃん」

 

 彼女は振り向きざまに生き物のように鎖を跳ね上げた。それは大剣を易々と受け流し、勢い余った僕の懐を完全に晒け出させた。

 カウンター。

 彼女の手に握られた、鋭利な刃を持つ鎖の先端が、僕の視界を横切った。

 

 「あっ」

 

 最初に、熱い、と思った。

 次に感じたのは、自分の視界が不自然に回転し、地面が迫ってくる感覚。

 ドサリ、と何かが落ちる音がして、僕は自分の体が首から上を失っているのを、地面に転がった頭で見上げた。

 

 あ……死んだ。また、死んじゃっ――

 

 視界が混濁し、色彩が抜けていく。

 冷たい。石畳の感触が、頬を伝って脳を凍らせていく。あの日、アスファルトの上で感じたあの絶望的な冷たさが、今の僕を優しく、そして残酷に抱擁していた。

 内臓を抉られたあの時よりも、もっと絶対的で、もっと救いのない「終焉」が僕を塗りつぶしていく。

 嫌だ。

 嫌だ、嫌だ嫌だ。

 思考が、記憶が、僕という存在を形作るすべてが、指の間からこぼれ落ちる砂のように消えていく。

 

 世界が暗い。深く、より虚無に染まっていく。

 喉がないから叫ぶこともできない。肺がないから呼吸を求めることもできない。

 ただ、意識という名の火が、虚無の嵐の中でいまにも消えようと細く震えている。

 

 死だ。二度目にして、ようやく再会してしまった本物の恐怖。生命体が感じうる最大の恐怖。

 誰か助けて。誰でもいい、僕をこの虚無から引きずり出して…。

 僕が僕でなくなる前に。

 僕の心が、永遠の静寂に溶けてしまう前に…!!

 

 その刹那、僕の中にある『傲慢』の因子が、主の絶叫に応えて拍動した。

 

 ――『赤き心臓』。

 それは、死さえも他者に押し付ける、身勝手で尊大なる生存への呪い。マーキングされた十名に今ある傷を肩代わりさせ、僕の死を無かったことにする。

 

 「カハッ!!」

 

 次の瞬間、僕は息を吹き返した。

 僕の首は繋がっていた。地面に転がっていた感覚は、悪夢のように消え去っている。

 代わりに、僕の視界の端で、待機していた十人の信徒の首が音もなく、ポロリと地面に落ちた。

 否、十人だけではない。シリウスの権能によって、周りにいた全ての信徒の首が一斉に落ちたのだ。

 

 「……え?」

 

 静寂が訪れた。シリウスの困惑した声が響く。

 一斉に地面を叩く肉塊の音。先程まで規律正しく並んでいた黒装束の集団が、首の無い案山子へと成り果て、鮮血の噴水を空へと捧げている。

 無傷の僕と首を失った信徒たち、それぞれを交互に見るシリウス。

 僕はそれを隙と見なし、全力で大剣を振り上げた。

 

 「死ねえええ!! このイカレ女がああああああああああああああ!!!」

 「ッ!?」

 

 シリウスは迫る大剣に対し、反射的に両腕の鎖を幾重にも重ねて防御の型を取った。しかし、そこに込められたエネルギーは、計四名分の命が乗った、もはや爆弾に等しい。

 

 「あ、れ……?」

 

 シリウスの腕が、ミシミシと悲鳴を上げる。

 受け流そうにも、剣筋が重すぎて動かせないのだろう。僕にとっては羽毛のように軽い大剣は、彼女にとっては一つの山のごとき重量をしているのだ。

 強引に鎖を伝って伝播する衝撃波が、彼女の肩を、肘を、手首を破壊せんばかりに叩く。

 

 「――ッッォラァ!!!」

 

 僕は渾身の力を込めて、剣を振り切った。

 鋼鉄と鎖が激突し、火花が爆ぜる。次の瞬間、シリウスの防御は紙細工のように弾け飛んだ。

 

 受け流し損ねた衝撃が、彼女の腹部に大剣の「面」となって直撃する。

 シリウスの体は木の葉のように宙を舞い、村の広場を横切り、崩れかけの民家の壁を三枚ぶち抜いてようやく止まった。

 土煙が舞い、静寂が訪れる。

 瓦礫の山と化した民家の奥で、シリウスは包帯だらけの体を力なく横たわっていた。

 

 「はぁ、はぁ、はぁッ……!!」

 

 僕は大剣を杖代わりにして、その場に膝をつく。

 

 「勝ち……ましたよね。これ、僕、生き残れましたよね……?」

 

 震える声でそう呟く。

 返ってきたのは、屋根の上から降りてきた、狂気に満ちた拍手の音だった。

 

 「素晴らしい! 素晴らしいデス、アンタレス! 己の死を、他者の命を代償に踏み倒し、その尊大で不遜なる一撃で大罪司教を地に伏せさせるとは!! ああ、これこそが勤勉! これこそが、魔女が望んだ『変化』なのデス!! 脳が、震えるぅうううう!!」

 「はは、は………どうも」

 

 ペテルギウスが、首を90度回転させながら僕の肩を叩く。

 その手のひらの温度は、狂人のそれとは思えないほどに温かかった。けれど、僕の心は冷え切っている。

 視線を落とせば、地面には首を失った信徒たちの山。僕が死を拒絶するたびに、他の誰かが物言わぬ肉塊へと変わっていく。

 

 「…」

 

 信徒たちの死体を見ていると、ふと、奥にある瓦礫の山が動いた。

 

 「……あ……ああ……。素敵……」

 

 土煙の中から、ボロボロになったシリウスが這い出してきた。

 折れた腕を不自然な方向に曲げ、全身を包帯と血で汚しながら、彼女は恍惚とした表情で僕を見つめている。その瞳には、先ほどまでの殺意ではなく、より深化した、どろどろとした執着の色が宿っていた。

 

 「伝わりました……。あなたが、どれほど私たちを愛しているか。自分を繋ぎ止めるために、これほど多くの命を投げ打つなんて……。ああ、究極の……自己愛。こういう愛も……とっても素敵……」

 

 彼女は口端から溢れる血を拭いもせず、這いつくばったまま僕に向かって手を伸ばす。

 ペテルギウスはそれを見て、脳が震えるほどの歓喜に咽び泣き、シリウスは僕の中に見た「底なしの利己主義」を愛と呼ぶ。

 

 僕は、震える手で大剣を握りしめる。

 

 助かった。生き延びた。本当に?

 目の前には僕を愛でようとする二人の狂人がいる。背後には僕が使い潰した骸の山がある。

 

 「……はは、ははは」

 

 乾いた笑いが漏れた。

 ああ、そうだ。死ぬのは嫌だ。怖い。だから、僕は魔女教徒として、この狂った連中に囲まれながら、狂信者を演じ続けるしかないのだ。

 頭がくらくらする。疲労のせいか、それとも別の何かか。今は考える気にもなれない。

 

 彼らの異様な賞賛を耳にしながら、僕は遠のく意識の中で思った。

 

 もう、一生分くらい死ぬ思いをした。一回死んだし。帰りたい。安全なお布団の中に帰らせてくれ。

 僕の切実な願いは、魔女教という泥沼の底へ、さらに深く沈んでいった。

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