第52戦闘航空団(JG52)、第二飛行隊の執務室。フーベルタ・フォン・ボニンは、使い古されたよれよれのコートを椅子の背もたれに掛けると早速話を切り出した。
「さて、本日は訓練学校から新人が二人着任することになっているが……」
「その通りです、隊長」
そう答えたのはボニンとは対照的にしわ一つない軍装に身を包んだゲルトルート・バルクホルン。いかにも几帳面そうな顔をした部下にボニンは面倒くさげに言う。
「お前はひよっこ二人のために、この私に着飾れと言うのだな?」
「着飾れなどとは言ってません。せめて、士官として威厳のある格好をしてくださるように言っているんです!」
「全く……くだらないことにこだわる奴だ。服装で士官の能力が決まるなら、仕立て屋を将校にすればいいだろう」
「新人に舐められると言っているんです!服装の乱れは心の乱れと訓練学校ではうるさく教えているのですよ?」
隊長相手にも譲らないバルクホルンの隣で小柄な銀髪のウィッチが口を開く。
「ちょうどいいじゃない。訓練は終わり、実力が頼りの最前線にやってきたということよ」
彼女の名はエディータ・ロスマン、ヒスパニア戦役から軍歴を重ねるベテランの曹長だ。バルクホルンは教育係でもあったロスマンの言葉に語気を弱める。
「それはそうですが…」
「二人ともあなたの後輩でしょ?どんな子達なの?」
バルクホルンは軽く咳ばらいをして答える。
「まずエーリカ・ハルトマンですが訓練学校を首席で卒業、演習も真面目にこなしています。精神面で少し臆病なところがありますが。生活態度も朝が苦手なこと以外は目立った規律違反もありません」
うんうんとうなずきながらロスマンは言う。
「素直ないい子ってわけね。もう一人は?」
「もう一人……ハンナ・マルセイユは学校始まって以来の問題児です。私を含め上級生に頻繁に反抗する、禁制品を持ち込む、挙げ句の果ては夜に宿舎を抜け出して町の居酒屋で飲み明かしていたこともありました」
「ははは、元気がいいな」
苦虫をかみつぶしたかのような表情になって言うバルクホルンとは反対に愉快そうにボニンは笑った。
「笑い事ではありません!……まあ、奴も訓練に対しては貪欲でしたし、ハルトマンに次ぐ成績で卒業しています」
「実力はあるということだな」
「でなければとっくに軍から追い出されてますよ」
むすっとした顔でバルクホルンは答えた。ボニンはしばらく考えてから言う。
「よし、ハルトマンにはロスマン曹長、マルセイユにはダンマース曹長を教育係として就けよう。では、話は以上だ。新人が来るまでは自由時間だ。解散!」
「新人の歓迎会の準備でもしようかしら」
ロスマンはそうつぶやきながら部屋を出ていった。ボニンは小言が再開しないうちにバルクホルンの背中を押して退室をうながす。
「司令、私の用意した士官服に着替えといてくださいよ?」
「ああ、心遣い感謝するよ、バルクホルン」
バルクホルンはシミ一つない士官服をボニンに渡し退室していった。内心番犬みたいにうるさい奴だと呆れながら、ボニンは受け取った士官服を机の上に置き、執務室の窓の外を眺めた。窓からは滑走路が見える。
「ハルトマンにマルセイユか」
「ネウロイどもの攻勢も激しくなっている、2人には一日も早く背中を任せるに足るウィッチになってもらいたいものだな」