エーリカ・ハルトマン1939   作:ペトロ

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前線へ

 

JG52基地へ続く道を一台のキューベルワーゲンが走っていた。後部のベンチシートには二人の少女が真新しいカールスラント軍の士官服に身を包み座っている。

 

「……はぁー」

 

物憂げな表情をしている短い金髪の少女の名はエーリカ・ハルトマン。雲量10の曇天の空を眺め、溜息をついた。

 

「なんだ、ハルトマン。航空ウィッチのくせに車酔いか?」

 

アンニュイなハルトマンとは逆に腕組みをして堂々と座る長身の少女の名はハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。桜色がかった白く長い髪を風になびかせ、片方の眉を器用に上げてハルトマンを見る。

 

「違うよ、ハンナ……とうとう前線にやってきたと思うと……緊張して」

 

「おいおい、何を言う。ようやくつまらない訓練が終わって、ネウロイどもと戦えるんじゃないか!見ていろよ、私が奴らを黒海に追い落としてやる!」

 

マルセイユがパシッと拳で手のひらを打つと、運転手はそれは頼もしいと愉快そうに笑う。

 

「いいよね、ハンナは単純で……」

 

「お前こそ、そのウジウジした態度を何とかしろ。実力で言えば私に並ぶライバルなんだからな」

 

「……はぁー」

 

再び溜息をつくハルトマン。

やがて前方にJG52基地の検問所が見えてきた。更に近づくと車は警備の兵に呼び止められた。

 

「止まれ、これより先はカールスラント空軍JG52の敷地だ。通行証を見せろ」

 

ハルトマンが通行証を取り出そうとする間に、マルセイユが髪をかき上げて喋り出す。

 

「ふっ、私の名はハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。ネウロイを駆逐し、人類に勝利をもたらす大英雄だ。覚えておけ」

 

「いいから、通行証」

 

表情も変えずに催促する警備兵に、ハルトマンが通行証を渡す。

 

「やめなよハンナ、恥ずかしいな…… はい、これです」

 

「確かに、本日付けで着任の航空ウィッチだな。通ってよし」

 

再び走り出し敷地内へと入っていくキューベルワーゲンから身を乗り出して、マルセイユが警備兵に手をブンブンと振る。

 

「今後は顔パスだぞー!」

 

「やめなって……」

 

検問所を抜けると、すぐに滑走路やハンガー、兵舎が見えてきた。運転手は車を止めた。

 

「お二人は第二飛行隊に配属でしたね。ウィッチの兵舎に男性隊員は入れないので、送迎はここまでです」

 

「うむご苦労。特別にサインをやろう、後で高く売れるぞ」

 

マルセイユはさらさらとサインを書くと、運転手に手渡し車を降りた。

 

「ははは、期待してますよ」

 

ハルトマンもキューベルワーゲンから降り、運転手に礼を言う。

 

「わざわざありがとうございました。じゃ、行こうかハンナ」

 

「ふふ、腕がなるな」

 

ハルトマンが基地の中を眺めると滑走路に人だかりができているのが目についた。

 

「あ、滑走路のそばに人が集まっているよ。ここの隊員の人達かな?」

 

「よし、気合いを入れて挨拶をするか」

 

二人が滑走路に近づいていくと、一人の小柄な銀髪の少女が走ってきた。

 

「ん?」

 

それとともに空から不規則なエンジン音が聞こえてくる。

 

「そこの二人!今すぐ滑走路から離れて!」

 

空を見上げると、雲の間から炎に包まれたウィッチらしき影が滑走路に向かってくるのが見えた。

 

「わわわ!!ウィッチが火だるまになってる!?」

 

「こっちに突っ込んで来るぞ!!」

 

ますます轟音をあげて地上に近付いてくる炎の塊から声が聞こえてくる。

 

「オーイ!よけてくれ!お嬢さん達!」

 

「危なーい!!」

 

「さすがにまずいっ!緊急脱出!」

 

ウィッチが着陸とともにストライカーユニットを着脱すると、ほぼ同時にユニットは爆発を起こした。

 

「うわああああ!」

 

脱出の勢いと爆風を受けて、ウィッチはゴロゴロと滑走路を転がっていく。何回転かしてハルトマン達のそばで止まるが、そのまま動かない。

 

「…………」

 

ハルトマンはまさか死んだのかと思い狼狽し、さすがのマルセイユも基地に入っていきなりの墜落事故に目を丸くしている。

しばらくみているとウィッチはおもむろに立ち上がった。

 

「よかった、生きてた!」

 

立ち上がったウィッチはマルセイユよりも背が高く、ボーイッシュな顔立ちをしていた。

 

「やあ、子猫ちゃん達。驚かせてすまなかったね」

 

そのウィッチは物腰柔らかにハルトマン達に話しかけてきたが、頭からは血が流れている。

 

「血!血!血出てますって!」

 

この騒ぎに兵舎の方からも何人か人が走ってくる。その先頭に立ってバルクホルンがやってきた。

 

「一体何ごとだ!?」

 

整備班と共にストライカーユニットの消火を行っていたロスマンが叫ぶ。

 

「バルクホルン中尉、消火剤もっと持ってきて!早く!」

 

「ええい!あの壊し屋め!」

 

そのままどたばたと消火剤をとりにハンガーへと走るバルクホルンと入れ違いに、ボニンも滑走路にやってきた。

 

「なんだ?お前また不時着したのか」

 

「面目ありません、帰投しようと思ったらはぐれの奴がいまして。撃墜したんだけど、エンジンに一発くらっちゃったんです」

 

何事もなかったかのように話す二人を見てハルトマンはおろおろと言う。

 

「あの、あの、早く止血しないと…」

 

長身のウィッチはハルトマンの手を取り話しかけてくる。

 

「僕のことを心配してくれているの?嬉しいな。僕はヴァルトルート・クルピンスキー。君の名前は?子猫ちゃん」

 

「エーリカ・ハルトマンです……あのそんなことより血が……」

 

「私の名はハンナ・ユスティーナ・マルセイユだ!」

 

のけ者にされていると感じたのかマルセイユが口をはさんでくる。

 

「ははは、こっちのお嬢さんは元気だね」

 

「僕のことなら大丈夫さ、不時着には慣れてるんだ… それより… 2人との出会いに…」

 

話の途中でぱたりと倒れそうになるクルピンスキーをボニンとマルセイユが支える。

 

「ハルトマン、マルセイユ、来ていたのか!とにかくそいつを医務室に運んでくれ!」

 

バルクホルンがハンガーから消火剤を抱えて滑走路に走ってきた。

 

「トゥルーデ!わ、分かった」

 

「げ、あいつもこの隊なのか」

 

マルセイユは天敵にあったかのように顔をしかめた。クルピンスキーを運ぼうとする二人にボニンが話しかける。

 

「着任初日に墜落事故に巻き込まれるとは大変だな。しかしまあ、これも前線に来た洗礼だと思って受け入れてくれ」

 

前線か…とハルトマンは心の中でつぶやいた。その心は曇天の空のように未だ晴れないでいた。

 

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