エーリカ・ハルトマン1939   作:ペトロ

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訓練開始

クルピンスキーを医務室まで送り届けたあと、ロスマンの案内でハルトマン達はJG52の作戦会議室へと向かった。

 

部屋の中に入ると第2飛行隊の隊員たちが集まっていた。

 

「おほん、ゴタゴタして申し訳なかったわね。気を取直して新人の紹介を始めましょうか」 

 

すでにヘトヘトといった顔のハルトマンにロスマンが自己紹介を促す。

 

「じゃあ、エーリカからお願い」 

 

「は、はい。本日付でJG52第2飛行隊第7中隊に着任した、エーリカ・ハルトマンです。よろしくお願いします」

 

敬礼するハルトマンにパチパチと拍手が起こる。

 

「はい、よろしくね。次はマルセイユお願い」

 

「ハンナ・ユスティーナ・ヴァーリア・ロザリンド・ジークリンデ・マルセイユだ!私が来たからには百人力だ、ネウロイどもを欧州から追い出してやる!」

 

そう豪語するマルセイユに拍手とヒューヒューといった口笛が飛ぶ。 

 

「あいつめ、またあんなことを…」

 

バルクホルンはマルセイユの大口に頭を抱えた。ロスマンが拍手が止むのを待って言う。

 

「期待しているわ。2人の直属の上官はバルクホルン中尉よ」

 

「では部屋にはバルクホルンが案内してやれ。午後からは早速訓練だ」

 

ロスマンの言葉にボニンがそう付け加えた。バルクホルンは立ち上がりハルトマン達のそばまで来て言う。

 

「2人は相部屋だ。ついてこい」 

 

「え?ハンナと相部屋?」

 

「望むところだ!」

 

困惑するハルトマンをよそにマルセイユは謎の気合いを入れる。作戦会議室を出て二人はそのままバルクホルンの案内で自分達の部屋へと向かった。

 

 

バルクホルンが部屋のドアを開ける。部屋の中はベッドが二つに椅子とテーブルがあるだけの簡素な光景だったが、前線の寝床としては贅沢な部類に入るものだった。

バルクホルンは二人を部屋の中に入れると訓示を始めた。

 

「貴様らに一言言っておく!ここは最前線だ、甘ったれた気持ちは捨てろ!私は軍紀違反には容赦しないからな」

 

「はいはい」

 

そっぽを向いて面倒くさそうに返事をするマルセイユにバルクホルンの鉄拳が飛んでくる。

 

「ぐあッ!?」 

 

「はいは一回だ!」

 

「この……」

 

マルセイユはギリッと歯を噛み、バルクホルンを睨みつける。

 

「何だ、その目は」

 

「や、やめなってハンナ、トゥルーデも…」 

 

ハルトマンが間に入って二人を落ち着かせようとするが、バルクホルンはハルトマンにも言い放つ。

 

「ハルトマン、今は私が上官だ。お前もいつまでも訓練学校の気分では困るぞ。私のことはバルクホルン中尉と呼べ」

 

「は、はい。バルクホルン中尉……」 

 

「荷物の整理が終わったら、ハンガーに集合だ。飛行訓練はハルトマンはロスマン曹長、マルセイユはダンマース曹長が担当する。遅れるなよ!」

 

バルクホルンはそう言うと部屋を出て行った。

 

「くっそぉ、あの馬鹿力女め…」 

 

マルセイユは痛そうに殴られた頬をおさえる。

 

「懲りないねぇ、ハンナは」

 

「見てろよ、すぐに昇進してあいつをこき使ってやる!」 

 

拳を振り上げて決意表明するマルセイユをよそに、ハルトマンは荷物の整理を始めた。

 

「えーと本はここに置いて… お菓子はベッドの下に…」

 

マルセイユはハルトマンの様子をしばらく見ていたが、やがてこう切り出した。 

 

「ハルトマン、仮にもお前は私より席次が上の実力者だろう。なのに、おまえはそんなにやる気がないようにみえる。なぜなんだ?」

 

いつになく真剣に問うマルセイユに向き直ってハルトマンは答えた。 

 

「……だって私、戦いがしたくてウィッチになった訳じゃないから」

 

「なに?」 

 

マルセイユは片方の眉を上げハルトマンを見る。

 

「空を飛ぶことは昔から好きだったよ。でも私、本当は医学の勉強をしたかったんだ、父さまがお医者さんだし。なのに、ウィッチになって軍に入ってからは戦いのことばっかり…」

 

「ネウロイとの戦いだって最初はすぐ終わるって言われてたのに、今はもうカールスラントの間近まで攻めこまれてる…」

 

マルセイユは悲し気な表情で答えるハルトマンをまたしばらく見つめていたが、沈痛な空気を振り払うようにふんと鼻を鳴らし言った。

 

「私には分からないな。それだけの実力があるのだからさっさとネウロイを倒して、それからやりたいことをやればいいだろう」

 

「ハンナはやりたいことってあるの?」

 

ハルトマンは興味深げに問う。

 

「ウィッチとしてネウロイと戦う。それこそが私の天命だ」

 

「私はウィッチの力が発現した時に思ったぞ。誰にも邪魔されず、誰よりも自由に生きる。天が私にそんな力を与えてくれたのだとな」

 

マルセイユはグッと拳を握り、続けた。

 

「私は私の力を皆に認めさせたい。ネウロイとの戦いこそが、私の生き方の証明なんだ」

 

「ふーん……」

 

握った拳を見つめてはっきりと答えるマルセイユを、ハルトマンは自身にない芯の強さに引け目と羨ましさを感じながら眺めていた。

 

 

荷物の整理を終えて二人はハンガーへとやってきた。ハルトマンはbf109ストライカーユニットの発進機近くにいるロスマンをみつけ、走って近づいていく。

 

「きたわね、ハルトマン少尉。早速訓練を始めましょうか」 

 

「よろしくお願いします」

 

「あなたには私の僚機として飛んでもらいます。2人1組のロッテ、これが基本的な行動単位よ。もちろん実際の戦闘でもね」

 

実際の戦闘という言葉にハルトマンは少し表情を固くした。ロスマンは続けて言う。

 

「私達の使用するユニット、bf109は上昇性と急降下性能にすぐれているわ。それを利用して敵の上空から直射をしかける一撃離脱が基本戦術よ」

 

ロスマンは手をウィッチに見立て上げたり下げたりしながら攻撃方法を教える。

 

「この戦術のためには、急降下と急上昇におけるユニット制御に慣れる必要があるわ」

 

「はい、耐G訓練は訓練学校でも行いました」

 

「そう、それは頼もしいわね」

 

そう言いながらロスマンは顎に手を当てて少し考える。 

 

「あなたはこれまでストライカーユニットを飛ばすために、どう筋肉と神経を使うかを学んできたと思うわ。言ってみれば身体で飛ぶ訓練ね」

 

ふんふんとハルトマンはうなずく。

 

「だけど、実際にネウロイと戦うには考え方を発展させて攻撃に対するずるさ、判断、決断を駆使する頭脳プレーが必要となるわ」

 

「要するに、これからあなたには身体ではなく頭で飛ぶことを学んでもらいます」

 

頭で飛ぶというロスマンの言葉にハルトマンは感銘を受け深くうなずく。

 

「とりあえず基本的なことは言ったわね。それじゃあ、ユニットをつけて実際に飛んでみましょうか」

 

「はい!」

 

ハルトマンは発進機の階段を上り、ストライカーユニットを装着する。体が熱を帯び、ふわりとした感覚が全身を包み込む。髪の一部が変色し、腰からは尻尾が伸びる。普通のウィッチは獣の耳が出現するのだが、なぜか彼女は髪色が変わるだけであった。

訓練用の機関銃を手に取り、魔導エンジンを始動させると、足元に魔法陣が展開する。

 

「ハルトマン機、でます!」

 

ハンガーから滑走路へと進み、そのまま速度を上げてハルトマンの身体は空へと舞い上がった。

 

 

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