推定17〜18歳で溺死するから長生きしたい   作:綾瀬~><

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レギュラスくん大好きなんですけど、映画で全カットされてるし題材にされてる夢小説は少ないし……だったら自給自足するしかねぇよな!?って気持ちで書きました

書いてる内にいつもの性癖ハッピーセットになってました



第一部・親世代編『理想の前で死は軽い』
第一章/表 メメント・モリ


 

 煌びやかなパーティー、華やかな装いの男女、豪勢な料理。

 絵に書いたような貴族の生活だ。想像していたより、思いの外ドロドロしてたけど悪くはない。ストレスは溜まるけど。

 

 手に持った子供用のジュースを一口飲み、少年はそっと息を吐く。

 

 誰もが一度は憧れる魔法という非常識が常識の世界で、少年が極限まで気配を消して壁の華に徹している理由。

 それこそが、少年の原点であり、これからの人生を大きく左右する運命でもあった。

 

 少年はこの世界ではない、遠い未来で生まれ育った未来人であり、対して悪事を働いた訳でもなく平均的に生きて、そして死んだ、とある児童書が大好きな一般人……のはずだった。

 少年が転生したと気づいたのは生まれて間もない頃、視界に映るどう考えても人とは思えない生命体(屋敷しもべ妖精)を見た衝撃で前世の記憶を取り戻した。あまりにも間抜けすぎる。

 落ち着いて情報を整理したところ、どうやら前世で大好きだった児童書『ハリーポッター』の世界に転生してしまったようだった。しかも没落不可避なブラック本家とかいう盛大な死亡フラグが建築されし家の次男として、だ。

 

 さて、勘のいいガキならばお気づきだろう。

 

 ──レギュラス・アークタルス・ブラック。

 

 ブラック家次男の純血主義者で闇の帝王の敬虔なる信者でありながら、大切な屋敷しもべ妖精 クリーチャーを傷つけられ最期に反旗を翻した獅子座の心臓。

 まさかの重要人物に成り代わってしまったのだ。はっきり言って荷が重い、とはいえ彼の勇敢な行動は後に大きな影響を与える。

 望んでないとしても彼に成り代わった以上、その身にある運命を受け入れて原作通りに───…やれるワケがなかった。

 

 享年が17歳なんて冗談じゃない!二度目の人生は前世よりも長生きしたいのに、17歳じゃ前世と対して変わらないじゃないか!

 今世こそ子供や孫、曾孫に囲まれながら眠るように死ぬんだ!そんなクソッタレな運命、絶対に変えてやる!!

 

 少年──否、レギュラスはカサつく唇を舐めて、逸る気持ちを落ち着かせる。

 

 確かにレギュラスは原作が好きだ。しかし、だからといって早死すると知っていて「はいそうですか、分かりました」って粛々と受け入れて何もせず死ぬなんて御免だった。

 知ってるなら、その運命を変えるために足掻くべきだろう。

 

 ──その為にもレギュラスがすべきことは一つだった。

 

 いつか来る“運命の日”を確実に乗り越える為に味方を増やすこと。

 ダンブルドアもヴォルデモートも等しく敵だ。だからこそ、上手く懐に入り込まなきゃいけない。色んな情報を得る為にも、あんな死に方をしない為にも、きっとソレは必要不可欠な行動だ。

 大丈夫、前世の専攻は心理学だった。先生にも「お前が犯罪者じゃなくて良かった」と言われるくらいには人の心をよく理解してるつもりだ。

 

 二大巨頭を手玉に取るくらい、僕なら出来るはず。

 

 

「レジー!」

「あ、兄様!」

「ちまちまジュース飲んでてもつまんねぇだろ?やるべきことは終わってるんだし、母様が見てない内に抜け出そうぜ」

 

 

 お察しの通り、このニヤリとした顔をしながら声をかけてきたのは兄のシリウス・ブラックだ。

 原作の記述通り、幼少の頃から完成された美貌を持っている。揃いの黒髪は艶やかで、ブラック家特有の灰色の瞳はレギュラスのよりも薄いスカイグレー。将来はさらにハンサムな面立ちになるのだろう、あまりにも容易に想像できる。

 この魔法界では『血が濃く、優秀な魔法使い/魔女は輝かんばかりの美貌をしている』というのが定説だが、シリウスを見ればソレが正しいということがよく分かる。

 前世というアドバンテージのあるレギュラスを凌ぐ頭脳と魔法は、まさに外れ値と呼ぶのに相応しいだろう。まあ、その代わり若干おつむが弱いのだが。

 

 それにしても、と思考が沈む。

 

 元気いっぱいなクソガキムーブをかましてるシリウスも割と早死の部類に入るんだよな、とレギュラスは少し複雑な気持ちになる。

 冤罪ふっかけられて10年監獄生活、ようやく疑惑が晴れて親友の息子に会えたと思ったら怒涛の展開で殺される……ってなにそれ悲惨すぎる。あと二年もすればジェームズ・ポッターの駄犬になるとしても、今のレギュラスにとってはカッコよくて優しい頼りになる兄様だった。

 最優先は己の死を回避することでも、シリウスにも死んでほしくないと思うくらいには大好きだ。

 

 もちろん、シリウスのことも死なない為にある程度は利用するつもりだけど。

 

 それでも、このまま原作通り進めばレギュラスはシリウスと拗れに拗れて決別し、最終的には「ごめんなさい」の一言も言えずにベールの向こう側へ行ってしまう。

 レギュラスとて最悪の自体は回避したいし、そもそもシリウスと決別したくない。いい落とし所があるにはあるけど、それもシリウスからの信頼が高くなければ成功しない。

 魔法界も好感度上げが重要な世界だと人生二回目のレギュラスは知っていた。

 

 

「すごい、なんで分かるの?あのね、さっきまでちょっとだけつまんなかったんだ。本当にちょっとだけだよ?」

 

 

 ぱちりと大きな目を瞬かせて、ふにゃふにゃとした笑みを浮かべる。

 

 全くもって柄じゃないけど、巡り巡って己のためになるなら羞恥心を煽るムーブだって完璧にこなしてみせる。存外、レギュラスは思い切りがいいのだ。

 凄惨な死を回避するためならば、シリウスや両親、果てには見知らぬ人でさえ騙されてると分からないほどに騙してみせる。

 そんなレギュラスの心も知らず、返答に気を良くしたシリウスは空っぽのグラスを近くにいたウェイターに押し付ける。そして、そのまま手を握って庭の方へと駆け抜けていった。

 

 足がもつれない良い塩梅の速さに、レギュラスは密かに感心する。

 

 途中、その姿に気づいた母のヴァルブルガは鬼の形相でシリウスを呼んだが、当の本人はしれっとした顔で無視。

 父のオリオンは息子の強行に極めて美しい所作で頭を抱え、先程まで会話に花を咲かせていたシグナス・ブラックは苦笑した。

 ブラック分家の三姉妹であるベラトリックスはイライラしたような顔になり、アンドロメダは面白そうに笑い、ナルシッサは心配の言葉を零す。

 ロドルファスとラバスタンのレストレンジ兄弟は驚きのあまりジュースを零し、エイブリー親子は綺麗に二度見をして、マルシベール親子はポカンとした表情で皿を落とした。

 そして、アブラクサス・マルフォイとその息子であるルシウス・マルフォイはちょうど席を外していた為、現場を目撃せずパーティーがカオスな状況になっていることに首を傾げた。

 

 

 会場内が慌ただしいことになっているのも知らず、元凶であるシリウスは庭に出て「いい仕事をした!」と言わんばかりに見えない汗を拭う。

 今回はレギュラスが7歳を迎えた誕生日パーティーで、大々的なパーティーをする前に身内のみで祝っていたから良かったものの中々の暴挙だったな……と密かにため息を吐く。

 

 先程まで繋いでいた手を離して、シリウスは一歩前に出る。

 

 きょとんとした顔で眺めていると、シリウスは少し緊張した面持ちで振り返って練習用の杖を掲げた。

 そして、まるで指揮者のように繊細な手つきで杖を振ると、キラキラと輝く粒子が現れていく。

 一際輝く星のような光が一つ、また一つ現れて形を作る。その光景を見て、最後の光が現れたところでハッと気づく。

 

 アルギエラ、デネボラ、そして──レグルス。

 

 名前の由来となった星がブラック家の美しい庭に浮いている。これは獅子座だ、いつ練習したんだろう。

 驚きのあまりレギュラスは声も出ないまま、空に輝く魔法をキラキラとした目で眺めていた。

 今日一番の笑顔を見せたレギュラスに、シリウスは今度こそ歯を見せて得意げに笑った。

 

 

「〝悪戯完了〟──誕生日おめでとう、レギュラス!」

 

 

 きっと、この景色は文字通り死ぬまで忘れないだろう。

 貴方が僕に見せてくれた美しい魔法を。

 

 叱るためにやってきたヴァルブルガも目の前の光景を見て、妙に力が抜けてしまった。

 退屈そうにしていた弟を連れ出すだけじゃなく、きっちり祝って笑顔にした兄を叱るなんて到底出来そうになかった。

 オリオンは脱力したヴァルブルガの隣で楽しそうにくすくすと笑って杖を振り、獅子座の隣におおいぬ座を作り上げた。それを見たヴァルブルガも倣うようにして杖を振ってオリオン座を空に浮かべる。

 そうして開催者が率先して加わりに行ったことで、参加者も子供も大人も関係なく空に様々な星を浮かべていった。

 

 獅子座、おおいぬ座、オリオン座、はくちょう座、うみへび座、アンドロメダ座、水仙の花……最終的には星も関係なく好きなものを空に浮かべた。

 時には「ちょっと誰!?チキンを浮かべたの!」「雑念が混じった!ごめん!」なんて声も上がったりして、誰もがパーティーであることを忘れていた。

 

 

「──ありがとう、兄様!すっごくうれしかったし楽しかった!ずぅっと忘れないからね!」

 

 

 そう言って、レギュラスは内ポッケに突っ込んであった練習用の杖を降って小さな獅子座とおおいぬ座を作って見せた。

 それは間違いなくレギュラスの本心だった。きっと沢山練習し失敗して、完成させたんだろう。その気持ちが嬉しくて、一瞬だけ記憶を抜いて持ち歩くことが頭に過ぎるほど舞い上がっていた。

 

 シリウスは星座を見て、驚きつつも喜色が滲んだ顔でレギュラスを抱きしめた。もう、苦しいよ!なんて言いつつも満更でも無い顔をしているのは、庭にいる誰もが気づいていた。

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、パーティーはお開きとなった。

 参加者を見送り「疲れたー!」なんて言いながら伸びをしているシリウスに向かって、ヴァルブルガは「お説教はまだ終わっていないわよ」と無慈悲に言い放つ。どうやら会場内を走り回ったことを見逃すつもりはないようだった。

 オリオンは少しフォローをするように「会場内を走ったのは良くなかったけど、さっきの魔法は素晴らしかったよ」と言い、シリウスの跳ねた髪を撫でた。

 

 レギュラスは三人の背中を少し後ろから眺める。

 

 今のレギュラスは7歳、シリウスは9歳だ。あと2年もすればシリウスはホグワーツに行き、グリフィンドール寮に入る。そうすれば、この厳しくも愛ある家族は崩壊していくだろう。

 更には10年後、レギュラスに死が降りかかる。誰にも知らぬ所で密かに死んでいく。その事を考えるだけで、ずんと気が重くなってしまう。

 少し扉の空いた応接間の中が視界に入った。その先に見える壁に飾られた家系図のタペストリー、廊下からでは文字は見えないが何処に己の名前があるかレギュラスは覚えている。

 

 

 〝  Regulus Black Ⅱ

   生年 1961年10月26日

   没年 ーーーー年ーー月ーー日 〟

 

 

 レギュラスはぼんやりとそこに刻まれた名前を思い出す。

 名前の下には生年があって、今は空欄だが将来的に没年も刻まれることになるだろう。

 タペストリーには古い魔法がかけられていて、その家の血を引く者が誕生した時と逝去した時には自動に名と月日が刻まれるようになっている。だからこそ、誰にも知らない場所で、誰にも知られず息絶えたとしても、タペストリーを見てしまえば生死が分かるということ。

 

 恐らく、原作のレギュラスもそうだったのだろう。

 

 どこへ行ったか分からない息子。生きていて欲しいと願ってタペストリーを見に行けば、無慈悲にも没年が刻まれていた。それはきっと、遺された両親にはとてつもない心的負荷がかかったのだろう。

 原作のオリオンはそれから間もなくして逝去し、勘当された嫡男のシリウスは冤罪でアズカバン行き。衰退の一途を辿るブラック家を何とかしようとしつつも6年後、度重なる不幸と過労によりヴァルブルガも逝去する。

 唯一ブラック家に遺されたクリーチャーは、ハリーの手を借りねばレギュラスと交わした約束を果たすことができなかった。

 

 何度でも言うが、あまりにも悲惨である。

 

 レギュラスは家族が大好きだ。それがレギュラス・ブラックに成ったからか、厳しくも愛溢れる両親と兄の姿を見て好きになったからか……出来れば後者であって欲しいが、とにかくレギュラスは家族が大好きなのだ。

 こんな未来絶対にあってはならない。まずはその為にも、1979年という魔の年を乗り越えなければ。

 

 

「レギュラス?どうしたんだ、何かあったか?」

「あ、父様!ううん、なんでもない!」

 

 

 ぼんやりした様子のレギュラスに気づいたオリオンが妙に硬い声で名前を呼んだ。その事に若干の違和感を覚えつつも、レギュラスはオリオンの元まで駆け寄った。

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