結果的には良かったんだけど、もっとこう………、あるだろう。
「先輩!頼んでいいですか?」
両手を合わせて頭を下げる棒付きキャンディーを加えたトレーナー、沖野とその後ろで目を輝かせ荒ぶる鷹のポーズをするゴールドシップを目の前にし自分は笑顔を向けるのだった。
さて、何故自分がこの様な事になったのかは自身の生い立ちから話さないと判らない事もあるだろう。
生まれも育ちも日本である自分はひょんな事から亡くなってしまう、理由はそこまで重要じゃないのでご想像にお任せするとしてその後だ。
普通なら死亡すればそこで終わりなのだが何故か目を開けると知らない天井を見る事になる、某人型兵器の主人公の様な状況だが不思議と落ち着いていた。
その後自身が赤子になっている事に気が付きひと悶着あったのだがこれも割愛しよう、そして両親からの愛を受けすくすくと成長し動ける範囲が広がった時この世界があの大人気週刊誌の漫画の世界だと気が付いた。
ゴールドシップが居るからウマ娘の世界じゃないのかって? その疑問はもう少し後で理解できるのでもう少し待って欲しい、まぁその世界では悪魔を倒す仕事をしていて最終的には両親より早くなくなった、その話はここで終わろう。
そして死んだと思って目を開けるとまた知らない天井、流石に2回目だと直ぐに気が付く。
2回目は映画も大ヒットした大正時代の鬼狩りの世界、目に数字がある鬼には勝てなかったよ。
3回目は忍者が里を作って戦争する世界、尻尾が九もある狐の攻撃に巻き込まれました、せめて主人公に会いたかった。
4回目はグルメな美食屋蔓延る世界へ、5回目は自動車窃盗のゲームの世界へ、6回目はイギリスの魔法使いの世界へ、7回目は、8回目は、9回目…、10回………。
このように自分は死んでも何処か別の世界で生まれる奇妙な人生を運命付けられた存在になった様だ。
今回の生は血生臭い世界じゃなくて本当に良かった、初めて町でウマ耳の少女を見た時にどれだけ安心したか。
高校生探偵が居る世界とか旅行先であの小学生に合うまでこの世界がどんな世界か判らなくてドキドキしたものだ。
しかしもう安心して今の人生を謳歌できるとその時ははしゃいで今まで培った物を使い最年少トレーナーとして中央へ行ったのだ、そしてそこからいく年が流れ今に至るって訳さ。
なぜ頭を下げられているかだって?それはこれから話すとしようかな。
高校を出てすぐ就職したので年齢的にも経験的にもまだまだ足りないと判断され成人するまではとサブとして働く事に、そして数年後、晴れて独立しそこでアプリキャラをスカウトした………訳ではなく他のウマ娘をスカウトした。
自分がトレセン学園に就職した時にはまだ理事長はちびっこではなかったしレースのゲートは無くヒモがあるだけの時代だ。
もうこれだけ言えば判ると思うがめっちゃ昔! 自分が亡くなるまでにせめてアプリのキャラが入学してくれることを祈りながら日々を過ごすしかないのだ。
そしてそして数十年後、もう定年の年齢を超えて何故まだトレーナーとして働けているか判らない年齢になって漸くアプリのキャラ達が入学してきたのだ、この時、喜びで涙を流したほどである。
しかしここでやっとスタートラインに立ったに過ぎない、ここから物語が始まるのだ。
っと思っていた自分に涙が出てくる、やはり修正力ともいうべきものが働きアプリウマ娘は自分がスカウトする前に各々トレーナーと運命の出会いを果たしていたのだ。
あの手この手でなんとか担当をゲットすべく動いたのだが全部だめ、アプリで出てくるネームドモブウマ娘ですら誰も捕まらない、せめてリボン一族の1人位回してくれても良かっただろぉ!
で、最終的に恥を捨ててもう年だしと言い訳にし、サブトレーナーとして売り込みを始めたのだがリギルはもうサブトレがついてるので断られ、カノープスは間に合ってると遠回しに言われ、スピカは何処に行っても会えず、フェアリーゴッドファーザーの元へ行けば甥が居るしと言われ、本当に何処にも相手してもらえなかった。
なりふり構わず担当が1人だけのトレーナーにも声をかけまくったが遠回しに遠慮される、そりゃこんなベテランがサブで付きますって言われても困るよね。
最後に担当をもって早数年、今や教官とトレーナーの中間みたいな仕事をするしかない老人が出来上がった訳である。
やる気はあります! お仕事ください! と熱意だけでなんとかトレセンにしがみついているがもう限界なのかなと途方に暮れてベンチで缶コーヒーを啜っていると背後から持ち上げられてどこかへ連れていかれしまったのだ。
「じっちゃんしってっか? 梅干しは漬ければ着けるほどウメ―んだぜ! って事で古漬けのお届けでございまーす!」
自分を持ち上げたウマ娘が鼻歌交じりに何処かへ歩いて行く、流石ゴールドシップ、自分でも何考えてるか判らん、けど悪い事は無いと思いそのまま肩に担がれドナドナされていく。
ある程度移動し見覚えがあるチーム部屋前まで来るとゴールドシップは元気よくドアを蹴破った。
「ちーっす! ゴルシちゃん印の老酒のおっ届けだぜ!」
「おい! ドアを壊すなっ………、てゴルシ! 大先輩になんてことを!」
「そうカッカすんなってトレピッピ、メンバー集めに苦労してんだろ? アタシは優しいから見つけてきてやったぜ。そう! すげーヒマそうなヤツ」
「探してるのはウマ娘であってトレーナーじゃない!」
二人が言い争っている間自分は担がれたまま、流石にこのままというのはバツが悪いのでゴールドシップに下ろしてもらう、そして沖野に勧められ椅子に腰かける。
「すみません先輩、何か変な事されませんでしたか?」
「なんだよトレーナー、アタシもそこまで敬老精神にストライキおこしてねーぞ」
「ゴルシ、少し黙っててくれ!」
「嫌でゴルシ、なぁなぁじっちゃん! アタシと最強の焼きそば売りで阪神を阿鼻叫喚に導こうぜ!」
「あぁもう! いい加減にしろ!」
ゴールドシップの話を聞いてるとなんだろ、頭カラッポにした方がいいんだなと思えてくる。
沖野もゴールドシップに押されて頭を抱えちゃったし、このままだと埒が明かないのでそろそろ口を挟むか。
「大丈夫だよ、なにもされてないから。それでなんで私をこのチームスピカへ?」
「なんでってさっき言ったじゃねーか、メンバー集めでトレーナーが苦労してるからじっちゃんの力でなんとかしてもらおうと。学園じゃじっちゃんがサブトレやりたがってるって有名だからな」
「そうかそうか、利害も一致しているしメンバー集め手伝ってあげよう。ついでにチームスピカのサブトレとして雇ってね」
「それでこそじっちゃん! アタシとトレピッピとじっちゃんでパリを沸かせようぜ! 森で迷子になるんじゃねぇぞじっちゃん」
「それでいいね?沖野君?」
先ほどからゴールドシップの勢いに押されて黙っていた沖野が自分の言葉を聞いて目を輝かせて手を合わせ、そして頭を下げる。
「先輩!頼んでいいですか?」
こうして冒頭のシーンになる訳だ、この先どうなる事やら神のみぞ知るって奴だ。