家事代行で買った旧式の初音ミクが、僕の偶像になるまで   作:初音ミクになりたい

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第3話 ライブの夜、僕は夢を見た

 

 

 

 8月31日。ライブの日がやってきた。チケットは友人から予め貰っており、開演の30分前ほどに会場に着いた。

 

 ミクには、ライブに行くことは伝えなかった。VOCALOIDに興味を持ち、果てはライブにまで足を運んでいることが、なんだか気恥ずかしかったのだ。

 僕の一方的な自意識過剰だとはわかっていても、言うのは躊躇われた。

 

 ミクにはただ用事があると言って出かけた。

 

 

 

 そこは、僕が思っていた以上の盛況だった。なんなら最寄りの駅に着く前に電車内にちらほらとグッズやTシャツに身を包んだ人々が居て、その時点でなんだが自分がすごく場違いな場所にいるように感じていた。

 

 会場に着けばなおさらで、Tシャツやハッピに身を包み、グッズを身につけた人でいっぱいだった。

 なんなら巨大なぬいぐるみを持っていたり、自分のVOCALOIDを連れてまわっている人も多かった。

 

 

 ここは僕のような人が来るような場所じゃないのかもしれない。そう思わされるには十分だった。

 

 音楽に親しむ人生を送ってきた訳じゃないので、こういう場所の作法はてんでわからない。ただなんとなく、ペンライトの一本くらいは買った方がいいのではないか。

 

 そう思って人の波に呑まれながら物販に向かったものの、そこには無情にもペンライト売り切れの文字。

 

 まあ仮に残ってたとしても、開演までの時間を考えれば物販に並ぶような時間はなかったかもしれない。

 

 

 僕は帰りたくなった。

 

 

 

 しかしここに至るまでの交通費と手間、何より友人に払ったチケット代が僕の足を辛うじてライブ会場へ向かわせた。

 

 入場口に向かうと、僕の気はさらに重くなった。私服で何も持たずに来ている人なんて、ほとんど居ない。

 

 それに複数人できて、笑顔で楽しみを共有して居る人たちの姿。

 

 一人で、ちょっとそこらに出かけるような格好できて居る自分がひどく場違いだった。

 

 

 

 チケットをスタッフの人に確認してもらい中に入ると、僕は圧倒された。

 

 なぜだか僕は、小さなライブハウスみたいなものを想像していたのだ。昔友達に見せられたライブ映像がそうで、僕にとってライブとはそういうものだという先入観があったのかもしれない。

 

 ただ、そこに居たのはとても多くの人、人、人。前方には巨大なステージがあり、その左右にはこれまた巨大なサイドモニター。

 

 当たり前と言えば当たり前だ。外にあれだけの人がいたのだ。あのライブハウス程度に収まる規模感じゃないのは、明白だった。

 

 照明効果を高める為かやたらモヤがかった薄暗い会場は、空調が効き、涼しかった。

 

 しかし会場のボルテージはそれに対抗するように高まっており、まだ開演まで15分はあるのに流れている曲に合わせてペンライトを振っている人達も見受けられた。

 

 

 とんでもないところに来てしまった。

 

 だけど、先ほどまで感じていた後ろめたさに拮抗するように、これから何か、すごいことが始まるんじゃないかという期待感が胸中を満たしてきていた。

 

 

 

 

 

 

 友人の妹はなかなか運がいいらしい。いや、結局来れなかったのだから寧ろ悪いのか。

 

 チケットの表記に従い向かった席は、こういうのに明るくない僕でさえ分かるくらいいい席だった。

 

 まず、ステージが近い。この近さなら、バンドメンバーが何をしているのかさえよく見えるだろう。

 

 それに、真ん中に近い。ステージ全体を満遍なく見渡せる、まさに特等席だった。

 

 ただ、良いことばかりではない。

 

 

 

 そういう席には、えてして特に熱狂的な人たちが集まる。事実僕の周りには当然のようにハッピを纏い、ペンライトを2本持った人ばかりがいた。

 ぬいぐるみを掲げている人も居る。

 

 そしてそれは、僕の右隣も、左隣のカップルも例外ではなかった。

 

 居心地の悪さに、先ほど拮抗していた気持ちが不安側に傾いてくるのが分かった。

 

 

 そんな僕は、多分挙動不審だっただろう。

 

 横合いから唐突に話しかけられた時も、僕はビクッとオーバーなくらいに飛び跳ねてしまった。

 

「すみません、今日はよろしくお願いします。なにぶん千秋楽なので興奮して声が大きくなってしまうかも知れませんがすみません。あんまりうるさかったら遠慮なく言ってください」

 

 それは、右隣の柔和そうな男性だった。年は僕より上っぽくて、恐らく社会人だろうか。

 

「あっ、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!なにぶんこういった場所は初めてなので、僕こそ失礼があったらすみません…」

 

 緊張の余り、上擦った声で返す。最後の方なんて、尻すぼみになってしまった。

 

 お兄さんは、なるほど、通りで……と呟くと、僕に言った。

 

「もしかして、ペンラ持ってません?宜しければ、お貸ししましょうか?」

 

「え?」

 

 ペンラ。ペンライトか。

 

 でも、僕に貸してしまうと態々2本持ってきたお兄さんの分が……。

 

 

 遠慮して居る僕を可笑しそうにみて笑ったお兄さんは、どこか得意げに言った。

 

「こんなこともあろうかと、ですかね。我々のような人間は、予備のペンラも持って居るんですよ」

 

 そう言って、お兄さんは追加で2本のペンライトを取り出した。

 

「初めてなら尚更、良い思い出になって欲しいですからね。ぜひ使ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼から借りたペンラをつける。二本のペンラが、緑色に輝いた。

 

 いうまでもない。それはこの場において、まごうことなき初音ミクの色だ。

 

 その色を、頭上に掲げてみる。

 

 ああ、僕はなんで単純なんだろう。

 

 

 たったそれだけで。なんだか僕は、ここに居ることが許された気がした。

 

 

「さあ、そろそろ立ちましょうか」

 

 お兄さんの言葉で我に帰る。お兄さんは、微笑ましいものを見るように僕を見つめていた。周りを見ると、既に多くの人が立ち上がり、曲に合わせてペンラを振っていた。

 

「重ね重ね、ありがとうございます」

 

 立ち上がりペンラを振りながら、改めて礼を言う。

 

「いえ、寧ろこちらこそありがとうございます。ペンラ貸すの、やってみたかったんですよ」

 

 その物言いに、なんだか笑ってしまった。

 

 僕に気を遣ってくれたのだろうか。いや、多分本音だな。

 なんとなく、そう思った。

 

「さあ、始まりますよ。楽しみましょう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの時間は、圧巻だった。僕の人生を通しても、ここまで心躍り、圧倒された時間はそうないだろう。

 

 まず、オープニングで初音ミクが現れた時点で既に鳥肌がたった。

 始まったばかりだと言うのに、我ながら単純なものだ。

 

 その瞬間、ミクと過ごした数ヶ月の思い出が走馬灯のように流れて、感極まってしまったのだから。

 

 

 

 

 正直、曲はほとんど知らない曲だった。当然だろう。僕はまだボカロにほとんど馴染みがないんだから。

 

 ただ、彼女たちは確かにそこにいた。そこにいて歌い、躍り、僕たちにコールを迫った。

 

 隣のお兄さんは、はじめに謝ってきた通り、全力でコールをしていた。その豹変ぶりときたら、笑ってしまうくらいだった。

 

 だがこの場はそう言う場所だ。僕も負けじとコールをした。

 

 一曲だけ、最近流行っていた知っている曲が流れた時は、僕も負けず劣らずの叫びっぷりだっただろう。

 

 ただ、僕を最も惹きつけたのはその曲ではなかった。

 

 

 VOCALOIDにもいくつか種類があるのは、なんとなく知っていた。同じ初音ミクでも、ボイスバンクが異なることは。

 

 実際旧式の彼女と、最近のモデルに搭載されているそれは異なっているのだから。

 

 

 ——その声が流れた瞬間。反射的に分かった。

 

 彼女の声だ、と。

 

 

 その曲は、バラード調の曲だった。

 ボカロに限らず、初めて聴いた曲は歌詞を聞き取るのが難しい。

 

 だけど曲がゆっくりなのもあって、その曲ははっきりと歌詞が聞き取れた。

 

 

 

 

 

 大切なものがあった。忘れられない傷があった。

 

 この傷が、癒えてしまえば良いと思っていた。

 

 だけど、時間が経ち、輪郭がぼやけてしまっても、確かにその残滓はそこにある。

 

 あれほど忘れてしまえと、消えてしまえと願っていたのに。

 

 その残滓を、どうしようもなく手放したくない。

 

 

 

 

 ——そんな曲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば僕は泣いていた。ペンラを振る手も、いつの間にか止まっていた。

 

 僕は今、ステージで歌う初音ミクを。

 

 

 ——彼女の姿と、重ねて見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが、終わった。アンコールが終わり、ラストソングが終わり、VOCALOID達とのお別れが終わり、バンドメンバーの締めも終わった。

 

 僕は全力で拍手をした。この素晴らしいステージを創り上げた全てに対してこの感謝よ届けと、全力で手を叩いた。

 

 初めの気後れしていた僕はどこへ行ったのだろう。

 

 気づけば僕は叫んでいた。

 

「ありがとう!初音ミクー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 規制退場の順が巡ってくるまでの時間を、僕は隣のお兄さんと話して過ごした。

 

「ペンラ貸して頂いて、本当にありがとうございました。おかげさまで、とても良い時間が過ごせました」

 

「例には及びませんよ。楽しめたのなら何よりです」

 

 彼は笑っていた。やり切った、出し切った、とその顔が語っている。

 

 そしてそれは僕も同じだろう。

 

「それにしても、初めてでしたっけ?初めてでこんな良い席とは、運がいい」

 

「はい。友達にチケットをもらったんです。最近ボカロに興味が出てきたので、気になって」

 

「なら、あんまり曲も知らない感じですか?それであの楽しみっぷり、あなたは筋がいいですね」

 

 その言葉に、今更ながら自分のはしゃぎっぷりに恥ずかしくなってきた。

 

「はい、けど来年は、もっと知って楽しめるようになっておきます」

 

「はは。来年も会えるのを楽しみにしています。…あ、初めてと言うならもしかしてですけど、企画展とか行ってない感じですか?」

 

「企画展?すみません、行ってないですね……」

 

「それは惜しいことをしましたね。横のブースで物販の他にも企画展やってるんですよ。来年はぜひ」

 

「はい!来年は、もっとグッズとかも買って全力で楽しもうと思います!」

 

 と、そこで何やら配っている人が回ってきた。

 

「お疲れ様です!これ、塩分チャージ配ってるんです。ぜひ!」

 

 ありがとうございます、と言って握手し、受け取る。そういえば、ペットボトルを持ってきたのに一口も飲んでいなかった。

 

「ああいうことする人も、居るんですね」

 

「はい、たまにいますね。ここは本当に、最高な場所です」

 

 

 

 そろそろ規制退場の順番が巡ってきた。名残惜しいが、お兄さんともお別れだ。

 

「今日は本当に、色々とお世話になりました。ありがとうございました!」

 

「いえ、助けになれたなら何よりです。それでは——」

 

 

 また次のミライで!

 

 

 そう言って、お兄さんは去っていった。その背中に手を振る。

 

 また次のミライで。

 

 それはこの場での別れに、最上に相応しい言葉だな、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの電車の中。僕は今日のライブで流れた曲をイヤホンで聴きながら思考に耽っていた。

 

 まだ、興奮冷めやらない。僕はあの場所を、この経験を、一生忘れないだろう。

 

 思い出す。あの場の熱狂を。

 ペンラを貸してくれた名も知らぬお兄さんを、塩分チャージを配っていたおじさんを、帰り道、ペンラを振っていたたくさんの人たちを。

 

 そして、ステージで輝く、彼女達の姿を。

 

 あの場は、全員で作り上げたものだった。演者やスタッフだけじゃない。みんなの好きが集まって、それぞれがそれぞれの想いを曝け出して、尊重しあって、あの空間があったんだ。

 

 なんて優しい場所なんだろう。

 

 僕は、虜になっていた。楽曲としてのボカロだけじゃ無い。それを取り巻く、文化全体の。

 

 

 シャッフル再生で、あの曲が流れてきた。僕が図らずも涙してしまった、あの曲が。

 

 その曲を聴きながら。

 また、行きたいなと思った。来年は彼女も連れて、楽しもう。

 

 ——そうしていずれは。彼女があのステージに立って、スポットライトに照らされて。僕が作った曲を笑顔で披露して欲しい。

 

 ライブ後の熱に浮かされ、そんな夢物語を描きながら。

 

 僕は、彼女の待つ家へと向かう電車に揺られていた。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

「彼、楽しめたようでよかった」

 

 男は帰りの車を運転しながら、ひとりごちた。

 

 ドライブのお供に今日のライブのセトリを流していると、自然とその余韻に浸ってしまう。

 

 すると、連鎖的に今日彼がペンラを貸した青年のことも思い出す。

 

 ライブの前に左右の人に一言断るのは、男の習慣だった。そうした方が、その後のライブを全力で楽しめるから。

 

 いつもはそれで終わりだが、隣の青年があまりにも肩身狭そうにして居るもんだから、ついお節介を焼いてしまった。

 

 男は余り社交的な人間ではない。ただあんな場ではついテンションが上がって、行動が大胆になることもある。

 

 だがそのお節介のおかげで一人の青年を後押しできたというのならば、後には心地の良い余韻だけが残る。

 

「ふふ、遂に日の目を浴びたな、予備のペンラ」

 

 彼も昔、ペンラを借りたことがあった。持ってきたものが、電池切れで使えなくなった時に貸してもらったのだ。

 

 その頃からずっと、男はいずれ自分が貸す側になろうと虎視眈々と狙っていたのだった。

 

 生来の引っ込み思案が邪魔をして、なかなかその機会は巡って来なかったが。今日は勇気を出してよかった。

 

 男の顔にはだらしの無い笑みが浮かんでいた。

 

 

「おっと……気を張らなきゃな。明日からまた仕事だ」

 

 いつまでも余韻に浸ってはいられない。明日に備えて早く帰って寝なきゃな、とアクセルを踏み込んだ。

 

 稼がねばなるまい。次のミライのために。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 帰宅後、僕はミクに今日のことを話した。VOCALOIDのライブに行ったこと、そして、そこがどれほど素晴らしい場所だったのかを。

 

 彼女は洗濯物を畳みながら、僕の話に耳を傾けていた。

 

「良かったですね。マスターが楽しめたのなら何よりです」

 

「ああ、本当に楽しかった。だから来年も、行きたいんだ。——今度は、ミクと一緒に」

 

「……私と、ですか?」

 

 彼女はキョトンとした顔で、問い返してくる。

 

「そう、君とあの場所に行きたい、あの経験を共有したい。そしていずれは——」

 

「その気持ちはありがたいですけど」

 

 ミクは僕の言葉に割り込み、言った。

 

 

 

「私はライブは見れませんよ」

 

「え?」

 

 あの経験を、ミクと共有できない?

 

 その言葉に、僕は冷や水を浴びせられたような気分だった。

 

 ミクは物分かりの悪い子供を諭すように、僕に説いた。

 

「おそらく他にも私のようなVOCALOIDを連れた人もいたでしょう。ですが彼女達はライブ会場にいましたか?」

 

 そういえばそうだ。会場の外にあんなにいた他のミクを始めとするVOCALOID達は、ライブ会場にはいなかった。

 

「少し考えればわかるでしょう。ライブ会場に私達のようなのが居ると、それだけで会場のキャパが圧迫されて人間が押しやられます。そもそも会場は撮影禁止です。私のような旧式にそんな機能はありませんが、VOCALOIDに撮影させようなんて考える輩も居るでしょうし。おおかたVOCALOID用の控室なんかが用意されていて、そこで待機しているんでしょうね」

 

 まあ、そう気を落とさないでください。ライブは見れなくても企画展や物販は一緒に回れるんです。楽しみようはいくらでもありますよ。

 そう続ける彼女の顔を、なぜだか見れなかった。

 

 僕は俯く。確かにミクの言う通りだ。だけど彼女とあんなに暖かくて、愛に溢れた経験を共有できないなんて——

 

「仮に私がライブに関われるとしたら、マスターが曲を作って、それが演奏された時くらいですよ」

 

 揶揄うように言うミク。事実、冗談なのだろう。

 

 でも、その言葉にふと。ライブで聴いた、あの曲を思い出した。

 

 思い出す。あの、他の曲に比べれば機械じみていて不完全な声を。それでも僕に最も響いた、あの声を。

 

 顔を上げる。僕はその勢いのまま身を乗り出し、ミクの手を取った。

 

「なら、僕が君をあのステージへ連れて行く」

 

「え?」

 

 ミクは、何を言ったのか分からない、といった顔で僕の顔を見上げてきた。

 

「すみませんマスター。聴覚システムか言語処理中枢に異常が発生したみたいです。今なんて?」

 

「だから、僕が君を、あのステージに連れて行く」

 

 彼女の目を見据えて、力強く断言した。

 

「今、決めた。僕が曲を作って、ミクに歌ってもらって、有名になって、ミクがあのステージで披露するんだ」

 

 あの声だからこその意味があるものがあるのかもしれない、と思った。僕がそうであったように、彼女の声で、聴いた人の心を動かし、震わせたい、と。

 

 理解が多いついたのか、彼女は一度目を大きく見開いた後、呆れたようなため息をついた。

 

「何をいうんですか。マスターは私を家事代行用に買ったんでしょう。今はライブの興奮でおかしくなってるだけです」

 

「いいや、僕は本気だ」

 

「大体マスター、作曲に関しては素人じゃないですか。あのライブに出てくる曲がどれほどのものなのか、ちゃんとわかってるんですか?」

 

「分からない。だけど、僕は本気だ」

 

「そんな一時の気持ちだけでできることじゃ無いと思うんですけど……。はっきり言って、実現可能性は極めて低いですよ」

 

 ミクはほとほと呆れた、という目で僕を見てきた。

 しかし僕が彼女の顔をじっと見つめているのを見ると、はあ、とため息をついて渋々と言った様子を隠さずに言った。

 

「今のマスターに何を言ってもしょうが無さそうですね」

 

「なら!」

 

「なので!」

 

 ぐいっと身を乗り出し、僕と顔を突き合わせたミクが続ける。

 

「一週間です。一週間あればマスターも興奮が冷めて冷静になるでしょう。一週間後にも同じ言葉を吐けるなら、私も折れてあげましょう」

 

 ミクの気迫に、今度は僕が押される番だった。だけど、彼女は妥協してくれたんだ。

 なら僕も、これ以上は言うまい。

 

「わかった。一週間だね」

 

 ミクは、期間をおけばマスターも冷静になるか、興味を失いますよ、なんて言っているが。

 

 

 僕のこの胸を燃やすような情熱が、一週間程度で消えると思うなよ。

 

 




一応、この話に出てくるボカロ曲には元ネタがあります。解釈に絶対の自信があるわけではありませんが。

こういう引用って引用元明記しなくても大丈夫なのかな。

因みに、おじさんが塩分チャージ配っていたシーンは私が実際に遭遇したものです。好きを共有した仲間意識というか優しさというか、そういうものが私をボカロに惹きつけてやまない一因でもあります。
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