作:しろたく

6 / 11
真悟・健司・莉子

 真悟は16時ごろ、健司と一緒に芦名公園のベンチにいた。春だが油断すると寒くなってくる時間帯だ。

 来るつもりはなかったのだが、健司と喋っているうちに公園に着いた。ここに来ると急にいろいろなことを思い出してしまう。真悟は前回公園で座っていた時の話をした。フラッシュバックのこと、過去の記憶のこと。

 「そう言うのって、前世の記憶とかじゃねえの」

 健司は軽く返した。彼はものごとを余り深く考えない様子で喋ってしまうところがある。実際にはそんなことは全くなく、健司は最良の相談相手だ。なのに誤解を受けやすい。真悟は健司のそういうところに、多少のもどかしさを感じることがある。

 「前世でここの公園が出てくるわけないじゃん」

 「あ、そうか」

 「何か、男の人がもう一人の男の人にきっついこと言ったんだよな。なんとかさんを苦しめる気か、とかそんなことを。俺、そのもう一人の男の人が可哀想でさ」

 「真悟が知ってる人だったのか?」

 「分からない。だけど、全然知らない人だったってことはないと思う」

 「ただの夢じゃなくて、ここでそういう記憶が戻ってきたってこと?」

 真悟は余り確信を持てず、しばし考え込んだ。その時、不意に頭の中に声が聞こえた。真悟はビクッとなり、垂直に立ち上がった。真横に座っていた健司が、慌てて横に跳びすさる。

 「何だよ!」

 「ごめん、ちょっと…」

 真悟はベンチにもう一度座り、突如として差し込まれた記憶の奔流に動揺していた。3分くらいはうつむいて座っていただろう。その間、健司は所在なさげに「大丈夫か?」と時折声をかけながら、周りをうろついていた。

 「…寛太おじちゃんだ」

 「え?」

 「一気に思い出した。まだ全然整理がついてないけど、聞いて」

 真悟は、少しずつ話し始めた。ここ、芦名公園の記憶と思われる例のシーンだ。

 

 背の高い男の人が、背の低い男の人に言葉をぶつける。

 「今のあなたは、雪子さんを苦しめるだけだ!」

 言い回しも思い出した。当時の真悟には言葉の正確な意味は分からなかったが、強いことを言われていることだけは分かった。雪子さん、と言う名前も聞こえた。

 小さい方の男の人は、大きい人を少し見上げた。そして、何も言わず公園を立ち去った。大きい方の人はしばらく残っていたとおもう。見てないから分からない。

 真悟は思わず小さい男の人を追いかけた。男の人は2ブロックほど歩いてから立ち止まった。ショルダーバックから何かを取り出している。遠くから見てもよく分からない。猫背になって、何かを書き付けているかのような動作をしている。やがて男の人はよろめくようにその場を立ち去った。

 寛太おじちゃんだ。公園でいつも遊んでくれていた。

 

 話を聞いた健司が、真悟の顔を覗き込みながら尋ねる。

 「話は分かったけど、なんでそんなにいっぺんにいろんなこと思い出したんだろうな。天の啓示ってヤツか?」

 「頭がおかしいって言うなよ」

 「何だよ。いきなりそんなこと言わねえよ」

 「誰かが話しかけてきた。頭の中に。『寛太さんを知ってますか?』って」

 「…真悟。それ誰にも言うな。言うのは俺だけにしとけ」

 やっぱりおかしいと思ってるじゃねえか。だけど普通、こんな話をまっすぐ信じる方がおかしい。黙り込んだ真悟を見て、健司が話しかける。

 「しゃあねえな。気になるんだろ。よく分からんけど付き合うよ。で、次はどうする?」

 健司はニッコリ微笑んだ。ああ、こいつのこういう所が好きなんだ。真悟も微笑み返す。

 「…分かんねえ。とりあえず、次に何言われるか待ってみるわ」

 時刻は17時を過ぎていた。日も傾いている。帰ろうとしたとき、ふと公園脇で喋っている女子2人が目に入った。ウチの制服だ。右の子は確か、上島だっけ。

 真悟は妙な引っかかりを覚えていた。上島は隣のC組で、話したことはない。存在を何となく知っているだけだ。だけど、何だか気になる。

 「…女子ジロジロ見んなよ」

 健司がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 「あ、いや。そうじゃなくて」

 「そうじゃないって、何が?」

 軽く顔が赤らむのを感じながら、真悟は健司と別れて家路に着いた。

 

 莉子は芦名公園の横の通りで、友人の優菜と話していた。何となく、よくこの公園のそばを通る話になった。

 「ここ、昔寛太さんに連れてきてもらってたんだ。それだけはよく覚えてて」

 「…寛太さんって?」

 「ああごめん。お父さんの名前。5歳の時にいなくなったんだけど」

 「あ、そっか」

 優菜はムリに話を逸らすでもなく、そのまま寛太との思い出話に聞き入った。

 「…よく遊んでいた男の子がいたんだ。その子も確かお父さんがいなくて、多分半年くらい殆ど毎週会ってた。だけど、寛太さんがいなくなってから私もここにほぼ来なくなったんだよね」

 「名前も分からないの?」

 「うん。そもそもこの思い出自体が結構曖昧というか、ホントにあったのかどうかもよくわからないし」

 優菜は背筋を伸ばすと、莉子の背中を軽くポンポン叩いた。

 「ま、人生いろいろあるさ!」

 「何だよそれ!」

 2人はゲラゲラ笑った。優菜、いいやつだ。

 

 

 この高校生は真悟というのか。やはり、この子は寛太のことを知っていた。寛太がいなくなるきっかけをこの子は見ていた。そして、その近くに立っていた女の子2人の会話も聞こえてきた。莉子。確か雪子の娘さんだ。もちろん寛太の娘さんでもある。

 私は考えた。寛太に繋がる人たちが、次々と窓に現われてくる。何人かは、いなくなった寛太を探している。そして、私の声はときどきではあるが彼らに届くようだ。何が起こっているのかも、自分が誰なのかも未だに分からない。だけど、この人たちをとにかく繋げていくことで、寛太さんに繋がるのかもしれない。

 次に何をすべきなのか。もう一度、真悟の窓の前に立ってみる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。