Fate/Grand Order : 冠位影法録(グランドオーダー・シャドウレコード)   作:りー037

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極光の衝突と、影を統べる王

【時刻:2004年 某月某日 ??:??】

 

【場所:特異点F 炎上汚染都市 冬木・円蔵山大空洞 最奥】

 

 

「――卑王鉄槌」 

 

 

反転せし騎士王、セイバーオルタの静かな、だが絶対的な死を宣告する声が、紫色の魔力結晶で覆われた大空洞に響き渡った。

 

彼女の足元に広がる黒い泥が、生き物のように蠢き、這い上がり、その漆黒の剣身へと凄まじい密度で吸い上げられていく。空間そのものが悲鳴を上げ、重力が歪むほどの極大の魔力集束。

 

それが振り下ろされれば、この巨大な地下空間ごと、彼らの存在は文字通り「蒸発」する。

 

「……あ、あぁ……」

 

 

オルガマリーは完全にへたり込み、恐怖に瞳を痙攣させていた。魔術師としての知識があるからこそ、そのエネルギーがいかに理不尽で、人間の力で抗える次元を超えているかが痛いほどに理解できてしまったのだ。

 

だが、その絶望の極光の前に、一人の少女が立ちはだかった。

 

 

 

マシュ・キリエライト。

 

 

彼女の両足は、英霊としての驚異的な筋力を持ってしても、恐怖でガクガクと震えていた。聖剣から放たれる熱とプレッシャーは、彼女の本能に「逃げろ」と警鐘を鳴らし続けている。

 

 

(……怖い。……怖い、けれど……っ!)

 

 

マシュは、背後を振り返らなかった。

 

彼女の背後には、震える所長と、そして、カルデアが爆破されたあの日、自身の死の淵に寄り添い、絶望を叩き斬ってくれたマスターがいる。

 

空っぽだった自分に、「お前は俺の盾だ」と存在意義を与えてくれた人がいる。

 

 

(私は、彼を守りたい。マスターを、守るんだ……!!)

 

 

 

 

恐怖を、強靭な意思が上回る。

 

マシュは震える両足に力を込め、アスファルトを砕くほどに踏み込み、自身の身の丈ほどもある白亜の十字盾を真っ直ぐに構え直した。

 

「――っ、来ます!!」

 

 

セイバーオルタの漆黒の聖剣が、一切の躊躇なく振り下ろされた。

 

 

 

『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』

 

 

 

 

解き放たれたのは、極太の黒い閃光。星の息吹を反転させた、純粋な破壊の奔流。

 

音すらも消え去るほどの膨大な熱量と魔力が、マシュの盾へと直撃した。

 

 

 

 

 

ガァァァァァァァァンッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「が、ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

マシュの口から、悲痛な叫びが漏れる。

 

 

 

 

 

『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』。

 

 

 

 

 

盾の表面に展開された白亜の城壁の概念が、黒い極光と衝突し、凄まじいスパークを散らす。

 

 

だが、重い。あまりにも重すぎる。

 

大空洞の岩盤が抉れ、マシュの両足がズリズリと後方へと押し込まれていく。盾を支える両腕の筋肉が悲鳴を上げ、毛細血管が破裂し、皮膚から血が滲む。

 

 

 

圧倒的な熱量。暴風のような魔力の圧力。

 

疑似的な展開では、聖杯のバックアップを受けた『約束された勝利の剣』のフルパワーを完全に相殺することはできない。

 

盾の表面に展開された光の防壁が、ミシミシと音を立てて削り取られていく。

 

 

 

(だめ、押し潰される……! 私の、力じゃ……っ!)

 

 

 

心が、挫けそうになる。

 

視界が黒い光で埋め尽くされ、自身の骨が砕ける音すら聞こえ始めた、その時だった。

 

 

 

 

「――よく耐えた」

 

 

 

 

マシュの背中。

 

盾の柄を握り締める彼女の血まみれの小さな両手に、ふわりと、別の手が重なった。

 

 

「え……?」

 

 

それは、ひどく既視感のある、暖かくて、そして絶対に揺らがない強者の手。

 

あのカルデアの中央管制室で、崩落する天井から彼女を守り、死に行く彼女の手を強く握り返してくれた、ヴァルナ・クロスの手だった。

 

 

「マスター……っ、逃げて、ください! このままじゃ、貴方まで……!」

 

 

「俺が逃げるわけがないだろう。前を見ろ、マシュ」

 

 

ヴァルナの声は、この世界の終末のような轟音の中にあって、不思議なほど鼓膜に澄み渡って響いた。

 

彼の手を通じて、青黒く、しかし確かな熱を帯びた『呪力』が、マシュの体へと流れ込んでいく。

 

それは攻撃のための力ではない。マシュの悲鳴を上げる筋肉を繋ぎ止め、折れかけた骨を補強し、失われゆく体力を強引に底上げする、極めて繊細な呪力の循環。

 

 

「俺はお前を信じている。お前の盾は、こんな光なんかに貫かれない」

 

 

ヴァルナが、マシュの背中を自身の胸でしっかりと支える。

 

 

「やるぞ。俺たちの壁を、あの王様に見せつけてやれ」

 

 

「マスター……!」

 

 

心に、火が灯った。

 

空っぽだったはずの胸の奥底から、無尽蔵の力が湧き上がってくる。それは英霊の力だけではない。マシュ・キリエライトという一人の少女の、誰かを守りたいという魂の咆哮だった。

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

マシュの叫びに呼応するように、十字盾から放たれる白亜の光が、爆発的に輝きを増した。

 

削り取られていた防壁が再構築され、さらにその厚みを増していく。黒い極光の奔流に、純白の城壁が真っ向から拮抗し、そして――。

 

 

「押し、返すッ!!」

 

 

ヴァルナとマシュの力が完全に同調した瞬間、盾の表面で力が臨界点に達した。

 

 

 

 

 

バギィィィィンッ!!!!

 

 

 

 

黒い極光が、白亜の壁に弾かれ、真上へと軌道を変えられた。

 

大空洞の分厚い岩盤の天井をレーザーのように貫通し、冬木の夜空へと黒い光の柱が突き抜けていく。

 

 

 

 

そして、静寂が訪れた。

 

 

「……はぁ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 

マシュは盾を地面に突き立てたまま、その場に崩れ落ちそうになった。大量の魔力が消費された感覚。立っているのが不思議なほどの疲労感。

 

 

だが、その崩れ落ちる身体を、ヴァルナが優しく横抱きに抱え上げた。

 

 

「お疲れ様。見事な盾だったぞ」

 

 

「マスター……私、防ぎ、ました……」

 

 

「ああ。完璧だ」

 

 

ヴァルナは微笑みすら浮かべず、しかし最大限の敬意を込めてそう言うと、後方で腰を抜かしているオルガマリーの元へとマシュを運んだ。

 

 

「所長。こいつを頼む。円鹿を置いておくから、しばらく休ませてやってくれ」

 

 

「ア、アンタ……本当に、あの宝具を防ぎ切ったっていうの……?」

 

 

「俺じゃない。マシュが防いだ」

 

 

 

 

ヴァルナは立ち上がり、背を向けた。

 

 

「お前たちはここで休んでいろ」

 

「ちょっと、どこに行くのよ! まだアイツはピンピンしてるのよ!?」

 

 

オルガマリーの震える声。

 

その言葉の通り、数十メートル先の中央祭壇では、黒き極光を放ち終えたセイバーオルタが、息一つ乱すことなく、未だ万全の態勢で冷ややかにこちらを見据えていた。

 

 

「決まっているだろう」

 

 

ヴァルナは振り返らずに、自身の拳を軽く握り込んだ。

 

 先ほどのマシュの奮闘を肌で感じたことで、彼の魂に宿る「闘争の炎」は、これまでにないほど激しく燃え上がっていた。

 

 

「絶対に勝つ。……約束する」

 

 

その言葉を残し、孤高の呪術師は、ただ一人、騎士王の待つ祭壇へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……驚いたな。たかだか一人のデミ・サーヴァントと、矮小な魔術師の魔力で、我が聖剣を弾き返すとは」

 

 

セイバーオルタは、歩み寄ってくるヴァルナを見据え、氷のように冷たい声で告げた。

 

「だが、無駄な足掻きだ。盾の乙女はすでに限界。残るはお前一人。……魔術師の身で、サーヴァントに太刀打ちできるなどと、よもや思っていまいな?」

 

 

 

それは、この世界の絶対の常識。

 

神話の英雄であるサーヴァントに対し、現代の魔術師が正面から挑むなど、虫ケラが竜に挑むようなもの。

 

しかし、ヴァルナは立ち止まり、感情の読み取れない硝子のような瞳で王を真っ直ぐに見返した。

 

 

「常識の話なら、他所でやれ」

 

 

彼の全身から、青黒い呪力がまるで逆巻く炎のように立ち上り始める。

 

 

「俺は、例外だ」

 

 

ヴァルナ・クロスの脳内で、超高速の演算と状況分析が開始された。

 

 

(……聖杯と繋がっている以上、あいつに魔力切れという概念は存在しない。ステータスは、筋力も耐久も『呪力強化』を施した俺を上回っている。先ほどの宝具だけでなく、通常攻撃に乗せてくる『魔力放出』の余波すらも、まともに受ければ致命傷になり得る)

 

 

自分の最大出力の呪力打撃であっても、彼女の出力を正面から相殺し切ることは不可能。

 

真正面からの殴り合い、いわゆる『力比べ』をすれば、100%自分が負ける。長期戦になればなるほど、体力に限界のある人間側が圧倒的に不利だ。

 

 

(逆に、俺が勝っている要素は何か。……俊敏性と手数の多さ、それによるトリッキーな立ち回り)

 

 

 

相手の土俵では戦わない。

 

まずは様子見。相手の能力、剣の軌道、魔力放出のタイミング、隠された切り札がないか、そのすべてを『観察』する前哨戦。

 

そして、すべてのパターンを読み切り、相手に全力を出させた後の『整えられた盤面』

 

 

 

その瞬間が来た時、最短ルートで命を刈り取る。

 

ヴァルナは、戦略を固めた。

 

 

「行くぞ、王様」

 

 

ヴァルナの両手が、目にも留まらぬ速度で複雑な印を結ぶ。

 

 

 

「玉犬・渾。鵺。蝦蟇。大蛇」

 

 

 

ボゴォォォォッ!!

 

大空洞の地面を覆う黒い泥を弾き飛ばし、ヴァルナの影が四方八方へと爆発的に広がった。

 

 

 

 

背後に顕現する、漆黒と純白の巨大な狼男『玉犬・渾』。

 

 

上空を旋回する、雷を纏う巨鳥『鵺』。

 

 

そして――ヴァルナは『影位相展開』を使用し、セイバーオルタを囲むように存在する瓦礫の影を操り、遠隔で影絵を結ばせた。

 

セイバーの右側面の影から巨大な蟇蛙『蝦蟇』が、左背後の影から巨大な白蛇『大蛇』が這い出す。

 

 

 

 

四体の式神による完全包囲網。

 

 

それに加え、呪力で肉体を鋼へと変えたヴァルナ自身が、正面から地を蹴った。

 

 

「……数の暴力か。下賤な」

 

 

セイバーオルタが聖剣を構え、迎え撃つ。

 

極限の複合戦闘(クロス・コンバット)が開始された。

 

 

 

「オォォォォッ!!」

 

 

 

玉犬・渾が、ヴァルナと並走しながらセイバーの右側面へ回り込み、その巨大な爪を振り下ろす。

 

セイバーは無造作に聖剣を振るい、渾の爪を弾き飛ばすが、その剣が振り抜かれた直後の硬直を狙って、ヴァルナが懐へと潜り込んだ。

 

下から顎を打ち抜く掌底。

 

 

「シッ!」

 

 

セイバーは首を僅かに逸らしてそれを躱し、空いた左手でヴァルナの鳩尾に裏拳を叩き込もうとする。

 

だが、その左腕に、背後から射出された蝦蟇の長大な舌が鞭のように巻き付いた。

 

 

「チッ……!」

 

 

 

一瞬、セイバーの動きが止まる。

 

その隙に、ヴァルナは姿勢を低くして裏拳を躱し、セイバーの軸足目掛けて呪力を込めたローキックを放つ。同時に、左側面から大蛇が牙を剥いてセイバーの肩口へと襲い掛かる。

 

 

 

攻撃の要である『ヴァルナと渾』

 

 

搦め手として相手の機動力を削ぐ『蝦蟇と大蛇』。

 

 

 

「小賢しい!」

 

セイバーの全身から、黒い魔力が爆発的に吹き上がった。『魔力放出』による全方位への衝撃波。

 

 

そのチャージが開始される。

 

拘束していた蝦蟇の舌が千切れ、大蛇が弾き飛ばされそうになる。

 

 

「鵺!!」

 

 

 

だが、ヴァルナの指示はさらに早かった。

 

セイバーが魔力放出の予兆を見せた瞬間、上空で待機していた鵺が、セイバーの脳天目掛けて青白い雷撃を落とした。

 

 

 

 

バチィィィンッ!!

 

 

 

雷撃が魔力装甲に直撃し、強烈なスパークがセイバーの視界と意識をコンマ数秒奪う。魔力放出が不発に終わり、衝撃波が霧散する。

 

 

「……ガァゥッ!!」

 

 

その隙を逃さず、玉犬・渾が再び襲い掛かり、セイバーの腕に浅い裂傷を負わせた。

 

 

 

 

完璧な連携。

 

相手に息をつく暇も与えず、魔力放出のタイミングを雷撃で潰し、回避行動を蝦蟇と大蛇で阻害し、本命の打撃を叩き込む。

 

もし鵺の雷撃が間に合わなかった時のため、常に『脱兎』の印を結ぶ用意はしておく。万が一魔力放出が放たれても、数千の兎の壁を身代わりにして即座に離脱する構えだ。

 

 

 

(……良い。俺の思考と式神の動きが、完全にリンクしている)

 

 

ヴァルナは冷静に相手の動きを処理しながら、確かな手応えを感じていた。

 

セイバーは怒涛の連携に翻弄され、防戦に回る時間が増えている。

 

 

 

 

だが。

 

相手は、聖杯の泥に染まったとはいえ、かつて幾多の戦場を駆け抜けた騎士王である。

 

彼女の戦闘センスは、ヴァルナの変幻自在の戦術の「法則」を、徐々に、しかし確実に学習し始めていた。

 

 

 

「……なるほど。虫の連携にしては、よく出来ている」

 

 

 

剣戟の嵐の中、セイバーオルタの声が冷たく響いた。

 

最初こそ鵺の雷撃で魔力放出を止められていた彼女だが、今度は雷撃が落ちるよりも早く、聖剣の腹で器用に落雷を弾き流してみせた。

 

蝦蟇の舌が伸びてくれば、剣を振るうまでもなく、踏み込みの足捌きだけでその軌道を回避する。

 

大蛇が背後から迫れば、見ることすらなく、魔力を纏わせた蹴りで大蛇の顎を粉砕した。

 

 

 

(対応してきたか。防御の精度が上がり、こちらのダメージが通らなくなってきた)

 

 

 

 

瞬時に状況を再計算する。

 

連携が破られ始めている。相手がこちらのペースに慣れた。

 

そして、セイバーオルタの反撃は、最も合理的かつ冷酷な形で行われた。

 

 

 

「基点(コア)を崩す」

 

 

 

セイバーの瞳が、厄介な攻撃の主軸であるヴァルナではなく、彼と連携して波状攻撃を仕掛けてくる『玉犬・渾』へと向けられた。

 

彼女は、攻撃のための魔力放出を、自身の『推進力』へと回した。

 

 

 

 

ドガァァァァンッ!!

 

 

 

 

足元の岩盤が爆散し、セイバーオルタの姿が文字通り「消えた」。音速を超える超高速のステップ。

 

 

「渾、退けッ!!」

 

 

 

ヴァルナが叫ぶが、遅かった。

 

セイバーオルタは渾の懐へと完全に潜り込み、下から上へ、漆黒の聖剣を振り抜いた。

 

 

 

 

 

ザシュゥゥゥゥッ!!!!

 

 

 

『ガ、ァァァァァァッ……!!』

 

 

 

 

 

渾の巨大な胸部から腹部にかけて、致命的な深手となる斬撃が刻み込まれた。黒い血が噴き出し、巨体が宙を舞う。

 

 

(まずい、完全に破壊されれば、渾の力は二度と戻らない……!)

 

 

「戻れ!!」

 

 

ヴァルナは手をかざし、渾が地面に叩きつけられる寸前、その肉体を強引に影の中へと収納(強制送還)した。ギリギリのところで完全破壊は免れたが、これで渾は戦闘不能。

 

 

 

主軸の一つを失った。

 

 

完璧だった連携の歯車が狂い、包囲網に致命的な綻びが生じる。

 

 

「さあ、お前の手足はもがれたぞ、魔術師」

 

 

セイバーオルタは剣を上段に構え、今度こそ明確な殺意をもって、孤立したヴァルナへと歩み寄ってきた。

 

大蛇も蝦蟇も、もはや彼女の歩みを止める時間稼ぎにしかならない。

 

 

 

 

だが。

 

その絶体絶命の状況下にあって、ヴァルナ・クロスの瞳には、一切の焦燥は浮かんでいなかった。

 

 

(……剣の振りの速度、魔力放出のタイミングとインターバル、踏み込みの癖、そして、防御を捨てて攻めに転じる時の重心の移動)

 

 

ヴァルナは、迫り来る黒き王を見据えながら、静かに息を吐いた。

 

すべては、彼の計算通り。

 

 

 

(もう少し観察したかったが……まあいい。必要なデータは、すべて揃った)

 

 

彼にとって、ここまでの苛烈な死闘は、玉犬・渾、大蛇、蝦蟇の負傷すらも許容範囲に収めた『様子見(前哨戦)』に過ぎなかったのだ。

 

相手の全力を引き出し、そのすべてのパターンを自身の脳と肉体に叩き込むための、命懸けの観察フェーズ。

 

 

 

 

それが、終わった。

 

 

 

 

 

「……なら、ここからは最短で決める」

 

ヴァルナは、残っていた鵺、蝦蟇、大蛇のすべての式神を、一瞬にして自身の影の中へと収納した。

 

大空洞の中央、丸腰となったヴァルナと、剣を構えたセイバーオルタの二者だけが対峙する。

 

 

「自暴自棄か? それとも、死を受け入れたか」

 

 

「いいや」

 

 

ヴァルナの両手が、これまでのどの印とも違う、極めて複雑で、冒涜的でさえある形へと組み上げられていく。

 

 

 

 

 

それは、通常の十種影法術の枠組みを超えた、彼だけの禁忌の領域。

 

 

 

「十種影法術、極の番」

 

 

 

ヴァルナの足元の影が、これまでにないほど狂暴に、まるで巨大な竜巻のように渦を巻き始めた。

 

 

 

圧倒的な呪力の奔流が、大空洞の魔力を喰らい尽くす勢いで膨張していく。

 

孤高の呪術師の、真の反撃が始まろうとしていた。

 

 

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