Fate/Strange Order : 冠位影法録(シャドウ・レコード) 作:りー037
一つの壮絶な戦いが終わった。
串刺し公を討ち果たしたものの、カルデア陣営が支払った代償は決して軽くはない。防ぎきれなかった広域宝具の雨により、マリー・アントワネットとアマデウスという二騎のサーヴァントが消滅。物理的にも精神的にも、激しい消耗を強いられる結果となった。
だが、絶望だけが残ったわけではない。
彼らには、この特異点の元凶たる『邪竜』に対抗するための唯一の切り札――竜殺しの英雄、ジークフリートが仲間になっている。
犠牲になった二人のためにも、目的を達成しなければならない。ヴァルナ、マシュ、ジャンヌの三人は、微かな希望を胸に、戦闘前に彼を隠しておいた物陰へと急ぎ足で向かった。
……しかし。
瓦礫の陰に横たわるジークフリートの姿を見た瞬間、マシュとジャンヌは息を呑んだ。
「な……っ」
「そんな、体が……透けて……!」
ジークフリートの肉体は、足元から輪郭がぼやけ、今にも光の粒子となって霧散しそうなほどに明滅を繰り返していた。まさに限界を迎えた、消滅寸前の状態である。
『まずいぞ!! ジークフリートが消滅しかけている!』
カルデアからの通信で、ロマンが悲鳴のような声を上げた。
『おそらく、極度の呪いに侵された状態で宝具を放った反動だ! 本来ならとっくに霊基が崩壊していてもおかしくないくらい、彼は無茶をしていたんだ!』
「ドクター! マスター、何とかしなくては!」
せっかくの希望が失われてしまうかもしれないという危機感に、マシュが激しく焦燥し、珍しく慌てふためく。
『ヴァルナくん! !すぐに彼と契約して、パスを繋ぐんだ! 霊基を繋ぎ止めないと!』
「……分かったから、少し落ち着け。」
彼は迷うことなく倒れ伏すジークフリートの傍らに膝をつき、その屈強な胸板へ血に濡れた己の手を置き、静かに魔力のパスを繋ぎ込んだ。
それから、少しの時間が経過した。
ヴァルナからの魔力供給によってパスが安定し、ジークフリートの明滅していた霊基が確かな実体を取り戻す。
「……ん、うぅ……」
低く呻き声を上げ、ジークフリートがゆっくりと瞼を開けた。
「気がつきましたか、ジークフリートさん!」
「……ここは。そうか、俺は……すまない。俺のせいで、かなり迷惑をかけたようだ」
身を起こそうとするものの、全身に纏わりつく呪いの激痛に顔を歪めるジークフリート。そのひどく卑屈な謝罪に対し、マシュが慌てて首を振った。
「気にしないでください! あなたが宝具を撃ってくださらなければ、ワイバーンの群れに押し潰されていました」
マシュが慰めている横で、ジャンヌがジークフリートの肉体に手をかざし、霊基の状態を詳細に調べていた。
「それで、傷はどうだ。かなり深く呪われているようだが」
ヴァルナの問いかけに、ジャンヌが険しい表情で頷く。
「ええ……どうやら、複数の呪いが複雑に絡み合うように肉体に定着しているようです。かなり、危険な状態です」
「ジャンヌ、お前なら解呪できそうか?」
ヴァルナの問いは極めて合理的だった。
実は、ヴァルナ自身も幼少期に『洗礼詠唱』の基礎を叩き込まれた。しかし、彼自身の肉体に巡る「呪い」が相反する力を阻害してしまうため、洗礼詠唱の習得には至らなかった。
それに加え、悪霊や魔の浄化であれば式神である『円鹿』の反転術式で事足りてしまうため、彼自身が必要性を感じて真面目に取り組まなかったという理由もある。ゆえに、彼はこの場において最も浄化に適した聖女へと役割を振ったのだ。
しかし、ジャンヌは悔しそうに唇を噛む。
「恐らく、完全な状態の洗礼詠唱であれば問題なく解呪できるでしょう。ですが……今現在の私一人では、力が足りません」
『彼の霊基はすでに死に体も同然だ』
通信越しにロマンが補足する。
『呪いに侵されたまま平気な顔で喋っているのが不思議なくらいだ。普通のサーヴァントなら、消滅してるレベルだよ』
「……お前、そんなにやばい状態だったのか」
ヴァルナがジークフリートへ視線を向けると、彼は気まずそうに目を伏せた。
「あぁ、そうだな。先ほどの宝具の行使の反動もある。少しでも気を抜いて油断すると、霊基が消滅しそうな……そんな感覚だ」
「先輩、どういたしましょうか……」
マシュが不安そうにヴァルナを見上げる。せっかくの竜殺しがここで機能不全に陥っては、今後の特異点修復において致命的な問題となる。
「あ…… 先輩!」
その時、マシュが何かを閃いたように顔を輝かせた。
「あの、鹿のような神々しい式神を使ってはいかがでしょう? 以前、私にも使っていただいた時、とても暖かく神聖な力を感じました。あの力であれば、呪いを解呪できるのではないでしょうか!」
「いや、無理だな」
マシュの提案を、ヴァルナは一秒で即答して却下した。
「確かに、円鹿の正のエネルギーで呪いを打ち消すこと自体はできる。だが、この男の肉体には、かなり濃い『邪竜の血肉』が混じっている。……先ほど言っていた竜の血を浴びたことによる変質だろう」
「……!」
彼は容赦なく説明を続ける。
「おそらく、この男に直接反転術式を流し込めば、肉体に定着している邪竜の因子と内側で打ち消し合い、猛烈に反発して、そのまま霊基ごと消滅するな」
ヴァルナは、まるで厄介なパズルでも見るような目でジークフリートを観察し、心底疑問だという雰囲気で首を傾げた。
「そもそも、邪竜の因子が混ざり合っているこの男は、いわば『呪いそのもの』のような存在だ。ジークフリートという名の強大な呪いを避けつつ、その表面にこびりついている呪いだけを器用に浄化するって……どうやるんだ?」
「……そうか。俺のこの肉体が、君たちの解呪を阻害しているということか。すまない……本当に、すまない」
ヴァルナの身も蓋もない正論を受け、ジークフリートはさらに深く、地底まで沈み込むような卑屈さで謝罪した。
「先輩!!」
その光景を見かねて、マシュが声を荒げる。
「人をそんな風に『呪い呼ばわり』してはダメですよ! ジークフリートさんが傷ついているじゃないですか!」
「ん? そうか。……悪いな」
ビシッと後輩から説教を受け、ヴァルナは全く悪びれた様子もなく、あっさりと謝罪を口にした。
実際、彼に悪意は全くない。「事実をそのまま述べた」だけであり、他者の感情の機微に対する距離感が根本的にずれているだけなのだ。普段はヴァルナがマシュを導くポジションだが、こと人間関係においては、完全に後輩に手綱を握られ、立場が逆転している。
「……ならば、どうするか」
気を取り直し、ヴァルナが思考の海へ沈もうとした、その時。
「できるかは分かりませんが……」
ずっと考え込んでいたジャンヌが、おずおずと提案を口にした。
「その、マスターの式神の神聖な力を……私に上乗せして、私の『洗礼詠唱』を強化することはできませんか?」
考え込んでいたジャンヌが、おずおずと提案したその言葉。
彼女の言っていることは、現象の目的としては極めてシンプルかつ理にかなっていた。円鹿のエネルギーを直接ジークフリートに流すのではなく、一度ジャンヌというフィルターを通し、彼女の解呪そのものを底上げするという協力技。
だが。
(……反転術式を、他者の洗礼詠唱に上乗せする、か)
ヴァルナは、その提案が孕む『致命的なリスク』を脳内で弾きだきていた。
制御を誤れば、ジャンヌ・ダルクという霊基そのものが、内側から風船のように弾け飛んで消滅するのではないだろうか。
(反転術式と他者の魔術、それも神聖な洗礼詠唱と外部で完全に同期させる。……そんな真似、今まで一度もやったことなどないが)
やらなければ、竜殺しは使い物にならない。
だが、他にマシな対案もない
彼の内側にある感情が、この難解なパズルを前にして、微かな好奇心と実験的な欲求を疼かせた。
「それならば……試してみるか」
その言葉の裏に隠された、一歩間違えれば味方を即死させるという綱渡りの事実を、声にも表情にも一切出すことなく。
「『円鹿』」
足元の濃い影が水面のように波打ち、そこから巨大な鹿の式神が音もなく顕現する。
その全身から放たれるのは、淡く輝く反転術式の光――純度100%の「生」のエネルギー。
間近でそれに当てられたジャンヌは、魔力とは似て非なる、暖かくも圧倒的な存在感に思わず息を呑んだ。
「……近くで見ると、確かに荘厳なオーラですね。まるで、神の使いのようです」
「行くぞ、ジャンヌ。そのまま詠唱を始めろ」
ヴァルナの短く、冷徹な指示。
ここからが、彼という呪術師の真価を発揮する領域だ。
彼は円鹿の角から溢れ出す白いオーラのような正のエネルギーを操作し、ジャンヌへと向ける。
だが、絶対に彼女の「内側」へは触れさせない。
ジャンヌが口を開き、体外へと魔力を放出し、洗礼詠唱の魔術式を空間に構築していく。ヴァルナは、その彼女が外部へ『アウトプットした魔術式』のガワにのみ、自身の反転術式をピッタリと重ね合わせるように沿わせていく。
(……ズレれば、消し飛ぶぞ)
彼の感情の読めない瞳が、極限の集中を帯びる。
異なる位相のエネルギーを、他者のタイミングに合わせて寸分違わず同期させる。それはまさに、荒れ狂う嵐の中で、細い針の穴に糸を通すような、常軌を逸した緻密で繊細な呪力制御。
少しでも出力を誤ればジャンヌの霊基を破壊し、少しでも遅れれば融合は失敗する。
「これは……」
ジャンヌの瞳が、驚きに大きく見開かれる。
とても暖かな力が、自身の展開する魔術式にピタリと寄り添い、爆発的な相乗効果を生み出していくのを感じ取る。呪いとは完全な対極にある、生命の輝きそのもののような暖かさ。自分の霊基には一切の負担がかからず、ただ詠唱の威力だけが底上げされていく、神業のようなサポート。
(今なら……できるかもしれません!)
ジャンヌはジークフリートへ向き直り、両手を胸の前で強く握り合わせ、深く、透き通るような声で紡ぎ出した。
「――主の恵みは深く、慈しみは
あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず。
餓え、渇き、魂は衰えていく。」
言葉が発せられるたび、ジャンヌの神聖な魔力と、ヴァルナの円鹿が放つ正のエネルギーが、絡み合い、一つの巨大な光の渦となっていく。
「――
渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす
深い闇の中、苦しみと
円鹿のエネルギーによって強化された、特異点における最高純度の洗礼詠唱。
ジャンヌの身体から溢れ出した神々しい光の奔流が、ジークフリートの肉体を優しく、しかし呪いという概念そのものを粉砕する絶対的な力で包み込んでいく。
「今、枷を壊し、深い闇から救い出される
罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ
正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を
――『去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)』!!」
パァァァァァァァァンッ……!!
周囲一帯を昼間のように照らし出す、凄まじい発光。
「すごいです……!」
マシュが期待のこもった声を上げる中、光が収まった後には、ジークフリートの肉体にこびりついていた複雑な呪いが、文字通り跡形もなく完全に消失していた。
「……ふぅ。これで問題ありません」
ジャンヌが安堵の息を吐き、額の汗を拭う。
「やはり、私一人では呪いを解くことはできませんでした。……ありがとうございます、ヴァルナくん」
「ああ、そうだな。竜殺しが使い物にならないのは困るからな」
ヴァルナの言葉は相変わらず鋭く、情緒というものが欠け落ちていたが、マシュもジャンヌも彼に悪気がないことはすでに理解している。
「……体が、動くようになった」
ジークフリートが、信じられないといった様子で己の掌を見つめ、そしてゆっくりと立ち上がった。
呪いの苦痛から完全に解放されたその瞳には、かつてないほどの強い光が宿っている。彼は、自身を救ってくれた白髪の青年へと向き直り、誠実な瞳で深く頭を下げた。
「苦労をかけてしまって、申し訳ない。……ヴァルナ」
いや、と。
ジークフリートは言葉を区切り、一人の戦士として、彼を自身の主と認めるように言い直した。
「マスター。……そう呼んだ方が正しいか。心より感謝する」
マスターと、サーヴァント。
物理的な魔力パスだけでなく、精神的にも確かな繋がりが生まれた瞬間だった。
「元気になったようで何よりだ。これから竜殺しが控えているからな。存分に、こき使わせてもらう」
ヴァルナが、いつもの抑揚のない声でそう応えると、ジークフリートは力強く頷き、自身の背に負った大剣を抜き放って、騎士としての礼をとった。
竜殺しの英雄が、誇り高く真名を名乗り上げる。
「サーヴァント・セイバー。真名はジークフリート。……この身は、マスターの剣であり、盾であると誓おう」
*
ジークフリートの解呪が無事に完了し、霊基が安定を取り戻したことで、カルデア陣営にようやく一息つく時間が訪れた。
崩れかけた石壁の陰に腰を下ろし、それぞれが呼吸を整える。
「さて……これからどうするか、だな」
ヴァルナは瓦礫に背を預けながら、静かに口を開いた。現在の戦力状況を淡々と分析していく。
「先ほどの戦闘で、全員が激しく消耗している。ジャンヌもマシュも無傷とはいえ疲労は濃いし、俺も領域を展開した影響で、呪力がかなり削られている状態だ」
『それに、ジークフリートもだね』
カルデアの管制室から、ロマンが通信越しに同意する。
『呪いが解けたとはいえ、直前まで死に体だったことに変わりはない。今すぐにまた大規模な戦闘が始まれば、今度こそ霊基が持たないだろう。まずは全員に、安全な場所での休息が必要だ』
「俺は構わない。マスターの指示があれば、すぐにでも剣を振るうが」
「無茶をされてすぐに壊れられては、せっかく解呪した意味がない。お前には『邪竜』という大仕事を任せるんだ。それまでは大人しくしておけ」
休息を取るという方針には全員が賛成した。だが、マリー・アントワネットとアマデウスを失った代償は、心に重くのしかかっている。
「……私の力が足りなかったせいで、お二人は……」
マシュは重い盾を抱え込むようにして、ひどく暗い顔で俯いた。もっと自分がうまく動けていれば、先輩だけに負担をかけず、二人を護れたのではないかという自責の念。
そんな後輩の様子を見たヴァルナは、よっこらせ、と瓦礫から腰を上げ、マシュの目の前まで歩み寄った。
「ひゃっ!? せ、先輩……近いです……っ」
「お前が死んでいたら問題だったが、お前は生き残った。ならば、それで十分だ。欠けた戦力については、別の手段で補填する。お前が責任を感じる必要はどこにもない」
それは慰めというよりも、極めて冷徹な事実の確認だ。だが、身内に対する距離感と、彼なりの不器用な気遣いが同居したその言葉に、マシュは目をぱちくりとさせ、やがて小さく息を吐き出して表情を和らげた。
「……はい。ありがとうございます、先輩」
「ん。ならいい」
マシュの顔色が少し戻ったのを確認し、ヴァルナは満足そうに頷いて距離を取った。
「ドクター。戦力の補填についてだが……この特異点には、他にもサーヴァントが存在している可能性があるな?」
ヴァルナが通信機に向かって問いかけると、ロマンは『やっぱり君もそう思うかい?』と少しだけ声を弾ませた。
『現在のフランスは、竜の魔女が持つ「聖杯」によって特異点と化している。当然、その強大な異常に対する反作用――世界そのものの抑止力のようなものが働いて、彼女の陣営に対抗しうる「はぐれサーヴァント」が複数騎、無作為に召喚されている可能性が高いんだ』
「なるほど。マリーやアマデウスさんも、そうやって召喚されたサーヴァントだったというわけですか」
ジャンヌが納得したように呟く。
「そういうことだ。味方は多いに越したことはない」
ヴァルナは、ジークフリートとジャンヌ、そしてマシュを交互に見渡した。
「ここから移動し、安全な場所で休憩を取りつつ、味方になる可能性のあるサーヴァントを探す。次の指標はこれで行こう」
「承知した。今まで役立たずだった分、次こそは必ずマスターの剣として働きを返そう」
ジークフリートが、極めて頼もしい声で頷いた。
現在、カルデア陣営の戦力はヴァルナ、マシュ、ジャンヌ、ジークフリートの四名。万全な者は一人もいないが、立ち止まっているわけにはいかない。
彼らは戦闘の爪痕が残るリヨン跡地を離れ、次なる街へと歩みを進め始めた。
荒野と化したフランスの大地を、四人の影が進んでいく。
歩きながら、ジャンヌ・ダルクは少し後ろからヴァルナの背中をじっと見つめる。
彼女の眉間には深い皺が寄り、何か複雑な考え事――あるいは、処理しきれない疑問に苛まれているような、そんな険しい表情を浮かべている。
「……」
「ジャンヌ」
不意に、前を歩いていたヴァルナが振り返った。
感情の読めない硝子のような瞳が、ジャンヌを真っ直ぐに射抜く。
「何かあったか? さっきから、ひどく険しい顔をしているが」
「えっ……?」
思考を読まれたかのような唐突な問いかけに、ジャンヌは肩をビクッと跳ねさせた。
自身の内にある漠然とした疑念。それを今、このタイミングで彼にぶつけるべきではない。彼女はそう判断し、慌てて首を横に振る。
「い、いえ……! 何でもありません。少し、今後の戦いについて考えていただけですから」
「そうか。あまり気を張りすぎるな」
ヴァルナはそれ以上深く追求することなく、あっさりと前を向き直る。他人の領域に無遠慮に踏み込むような真似をしないのも、人間という種族を観察する彼のスタンスゆえであろう。
しばらく無言の行軍が続き、やがて丘を越えた先――眼下に、一つの大きな街並みが見えてきた。
「あれは……ティエールの街ですね」
マシュが遠くを指差す。
「ドクター、近くにサーヴァントらしき生体反応はありませんか?」
『……待ってくれ、今確認してる』
通信機越しのロマンの声が、カタカタとキーボードを叩く音と共に真剣みを帯びる。
『ビンゴだ! ティエールの街の中に、サーヴァントの反応が二つある! 間違いなく、竜の魔女陣営ではない、はぐれサーヴァントの反応だよ!』
「よし。早速コンタクトを取ろう」
ヴァルナが短く指示を出し、街へ向けて歩みを早めようとした、その矢先だった。
ドォォォォォォォォンッ……!!
遠く離れたティエールの街の中心部から、突如として激しい爆発音が轟いた。
それと同時に、夕闇迫る空を焦がすような真っ赤な火の手が、街のあちこちから上がり始める。
「なっ……!?」
「街が……燃えている!?」
ジャンヌとジークフリートが、その惨状に目を見開く。
『マズい! サーヴァント反応の近くで、急激な魔力衝突が起きている! 』
「……急ぐぞ」
ヴァルナは一言だけ告げると、消耗した身体に再び呪力を巡らせ、燃え上がるティエールの街へ向かって駆け出した。
安息の時間は終わりだ。新たな戦いの予感と共に、四人は煙を上げる街へと急行する。