Fate/Grand Order : 冠位影法録(グランドオーダー・シャドウレコード)   作:りー037

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黒き閃光と、炎を纏う賢者

【時刻:2004年 某月某日 ??:??】

 

【場所:特異点F 炎上汚染都市 冬木・交差点】

 

 

大気が焦げる不快な匂いに、濃密な魔力のプレッシャーが混ざり合い、呼吸をするだけで肺が焼けるような錯覚に陥る。

 

陥没したビルの壁から身を乗り出したライダー(メドゥーサ)の四角い瞳孔は、明確な『殺意』をもってヴァルナ・クロスという一人の人間を捕捉していた。

 

 

魔眼が無効化された事実。そして、先ほどの連携攻撃で味わった手痛い一撃。神話の魔獣としての本能が、目の前の白髪の青年を「最優先で排除すべき極めて異質な脅威」として再認識したのだ。

 

 

ジリッ、と。ライダーの足元のアスファルトが、彼女から漏れ出す魔力の熱で融解する。

 

 

 

「マシュ。所長から離れるな。あの女は俺が削る」

 

 

ヴァルナは背後を一瞥もせず、極めて平坦な、しかし絶対の命令としてマシュに告げた。

 

 

「は、はいっ! マスターも、お気をつけて……!」

 

 

マシュがオルガマリーの前に巨大な十字盾を突き立て、強固な防壁を構築する。彼女の紫色の瞳は、これから始まる未知の領域の戦闘を、一瞬たりとも見逃すまいと見開かれていた。

 

それを合図としたかのように、ライダーの姿が、揺らめく炎の向こうで『消失』した。

 

 

 

「シィィッ!」

 

 

 

鋭い呼気。音が聞こえた時には、すでに凶器はヴァルナの眼前へと迫っていた。

 

両手に握られた短剣(ダガー)付きの鎖。それが蛇のようにうねりながら、凄まじい速度と遠心力をもって、ヴァルナの首と心臓の二箇所を同時に刈り取ろうと迫る。音速を超えた刃が空気を切り裂き、鋭い風鳴りが冬木の夜空に響き渡る。

 

 

 

対するヴァルナは、動じない。

 

彼の肉体には、すでに『呪力肉体強化』が極限の密度で張り巡らされている。臍下丹田から生み出された青黒い呪力が、動脈を這うようにして全身の筋肉、骨格、神経線維の一本一本へと浸透し、彼を生物の枠を超えた「兵器」へと変質させていた。

 

 

 

ガギィィィンッ!!

 

 

火花が散った。

 

 

右から迫る鎖の刃を、ヴァルナは呪力で鋼の硬度と化した右の手甲で、直接弾き飛ばしたのだ。皮膚は一枚たりとも裂けず、鈍い金属音だけが響く。

 

同時に左から迫る刃を、首を数ミリ傾けるという最小限の動作だけで回避。刃が通り過ぎたその隙間(デッドスペース)へ、ヴァルナは滑るように踏み込んだ。

 

 

 

「――一歩、遅い」

 

 

 

空気を圧縮するような重い破裂音と共に、ヴァルナの右拳がライダーの鳩尾へと突き出される。

 

当たれば内臓を破裂させ、脊髄まで粉砕する必殺のカウンター。

 

 

 

しかし、神話の英霊の直感もまた規格外だった。ライダーは致命の打撃が届く寸前、手首に巻きつけた鎖を支点にして上体のみを大きく逸らし、紙一重で拳を躱した。

 

そのまま彼女は軽業師のような身のこなしで後方へとバク転し、十メートルほどの距離を開ける。

 

 

(……なるほど。単純な近接格闘(インファイト)なら俺が上だが、あの異常なまでの敏捷性が厄介だな)

 

 

ヴァルナの冷徹な観察通り、ライダーは近接での殴り合いが不利であることをたった一合の交刃で悟っていた。

 

彼女の強みは、その圧倒的な機動力と三次元的な空間把握能力にある。

 

ライダーは地に足をつけたまま戦うことを放棄し、炎上する交差点の周囲を取り囲む廃ビルの壁面へと跳躍した。

 

 

 

「シャァァァッ!」

 

 

 

垂直な壁面を蹴り、瓦礫を足場にし、空を舞いながら無数の鎖を降らせる立体機動戦術。

 

上から、斜めから、死角となる背後から。予測不能な角度から襲い来る刃の雨。常人であれば視認することすらできず、瞬きをする間に微塵切りにされる死の嵐。

 

 

だが、ヴァルナの瞳に焦燥はない。

 

 

「小賢しいな」

 

 

彼は降り注ぐ鎖を、手足を用いた最小限の体術で的確に弾き落としながら、自身の視線を遠く離れた廃ビルの『影』へと向けた。

 

 

 

『影位相展開(シャドウ・フェイズ)』

 

 

 

ヴァルナの洗練された影操作術が、空間の距離を無視して遠隔の影へと干渉する。

 

交差点から二十メートル離れたビルの壁面。そこに落ちていた濃密な影が、突如としてボコボコと沸騰するように蠢き出した。

 

影の物質そのものが立体的に隆起し、二つの『真っ黒な手』を形成する。その影の手は、ヴァルナの意思と完全にリンクし、片手で複雑な印――蛇の形を模した『影絵』を瞬時に結んだ。

 

 

 

「大蛇」

 

 

 

影絵が完成した刹那。

 

ビルの壁面の影から、轟音と共に巨大な白蛇が這い出した。大蛇は、ビルからビルへと飛び移ろうとしていたライダーの軌道に先回りし、その長大な顎を大きく開いて牙を剥く。

 

 

 

「チィッ!?」

 

 

 

予期せぬ位置からの召喚に、ライダーは空中で舌打ちを漏らし、鎖を隣の電柱に絡ませて振り子のように軌道を変え、大蛇の捕食をすり抜けた。

 

 

「なら、次はそこだ」

 

 

ヴァルナは休む間もなく、視線を今度はライダーの逃げ先にある電柱の影へと向ける。

 

電柱の影がウネウネと隆起し、両手を組んで親指を立てた『蝦蟇』の影絵を物理的に造形する。

 

 

 

「ゲコォッ!!」

 

 

 

影絵を媒介として、今度は電柱の影から軽自動車ほどの大きさを持つ巨大な蟇蛙が実体化した。

 

蝦蟇は空を舞うライダーへ向けて、ゴムのように伸びる長大な舌を猛スピードで射出する。大蛇が空中への退路を塞ぎ、蝦蟇が死角から舌による直接拘束を狙う。

 

自身の格闘術と、遠隔の影で影絵を造形し変幻自在に式神を出現させる中距離包囲網。これこそが、ヴァルナ・クロスという呪術師の真骨頂である。

 

 

 

高速の戦闘が激化する。

 

 

 

ライダーは蛇のように身をくねらせて式神の猛攻を躱し、同時にヴァルナの隙を狙って鎖の刃を投擲し続ける。

 

ヴァルナは鎖の軌道をすべて見切り、弾き落としながら、式神を囮にして徐々に彼女の退路を削り、自身の『拳の届く距離』へと追い込もうと画策していた。

 

 

 

火花と骨と影が乱舞する、極限の死闘。

 

そして、その均衡が破れたのは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

蝦蟇の舌を躱し、大蛇の牙を鎖で弾いたライダーが、着地のために一瞬だけ地上へと高度を下げた。

 

 

(――捕まえた)

 

 

ヴァルナはその隙を見逃さない。アスファルトを砕くほどの踏み込みで距離をゼロにし、ライダーの横腹を抉るような左の蹴りを放つ。

 

 

 

だが。

 

 

 

「シャァッ!!」

 

 

暴走状態にありながら、英霊としての戦闘勘は冴え渡っていた。ライダーはヴァルナの接近を「逆利用」した。

 

彼女は空中で自らの鎖を自身の腕にきつく巻き付け、その張力を利用して空中で無理やり身体を捻った。

 

ヴァルナの蹴りが届くよりもコンマ数秒早く。ライダーの長くしなやかな右脚が、遠心力と神話の魔力を限界まで乗せて、ヴァルナの胸部へと叩き込まれた。

 

 

 

ズガァァァァァンッ!!!!

 

 

 

「――っ」

 

『呪力肉体強化』による鉄壁の防御を以てしても、英霊のフルスイングの質量を完全に殺し切ることはできなかった。

 

ヴァルナは両腕を交差させて直撃を防いだものの、凄まじい衝撃波によって身体が宙に浮き、そのまま後方へと数十メートル弾き飛ばされた。アスファルトをボウリングの球のように抉り飛ばし、廃墟の残骸に背中から激突してようやく停止する。

 

 

 

「先輩!!」

 

 

 

マシュの悲痛な声が響く。

 

 

 

「……問題ない」

 

 

 

ヴァルナは土煙の中から、ゆっくりと立ち上がった。交差した両腕は赤く腫れ上がり、僅かに痺れが残っているが、骨に異常はない。

 

 

 

だが、この『距離を取らせる』ことこそが、メドゥーサの真の目的だったのだ。

 

上空から着地したライダーの周囲で、空気が異常な熱を持ち始めていた。

 

ただの魔力放出ではない。世界そのものを一瞬で書き換えるような、極大の神秘の集束。

 

彼女の手には、先ほどまでの鎖ではなく、光り輝く手綱が握られている。そして彼女の背後の空間が歪み、神話の幻想種――純白の天馬(ペガサス)の幻影が、嘶きと共に顕現しようとしていた。

 

 

 

 

『ま、まずい! 魔力反応が限界突破してる! 宝具だ! あのライダー、ここで宝具を解放する気だ!!』

 

 

 

通信機越しにロマニが絶叫する。

 

 

 

「先輩、所長!! 私の背後に!! ――」

 

 

マシュが死を覚悟し、巨大な盾に自身の全魔力を注ぎ込み、疑似的な宝具を展開しようと試みた、その時。

 

 

「待て、マシュ」

 

 

 

ヴァルナの声が、焦燥に満ちた戦場を冷ややかに切り裂いた。

 

彼はマシュの手を物理的に制止するでもなく、ただ言葉だけで彼女の動きを止めた。

 

 

「先輩!? でも、あの規模の魔力は……私の盾で防がないと、交差点ごと消し飛びます!」

 

「防ぐ必要はない。お前はそこで見ていろ」

 

 

ヴァルナの瞳は、これほどまでの絶望的な魔力を前にしても、まるで凪いだ水面のように静まり返っていた。

 

彼は肩の力を抜き、ただ真っ直ぐに、宝具の解放準備に入っているライダーを見据えた。

 

 

「宝具……必殺技のようなものか。だが、撃たせなければ何の意味もない」

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

ヴァルナがひび割れた大地を粉砕し、一直線にライダーへと向かって走り出した。

 

 

『なっ、新人君!? 間に合わない! 宝具の発動プロセスの方が早い!』

 

 

 

 

ロマニの計算通りだった。ライダーの魔力はすでに臨界点に達しており、天馬の光が完全に具現化するまで、残り数秒。

 

 

 

対するヴァルナの距離は三十メートル。人間の脚力では、どう足掻いても手が届く前に、光の奔流に飲み込まれて蒸発する。

 

 

 

 

ライダーの四角い瞳孔が、突っ込んでくる愚かな人間に向けられた。

 

その口角が、ほんのわずかに嘲笑の形に歪む。

 

 

『騎英の手綱(ベルレフォーン)』――その真名が、彼女の唇から紡がれようとした瞬間。

 

 

 

 

「――脱兎」

 

 

 

走りながら、ヴァルナの両手が複雑な影絵を結んだ。

 

 

 

 

ポンッ! ボンボンボンボンッ!!

 

 

 

 

ヴァルナの足元の影から、先ほど地下駐車場で出した比ではない、数千匹に及ぶ『脱兎』の群れが爆発的に飛び出した。

 

真っ白な兎の大群は、凄まじい勢いで増殖し、ヴァルナとライダーの間を隔てる巨大な『動く壁』となって、視界を完全に埋め尽くした。

 

 

 

 

(……ウサギ?)

 

 

 

 

宝具を放つ寸前のライダーの思考が、一瞬だけ怪訝に染まる。

 

 

防御のつもりか? それとも、視界を遮って横へ回避するための目眩ましか?

 

 

どちらにしてもお粗末だ。天馬の光は、前方の空間すべてを消し飛ばす。ウサギの壁など、コンマ一秒で塵と化すだけの無意味な足掻き。

 

 

 

 

ライダーは鼻で嗤い、躊躇なく宝具の真名解放を完了させようとした。

 

 

だが、ヴァルナの真の目的は、防御でも回避でもない。

 

 

ウサギの壁によって、彼女の視界から『自分自身の姿を完全に隠す』ことだった。

 

 

 

 

 

ウサギの壁の裏側。

 

走りながら、ヴァルナの視線は、すでにライダーの足元に落ちる濃密な『影』を捉えていた。

 

 

 

 

 

拡張術式――◆ 影道潜行・疑似転移(シャドウ・リンク)

 

 

 

 

 

彼の身体が、走り幅跳びの姿勢のまま、自らの影の中へと音もなく没する。

 

酸素のない、絶対的な漆黒の次元。そこを、空間的距離を『ゼロ』にして通り抜ける。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

ウサギの壁の向こう側、ライダーの目の前。

 

彼女の宝具の光が放たれようとした、まさにその手前の足元の影から。

 

まるで水面を突き破るように、ヴァルナ・クロスが這い出た。

 

 

 

 

彼我の距離、ゼロ。

 

宝具発動まで、あと一秒。

 

 

 

いや、極限まで研ぎ澄まされたヴァルナの知覚時間においては、それは永遠にも等しい「確殺の隙」だった。

 

 

 

(……呪力のノリは、完璧だ。細胞の一つ一つが、この瞬間を理解している)

 

 

 

ヴァルナの右拳が、極限まで背後に引かれる。

 

 

体内の呪力が一箇所に集束し、空間そのものを歪ませるような異様な密度を生み出す。

 

炎の音も、魔力の奔流も、すべてが消え失せた真空の数ミリ秒。

 

聖杯戦争の理を、魔術の常識を、神話の神秘を。

 

そのすべてを、ただの圧倒的な『暴力』で捻じ伏せる。

 

 

 

「――飛べ」

 

 

 

 

打撃と呪力の衝突が、0.000001秒未満で完全一致した。

 

 

 

 

バギィィィィィィンッ!!!!!!

 

 

 

 

空間が、黒く染まった。

 

赤黒い炎を切り裂いて、真紅よりも昏い、漆黒の火花が戦場に弾け飛ぶ。

 

 

 

『黒閃』

 

 

 

極小確率で起こる、呪力と打撃の完全一致による特異現象。

 

その破壊力は、通常の打撃の二.五乗に達し、あらゆる防御概念を貫通する。

 

ヴァルナの右拳は、ライダーの腹部を――英霊の核である『霊核』が存在する位置を、寸分の狂いもなく打ち抜いていた。

 

 

 

「あ、ぁ……っ!?」

 

 

宝具の光が、天馬の幻影ごと、まるでガラスが割れるように霧散していく。

 

黒い火花の衝撃波はライダーの背中から抜け、彼女の背後にあった廃墟群のビル三棟を、まるで紙細工のように貫通し、完全に崩壊させた。

 

 

 

ドゴォォォォォォンッ!!

 

 

 

冬木の夜空に、雷鳴のような轟音が遅れて響き渡る。

 

 

「…………っ」

 

 

ライダーは目を見開いたまま、崩れ落ちる。

 

 

すでに彼女の身体は、足元から金色の魔力の粒子となって消滅を始めている。

 

 

 

霊核の完全なる破壊。

 

 

 

神話の魔獣は、ただの一撃の前に完全に屈したのだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

ヴァルナは静かに拳を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。

 

黒閃を放った直後の彼の肉体は、『120%覚醒状態』へと移行している。

 

 

全パラメータの向上。呪力効率の異常な上昇。脳内麻薬が分泌され、万能感にも似た高揚が全身を駆け巡る。

 

 

普段は一切の感情を表に出さない彼の瞳の奥で、ほんの少しだけ……本当に微かに、だが確かに、闘争の余韻を楽しむような熱――『嗤い』が灯っていた。

 

 

 

 

「……悪くない。久しぶりに、芯まで届く感触だった」

 

 

彼は自身の右手を眺めながら、ぽつりと呟いた。

 

その立ち姿は、もはや人間の魔術師のそれではなかった。金色の粒子が舞う戦場の中央で、圧倒的な暴力の余韻を纏いながら佇む、孤高の捕食者。

 

 

 

「せ、せん……ぱい……?」

 

 

マシュが盾を下ろし、震える声で呼びかけた。

 

オルガマリーに至っては、腰を抜かしたまま言葉すら発せなくなっている。

 

 

『い、今のは……何だ!? 魔力じゃない! カルデアスの計測機器が、一瞬だけ意味不明なエネルギーのバグを起こしたぞ!? 空間の位相が歪んだ……!? 君、本当に人間なのか!?』

 

 

ロマニの悲鳴が端末から響くが、ヴァルナは「うるさいぞ、ドクター」とだけ返し、通信の音量を下げた。

 

 

 

 

――パチパチパチパチ。

 

 

 

 

不意に、瓦礫の向こうから、のんきな拍手の音が聞こえてきた。

 

 

「いやぁ、すげぇな。見惚れちまったぜ」

 

 

炎の向こうから歩み出てきたのは、一人の男だった。

 

青い装束に身を包み、手には樹木の枝のような奇妙な杖を持っている。

 

その口元には、好戦的で、どこか野性的な笑みが浮かんでいた。

 

 

「黒化したとはいえ、あのサーヴァントを素手で……それも、宝具の直前に潜り込んで霊核をぶち抜くとはな。お前さん、魔術師のなり損ないかと思えば、とんでもねぇ武闘派じゃねぇか」

 

 

男はヴァルナの数メートル前で立ち止まり、杖を肩に担いだ。

 

 

「初めましてだな、別世界のマスターとやら。俺はキャスター。……まあ、見ての通りの英霊だ」

 

 

 

クー・フーリン。

 

 

 

アイルランドの光の御子にして、今回は杖を持った魔術師のクラスで現界した男。

 

ヴァルナは覚醒状態の熱を内側に残したまま、静かにキャスターを見据えた。

 

 

「……あんたは、さっきの女とは違うな。目は濁っていないし、意思がある。……敵か?」

 

「おいおい、そんな物騒な殺気を向けるなよ。あんなデタラメな一撃を見せられた後じゃあなぁ」

 

 

キャスターは苦笑いしながら、両手を上げて降参のポーズをとった。

 

 

「安心しな。俺はお前たちの味方だ。このふざけた聖杯戦争の異常(イレギュラー)をぶっ壊すために、ずっとまともなマスターを探してたんだよ」

 

 

キャスターは杖の先で、炎上する冬木の奥――巨大な山が存在する方角を指し示した。

 

 

「何が起きてるのか、知りてぇだろ? お前さんたちが探してる『聖杯』は、あの円蔵山の大空洞にある。歩きながら話そうぜ。……この街が、どうしてこんな地獄になっちまったのかをな」

 

 

 

 

炎と黒煙が舞う中、ヴァルナ・クロスは無言でそれに頷いた。

 

彼の足元の濃密な影は、さらなる強敵を求めるように、未だ静かに脈動を続けていた。

 

 

 

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