天眼の呪術師 作:Wisteria
それは豆を歳の数だけ食べてから数日経った頃だった。西園寺奈緒美が死んだ。
高専に恨みを持った呪詛師集団が補助監督を狙って殺害を繰り返していた。奈緒美もその騒動で通り魔のフリをした呪詛師に殺害されたのだ。
しかし、それを瞰凜が耳にしたのは呪詛師集団が解体された後のことだった。
薄暗い道を歩いていた。右も左も知らない。そもそも地上を歩いているかさえも分からない。瞰凜はいつの間にか、住んでいるアパートに着いていた。鍵を差し込みドアを開けても『おかえりなさい』の言葉もなければ部屋の明かりもなかった。
「なんで、なんで。ねえ、いるんでしょ? ドッキリとか嘘とか冗談とか、なんでもいいよ。早く出てきてよ。こんなの、こんなの……」
言葉は返事もなく虚空へ消えていく。ただ嗚咽と鳴き声が残響した。
翌日、瞰凜は仮面を被り学校へ行っていた。何もなかったように、いつもと同じように。しかし、仲の良かった生徒はその変化に気が付いた。
「瞰凜、なんかあったろ。今日変だぞ。秘密はなしだ」
「あはは。なら言うしかないなぁ。あのね、自分を育ててくれてた人がね、亡くなっちゃって。ごめん、こんな話じゃないと思ってたよね」
そんなことはない、とは口に出来ない生徒。なんともないように、そして瞰凜の力になれるように言葉を放った。
「そりゃ辛いよな。でも、頑張れ。瞰凜なら乗り越えられると思うぞ」
ある程度距離感を考えた友人の言葉。しかし、瞰凜はその言葉を素直に受け取ることはできなかった。
軽い、軽いと。あの人は知らない子供1人死んだだけであんなにも自分の心を癒してくれたというのに、目の前にいるやつはなんだ、軽くあしらった。自分の気持ちも知らずに、と。
憎い、全てが憎い。気持ち悪い、憎悪する。いっそ、と拳に呪力を纏わせた。
近くの机や椅子がガタガタを揺れ始めた時だった。想像する。もし、そんなことをしたら奈緒美はどんな顔をするのだろう、と。本人はもう居ないのにも関わらず。
ハッとした瞰凜は己の業に気付き、漏れ出ていた呪力を止めた。驚いていた生徒たちだったが、揺れが止まるとまたいつものように行動をとり始めた。
瞰凜は一般人を救うために呪いを制したのに、呪いに呑まれそうになっていた自分に自己嫌悪した。しかし、空っぽになったココロを満たす方法はここには無い。そう判断すると学校から飛び出していく。
電車とバスと歩きを使って到着した先は高専だった。
結界の前である人物に電話をした。
「あ、夜蛾さん。瞰凜です。今高専の結界の目の前にいるのでお迎えお願いします。それと、学校はもう行きたくないです」
『か、瞰凜! わかった。そちらに向かおう。着いたらちゃんと話をしよう』
電話を切った夜蛾は結界の外に向かいながら長いため息を吐いた。
「瞰凜。久しぶりだな。背、伸びたんじゃないか?」
「お久しぶりです。こないだ測ったら177cmもあったんですよ! それを奈緒美さんに言ったら……」
口角を上げて喋っていた瞰凜の顔が曇る。真珠のように大きな涙が頬に伝っていた。
「それ以上何も言うな。まだ辛いだろう」
「や、が、さん。ありがとうございます。そんな強く抱きつかれたら苦しいですよ」
すまないな、と夜蛾は力を緩めた。夜蛾の腕の中にはすやすやと眠っている瞰凜の姿があった。
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