「お逢いできて光栄です。遠い異邦のお方」
腰まで伸びる濡れ鴉の如き髪の麗しさよ。指は細く白く、まるで白魚の如し。唇はまるで紅を差したように赤く艶やかだ。
だが君の目はその美しさには惑わされない。
なぜなら君が看破した法皇レダの階梯は──
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カナン神聖国において、法皇は信仰の旗頭でこそあるが、実質的にはお飾りとされている。それは間違いない。法皇は一切の政務にかかわることがなく、国を動かすのは六人の大主教である。
ただしそれは、政治的にはお飾りである、という意味だ。
信仰の旗頭、魔に抗する人類の守護者という意味では話が全く変わってくる。
カナン神聖国の法皇とは、この国最強の
かつてとある戦場を弔う際、魔道に堕ちた五千のアンデッドを息ひとつ切らさず一斉浄化せしめた当代法皇レダは、紛れもなく現在のカナンにおける最強の存在である。
政務に関わらないのも、軽んじられているからではない。強大な魔に備え、それに抗すべく日夜法力を練り上げ、研鑽しなければならないからだ。
仮にも大主教であるヒュレイアをただの道具扱いするような目でみる君が、戦場国家ライカードにおいて最上級とされる礼をとったのはなぜか。
磨きぬかれた金剛石の如きレダの強さに、敬意を払ったためであった。
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「少なくともこのカナンでは、わたくしが最強なのです」
法皇レダはそう嘯く。
同時に、空間ごとぶちぬくような貫き手が君の脇腹めがけて飛んできた。幾重にも身体強化魔法を重ねられたそれは、三重に重ねた板金をも容易に貫く威力である。
君はその威力を認め、肘で貫き手を打ち落とす。
体勢を崩したレダは、しかし肘打ちの衝撃を利用して姿勢を低くし、あいた手で床を擦りすくいあげるように君の足を捉えようとした。
君は脚を高く掲げ、低い姿勢のレダの頭部へ踵落としを放つ。
先の聖騎士サンドロスあたりが受ければ、頭部を潰してなお飽き足らず、股間部まで鎧ごと一気に引き裂くほどの力を込めている。
レダは君の足へ伸ばしていた手を咄嗟に頭上へ掲げ、踵落としを腕で受け止めた。
鈍く、危険な音が響く。足元の床に
だが君の剛脚を受け止めた当のレダは、花のようなかんばせに甘い笑みを浮かべている。
君もまた笑みを返した。
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「素晴らしいお手前で御座いますね」
レダはふうと息をつき、部屋の中心に据えられた大きなソファへ腰掛けた。あなたもどうぞ、と促され、君もソファへ深く身を沈める。
「事情はきいております。大悪は確かに存在し、それに抗すべく手札を増やしたい……まとめるとこんなところでございましょう?」
君は頷き、呪いといった類への対策についても相談をもちかけた。
「そもそもそれが呪いであるのか何なのか、話をきいただけでは見当もつきません。ただ、わたくしがおもうに……呪いといった無形の力ではなく、なにがしかの侵入……そうですねぇ……寄生体などが体内に入り込んだのではないでしょうか。貴方のとった治療法? のようなもので彼女が正気に戻ったのならば、すくなくともそれは物理的に排除できるものかと愚考いたしますわ」
それにしても、とレダは続けた。
「いきなり手合わせなど受けてくださって感謝いたします……。大悪からルクレツィアを救ったときいて、どれほどの腕前か気になってしまいまして……。大呪大悪はカナンの終生の敵。滅ぼすのはカナンの使命。半端な部外者がそれに横槍を入れてくるのならば、仮にルクレツィアの恩人といえど亡き者になってもらうつもりだったのですが……凄まじい業の冴えでございました」
君はかぶりをふった。
少なくとも肉弾戦のみで彼女を倒すことは難しいだろう、というのが君の評価である。互いに切っていない手札が何枚もある。今のはまあ、ちょっとした交流の範疇だろう。
君がそういうと、レダは頬を淡く染めた。
「わたくしは神に仕えているのだから、誘惑をしても無駄ですよ」
君は肩をすくめ、茶をすする。
体をつかっての対話は終わった。
これからは言葉での対話だ。