ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第13話:ライカードの人って怖いよね

 ■

 

 君はレダに色々な事を訊ねた。

 

 レダは可能なかぎりそれらに答え、彼女もまた君に質問をする。

 

 話の中で、君はレダに自らの素性を明かした。

 

 ライカードという国の人間であるということ。

 

 国の任務で迷宮を調査していたらつい謎のポータルに触れてしまったこと。

 

 ライカードへ帰りたいが、その方法がわからないのでとりあえず大迷宮の最深部を目指しているということ。

 

 しかし最深部から余り良くない気配を感じ、1人では苦労しそうだから手駒……じゃない、仲間を探しているということ。

 

 神から力を借りて奇跡を起こすという神聖呪文を覚えればライカードに貢献できそうなので教えて欲しい、ということ……

 

 様々なメリット、デメリット、自分が利用される可能性まで踏まえた上での判断だ。

 

 レダからは「なんだか勢いだけで行動していませんか?」と呆れられてしまったが、君もそんな気がしていたので否定は出来なかった。

 

「元は迷宮から転移してきたんだから帰る手段も迷宮にあるんじゃないかというふわっとした根拠だけで行動するのは、そうですね……なんというか、豪気といいますか。うん……まあしかし行動の指針にはなりえましょう」

 

 なんとなくフォローしてくれたレダに礼をいう。

 

「なるほど、そういうことならばカナンの使命を先取りしようとかそういう不埒な考えはないということですね。大悪が存在するにせよ、あくまで帰還という目的を達成するための障害でしかない、と」

 

 君は首肯した。

 

 必要があれば戦うことも厭わないが、必要がなければわざわざ戦いにはいかない。

 

 カナンにせよアヴァロンにせよ、いや、この世界にせよ、君が守る義務はないのだから。

 

 だが、この世界に落ちて世話になったものもいるし、親しくなったものもいる。守る義務はないが、義理はあるので助けを求められればそれは応じよう。

 

 君がそう答えると、レダは何かしらを感得したようであった。

 

「たとえ命を懸ける事になろうとも、ですか?」

 

 レダの質問に、君は当然のごとく頷きを返す。

 

 別に君は大層な使命感をもって命を賭けるなどとのたまっているわけではない。

 

 多少なりとも腕がたつライカードの探索者は、その階梯にいたるまでに10ではきかない回数死んでいるのだ。

 

 なんだったら灰になったものだっている。

 

 だから命なんか懸け慣れてしまっているだけなのだ。

 

 とはいえ、そんなライカードの狂った死生観はこの世界の者には理解しがたいだろうが。

 

 ところで、と君は続けた。

 

 君は気になっていたのだ。

 

 レダがそこまで国の使命、メンツのようなものに拘り、大悪とやらを自分達の手で倒したいとおもっているのなら、なぜルクレツィアのような未熟な者に未熟な護衛をつけて送り出したのか。

 

「それにはいくつか理由があります」

 

 レダがぴっと人差し指を立てる。

 

「1つに、あの子が最低限の実力はあるということ。その護衛たる聖騎士の皆さんもです。確かに未熟ではありますが、その辺の木っ端悪魔などに敗北を喫するような鍛え方はしておりません。運がよければ逃げるくらいは出来るという心算でした」

 

 続いて中指が立った。

 

「2つめとして彼女達の力を国のものらが一定の基準で認めているというのもあります。国のものみなが認めている実力者が敗北を喫したとなれば、国の危機感を煽ることになりましょう。お恥ずかしい話ですが、かつてのカナンはともかく、現在のカナンは大分腐敗しております。ルクレツィア達が大悪を滅せればそれはそれで良し。しかし、そうでないのなら、その責をもって首をいくつか挿げ替える予定でした。そして煽った危機感を利用し、国の総力をもって大悪に戦力を傾注するつもりでした。勿論そこにはわたくしも戦力に入っております」

 

 最後に薬指。

 

「3つめですが、彼女達が皆死んだとしても、政治的な混乱は最小限で済むということです。みな平民出ですからね。国の力を搾り出すためには国内の混乱は最低限に抑えなければなりません」

 

 部屋に沈黙が流れる。

 

 そして小さい声で、わたくしを酷い女だとおもいますか、という声が聞こえた。

 

 君はかぶりを振る。たいした事はない、それくらいは普通だ、と。

 

 これは口先だけの事ではなく、君は本気でたいした事はないと思っているのだ。

 

 色々とおかしいライカードと比べるのはよくないかもしれないが、ライカードにおいてはひとたび国の危機とあらば、戦えるものは全員鉄砲玉と化す。

 

 国王は悪びれもせずに言うのだ。

 

 お前ら全員でこいつを殺してこい、と。

 

 でも道中死んだりしても国は責任を取らないよ、と。

 

 そして国のものはそれに不満を言うでもなく唯々諾々と従い死地に赴く。

 

 ライカードのものはみな常在戦場の心意気で生きているのだ。

 

 暴力国家ライカード

 戦場国家ライカード

 首狩り国家ライカード

 

 周辺諸国はライカードの探索者と聞くだけで震え上がる。

 

 侵略行為をしたりするどころか、領土拡大の欲すら一片もみせないし、なんだったら世界の危機ですら何度も救ってはいるのだが、風評被害が止まることはない。

 

 ライカードの探索者がなんだかんだいってライカードから出て行かないのは、他の地域だと恐れられ、嫌われ、遠ざけられ、非常に寂しい思いをしてしまうからだ。

 

 ライカード出身である事を隠してもうまくはいかない。

 

 魂にまで刻み込まれたライカード気質は死んだって抜けないのだ。

 

 以前、ライカード出身であることを隠し、別の地域で探索者をはじめた聖職者がいた。

 

 彼はどこに出しても恥ずかしくない善(GOOD)の者であったが、ある時所属していたパーティと街道をすすんでいたところ、飢えた農民が野盗に転じた一党と出会う。

 

 野盗達は元が農民であるため女性もいれば子供もいるし、狼藉を働かんとする理由だって食い詰めて子供に食べさせる食物すらなくなったから、という一言で悪とはいいがたいものだった。

 

 だが武器をもって目の前にたち、殺意をぶつけてくるならそれは敵なのだ。

 

 ライカード出身の聖職者は一切の呵責なく、野盗達を老若男女の1人に至るまで物言わぬ骸と化(みなごろしに)した。

 

 結局彼はパーティメンバーから恐れられ、その地域の探索者ギルドでも危険人物扱いされ、傷心のままライカードへ戻ってきたという。

 

 その事をレダに言うと、皆様勇ましくて素敵ですね、と頬を淡く赤らめていた。

 

 君は肩をすくめ、茶をすすった。

 

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