ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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閑話:ライカードの人って怖いよね

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 ライカードはその独特の死生観やその他諸々で周辺諸国から恐れられていたが、向けられる畏怖とは裏腹にそこまで危険視されているというわけではなかった。

 

 なぜならライカード王国はただの一度たりとも侵略戦争を引き起こしたことはないからだ。

 

 起こしてもおかしくない狂王はいたが、結局行動に移すことはなかったし、そんな彼もなんやかんやあって死んだりしたから問題はない。

 

 ともあれ、その風評と実態は大分乖離していた。

 

 まあそれはライカードという国が領土拡大に興味がなかったというよりは、定期的に国家解体、国土消滅、世界滅亡の危機に見舞われていたからというのが大きいのかもしれないが。

 

 実家が火事の真っ最中なのに、セカンドハウスはどこにしようかなと不動産屋を行脚する間抜けはいないだろう。

 

 だが、このただの一度も行動に移したことがない、という信用は大きい。

 

 従って周辺諸国としてはライカードはちょっと厄いけど、手出ししなければ大人しくしてるんで関わらないようにしとこ、くらいの認識であった。

 

 とはいえ人だろうと国だろうと馬鹿はいるものだ。

 

 ライカードが侵略戦争を仕掛けたことはなくても、ライカードに侵略戦争を仕掛けた国は極少数だが存在する。

 

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 今は亡きリンド王国。

 

 ライカードの西方に位置する新興の小国である。

 

 国王はまだ若く、才気に溢れ、野心も旺盛であった。

 

 もし地理的に恵まれていたならば間違いなく名君となっていただろう。

 

 リンドからみて西にパシュミラ帝国というコテコテの帝国主義国家が存在したというのは、かの小国にとっては非常な不幸に他ならなかった。

 

 帝国主義とは、一つの国家または民族が自国の利益・領土・勢力の拡大を目指して、政治的・経済的・軍事的に他国や他民族を侵略・支配・抑圧し、強大な国家をつくろうとする運動・思想・政策のことである(wikiより抜粋)

 

 リンドは小国にしては軍備を整えていたが、どうあれそれは小国としては、という枠組みを出ない。

 

 お約束通りにというか、リンドには毎日のように帝国からの圧力が加えられていた。

 

 帝国の軍事力はリンドのそれを鎧袖一触に蹴散らすものではあったが、大なり小なり戦争には金がかかる。

 

 金を出さずに口を出すだけで済むのなら、帝国にとってはそれがベストなのだ。

 

 ライカードは各地に点在する迷宮から産出する資源により、それなり以上に富んだ国であったというのが邪心を誘ったのかもしれない。

 

 あるいはリンドが新興の小国に過ぎず、ライカードについての理解が浅かったからかもしれない。

 

 ライカードに対外戦争の記録がないことがリンドの戦争の気風を煽り立てたのかもしれない。

 

 いずれにせよ一方的な宣戦布告とともに、ライカードにむけて軍が差し向けられる次第となる。

 

 リンド国王はライカードの豊富な迷宮資源を収奪し、それをもって軍事力を強化すればパシュミラ帝国の過剰な干渉に耐えうると考えたのだ。

 

 記録によればライカード王国はリンド王国の宣戦布告に対し、ただ一言のみ返答したという。

 

『国境を侵犯するのならば貴国を敵と見做す』

 

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 ライカード王国まで目と鼻の先であるサックス平野まで進軍したリンド王国3万を出迎えたのは、何重にも束ねられた『恐慌』の魔法である。

 

 この魔法は対面する敵全てを恐怖を通り越した恐慌へと陥れるというものだ。

 

 なぜ初手からもっと殺傷力のある魔法を使用しないのかといえば、距離と目視の問題がある。

 

 例えば火球を発生させて敵にぶつけるというのは、着弾に要する時間で相手に対魔法の結界なりなんなりを張られてしまったり、盾なりを構えられたりと対策を打たれてしまう。

 

 火球が目視できてしまうというのも問題だ。

 

 火の弾が飛んでくるのをみれば誰だって守りを固めようとするだろう。

 

 それが火球でなく凍気であろうと雷撃であろうと同じことだ。

 

 対してこのような精神を変調させるような魔法は目視出来ないという利点がある。

 

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 なお、なぜ『核炎』を使わないのかと思うかもしれないが、戦争時の『核炎』は禁忌である為だ。

 

『核炎』を構成する3つの攻撃呪文を全て『核炎』で構成したいわゆる三重『核炎』は、空間、ひいては大地そのものを吹き飛ばすような破壊力を秘めている。

 

 戦争時『核炎』が乱れ飛んだ場合、まかりまちがって合成されてしまったら大地が吹き飛んでしまうから絶対やめろよ、とレイ・ブ・ケルスが真顔で言っていたので戦争のときは絶対使わないのだ。

 

 レイ・ブ・ケルスはライカードの守護竜的存在で、物理も魔法もなんにも効かないのでさすがのライカードの民も逆らえない。

 

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 リンド王国軍は大混乱に陥っていた。

 

 旺盛な戦意は一瞬でなりをひとめ、屈強な殺し屋たちはまるでおびえる子犬のようではないか。

 

「ま、魔法攻撃か! 魔術部隊! 戦意高揚の加護はどうした!」

 

 戦意高揚の加護は文字通り戦意を高める効果を持つ。

 

 戦意を高めるということは恐れることなく戦えるようになるということで、指揮官がこの加護を求めたことは道理である。

 

 指揮官は怒声をあげるが、返ってくる声は言葉にならぬ呻き声や悲鳴ばかりだ。

 

 まともに話せる者が報告するも、内容ははかばかしくない。

 

「駄目です! 何かにおびえ、詠唱失敗の者多数!」

 

「ぐ、ぬ……! 辺境の野良犬共め、姑息な真似を……! 戦太鼓を打て! 打て! 乱打しろ!」

 

 戦太鼓とは別に魔法の品というわけでもないが、中々に雄々しい音色であるので、戦の場に持ち込まれ、戦意高揚のための小道具として利用する軍はそれなりにある。

 

 ──ドン、ドン、ドン

 

 勿論そんなものでは魔法により齎された恐慌は拭えない。だがライカード側の攻勢がこれで終わるわけでも当然ない。

 

 カッと閃光がひらめいたかとおもうと、リンド王国軍のあちらこちらに落雷が炸裂する。

 

「こ、今度はなんだァ!?」

 

『神の鉄槌』だ

 

 雷とは神鳴りである。

 

 翻って、雷というものは神の怒りで例えられることが多い。

 この魔法は落雷を発生させる。

 

 とはいえ、自然のものと比べると小規模ではあるが。

 

 しかしこの落雷という現象がリンド王国軍のなけなしの戦意をガリガリと削っていく。

 

 炎や凍気に比べ、雷という現象はことさらに人間を畏怖させるからだ。

 

 激しい音をかき鳴らし、光というには攻撃的に過ぎる閃光を撒き散らし、神の鉄槌は幾度も幾度もリンド王国軍を打ち据えた。

 

 完全に体勢が崩れたリンド王国軍に対し、ライカード王国軍は手を緩めない。

 

 歩兵と思しき影がまとまってわらわらと吶喊してくるではないか。

 

 リンド王国軍は迎撃しようとするも、態勢が全く整わない。

 

 ■

 

 ライカード王国軍の兵士が6人一組で飛び出し、リンド王国軍へ襲いかかる。

 

 6というのはライカードにおいては特別な数字だ。

 

 戦いの数字、力の数字、ライカード探索者の象徴たる数字。

 

 2人の魔術師から爆炎をドカドカと撃ち放たれ、怯んだリンド王国の兵士達に、疾風のような速さで前衛3名が襲い掛かる。

 

 残りの1人は回復に加護にとサポートに余念がない。

 

 速度向上、防御力向上、呪文耐性向上……多重の加護を重ね掛けされた3人組の切り込みはとうてい捌き切れるものではなく、先に放たれたライカード王国軍の魔法攻撃で体勢を崩されたリンド王国軍兵士は瞬く間にミンチとなる。

 

 これは文字通りにミンチになるのだ。

 

 リンド王国軍の兵士が1度剣を振る間に、3回も4回も切りつけてくる剣豪ばかりだったのだから。

 

 しかも、剣があたっても鉄に切りかかったがごとく弾かれてしまう。

 

 当たり前である。

 

 ライカード王国軍前衛組の平均アーマークラス……要するに防御力は-5程度。ピンからキリで-5~-8というところか。

 

 これがどれだけ堅牢かといえば、シャーマン戦車(第二次世界大戦時にアメリカ合衆国で開発・製造された中戦車)の半分から8割くらいの堅牢さだ。

 

 雑兵が剣で切りつけたところで弾かれて当然である。

 

 そんな状況がリンド王国軍全軍の各所で発生しているのだ。

 

 もはや戦意は払底しており、リンド王国軍の各所で白旗が上がった。

 

 当然だろう。

 

 両軍のキルスコアはダブルスコアどころではないほどに開いているのだから。

 

 だがライカード王国側は苛烈なまでの攻撃を仕掛け続ける。

 降伏するものも、命乞いをするものも、抵抗するものも、逃走するものも分け隔てなく血祭りに上げていった。

 

 全軍の指揮官が降伏の証を立ててこそ、初めて勝ち負けが決まる。それまでは決して油断はしない。

 

 なぜならライカード王家が滅びかけたバアル・オルクスの乱の際、ライカードはそれはもうぐっちゃぐちゃにされてしまった。

 

 しかし王家最後の1人であるエスメラルダ王女は屈さずに、ただの1人で王家復興を成し遂げ最終的にかの邪悪な魔導士は滅ぼされたではないか。

 

 諦めさえしなければチャンスはいくらでもあるのだ。

 

 従って皆殺しにするか、アタマに負けを認めさせるかするまでは決して戦いは終わったとはいえない……

 

 リンド王国は全軍撤退の銅鑼を鳴らすが、撤退は遅々として進まない。

 

 彫像、恐怖、恐慌、石化、混乱……

 

 リンド王国軍が撤退の体にはいったとみるや、ライカード王国軍側からあらゆる行動阻害魔法が雨あられと降り注がれてしまったからだ。

 

 撤退しようとするリンド王国軍は、ライカード王国軍の警戒心を著しく上昇させてしまった。

 

 相手は手強いとみれば状態異常を試みるのは当然である。

 

 逃げてるなら手強いわけないだろ、と素人は思うかもしれないが、ライカードでは逃走なんていう隙まるだし、失敗すればタコ殴りにされるような真似をするときは、相手が格下で戦うのが面倒くさすぎる時だと相場がきまってる。

 

 死地にいるときこそ戦意旺盛に戦うほうが生存率が高い……少なくともライカードでは。

 

 だからライカード王国軍は劣勢で逃走を試みるリンドの者たちに『まだなにか奥の手がある』と危機感を抱き、その奥の手をつかわせまいと行動を阻害したのだ。

 

 もうめちゃくちゃである。

 

 結局、リンド王国軍はただの一兵たりとも撤退することがかなわず、2万8千人の惨死体と2千の重傷者を出し、リンド王国によるライカード侵略戦争は大敗北の大失敗に終わったのであった。

 

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 リンド王国はその後、ライカード王国からの巨額の賠償請求などであっぷあっぷしてしまい、国力をすり減らしてかろうじて支払ったものの、結局パシュミラ帝国に併合されるという末路に終わった。

 

 ちなみにパシュミラ帝国はリンドなどとはちがって歴史のある大国であったし、長い歴史の内にライカードという国の厄さは十分学んでいたので手をだすつもりは一切なかった。

 

 戦争になればめっちゃくちゃになるのは目にみえてるし、仮に戦争に勝ってもライカードの領土ではなぜか災厄が立て続けにおこるので併合する意味もなければ価値もないのだ。

 

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