ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第2話:忌幻視

君はアヴァロン大迷宮第1層『薄暗回廊』へ降り立っていた。

 

君が今回受けた依頼は、いつも通りコボルトの自由討伐…ではなく、洞窟苔の採取だ。

 

周囲の浮遊魔力を吸収し育ったその苔は自然のものとは一味違う薬効をもたらし、探索者向けの傷薬の製作に欠かせない材料として知られている。

 

基本的に君はこういった簡単な依頼を中心に受けているが、それには理由があった。

 

やはり積み重ねだろう。

 

新入りの内はこういった地味な依頼を数多くこなし、周囲の、ひいては所属する組織の信用を得るのだ。

 

つまらない簡単な仕事でも手を抜かず、しっかりこなせる人間は信用出来る。

 

君は過去を思い返す。

 

新米だった頃、迷宮の地下1階でひたすらコウモリだかナメクジだかを焼いて、2、3匹倒したらすぐに帰還して馬小屋で強制的に眠らされて…

 

その繰り返しで実力を養っていった事を。

 

いきなり大きい仕事が出来るものなどいない。

 

まずは地道に足元から踏み固めていくべし。

 

君がなぜこうまでして信用を重ねていこうとおもっているかといえば、やはり帰還の為だ。

 

君の調査によれば、この迷宮はいまだ誰も踏破したことがないらしい。

 

最深部には封印された太古の邪神が眠るとか、願いを何でも叶えてくれる宝物があるだとか、魔界へと繋がる門が隠されているだとか…そういう根も葉もない噂を耳にした事もある。

 

君は迷宮から転移してこの世界にきた。

 

ならば迷宮から転移して元の世界へ帰る事も可能なのではないか?

 

君の経験上、迷宮の最深部にはとにかく凄い何かがあったり、凄い存在が居たりした。

 

目指すべきはまずは最深部。

 

それならば最深部を目指すために出来るだけ所属する組織からの助力を引き出すため、信用を積み重ねるという結論に至ったのはごくごく自然な流れであった。

 

それに、と君は思う。

 

君の経験から察するに、この大迷宮というモノは一筋縄ではいかないだろうという予感があった。

 

数多の魔に対峙してきた君だからこそかろうじて気付ける気配、雰囲気。

 

薄ら寒くなるような悪寒めいたもの。

 

そういったものがこの迷宮の深く深く、奥深くから漂ってきているのを君は感じていた。

 

全身くまなく腐敗した娼婦が、自らの腐敗に気付かず脚を広げ誘ってきているかのような、そしてよくみればその娼婦の体は蠢く蛆が群れを成して形づくっているかのような、そんな悍ましい何かを君は幻視する。

 

いずれにしても、と君は嘆息した。

 

この大迷宮の底によくない何かがいるのは確かだった。

 

なればこそ準備が肝要だ。

 

何が来ても対応できるようにせねばならない。

 

君がごりごりと壁にこびりついた緑の苔をそぎ落としていると、神経をゾワゾワした何かが撫で下ろす。

 

会敵の予感である。

 

戦を生業としている者たちの中の一部に、『会敵の予感』を備えているものたちがいる。

 

これは敵との遭遇が近くなると何となくそれを察知できるというものだ。

 

非常に便利なのだが、この能力の取得方法は何なのか、これはスキルなのか魔法なのか、生来の特殊能力なのか、あるいは神か悪魔の加護なのか、そういうものも何もわかっていない。

 

目線の先、薄暗い回廊の奥から現れたのは5体の小鬼の群れだった。

 

小鬼。

 

120センチ程度の矮小な体躯で、醜悪な面相をした緑色の肌の小人といった風貌の怪物だ。

 

体格に比して腕が長く力も強い。

 

個体差はあるが、概ね人間の子供ほどの知能を持ち、狡猾で残忍な性格をしている。

 

不潔な爪で引っ掛かれたり噛み付かれたり、錆びたナイフで突き刺されれば命に関わることもある。

 

彼らの面倒なところは、集団で行動するところにある。

 

常に数体で行動し、獲物を見つけると仲間を呼び寄せて取り囲む習性があるのだ。

 

新米の探索者の少なくない数が、彼らを甘く見て返り討ちに遭い殺害されている。

 

もちろん君は新米ではないので余り関係はなかった。

 

君は小鬼たちが現れても即座に攻撃にはうつらなかった。

 

攻撃にはうつらないどころか、爽やかなスマイルさえ投げかけてやる。

 

友好的な敵という事もある。

 

相手を選ばないむやみやたらな殺戮は善の者の為すべき所ではない。

 

君を見て顔を見合わせた小鬼たちは、ギャッギャと汚い笑い声をあげ、武器を構えようとした。

 

──『大凍』

 

急激に温度低下した空気が凍結し、氷の結晶…ダイヤモンドダストとなる。

 

そこへ突風が渦を巻き、猛烈な勢いで小鬼たちを飲み込んでしまった。

 

渦巻く突風により回転乱舞するダイヤモンドダストは、さながら刃の小竜巻といった風情で小鬼たちをズタズタにしてしまう。

 

逃げようとする小鬼もいたが、一度発現した魔法から身を隠す事は不可能だ。

 

耐えるか、無効化するしかない。

 

荒れ狂う氷の乱気流は小鬼達をたちまちに凍りつく肉片へとかえてしまった。

 

あっという間の出来事だった。

 

当然の結果ではある。

 

十分に練られ威力が発揮された『大凍』は、高位の悪魔でさえも一撃で葬り去るほどの威力だ。

 

だが『大凍』が使える位階の魔法使いにとって、これは切り札というよりは非常に使いやすい魔法でもあった。

 

もちろんそれより威力の控えめな低位の魔法はあるのだが、それらは大体迷宮探索に必要な魔法と同じ階位なのだ。

 

開錠の魔法や、隠された扉を暴く魔法というのがそれである。

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