ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第19話:アヴァロン大迷宮第3層【影府坑道】

 ■

 

 君達は大迷宮の第三層へと足を踏み入れた。

 

 光が差すのは入口のみ。

 

 入口へ背を向けると、そこから先はまるで坑道の様で、通路の各所に頼りない松明が掲げられている。

 

 第一層と似た様な造りではあるが、第一層は明らかに人の手が入っているのに対し、こちらは自然のそれに見える。

 

 松明の周りで時折揺らめく影にはどこと無く魔性が宿っている様にも見える。

 

「この坑道では影にご注意下さいませ。魔物が化けている場合があり、以前わたくし達はこの坑道で少々被害を出しました」

 

 ルクレツィアの忠告に君は頷いた。

 

 キャリエルは表情が強張っているが怖じ気ている様子には見えない。

 

 例の危機感知はまだ危機を告げてはいない様だ。

 

 この坑道の厄介な所はルクレツィアの言った通り影に化けた魔物である。

 

 襲われる直前まで気配を隠滅させる所が非常にいやらしい。

 

 救いである点としては、一撃で死に至らしめてくる様な攻撃手段を持たない事だろうか。

 

 君はまあよいとばかりに特に警戒する様子も見せずにどんどん先へ進んでいった。

 

 そして、横から影が伸びてくるとルクレツィア達が警告するまでもなく、裏拳の一撃で影を霧散させた。

 

 君の備える会敵の予感はあらゆる敵対的遭遇を予知する。

 

 敵性感知後にひっそりちんたら奇襲を試みようと、それはもはや奇襲足りえない。

 

 ただしこれは絶対の感覚ではなく、敵手の階梯によって感覚の網をすり抜ける事もある。

 

 だが仮に先制を許した所で君のアーマークラス(防御性能)を抜く事は中々難しいだろう。。

 

「お兄さんって魔術師じゃなかったの…?」

 

 キャリエルが目をまんまるくして問いかけてくるので君は頷いた。

 

 君の本分は魔術師で間違いない。

 

 だが君は戦士職と僧侶職もまた同時にマスタークラス所ではない階梯まで練り上げている。

 

 そして他の職業ですら軽く齧っているのだ。

 

 まあそちらの方は手慰みに過ぎないが…。

 

 こういった万能ぶりは何も君に限った話ではなかった。

 

 ライカード魔導部隊所属の散兵達は大体似た様なものだ。

 

 君に出来ない事は召喚魔法と練金魔法くらいな物だろうか。

 

 結局君達は何度かの襲撃全てをワンパンチで退ける。

 

 手応えが無さ過ぎると内心退屈し始めている君だが、そもそもが適正階梯を大幅にオーバーしているのだから当然の結果である。

 

 とはいえ、と君は思う。

 

 まだまだ大迷宮は序盤も序盤。

 

 魔が牙を剥くには些か早すぎる。

 

 次か、あるいは次の次の階層で何かしらを仕掛けてくるかもな、と君は1人ごちた。

 

 ■

 

 探索者ギルドのマスターであるサー・イェリコ・グロッケンは窓から鼻を突き出し、しきりに何かの匂いを嗅いでいた。

 

 傍目から見たらふざけているようにしか見えないが、本人は大真面目である。

 

「どうされましたかマスター・グロッケン…?」

 

 受付嬢兼秘書のハノンが心配そうに質問をする。

 彼女にはグロッケンがふざけているわけではないと分かっていたからだ。

 

 グロッケンの種族的特性が何かを知っていれば、彼の様子に不安を覚えるのは致し方ないといえよう。

 

 そう、グロッケンは死の匂いを嗅ぎ分けるゆえに…

 

 グロッケンはハノンに向き直るとその太い猪首を振った。

 

「ぶフゥ~……分かりません…しかし…腐臭…食物のそれではない……嫌な匂いが街から漂ってきています…まだ薄い…とはいえ…グゥゥ」

 

 嫌な予感、嫌な予感、嫌な予感である。

 

 グロッケンは牙をぺろりと舐め、ギロリと空を見上げた。

 

「王宮は何をしているのでしょうね…私の鼻が異変を感じ取れる程に不穏であるならば…フゥ~……あちらも何かを掴んでいる筈ですが…むゥ…ハノンさん、猟犬を出します。内容は街に何か異変が無いかを調査。そして…王宮周りも洗うように、と」

 

 猟犬。

 

 それはギルド専属の上級斥候からなる調査部隊だ。

 

 斥候と名づけられてはいるが、その本質は暗殺者に近しい。

 

 ライカード式に言えば忍者部隊といえば良いだろうか。

 

 ごくりとハノンが生唾を飲みこんだ。

 

 事態は彼女が思うより遥かに剣呑だと知ったからだ。

 

 ──彼と少し話がしたい所です…今は迷宮探索中ですか……

 

 ハノンの脳裏に浮かぶのは君であった。

 

 得たいの知れない男。

 

 暫く前に探索者登録をした魔術師。

 

 ちょっかいを掛ければ火傷では済まない危険な男。

 

 事実として、彼を前にして剣を抜いた探索者はもうこの世に居ない。

 

 優れた探索者とは強くなければならない。

 

 強いという事は危険であると言う事だ。

 

 そしてハノンが知る限り、君程に危険な気配を醸し出す探索者を他には知らない。

 

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