◆
「お前達は何者だ」とか「なぜ探索者を襲う」だとか。
君は──いや、ライカードの探索者はそういう無駄な質問を一切しない。そんなものは相手を皆殺しにしてからすればいいことである。
全員殺す。然る後に、一人ずつ『生命』の魔法で蘇生していけばいい。
蘇生に成功しても、対象は這いずる事すら出来ないほどに消耗している。反撃を受ける心配もない。
まあ失敗しやすいというデメリットはある。一度失敗すれば灰と化し、もう一度失敗すればその存在は消失する。それが最悪の状態異常、消滅だ。余程の事態でもなければ味方に使うべき呪文ではない。
だが君は楽観的だった。恐らく何人か灰になるだろうが、五人もいれば一人くらいは成功するだろう。そんな事を思っている。
・
・
・
君は『転移』の後、すかさず『彫像』を放った。範囲は君の眼前の賊、数は五人。賊の足元には男の死体が二体と女の死体が一体あったが、検分は後だ。
『彫像』は特殊な呪文である。呪文が成功すれば、相手は動けなくなる。ただしこれは麻痺や恐怖といった状態異常ではない。しいていうのなら強張らせるという感じだろうか。びくりとさせる。深く、長く。従って状態異常の耐性では防げないのだ。
これを防ぐには魔法そのものへ抵抗しなければならない。だが、君の魔法に抵抗するというのは困難を極めるだろう。何百何千何万という高位悪魔の屍を積み上げることで感得した魔法貫通の妙技は、並大抵の護りを容易に貫く。
パリンという甲高い破砕音が四つ同時に響き、賊のうち四名がたちまちに動きを強張らせた。
どうやら一人は抵抗に成功したようだ。みれば賊共の中心にたっていた者が、二匹の蛇が絡み合う鈍い錆び色のメダリオンを掲げている。
「ぐっ……! 何者ですか! ですがこのアミュレットの護りは破れませんよ!」
声を聞く限りでは女のものだった。だが君にとって、敵が男であるか女であるかは関係がない。
君は賊のセリフが言い終わる前に、その懐へ入り込んでいた。
──『鉄身』
そして「破れませんよ」の「よ」の時点で、拳を賊の腹部へ叩き込む。
インパクトの瞬間、鉄身の呪文により君の総身が鉄塊と化した。強力な魔法無効化能力があるにせよ、それはあくまで賊に及ぼす範囲に限る。君が君に魔法をかけるのならば支障はない。
君の身長と体重は170センチ、60キロといった所だ。つまり君の体積は57Lといったところであり、これに対し鉄の比重である7.85を掛けると……大体、君のサイズの鉄の塊は477キロといった感じになる。
そしてこれが肝心なのだが、拳闘技術の一つに、インパクトの際に全身と全関節を完全に硬直させ、その重量をそのまま打撃へ伝導するというものがある。
『金剛体』とよばれるそれは、非常に難易度の高い技術であった。関節を固定する、全身を硬直させる、というのは一言でいえば簡単だが、戦闘中に意識してそれを行うのは難しい。なぜならこの技はその性質上、打ち終わりの隙が極大であるためだ。技が完成するほどに全身を硬直させれば、再び動き出すのに時間がかかってしまう。
だがライカード魔導部隊きっての武闘派であるとあるニンジャ・マスターは、その弱点を『鉄身』の変則利用で解決した。
『鉄身』は全身を鋼鉄と化して防御能力を高める魔法だが、それでも攻撃を受ければ傷つく。通常の利用では鋼鉄と化すといっても言葉だけのことで、実際は皮膚を硬化させるにすぎないからだ。本来の効果である完全な鋼鉄化をやってしまえば、今度は身動きが取れなくなる。使い物にならない。
件のニンジャ・マスターは、そこへ金剛体を組み合わせた。殴った瞬間にだけ全身を完全鋼鉄化させる。威力は跳ね上がり、超硬質化した体が打ち終わりの隙をそのまま防御へ変える。使い物にならないはずの欠陥が、そっくり利点に化けたわけだ。
このミキシングにより生み出される破壊力は、賊の女の腹部へ477キロの鉄球が高速で衝突したそれに等しい。しかもただ衝突したわけではない。打撃力が内で拡散するように
その結果はご想像の通りである。
綺麗な花が咲いた。
◆
探索者ギルドで尋問を受けている間、賊の一人は自分が生きている事を神に感謝していた。
(司祭様は気の毒だが……)
目を瞑るとアレが見えてしまう。頭から消えてくれない。
優しかった司祭様、美しかった司祭様。弾けて赤い何かへ変わってしまった。下半身が地面に倒れたべちゃりという音が耳から離れない。司祭様の体の中の肉が、やけに誘うようで……
「アグァァァアァアアア」
不意に恐ろしくなって頭をかきむしる。
遠くで声が聞こえる。
「やれやれ、またか。おい、ジム、尋問は暫く休憩するぞ」
「ああ、それにしてもあの兄さん、一体何を……」