ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第39話:魔騎士③(終)

 ◆

 

 君の国でその魔法は天の怒りと呼ばれている。

 

 魔術師系の魔法全七階梯中、第五位に属する極めて強力な雷撃の魔法だ。

 

 電気という散りやすいエネルギーに収束性と方向性を与えて放つそれは、自然界の雷の威力を遙かに超える電圧と電流を以て魔騎士を蹂躙した。

 

 しかし雷撃の槍で貫くだけでは終わらない。

 

 君は両掌をやや離し、その間から魔騎士を覗く恰好で魔法を維持し続けている。

 

 精密無比な魔力操作で雷撃のエネルギーを球状に加工し、その中に魔騎士を閉じ込め──

 

 ──ラー・ダンメシール・カムシーン

 

 重ねられる追加詠唱。

 

 これにより完成するのは君の本来の世界にもないオリジナル・スペルである。

 

 ──『神鳴る怒号、灼然と響き、巡り、包囲せよ』

 

 君が呟くと、雷球に滞留していたエネルギーが()()と向かって収束していく。

 

 雷球内のエネルギーが急激に圧縮され、完全な真空状態が一瞬だけ発生した。

 

 雷が球の中心に凝縮し、空気すら存在しない空間を作り出した後、その内圧は一気に爆発的な放電現象へと転じる。

 

 威力は絶大に過ぎた。

 

 数万度の超々高温は金属の瞬間的な蒸発を引き起こし、人間の肉体やなどは一瞬で焼き尽くされ、蒸発するのに十分な威力を持つ。

 

 それどころか超高温と共に強力な電磁放射やプラズマの嵐も発生して、通常ならば瞬時に周囲の物質を分解してしまうが、そこは魔力により制御されて力が内側へ向かうようになっている。

 

 結果として何が起こるかと言えば──

 

 ・

 ・

 

「いなくなっちゃった……」

 

 キャリエルが呆然と呟く。

 

 彼女の言う通り、魔騎士は()()()()()()()()

 

 逃走したのではない。

 

 消滅ともまた違うのかもしれない。

 

 凄まじい光熱で蒸発したのだ──地面にはただ影だけが()()()()()いる。

 

 ルクレツィアとモーブは声もない。

 

 職務上、死戦、死闘の経験はある。

 

 しかし、彼らが経験した如何なる死線や死闘でも、このような凄まじい魔法、あるいは現象は見た事はなかった。

 

 ──主様の魔法を私は知らない。私は最初、それを私の知らない異なる魔法体系のものだからだと思っていましたが本当は違うのかもしれない。このお方は私たちとは何かが根本的に異なっている。まるで、違う世界の住人であるかの様に

 

 ルクレツィアの考察は当たっている。

 

 ただ、君はその違う世界でもそれなりに()()方だ。

 

 あらゆる魔術師系魔法と僧侶系魔法を操り、近接戦闘も非常に高い水準でこなし、万全の備えを以て闘争に臨む君の称号はそう──"全能者(エルシャダイ)"。

 

 魔法の加工と工夫にかけて、右に出る者はいない。

 

 ◆

 

 戦闘後の余韻も冷めやらぬ中、君は人差し指と親指で喉仏をぐりぐりと動かし、ルクレツィアの治癒が完璧である事に感心した。

 

 あの状況下で完璧な治癒を施せるというのは素晴らしいとべた褒めする。

 

「い、いえ、嬉しくおもいますがしかし、主様ならば私以上の治癒も出来ると思うのですが……それに、主様は剣術も達者でありますし、肉体も頑健です。あの程度の負傷ならば、主様にとって障害になるか疑問なのですが……」

 

 ルクレツィアは最後の方になるともはや自分でも何を言っているのか分かっていなかった。

 

 喉を裂かれるのは大変な事である。

 

 魔法詠唱者にとっては首を斬られるのと大差ない。

 

 だからこそルクレツィアは顔色を変えて治癒の魔法を使ったのだが、君から褒められた事で知能が低下し、謙遜しようとして失敗した結果がこれである。

 

 君は呆れながら、少し考え──

 

「えぇッ!? 私とモーブがですか? いえ、私たちは上司と部下という関係であって、当然お互いに尊敬はしていますが男女の関係にはありません。え? はあ、恋人などもおりませんがそれが一体……え!? だ、抱きしめッ!? そ、その、いえ、嫌ではありませんが……嬉しいですが、なぜ……」

 

 君は諸々の確認を取り、ルクレツィアを抱きしめた。

 

 キャリエルが黄色い声を出し、モーブは律義に後ろを向いている。

 

 ルクレツィアは声もない……そして抱きしめられたまま数秒が経ち、ようやく君が口を開いた。

 

 それはいくつかの問いかけである。

 

「は、はい、心臓の鼓動が聴こえます……それに、温かい……」

 

 ルクレツィアはそれらの問いに一つ一つ答えるが、やはり君の意図がわからない。

 

 そんな彼女に、君は言った。

 

 自分とて人間なのだ、と。

 

 腕にかき抱けば熱を持ち、斬られれば血が流れ、場合によっては死ぬ──そんなれっきとした人間なのだと主張した。

 

 だから命を救われ、感謝しているとも。

 

 これは君のまごうことなき本心である。

 

 まあ、ルクレツィアの気持ちを理解した上で、より力を振り絞ってくれる事を期待してこの様な真似をしているというのもあるが。

 

 絆が肝要なのだと君は改めて強く主張した。

 

 そして、絆は概念的なものではなく、実際に大きな力となる事も。

 

 三人の視線が君に集中する。

 

 その視線には君に対する畏敬の念以上に、力への希求が強く込められていた。

 

 君はそれを敏感に感じ取り、今ならば、と秘奥の一つを明かす事にする。

 

 秘奥とは、絆を力と成す集団連携戦術である。

 

 勿論君が引っ張りだしてくる以上、これは単純な連携ではない……

 

 

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