ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第40話:地獄道②

 ◆

 

 王国宰相ジャハム、近衛騎士団長ベルンハルトらが率いる王国の精兵は、ついに迷宮第8層の最深部へと辿り着いた。

 

 そこに何が待ち受けているのかと身構えていたジャハムらだったが──

 

「何も……ない?」

 

 ベルンハルトが怪訝そうな様子で呟いた。

 

 そこは少し広めの玄室だった。

 

 生き物の体内、その内壁にも似た不気味な様相の壁に囲まれている。

 

 だがそれだけだ。

 

「周囲を警戒せよ」

 

 ベルンハルトは近衛騎士たちにそう告げ、ジャハムの元へ駆け寄った。

 

「どう思いますか?」

 

 尋ねるがジャハムは応えない。

 

 しかし鋭い視線で周囲を見回し、次いで下方……床を睨み据えた。

 

「魔力にも似た力の流れが更に下層へと流れ込んでおる」

 

「と、なれば第7層の様に転送門や、あるいは隠し扉があるのでしょうか」

 

 ベルンハルトは()()()()()()()()()()()()()の事を指摘した。

 

「そうじゃな、恐らくは」

 

「ならば探させましょう。聞いていたな! 二人一組となって周辺を調査せよ。しかし戦闘はよくよく相手を見極め、周囲に散開している味方と連携して行え!」

 

 少人数の戦闘は危険だが、近衛騎士たちの個々の戦闘能力は上級冒険者たちのそれを凌ぐ。

 

 第8層に跋扈する悪魔も、群れを成したりしなければ十分に優勢に戦えるのだ。

 

 だがジャハムはそれを制止した。

 

「待て。闇雲に調査をしても被害が増えるだけ。儂が大まかに場所を特定しよう。この階層全域に薄く広く、儂の魔力を流す。だがこれはそれなりに消耗が強いられる。仮に戦闘があれば、ベルンハルト、お主らが対応するのじゃ。ここより下層、何が待ち受けているか分からぬからな、魔力に余裕を持たせておきたい」

 

「問題ありませぬ。我が隊は精強。ジャハム殿の手を煩わせる事はないでしょう」

 

 ベルンハルトは自信ありげに答えた。

 

 その態度も当然だ、ベルンハルトは王国最強の騎士として名高い。

 

 剣技に優れるばかりか、カナン神聖国の高位神官にも引けを取らない神聖術の使い手でもある。

 

 "多少部位欠損があったとしても高位の神聖術で治癒しながら強引に攻め込む" というシンプルな戦闘スタイルは単純に強力で、これまでに多くの強敵を葬り去ってきた。

 

「うむ、頼もしい男よ。お主らがいればこの災難も切り抜けられるであろうて。儂の弟子たちも上手く使え」

 

 そう言ってジャハムは数名の魔術師に近衛騎士たちに協力するよう申し付けた。

 

 そして数十分後──

 

 ◆

 

「……うむ、大分魔力を消耗してしまったが、概ね分かったぞ。ここより北西に魔力の淀みの様なものを感じられる。そちらへと行ってみよう」

 

 ジャハムが言うと、ベルンハルトは頷いて隊に指示を飛ばす。

 

「しかし流石ですな、消耗するとのことですが息も乱れぬご様子で。アーク・ウィザードの称号は伊達ではないという事ですな。実に頼もしい」

 

「ほう、儂の魔力の多寡を察知するか。流石は近衛騎士団長、この王国最強と謳われるだけはある。やはりお主は強いな──強すぎる。 "勇者" と呼ばれるだけはあるの」

 

 オルセイン王国に於いて "勇者" とは魔王を打倒する伝説的な存在ではなく、 "王国を害する大悪に立ち向かう勇ましき存在" という意味の一種の称号である。

 

 ただ、名ばかりの称号というだけではなく、文字通り王国最強の武人に送られる。

 

 剣技に優れ、魔術にも優れる "勇者" ベルンハルト。

 

 しかし剣にも魔にも依らない感覚には優れてはいなかった。

 

 ジャハムが賞賛の言葉を口にする際の、その両眼の奥に淀む薄暗い何かにベルンハルトが気付いていたならば──

 

 "勇者"は魔騎士へと堕ちずに済んだのかもしれない。

 

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