ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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第45話:連携攻撃②

 ◆

 

 渦巻く闇の中で、石棺の蓋がギィと音を立てて開いた。

 

 その瞬間、君の全身に嫌な圧迫感が走る。

 

 浮遊する棺の中から姿を現したのは、白い薄衣を羽織った異形の女。

 

 まるで体表に直接布を貼り付けたかのように見え、顔のあるべき場所には眼も鼻も口も存在しない。

 

 代わりに、黄色い宝玉のようなものが大きく埋め込まれていた。

 

 胴体にも、同じ様な宝玉が埋まっている。

 

 それは不気味という言葉では到底言い尽くせないほどに、禍々しい輝きを放っていた。

 

「……あれ、何……?」

 

 キャリエルが掠れた声で呟き、僅かに後退った。

 

 君は視線はその異形から一切外さない。

 

 脳裏にはライカードで叩き込まれた経験則が駆け巡る。

 

 ()()()()()()()は大抵の場合、初撃が要注意だ。

 

 強烈な魔術を叩き込まれる恐れがある。

 

 だからこそ、君は迷うことなく呪文を放つ。

 

「静寂」の呪文を三重に重ね、相手へ向けて一気に展開させた。

 

 同時に、"空膜" を三重に、君を含む仲間たちの周囲へ膜を張る。

 

 効くかどうかは知った事ではなかった。

 

 呪文詠唱者が敵であり、更に一撃で殺し切る事が出来ない場合、とりあえず "静寂" を放っておくというのは、ライカードの冒険者にとっては息を吸った後は吐くのと同じくらい常識的なことである。

 

 だが空膜の方は君の勘である。

 

 この魔法は空気の膜を操り飛び道具を叩き落とす(防御力をアップ!)──というものなのだが、空気の膜を操るがゆえの副次的な効果もある。

 

 それが今この場で必要あるかないかといえば君にも定かではないのだが、君は自身の勘に従ってこの魔法を選んだ。

 

 そして──

 

 ◆

 

 君は背後に無音の爆風が発生したかのような勢いで飛び出した。

 

 ライカードの冒険者が本気で戦う時は様子見などという(アマ)な事はしない。

 

 初手から問答無用の必殺を敢行する。

 

 まあそれで返り討ちにあって死んでいく冒険者もウンザリするほどいるのだが。

 

 ともかくも君は今、人の形をした破壊的エネルギーといっても過言ではない。

 

 疾駆の最中、右手には剣を持ち、構え。

 

 左手では魔法を構築していく。

 

 そして1秒の百分の一ほどの時間で彼我の距離を駆け抜け、突撃と斬撃を同時に繰り出すような荒々しい一撃を見舞い──そして、真っ二つに切り裂かれた……様に見えた。

 

 少なくとも重傷であることは間違いない。

 

 ──が。

 

 "完治" の光が君の体を覆い、君は死にかけたその次の瞬間に全快した。

 

 ・

 ・

 ・

 

 摩擦というものが存在しないかの様に、後方へ滑る様に移動する業は "浮遊" の応用である。

 

 仲間たちの元へと戻った君は、敵の種は "反射" だと告げた。

 

「は、はんしゃ……え、あの、そ、それはともかく! お、お兄さん!? い、今……きゃっ!?」

 

「そ、そうです!! さっき、その真っ二つに──ッ!!?? 痛ッ!」

 

 狼狽するキャリエルとルクレツィアの頬を軽く引っ叩き、戦いに集中しろと注意をする。

 

 まあ二人が困惑するのも当然だが。

 

 しかし君がいきなりこんな真似をしたのは、単に自身の役割に忠実だったからでしかない。

 

 君はこのパーティに於ける前衛で、前衛とは時に命をベットして相手の情報を得なければならない事もある。

 

 物理攻撃を選択したのは、魔法だと場合によってはそれで全滅もあり得るからだ。

 

 それに、呪文詠唱者というのは原則的に物理攻撃を弱点とする者が多く、仮にあの一撃で決められればそれはそれでよしとも思っていた。

 

「は、はい……気を抜いていました。申し訳ありません……ただ、反射ですか……」

 

 恐らくは、と君は答える。

 

 君はかつて、魔法を反射してくる敵と戦った事がある。

 

 東方の戦士で、ゆったりとした衣服を纏った女魔術師だ。

 

 彼女らの特異な技能として、魔法を完全に反射するという恐るべきものがあり、君も当時の仲間も何度かそれで死んでしまった。

 

 だから魔法を反射できる敵がいるのなら物理攻撃を反射する敵が居ても、それはまあおかしくはないと君は考えている。

 

 ただ、そういった敵にはついぞまみえなかったが──ここへきて、初対面を果たしたのだった。

 

 ◆

 

 ──『うふ、うふ』

 

 君たちの──といっても、主にルクレツィアとキャリエルの──狼狽が面白いのか、眼前の女めいたモノは嘲笑った。

 

 音律が狂ったような奇妙な笑い声だ。

 

 それを聴いて、ルクレツィアが大きく目を見開く。

 

「こ、この声です! この声、を、私たちは……き、聴いて……」

 

 あれ? とルクレツィアはモーブと目を合わせる。

 

 ()()()の様に、ひたすら精神が淀み、落ち込んでいくような感じがしない。

 

 絶望感に心を犯され、穢され、少しずつ自分という存在が希薄になっていくような感じがしない。

 

 それもそのはずである、音響攻撃対策は既に施されているのだから。

 

 数万、いや、数十万、いやさ、数百万という魔のモノを屠り去ってきた君には理解(わか)るのだ。

 

 この手の闇の化け物がどういう手を使ってくるかなど。

 

 魔力が込められた邪悪な "囁き" で心を乱すなど余りにもスタンダード──常套手段である。

 

 喪心しない君たちを見て警戒を強めたか、笑い声は止まる。

 

 そしてゆっくりと大きく腕を広げ、泣き叫ぶ様な絶叫をあげた。

 

 ・

 ・

 ・

 

「法皇レダより聞いた事があります……」

 

 ルクレツィアが声を震わせる。

 

「大悪に使えし二邪在り。二邪在る限り、魔はとめどなく溢れ、やがて大地を覆いつくす……。魔を孕むは暗黒の大母ジャーヒル、そして魔に堕とすは──」

 

 ──深淵の聖母シェディム

 

 ◆

 

 良かった、実に簡単な話だ、と君は喜ぶ。

 

 君もそれなりに場数を踏んできたわけで、その経験上戦いとはより強いものが勝つとは限らない事を知っていた。

 

 特に人間同士の戦いがそうだ、どちらが正義ともどちらが悪ともいえない複雑な様相を呈する事がままある。

 

 ライカードの人間はそういう戦いは好まない。

 

 ライカードの者たちは「殺して、ハイ勝利!」という戦いをもっとも得意とする野蛮人なのだ。

 

 要するに敵は三体いて、そのうちの一体がコイツで──であるならば、まずはこいつの首を取ってやろう、実に単純な話ではないか──そう君はルクレツィアらを鼓舞する。

 

 そんな君の蛮族めいたスタンスが功を奏したか、ルクレツィアたちもやや苦笑して怯えを見せなくなっていた。

 

「でもさ、お兄さん。あの敵も結局お兄さんがたおしちゃうんじゃないの」

 

 パーティの中で一番雑魚なくせにどこか一端めいた口を叩くキャリエルの言葉を、君は首を振って否定した。

 

 自身の力を以てしても、反射のカラクリをとかないことには勝ち目がない──そう君は言う。

 

 それに、相性もあまりよいとは言えなかった。

 

 剣魔両道をいく君だが、弱点がないこともない。

 

 それは継戦能力の低さだ。

 

 どんな魔法であっても、どれほど低位の魔法であっても9回までしか使えないというのは魔術、体術、剣術の総合戦闘技を操る君にとっては大きな疵である。

 

 だのに、眼前のシェディムときたら──

 

「な、なんですの!?」

 

 ルクレツィアが驚愕の声を発した。

 

 シェディムの背後の空間がうねり、歪んでいく。

 

 召喚だ、と君はルクレツィアに言った。

 

「召喚……一体、何を」

 

 言いかけたルクレツィアは絶句する。

 

 ねじれた空間から姿を見せたのは、禍々しい姿をした何匹もの悪魔たちであった。

 

「高位悪魔ッ……文献でしか見た事がありませんわ……!」

 

 都合よく合いの手を入れてくれるルクレツィアをおいて、君は一発ブチかましたいなと思うが──それはできない。

 

 仮に例のあの魔法を反射されてしまったら、君たちは一発でお陀仏だからである。

 

 仕方ないとばかりに、君はルクレツィアの首根っこを掴んで唇を重ねた。

 

 ──俺を感じろ

 

 耳元でそう囁かれたルクレツィアは、狂喜と狂悦で失禁しそうになったが、同時に君のことが()()()()()()

 

 いままでに用いた事がない魔力の使い方、そしてその結果何が出来るかを、頭ではなく心で理解したのだ。

 

 先だって、これはただの連携攻撃じゃない、と君が言った理由がルクレツィアにはよく分かった。

 

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