ダンジョン仕草   作:埴輪庭

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閑話:囁く者達

  ◆

 

 この世に生きるもの皆すべて、決まった姿形というものがある。犬ならば犬の姿、猫ならば猫、人ならば人、エルフならエルフ、ドワーフなら、ホビットなら……というように。

 

 こういった形は、滅多な事でもない限り大きく変わる事はない。要するに「人の姿をしているのに翌日から猫の姿」になるということはない、ということだ。

 

 まあ厳密に言えば虫であったり魚類であったり、成長の過程で姿形が変貌する生物もいるにはいる。だがそれにしたところで、そう何度も何度も変貌したりはしないだろう。

 

 ところで、歴史を紐解けば大災厄とよばれる程に多くの犠牲者がうまれた時代がいくつか伺える。そしてその災厄について、人々の死について調べていけば、『それ』の影が見え隠れする事に気付くだろう。

 

 見た目は生白くぬらっとした卑小なヒルだ。

 

 小さい。余りにも小さいヒル。

 

 しかしこれは見た目通りの存在ではない。見た目はヒルだが、その実は次元間の行き来を可能とする一種の生体ゲートである。

 

 だが、一匹だけでは要を為さない。ある次元からある次元へゲートを開くためのエネルギーを発生させるには、それこそ膨大な数の『それ』が必要となる。

 

 だから『それ』の目的は増えることだ。多く、多く、限りなく多く増えることだ。

 

 そして生物が増えるためには、いくつか手段がある。『それ』がとった手段は、寄生であった。

 

 どういう増え方をするにせよ、必要なものはエネルギーだ。人間の女性が出産したときあれほど酷く憔悴しているのは、赤子を腹で育てるためのエネルギー、それらを産み落とすためのエネルギーが必要だからである。

 

 増えるためには力がいる。増えるだけでもだめだ。赤子は弱い。ある程度の力を備えるまで守ってくれるものが必要だ。

 

 だから『それ』は寄生を選んだ。寄生をすれば宿主からエネルギーを搾取でき、また宿主が生きようとするかぎり、その行為は『それ』を守ることにも繋がる。

 

 そしてエネルギーとは、何も栄養だとかに限った話ではない。いわば生の力そのものである。喜怒哀楽といった感情……激しければ激しいほどよい。

 

 これらをより効率的に得るために、『それ』は寄生先を『改善』していく。より目的を達するのに適した意思へ、姿へ。

 

 最初は恐怖を無くし、哀しみを無くす。そうすることで寄生主は『それ』の囁きを天啓かなにかだと受止めるだろう。言うことを聞くだろう。当たり前だ、『それ』の声に従っていれば辛いことが露と消えさるのだから。声を聞くたびに大きな喜びに満たされていくのだから。

 

 だがその喜びや楽しさは、『それ』が増えるための餌でしかない。

 

 一定の限度を超えると、寄生主の中で『それ』が増える。

 

 増えて、増えて、増えて。

 

 最後には破裂するのだ。寄生主の体ごと。

 

 ぱぁん、と。

 

 破裂にいたるまでに、寄生主は正気を取り戻すだろう。そして自分を「こんなふう」にした存在に怒りを抱き、元には戻れないと哀しみ、やがて恐怖するだろう。そこで生み出されたエネルギーは『それ』を爆発的に増加させ、その数から発せられる力は、生体ゲートとしての機能を十二分に発揮させることができるだろう。

 

 そうしてゲートが開く。

 

 開けば、やってくるのだ。

 

 『囁く者』が。

 

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