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よかったら一緒にどう?──女は言うなり、返事を待たずに酒を注文してしまうと、君の分と自分の分を注ぎ分ける。君が何かを言おうとする間もなくグラスを握らされ、乾杯を催促するように彼女のグラスが軽く当てられた。仕方なしに応じてやると、彼女は満足そうな笑みを浮かべる。
「おかえりなさい。ルクやモーブさんもお兄さんが酒場にいるって知ってたら絶対来てたよ。私だってたまたまここでお兄さんを見つけたんだからね」
グラスを傾け、女──キャリエルは一口飲んだ。
君はその横顔をじっと見つめる。
「なぁに? そんなに見つめられるとお姉さん困っちゃうな~……なんてね」
キャリエルは君を見て、にこりと微笑む。
『冒険者、三日会わざれば刮目して見よ』という格言がある。これは、日々努力や鍛錬を重ねている人は、たった三日であっても別人のように成長しているため、次に会うときは侮らずにしっかりと見極めるべき──という意味なのだが、まさにその格言通りであった。
初めて逢った頃のキャリエルは、君が小指で弾けばぶち殺せるほどの雑魚であった。そして最後に見たキャリエルは、君がそれなりに殺す算段を立てる必要のある面倒くさい雑魚であった。
しかし今はどうだ。
まだまだ君と殺し合いが出来るほどではないが、無傷で、一方的に嬲り殺すのは不可能と断言できる程度の
「まあ私も──私たちも、何年もここで死んだり生き返ったりしたから」
心でも読まれたのか、目の色でも読まれたのか、大分熟達した様子のキャリエルに、君は気の利いた事も言えずに頷き返した。
「お兄さんの姿だけがなくってさ。でも死んじゃったとは思わなかった。何となく、生きてるってわかったから。ルクもモーブさんも私と同じように、お兄さんがいつかこうして帰ってきてくれるって信じてたよ」
そうか、と君は返す。
「お兄さんは──」
キャリエルが言い切る前に、君は覚えている限りのことを伝えた。何となく、彼女が何を言いたいかが分かったのだ。
「……そっかぁ……じゃあこうしてもう一度逢えたのは結構ラッキーだったって事なのかな?」
運も実力のうちだと君は答える。
「ええ~? でもお兄さんが運がよかったらさ、そもそも違う世界になんて飛ばされたりしないじゃん」
キャリエルの浅はかな言葉に君は鼻で笑う。多少実力がついたとはいえ、所詮は新米の域を出ないようだと小馬鹿にすると、キャリエルは酔った勢いもあってか、ムームーと剛毛大羊──ライカードの初級冒険者向けの迷宮に出てくる大きい羊──の鳴き声のような不満の声をあげた。
しかし実際そうなのだ。
運が無ければ君はここまで階梯を積み上げる道中
そして何より、
君は運が良い。
だから転移し、だからキャリエルやルクレツィア、モーブらと出逢えた。
君がそう言うと、キャリエルは暫時君の顔を凝視した。とろんとした目、頬はやや赤らんでいる。ライカード・エールはことさら酒精が強い。そのせいかもしれない。
「ふ、ふーん……そっか……。うん、まあ、もうわかった! 飲もう! と、とにかく飲もう! 私の奢りだよ!」
キャリエルは君の背中をバンと叩くと、お代わりを注文する。そして君は彼女に促されるまま、夜遅くまで彼女と飲んでいた。
夜が更けていく。
そうして朝になり、また夜が訪れ──これから何度も何度もこうしてグラスを傾ける日々が続くのだろう。
口さがない者たちはライカードを迷宮に囚われた者たちの無間地獄と呼ぶ。
しかし冒険者たちはそんな妄言を鼻で笑う。
彼らは心の底から生と死を堪能し、しゃぶりつくし、愉しんでいるからだ。死にかけては地の底へ潜り、宝を漁り、また死にかけ、襤褸屑のようになっては酒場を訪れて酒を酌み交わし──
『ライカード、ああ我が故郷。
愛する我が国に賞賛あれ』
と、由緒正しい冒険者仕草でその日の生を祝うのだ。
ライカードの者なら誰だってそうする。
君だってそうする──
(了)
丸四年かかりましたが、完結です。
まあ、閑話みたいな形で時折投稿するかもしれませんが、本編は終了です。
ありがとうございました。