機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……ねえ、これ本当にテストなの? 公開処刑の間違いじゃない?」
フォン・ブラウン市の外縁に位置するアナハイム・エレクトロニクス(AE)の第17試験場。コントロール・ブースの冷たいモニターを見つめながら、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、震えそうになる指先をキーボードに叩きつけていた。
宇宙世紀0112年06月。
第2事業部(2事)の存続を賭けた、RX-F91……シルエットガンダムの最終限界性能試験が始まった。
モニタの向こう側、月面の荒野を切り裂くように駆けるシルエットガンダムの姿は、神々しいまでに美しい。だが、あたしの手元のコンソールが吐き出す数値は、破滅へのカウントダウンにしか見えなかった。
「アイリスさん、左脚部のアクチュエーターが熱臨界を突破! 冷却システムが追いつきません!」
カール・シュトレーム(カール)が悲鳴のような声を上げる。
「わかってる! バイパス回路を強制開放して。マクシミリアン製作所の特注パーツなら、あと10%は耐えられるはずよ!」
アルバート・エルマ(専務)が突きつけてきた条件は、あまりにも非道だった。軍の査察官を納得させるために、すべての安全リミッターを解除し、サナリィ(S.N.R.I.)のF91と同等の機動スコアを叩き出せというのだ。
盗んだ設計図に、無理やり詰め込んだAEの旧式パーツ。
その歪みが、今、悲鳴となって機体全体を襲っている。
「トキオ・ランドール(トキオ)君、聞こえる!? これ以上の加速は無理よ。フレームが持たない。今すぐスロットルを戻して!」
通信モニタに映るトキオの顔は、猛烈なGによって歪んでいた。
「……断る。今ここで引けば、2事は終わるんだろ」
「バカ言わないで! あんたが死んだら、2事が残っても意味がないわよ!」
あたしの叫びに、トキオが一瞬、薄く笑った。
「アイリス。……お前が作ったこの機体、たしかに嘘ばっかりだ。だがな、コックピットに伝わってくるこの不器用な振動だけは、本物だぜ。お前やカールや、あの偏屈なジジイたちの『意地』が、背中を押してくれてる」
「トキオ……」
「限界を超えろって言ったのは、AEの上層部だろ? なら、見せてやろうぜ。お前たちが泥にまみれて作り上げた、この『最高に醜いガンダム』の真価をな!」
トキオがスロットルをさらに押し込んだ。
シルエットガンダムの背部スラスターから、青白い炎が爆発的に噴き出す。
モニタ上のスコアが跳ね上がった。サナリィのF90が記録した最高機動数値を、コンマ数秒、確実に上回った。
だが、その代償はすぐに訪れた。
「警告(ワーニング)! MCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)に過負荷! 装甲材の電子エッチングが焼き切れます!」
カールが叫ぶ。MCAは、装甲に回路を埋め込むことで空間を節約する技術だが、あたしたちが無理に実装したそれは、高熱に弱かった。
「……あたしがやる。トキオ、機体の制御OSを『マニュアル14』に切り替えて! 演算をあたしのコンソールに同期させて!」
あたしは狂ったようにキーを叩いた。
機体にかかる負荷をリアルタイムで解析し、焼き切れそうな回路をミリ秒単位で切り替えていく。
設計者であるあたしの指先が、コックピットにいるトキオの感覚と、電子の海を通じて繋がっていく。
「……見えた」
トキオの声が、あたしの脳内に直接響いたような気がした。
「ああ、あたしも見える。この子の、泣き所(ウィークポイント)が……!」
あたしたちは、モニター越しに一つになった。
あたしが回路を繋ぎ、トキオが機体をねじる。
機体が悲鳴を上げるたび、あたしはプログラムを書き換えてその痛みを逃がす。
それは、設計図上の「理論」を超えた、現場でしか生まれ得ない「信頼」の形だった。
試験終了。
シルエットガンダムは、満身創痍で試験場の中央に膝をついた。
装甲のあちこちから白煙が上がり、焦げた匂いが通信越しに伝わってくるかのようだった。
「……スコア、クリアです。軍の査察官たち、言葉も出てません」
カールが呆然と呟く。
あたしは、力なくコンソールに突っ伏した。
全身から汗が噴き出し、指先は震えて止まらない。
「アイリス……。生きてるか?」
トキオの声が、今までで一番優しく聞こえた。
「……死ぬかと思った。あんた、本当に最低のパイロットね」
「ああ。最高の設計者のおかげでな」
あたしは顔を上げ、ボロボロになったシルエットガンダムを見つめた。
サナリィを越えるための数字は手に入れた。2事の寿命も繋がった。
でも、あたしの胸に残ったのは、勝利の味なんかじゃなかった。
あたしはこの日、初めて知った。
モビルスーツは、ただの兵器じゃない。
それを作る人間と、それに乗る人間。その二つの魂が削り合って、初めて「命」が宿るんだってことを。
だけど、その「命」を、専務やバズ・ガレムソン(バズ)のような連中が虎視眈々と狙っている。
宇宙世紀0112年06月、夕暮れのフォン・ブラウン。
あたしたちは、束の間の休息と、それ以上の不吉な予感に包まれていた。
あたしとトキオの間に生まれた、この「真の信頼」こそが、これから始まる地獄を生き抜くための、唯一の武器になるとも知らずに。