機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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裏切りのホビー・ハイザック

「……ちょっと待って。あたしのコーヒー、誰か勝手に淹れ直した? ……あ、違う。これ、仕込まれてるわね。毒じゃなくて、電子の『吸い出し(バグ)』が」

 

アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の執務室。深夜2時を回った静寂の中で、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、自席のコンソールから立ち上る微細な通信ログを凝視して呟いた。

 

宇宙世紀0112年07月。

前回の限界性能試験で、RX-F91……シルエットガンダムは、サナリィ(S.N.R.I.)の機体すら凌駕するスコアを叩き出した。だが、栄光の余韻に浸る間もなく、あたしたちは奇妙な違和感に襲われていた。

 

「アイリスさん、どうしました? そんな顔して画面を睨んでると、またシワが増えますよ」

隣の席で、ジャンク品の基板を弄っていたカール・シュトレーム(カール)が、能天気に声をかけてくる。

 

「カール、冗談言ってる場合じゃないわ。見て、このパケットの動き。あたしたちがシルエットガンダムのMCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)をAE流に再調整した最新のパッチデータ、誰かが外部に転送してる」

 

「えっ……? でも、2事のサーバーは独立してるはずじゃ……」

 

「物理層を偽装してる。発信源は……あそこね」

あたしが指差したのは、ハンガーの隅に置かれた、一見して不釣り合いな「骨董品」だった。

 

RMS-106(ホビー・ハイザック)。

 

これはグリプス戦役時代の主力機ハイザック(ハイザック)を民間に払い下げ、武装を撤去してスポーツ用や作業用に転用した機体だ。AE社内では、工場の資材運搬や、時には技術者たちの「お遊び」の対象として広く普及している、どこにでもあるモビルスーツ(MS)である。

 

「あのホビー・ハイザック、数日前から整備員がメンテナンスって称して頻繁に出入りしてたわよね? あいつの通信アンテナ、中身が軍用スペックに換装されてる」

 

「まさか、スパイ……? AE内部に、サナリィの手先がいるってことですか!?」

 

「あるいは、AE本社が2事を切り捨てるための『証拠集め』をサナリィに手伝わせてるか……。どっちにしろ、このままじゃシルエット・プロジェクトの急所を握られるわ」

 

あたしは震える指先で端末を操作し、AE社内の複雑極まる人脈データベースにアクセスした。

AEという会社は、あまりに巨大だ。宇宙世紀の全方位に根を張り、時には敵対する組織同士に同時に武器を売る。サナリィからデータを盗み出したあたしたちが、今度はサナリィに情報を盗まれる。皮肉を通り越して、滑稽ですらある。

 

「カール、行くわよ。直接問い詰めるのはリスクが高い。まずは『外側』から固める」

 

あたしたちは、深夜のAE工場を駆け抜けた。

向かったのは、AEの退職者や下請け業者が集まる、フォン・ブラウンの闇市――アンダー・シティだ。

 

「マクシミリアン・ベルン(マクシミリアン)さん、いる!?」

あたしは馴染みの町工場のシャッターを叩き割らんばかりに叩いた。

 

「……夜中にうるせえな、お嬢ちゃん。AEの偉いさんは、寝るのも仕事のうちじゃねえのか?」

マクシミリアンが欠伸をしながら顔を出した。

 

「マクシミリアンさん、心当たりがない? 最近、AE本社の物流部門からサナリィ関連の倉庫に頻繁に連絡を取ってる連中がいるはずなの」

 

「……ふん。お前さんの嗅覚は相変わらず鋭いな。……『ラッツ・スター』だ」

 

「ラッツ・スター?」

 

「AEの輸送部門の落ちこぼれが集まってる小さな運送屋だ。だが、あいつらはかつてのジオン残党やサナリィの出入り業者とも繋がってる。あのホビー・ハイザックのパーツも、あそこが納入したはずだ」

 

繋がった。

あたしはマクシミリアンに礼を言い、すぐさまカールと共に件のホビー・ハイザックが置かれたハンガーへ引き返した。

 

暗いハンガーの中で、ホビー・ハイザックが月明かりに照らされて不気味に佇んでいる。

あたしは小型端末をハイザックの脚部端子に直結した。

 

「……ビンゴ。偽装通信のプロトコル、サナリィのテスト用回線と同じだわ。これを使っていたのは……」

 

背後で、重い足音が響いた。

 

「……そこまでにしておけ。アイリス・オーランド。お前は少し、知りすぎた」

 

振り返ると、そこにはAE本社の専務、アルバート・エルマ(専務)の秘書官を務めていた男が、拳銃を構えて立っていた。

 

「……あんただったのね。AE本社が、サナリィに情報を売って、2事の『データ盗用』をリークさせる。そうすれば、AEは公式に2事を切り捨て、サナリィに貸しを作れる……。そういう筋書き?」

 

「巨大企業を維持するには、時に健全な『膿』が必要なのだよ。君たちが作り上げたシルエットガンダムは、美しすぎた。だから、ここで潰れてもらう」

 

男が引き金に指をかけた瞬間――。

 

「――悪いな。俺の愛機(マシン)を勝手に盗撮されるのは、気分が悪いんだ」

 

ハンガーの天井クレーンから、トキオ・ランドール(トキオ)が飛び降り、男を組み伏せた。

 

「トキオ君!」

 

「アイリス、データの吸い出しは止めた。……だが、こいつの話だと、もう本社の刺客が動いてるぞ。2事を潰すために、わざと『事故』を起こさせるつもりだ」

 

あたしは、冷たく転がる男と、その背後にあるホビー・ハイザックを見つめた。

AEという巨大な怪物。サナリィという革新的な怪物。

その狭間で、あたしたちが信じてきた「技術」が、汚い政治の道具として使い潰されようとしている。

 

「……わかったわよ。だったら、あたしも『優等生』のフリはやめる」

 

あたしはコンソールに向き直り、シルエットガンダムの基幹プログラムを全消去するコマンドの前に、別のコードを打ち込んだ。

 

「サナリィのデータを真似るのは、今日で終わり。AE本社にも、サナリィにも、誰にも制御できない……あたしだけの『ガンダム』に、書き換えてやるわ」

 

宇宙世紀0112年07月。

裏切りのホビー・ハイザックが暴いたのは、あたしたちを囲む絶望的な包囲網だった。

だけど、それがあたしの、そして2事の全員の「現場の誇り」に火をつけた。

 

あたしの指先が、キーボードの上で踊る。

サナリィの模倣ではない、AEの技術者が魂を削って作り上げる、真の「逆襲」がここから始まるのだ。

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