機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……ねえ。泥棒が盗んだ金にケチをつけるのは滑稽だけど、その金が『偽札』だったら話は別よね」
アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の地下ドック。深夜3時の静寂を、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)の自嘲気味な独り言が切り裂いた。
目の前には、解体中のRX-F91……シルエットガンダムの無惨な姿がある。
サナリィ(S.N.R.I.)から盗んだデータをAEの規格に無理やり落とし込んだ結果、あちこちのジョイントにガタが来て、電子回路は慢性的な拒絶反応を起こしている。
「アイリスさん、もう寝てください。3日連続の徹夜は、脳のニューロンを物理的に焼き切りますよ」
カール・シュトレーム(カール)が、もはやゾンビのような足取りで栄養剤を持ってくる。
「焼けてるわよ、とっくにね。……でも、ようやくわかったの。なぜこの機体が『嘘』をつくのか」
あたしはホログラム・ディスプレイに、サナリィ製のオリジナル・データの解析結果を投影した。
「サナリィのF91はね、最初から『100パーセントの正解』を目指して設計されてるの。パーツ一つ一つの公差がゼロに近い精度で噛み合うことを前提とした、極小の宇宙。対してあたしたちAEが持っているのは、量産性と汎用性を重視した『80パーセントの妥協』の積み重ね。……100パーセントの設計図に、80パーセントの部品をハメ込んだら、残りの20パーセントは全部『歪み』として機体を壊すのよ」
「……だから、トキオ・ランドール(トキオ)さんが言った『気持ち悪さ』が消えないんですね」
あたしは黙って頷いた。
これまでのあたしたちは、サナリィの影を追いかけ、その劣化コピーを作ることに必死だった。サナリィが小型高出力化を実現したなら、あたしたちはもっと大きなジェネレーターを積めばいい。サナリィがMCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)を導入したなら、あたしたちはそれっぽく配線を装甲に埋め込めばいい。
そんな「猿真似」の先に、勝利なんてなかった。
「アイリス。……どうするつもりだ」
いつの間にか背後に立っていたのは、トキオだった。
「トキオ……。あんた、まだいたの」
「テストパイロットは、機体の主治医の診断を待つのも仕事だ。……お前の顔、サナリィを憎んでいる時の顔じゃないな。何かを捨てた後の顔だ」
あたしは笑った。こいつも意外と鋭い。
「正解よ。……あたし、サナリィのデータを全部捨てることにしたわ」
「なっ!? アイリスさん、それじゃプロジェクト自体が……!」
驚愕するカールを制して、あたしは真っ白な設計シートを広げた。
「全部じゃないわ。サナリィの『小型化』というコンセプトだけは貰っておく。でも、その中身(メカニズム)は、AEが過去30年で積み上げてきた泥臭いノウハウで再構築する。……名付けて、『RX-99』プラン」
あたしの指が、かつてAEの黄金時代を築いた傑作機たちのデータへアクセスする。
RX-78GP01(ゼフィランサス)から続く、信頼性の高いコア・ブロック・システム。
RX-93(ニューガンダム)で確立された、堅牢な内部フレーム。
そして、あたしたち第2事業部が守り続けてきた、職人気質な手作りのチューニング。
「サナリィが『最先端のコンピュータ』なら、あたしたちは『究極にチューンされたマッスルカー』を作る。パーツの歪みすら計算に入れ、遊び(クリアランス)を敢えて設けることで、過酷な戦場でも絶対に動き続ける粘り強さ……それこそが、AEの誇り(アイデンティティ)でしょ?」
「……面白そうじゃねえか。盗んだ借り物じゃなく、お前のガンダムに俺を乗せてくれるんだな」
トキオの瞳に、初めて純粋な期待の光が宿る。
「ええ。サナリィのF91が『F(フォーミュラ)』の旗手なら、あたしたちの機体は、その影(シルエット)から這い上がる、泥にまみれた逆襲者よ」
あたしはカールに向き直った。
「カール、マクシミリアン製作所に連絡。全パーツの設計変更を伝えるわ。……今度こそ、あたしたちの『言葉』で語る機体を作るわよ」
「了解です! ……あ、でも、専務への報告はどうします? 『サナリィの真似をやめました』なんて言ったら、今度こそ2事は潰されますよ」
「報告? そんなの、完成して動くところを見せてからでいいわよ。……事後承諾は、AEの伝統でしょ?」
あたしたちは笑い合った。
深夜のハンガー。汚れた作業着。冷めたコーヒー。
でも、あたしたちを包んでいた「行き止まり」の閉塞感は、もう消えていた。
宇宙世紀0112年08月。
第2事業部の本当の戦いは、ここから始まる。
サナリィの呪縛を断ち切り、自分たちの技術を信じる決断。
それが、あたしが「シルエット・メーカー」として歩むための、最初の第一歩だった。