機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世で最も不吉な色、知ってる? それは漆黒でも深紅でもない。自分の知らないところで勝手に塗り替えられた、誰かの欲望の色よ」
アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の第3ドック。深夜の静寂を切り裂くように、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)の低い声が響いた。
目の前には、完成したばかりのRX-99……「ネオガンダム」の2号機が鎮座している。
だが、その姿はあたしの設計図(プラン)とは似ても似つかないものに変貌していた。
「……何よ、これ。冗談にしてはセンスが悪すぎるわ」
「アイリスさん、落ち着いてください。これは上層部……アルバート・エルマ(専務)からの直命なんです」
カール・シュトレーム(カール)が、タブレットを抱えて震えながら報告する。
白を基調とした、AEの「ガンダム」としての正統性を示すはずだった装甲。それが、光を吸い込むような不気味なロービジカラー(黒)一色に塗り潰されていた。
「ネオガンダム2号機。……AEがサナリィ(S.N.R.I.)への対抗策として、封印されたサイコフレーム技術を再投入した次世代MS(モビルスーツ)。15メートル級の小型化を達成しつつ、コア・ブロック・システムによる高い生存性を確保した、あたしたちの最高傑作……のはずだったのに」
あたしは震える手で、その冷たい黒い装甲に触れた。
この色は、隠密性と威圧感を重視した実戦仕様。……いや、違う。これは「存在しないはずの部隊」が、歴史の闇で汚れ仕事を片付けるための色だ。
「専務の狙いはこれか。バズ・ガレムソン(バズ)大尉に2号機を引き渡し、軍内部の権力争い……アンダーウェッブ(闇のネットワーク)の工作活動に投入させる。テストデータを得るためなんて名目は建前で、実戦で血を吸わせるつもりなのよ」
「そんな……! これはまだ、サイコミュのフィードバック限界が検証しきれていない未完成の機体ですよ。今実戦に出せば、パイロットの脳が焼き切れる!」
カールの叫びは、虚しくドックの天井に消えた。
サイコフレームは、パイロットの脳波を物理的な駆動系に直接反映させる「魔法の素材」だ。だが、それは同時に、機体の「悲鳴」をパイロットがダイレクトに受けてしまうことを意味する。
「……アイリス。あいつはどこへ行く?」
背後から低い声がした。トキオ・ランドール(トキオ)だ。
彼は、自分と同じ魂を持つはずの2号機が、まるで死装束を纏ったかのような姿で立っているのを見て、拳を固く握りしめていた。
「明日0400時。第1事業部(1事)の管轄する秘密演習場へ移送されるわ。表向きは『耐熱塗装の評価試験』。……でも、実際はバズの部隊による強奪を装った『実戦投入』よ」
あたしは、コンソールに残された「指示書」を睨みつけた。
専務はあたしたちを「トカゲの尻尾」にする準備を終えている。2号機がどこかで暴れ、万が一問題が起きても、それは「2事が勝手にやった暴挙」として処理される。
「……ふざけんな。あたしのガンダムを、政治の道具(おもちゃ)にさせてたまるもんですか」
あたしは、端末にプライベート・パッチを差し込んだ。
2号機に搭載されたサイコフレーム・ユニット。そこにはあたしが密かに仕込んだ、開発者(メーカー)としての「最後の良心」……あるいは「最悪の毒」が眠っている。
「カール、1号機の調整を。……トキオ、あんたも覚悟しておきなさい。この黒い2号機が解き放たれた時、止めることができるのは、あたしたちの1号機だけなんだから」
宇宙世紀0113年05月。
月面フォン・ブラウンの闇の中で、ガンダムは呪いの色に染まった。
誇り高き白い巨像としての系譜は断ち切られ、AEの欲望が産み落とした「黒い影」が、戦場の闇へと消えていく。
あたしの指は、狂ったようにキーを叩き続けた。
例え世界中を敵に回しても、あたしが設計した子供たちが、人殺しの機械として完成することだけは許さない。
「……見てなさいよ、専務。技術者を舐めたツケは、高くつくわよ」
夜明け前の静寂。
ネオガンダム2号機は、無機質なコンテナに収められ、あたしたちの手を離れていった。
それが、AE第2事業部にとっての、本当の「地獄」の始まりだとも知らずに。