機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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銀行の貸し剥がし

「……はあ。この世で一番冷酷な言葉、知ってる? 『御社への期待値が下がりました』っていう、銀行員(バンカー)の丁寧な宣告よ」

 

アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の応接室。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、安物のスーツの襟を正しながら、目の前に座る「壁」を睨みつけていた。

 

宇宙世紀0113年05月。

連邦政府から封印されたサイコフレーム技術をRX-99……「ネオガンダム」に組み込むという禁忌の賭けに出たあたしたちを、別の角度から破滅が襲った。

 

「わが月面中央中央銀行(MCB)としては、これ以上の融資継続は困難であると判断せざるを得ません。アナハイム社全体としてはともかく、第2事業部単体での収支は……お世辞にも健全とは言えませんので」

 

慇懃無礼に頭を下げるのは、MCBの融資担当、ギルバート・マクドナル(ギルバート)だ。宇宙世紀最大の金融機関である彼らが手を引くということは、あたしたちが下町の町工場に発注している特注パーツの支払いも、トキオ・ランドール(トキオ)の訓練用燃料代も、すべて止まることを意味する。

 

「健全、ね。あたしたちが作っているのは帳簿上の数字じゃなくて、連邦軍(連邦軍)の次代を担うモビルスーツ(MS)なの。開発の最終段階でハシゴを外すなんて、技術への冒涜よ」

 

「技術、ですか。アイリスさん、我々にとって技術とは『利益を生むための不確定要素』に過ぎません。サナリィ(S.N.R.I.)の台頭でAEのシェアが揺らいでいる今、わざわざリスクの高い第2事業部に投資を続ける理由がないのです。専務のアルバート・エルマ(アルバート)氏からも、第2事業部の資産価値については厳しい見通しを伺っておりますしね」

 

やっぱり、あのアゴ専務の差し金か。あたしは奥歯を噛み締めた。本社の上層部は、融資の蛇口を閉めることで、あたしたちを兵糧攻めにし、ネオガンダムの開発成果だけを強引に奪い取るつもりなのだ。

 

「……いいわ。ギルバートさん。あんた、数字以外に信じられるものはある?」

 

「唐突ですね。……強いて言えば、客観的な事実(ファクト)でしょうか」

 

「なら、その『事実』をあんたの体に叩き込んであげるわ。……ついてきなさい。宇宙一高価なジェットコースターに乗せてあげる」

 

あたしは彼を連れて、地下のシミュレーター・ルームへ向かった。そこには、最新のネオガンダム用コックピット・モジュールが設置されている。

 

「アイリス、何をするつもりだ?」

調整用スーツを着たトキオが、不機嫌そうにモニターから目を離した。

 

「トキオ、悪いけど接待(営業)よ。このガチガチの銀行員さんを、あんたの隣に乗せてあげて。……ネオガンダムの『AFX(Advanced Formula eXperimental)』システム、出力50%で同期させて」

 

「おい、正気か? 訓練を受けてない素人だぞ」

 

「いいのよ。事実を知りたいって言うんだから」

 

困惑するギルバートを無理やり副座シートに押し込み、ハッチを閉じた。あたしはコンソールに向かい、サイコフレームの感応波リミッターを「デモ・モード」に設定する。

 

「ギルバートさん、これからあんたが見る数字は、あんたの脳波が直接、機体のセンサーと同期した結果よ。……起動!」

 

「――な、なんだ!? 視界が……歪んで……」

スピーカーからギルバートの悲鳴が漏れる。

 

「歪んでるんじゃないわ。機体のセンサーが捉えた360度の情報を、あんたの脳が直接理解し始めてるの。右後方0.5秒後のデブリの軌道、機体フレームにかかるミリ単位の歪み……これらはすべて、AEが30年かけて積み上げた『信頼』という名のデータよ!」

 

トキオがシミュレーター内で急加速を開始した。

サイコフレームがパイロットの意志を先読みし、物理的な反応速度の壁を突き破る。オールドタイプであるトキオの卓越した技術が、機体のポテンシャルを引き出し、それを同乗するギルバートの意識に強烈な「全能感」としてフィードバックする。

 

「くっ、速い……! だが、恐ろしく正確だ……。これが……AEの技術価値だというのか……!」

 

「そうよ! サナリィのF91が『完成された工芸品』なら、このネオガンダムは『人間の限界を拡張する拡張子』なの! この技術が完成すれば、MSの戦闘パラダイムは根底から覆る。……これを『不確定要素』なんて呼ぶ投資家は、自分の目すら信じてない節穴よ!」

 

15分後。シミュレーターのハッチが開いたとき、ギルバートの顔は土気色だったが、その瞳には数字以外の「熱」が宿っていた。

 

「……失礼しました。アイリスさん。……そしてトキオ氏」

彼は震える手で眼鏡を拭き、懐から手帳を取り出した。

 

「たしかに、体感しました。……帳簿には載らない『未来の独占権』を。……わが行の上層部には、私から報告し直します。第2事業部は、まだ死ぬべきではない……と」

 

「……助かるわ」

 

あたしは彼が去っていく背中を見送りながら、壁に寄りかかって深く息を吐いた。

 

「アイリス。あんな真似、二度とさせるなよ。サイコフレームが銀行員の欲を吸い込んで、機体の挙動が変な風に揺らぎやがった」

トキオがヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭う。

 

「ごめんって。でも、これでとりあえず1ヶ月は延命できたわ。……下町の親父さんたちに、不渡り出さなくて済む」

 

あたしは自分の震える指を見つめた。

融資の引き揚げ、専務の妨害、そして禁断の技術。

あたしたち第2事業部は、綱渡りのような毎日を歩んでいる。

でも、今日わかったことが一つある。

 

技術の価値を最後に決めるのは、銀行の数字じゃない。

その技術に触れた人間が抱く「畏怖」と「希望」なのだ。

 

「カール! 融資継続の目処が立ったわよ! マクシミリアン製作所に、追加のガリウム合金を発注して! ……さあ、2号機の完成を急ぐわよ!」

 

宇宙世紀0113年05月。

月面中央銀行を味方(?)につけたあたしたちは、さらなる泥沼の、しかし光り輝く開発の最前線へと突き進んでいく。

あたしの描く「シルエット」は、ついに漆黒の2号機という形を成そうとしていた。

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