機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世で一番馬鹿げた『事故』の定義、知ってる? それは、権力者が自分の失敗を隠すために、数百億クレジットのモビルスーツ(MS)と技術者のプライドをまとめて闇に葬る時に使う便利な魔法の言葉よ」
アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の管制室。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、ひび割れたモニターを睨みつけ、震える指をキーボードに叩きつけていた。
宇宙世紀0113年。月面フォン・ブラウンの静寂を、不快な爆鳴が引き裂いた。
「アイリスさん! 第1ドックの隔壁が強制開放されました! 1号機……RX-99(ネオガンダム)が動いています! 登録されたテストパイロットの信号じゃありません!」
カール・シュトレーム(カール)が、血相を変えて叫ぶ。
「わかってるわよ! バズ・ガレムソン(バズ)大尉ね……あのアゴ、いや、アルバート・エルマ(専務)と組んで、ついに力ずくで奪いに来たんだわ!」
モニタの中、あたしたちが心血を注いで調整した「ネオガンダム1号機」が、重厚な足音と共に発進していく。本来ならあり得ない話だ。機体の起動には複雑な認証コードが必要なはずなのに。
「……本社からマスターキーが流されたのよ。2号機だけじゃ足りず、1号機まで私物化して戦場に出すつもりなんだわ。あいつらは、MSをただの政治の道具だと思ってる。技術者の魂がこもった『作品』だってことを、これっぽっちも理解してない!」
あたしは歯噛みした。
専務の狙いは明白だ。1号機と2号機を実戦データ取りという名目で「強奪」させ、その過程で起きた不祥事をすべて第2事業部の管理不足……つまり「事故」として処理する。あたしたちを路頭に迷わせ、その成果だけをAE本営が回収するシナリオ。
「アイリス。……俺を行かせろ」
背後から低く、けれど芯の通った声が響いた。トキオ・ランドール(トキオ)だ。彼はすでにパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に抱えて立っていた。
「トキオ……。でも、1号機はあいつに持っていかれたわ。ここにあるのは……」
「わかってる。RX-F91A(シルエットガンダム改)だろ? サナリィ(S.N.R.I.)のパクリを卒業した、お前が作り直した本物のガンダムだ」
あたしは一瞬、言葉を失った。シルエットガンダム改……それはかつてデータ盗用で汚されたRX-F91を、AE独自の技術と現場の意地で再構築した機体だ。スペック上の数値はネオガンダムに劣るかもしれない。けれど、その信頼性と「作り手の顔が見える」設計は、今のあたしたちにとって唯一の希望だった。
「……バズはネオガンダム1号機の圧倒的な推力とG-B.R.D(ジーバード)の火力に酔いしれてるはずよ。でも、あの機体にはあたしが仕込んだ『猛毒』……ネオ・サイコミュ(ネオ・サイコミュ)の試作コードが眠ってる。制御を誤れば、パイロットの意識を飲み込むわ」
「なら、手遅れになる前にぶん殴って取り返してやるだけだ」
トキオが不敵に笑う。その瞳には、かつてあたしの設計を「嘘つきだ」と断じた冷たさはなく、共に修羅場を潜り抜けた相棒への信頼が宿っていた。
「わかったわよ。……カール、シルエットガンダム改のカタパルト射出準備! リミッターは全部解除。トキオ、あんたに預けるわ。あたしの『理想』で、あの『汚れたガンダム』を止めてきなさい!」
「了解だ、アイリス。……行ってくる!」
轟音と共に、シルエットガンダム改が月面へと解き放たれた。
モニター越しに見るその姿は、かつての迷走を振り切ったように力強く、美しい。
「……専務、見てなさいよ。技術者が本気で怒った時に、どんな奇跡が起きるか。あんたたちが捨てた『現場の意地』が、あんたたちの野望を粉々に粉砕してあげるんだから!」
あたしは狂ったようにキーを叩き、トキオの戦闘支援を開始した。
宇宙世紀0113年。AE第2事業部の逆襲は、ついに引き返せない最終局面へと突入する。
1号機と2号機、そしてシルエットガンダム改。
血よりも濃いオイルと、涙よりも熱い電子の海の中で、あたしたちの物語は加速していく。
「トキオ、絶対に死ぬんじゃないわよ! あんたが死んだら……誰があたしの次の設計図にダメ出しするのよ!」
あたしの叫びは、真空の宇宙へと繋がる通信回線を震わせた。
強奪された1号機を追い、白い影が月面を駆ける。