機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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左遷の部署

「ハロー、絶望。あたしのキャリア、死んだも同然だね」

 

フォン・ブラウン市のはずれ。アナハイム・エレクトロニクス(AE)が所有する数多の施設の中でも、ひときわ年季の入った「第13工場」の門をくぐりながら、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は独りごちた。

 

昨日までのあたしは、本社の第1研究事業部で、次期主力モビルスーツ(MS)のコンペに命を削っていたはずだった。それがどうだ。サナリィに完敗した翌朝には、人事異動という名の「死刑宣告」が下った。行き先は、第2事業部(2事)。社内の人間が声を潜めて「産業廃棄物集積所」と呼ぶ場所だ。

 

「……ここが、あたしの新しい職場?」

 

自動ドアが開くと、そこには「昭和」……じゃなくて、宇宙世紀0080年代の空気がそのまま停滞しているような、ひどく埃っぽいオフィスが広がっていた。壁には色褪せた「Zガンダム」のポスターが貼られ、机の上には旧式の端末が並んでいる。

 

「おや、新しい生贄……おっと、新人さんかな?」

 

声をかけてきたのは、脂ぎった顔にだらしない笑みを浮かべた中年男だった。

「あたしはアイリス・オーランド。今日からここへ配属されました。一応、第1研究事業部でMSA-0120の開発主任補佐をやってました」

「おーおー、エリート様だ。俺はここの副部長。まあ適当にやってくれ。どうせ仕事なんて、上から降ってくるのを待つだけだからな」

 

副部長はそれだけ言うと、また自分の席に戻って居眠りを始めた。

……終わってる。この部署、完全に死んでる。

 

オフィスを見渡すと、さらに絶望が深まった。

片隅では、定年をとうに過ぎたような老技術者たちが、昔開発したジム・シリーズの設計図を眺めながら「あの頃は良かった」と茶をすすっている。反対側では、やる気を完全に失った20代の若手が、勤務時間中だというのに携帯端末でゲームに興じていた。

 

ここには、あのコンペ会場にあった「未来」の欠片もない。

 

「失礼します、アイリスさん」

不意に声をかけられ、あたしはビクッと肩を揺らした。

「……何? あたし、今すごく機嫌悪いんだけど」

そこに立っていたのは、くたびれた作業着を着た、あたしと年の変わらない青年だった。

「カール・シュトレーム(カール)です。2事のメカニックをやってます。……あの、さっきの120の話、少し聞かせてもらえませんか? あんなすごい機体を作った人がここに来るなんて」

 

カールの目は、この部署で唯一、死んでいなかった。

あたしは溜息をつき、近くの椅子に腰を下ろした。

 

「120……MSA-0120(120)はね、AEのプライドそのものだったんだよ」

あたしは虚空を見つめながら、かつての愛機を思い浮かべる。

120は、第1次ネオ・ジオン抗争から第2次ネオ・ジオン抗争にかけてAEが蓄積した技術を、すべて詰め込んだ重装甲・高出力の傑作機だ。大推力のスラスターによる一撃離脱、さらにはメガ・ブーストによる爆発的な加速性能。18メートル級というこれまでのMS規格において、これ以上の機体は作れないと断言できる代物だった。

 

「でも、サナリィは『規格』そのものを変えてきた。15メートル以下に小型化された機体に、120と同等の、あるいはそれ以上のジェネレーター出力を詰め込んできたんだ」

 

「……フォーミュラ計画、ですね」

カールが真剣な表情で頷く。

「そうです。F90を見た時、あたしは背筋が凍った。あれは単なる小型機じゃない。MSという概念を10年先に進めてしまったバケモノだよ。120は、そのバケモノに食い殺された。過去の栄光にしがみついたAEという巨大な恐竜と一緒にね」

 

あたしの言葉に、居眠りをしていた副部長が薄目を開けた。

「恐竜か……。違いない。だがな、お嬢ちゃん。恐竜だって、死に際は暴れるもんだぜ。AEの上層部は、サナリィに主導権を握られるのを、ただ指をくわえて見てるような連中じゃない」

 

「……どういう意味ですか?」

 

副部長はニヤリと笑い、あたしの机の上に一通の暗号化されたデータ・チップを置いた。

 

「『シルエット・プロジェクト』。それが今日から、この2事の正式な任務だ。サナリィのF90を模倣し、AE独自の技術を上乗せして、15メートル級MSの主導権を力ずくで奪い返す」

 

あたしはチップを手に取り、端末に差し込んだ。

画面に展開されたのは、見覚えのある……いや、見るはずのないシルエットだった。

 

「これって……サナリィの極秘データ? なんでAEがこんなものを」

「出所は聞くな。お前さんの仕事は、このデータを使って、120を『小型化』することじゃない。AEの意地を込めた、新しい『ガンダム』を再設計することだ」

 

あたしは震える指で画面をスクロールした。

そこには、技術者としての倫理を逆撫でするような、汚れた「答え」が並んでいた。他社の革新的な技術を盗み、自社の旧式なパーツと強引に融合させる。美しくない。整合性もない。

 

だけど――。

 

「……やってやるよ」

あたしは呟いた。

サナリィに、そしてあたしをここに追い出したAE本社の連中に、思い知らせてやりたい。

エリートたちが匙を投げ、ゴミ捨て場に放り込んだあたしたちが、最高の「シルエット」を描き出してやる。

 

「カール、悪いけど今日から不眠不休だよ。この埃っぽいオフィス、あたしが最高のラボに作り替えてあげるから」

 

窓の外には、フォン・ブラウンの無機質な工場地帯が広がっている。

AE第2事業部。

歴史の陰に消えるはずだった「恐竜」の末裔たちが、反撃の産声を上げた瞬間だった。

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