機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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サイコミュの共鳴

「……はあ。この世で一番残酷な『シンクロ率』、知ってる? それは、機械と人間が溶け合って、自分が鉄の塊なのか生身の人間なのか分からなくなる、あの感覚よ。開発者としては至高の極致だけど、一人の人間としては、ただの悪夢でしかないわ」

 

アナハイム・エレクトロニクス(AE)の追撃を振り切り、月面のクレーターの影に身を潜めた移動車両。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、膝の上で火を吹きそうなほど熱を持った光磁気ディスクのドライブを、震える手で操作していた。

 

モニターの向こう側、漆黒の宇宙(そら)を背景に、2つの「呪い」が踊っている。

バズ・ガレムソン(バズ)大尉が駆るRX-99……ネオガンダム1号機と、無人で暴走を続ける2号機。

そしてその間に割って入る、RX-F91A……シルエットガンダム改。

 

「トキオ・ランドール(トキオ)! 聞こえる!? 今、システムの強制介入パスを送信したわ! それを使えば、1号機のネオ・サイコミュを一時的に中和できる!」

 

「……が、ああああッ……!」

 

スピーカーから漏れるのは、返事ではなく、獣のような呻き声だった。

あたしの心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。

 

ネオ・サイコミュ。

それはサイコフレーム……金属粒子レベルでコンピュータチップを鋳込んだ装甲材を用い、パイロットの脳波を直接駆動系に反映させるシステムだ。

あたしが設計したそれは、あまりに鋭敏すぎた。

1号機と2号機が共鳴し、戦場に渦巻く殺意を増幅してトキオの脳に流し込んでいる。

 

「アイリスさん、トキオ君の脳波パターンが臨界点を超えています! このままじゃ、彼の精神(こころ)が機体のデータストリームに飲み込まれて消えちゃう!」

カール・シュトレーム(カール)が、青ざめた顔でコンソールを叩く。

 

「……分かってるわよ! でも、ここで通信を切ったら、あいつは本当にただの人殺しの部品になっちゃう!」

 

あたしはマイクをひっ掴み、絶叫した。

 

「トキオ! しっかりしなさい! あんた、自分のことを『オールドタイプ(オールドタイプ)』だって誇ってたじゃない! 機械が見せる幻覚なんかに負けてんじゃないわよ!」

 

モニターの中、RX-F91改が1号機のG-B.R.D(ジーバード)に押し込まれる。

ジーバードは独立したジェネレーターを持つ巨大なビーム砲であり、その余波だけで月面の岩石を蒸発させる。

 

「……あ、ああ……。アイリス……? うるさい、な……。頭の中に……知らない奴らの声が……流れ込んでくるんだ……」

 

「それはあんたの声じゃない! 機械が勝手に計算した『最適解』という名のノイズよ! 聞きなさい、トキオ! あたしが信じたのは、ネオ・サイコミュの性能じゃない! その化け物を乗りこなして、笑ってみせるあんたの『腕』よ!」

 

あたしは、自分自身が設計したシステムのソースコードを、憎しみを込めて睨みつけた。

技術者は、時に神を気取る。

人間を拡張し、限界を超える翼を与える。

けれど、その翼が重すぎて人間を押し潰すなら、そんなものはただのスクラップだ。

 

「いい、トキオ! 機械に頼るな! システムが弾き出す予測なんて捨てなさい! あんたの指が覚えている感触、あんたの目が捉えた光景……自分自身を信じろって言ってんのよ!」

 

「……自分、自身……」

 

「そうよ! あんたは部品じゃない! このガンダムを動かす『心』なのよ!」

 

その瞬間、モニター上の脳波グラフが、一瞬だけ鋭いスパイクを描いて静止した。

シルエットガンダム改のメインカメラが、カッと見開かれたように強く発光する。

 

「……へっ。……相変わらず、人使いが荒いぜ、アイリス」

 

通信の向こう側で、トキオが低く、けれど確かな足取りで笑った。

 

「システムが『右に避けろ』って叫んでる。……だが、俺の勘は『左』だと言ってる。……お前の作った最高傑作、俺の我儘に付き合ってもらうぜ!」

 

シルエットガンダム改が、物理法則を無視したような鋭い切り返しを見せた。

ネオ・サイコミュの予測を裏切る、人間ゆえの「不規則性」。

それが、暴走する1号機の捕捉を完璧に振り切った。

 

「……やった」

 

あたしは膝の力が抜け、床に座り込んだ。

けれど、戦いはまだ終わっていない。

1号機の中でバズが、2号機のシステムの中で専務の野望が、まだ醜く脈動している。

 

「カール、今のデータをすべて記録して。……これこそが、あたしたちがネオガンダムに込めるべき『最後のピース』よ」

 

「アイリスさん……今のって……」

 

「ええ。機械が人間を導くのではなく、人間が機械を律する。……サナリィのバイオ・コンピュータへの、あたしたちなりの回答よ」

 

移動車両の外では、月面に散ったビームの残滓が、まるで命の輝きのように明滅していた。

宇宙世紀0113年。

技術者とパイロットが、システムの呪縛を打ち破った瞬間。

 

「トキオ、そのまま1号機を抑え込みなさい! あたしたちはこれから、あのアゴ専務の首を取りに……『倍返しのプレゼン』会場へ向かうわよ!」

 

あたしは光磁気ディスクを胸に抱きしめ、前を向いた。

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