機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世で一番不毛な『プレゼンテーション』、知ってる? それは、すでに結論が決まっている会議室で、権力者たちの機嫌を取りながら、嘘の数字を並べ立てる茶番劇のことよ。でもね、もしその茶番を根底からひっくり返す『真実』という名の爆弾を持っていたら――それは最高に刺激的なエンターテインメントに変わるの」
地球連邦軍(連邦軍)フォン・ブラウン基地、特別会議室。
あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、安物のリクルートスーツの襟を正し、重厚な扉の前に立っていた。
宇宙世紀0113年。今日はアナハイム・エレクトロニクス(AE)が威信をかけて開発した次世代主力の最終評価会議。壇上に立つのは、AE上層部の顔役、アルバート・エルマ(専務)だ。
「……以上が、RX-99……ネオガンダムの開発成果であります。不慮の事故により1号機、2号機ともに損失いたしましたが、得られた実戦データはサナリィ(S.N.R.I.)のF91を凌駕することを証明しております。これこそが、我が社の、そして連邦軍の新たな剣となるのです」
アゴを突き出し、自信満々に語る専務。その隣には、軍内部の協力者たちが満足げに頷いている。彼らの筋書きでは、あたしたち第2事業部(2事)は「管理不届きで重大事故を起こし、データだけを残して消える」ことになっていた。
あたしは横にいるカール・シュトレーム(カール)を見た。彼は、あたしたちが命懸けで持ち出した、光磁気ディスクを抱えて震えている。
「カール、準備はいい?」
「アイリスさん……本当にやるんですか? これ、AEの社員としては完全にアウトですよ」
「アウトもセーフも、あたしたちの居場所はもうあのアゴ専務に消されてるわ。……行くわよ」
あたしは扉を蹴り破らんばかりの勢いで開放した。
静まり返る会議室。並み居る将軍たちと、専務の驚愕の表情。
「ちょっと待った! そのプレゼン、修正が必要よ!」
あたしの声が、広い会議室に響き渡った。
「な……何だ君は! 警備員は何をしている!」
専務が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「第2事業部、設計主任アイリス・オーランド。……専務、あんたが『事故』で消えたと言い張るデータの、これが生きたバックアップよ。それと――あんたがバズ・ガレムソン(バズ)大尉と裏で繋がって、1号機を強奪させた証拠の通信記録もね」
あたしはカールの持つディスクを、中央のホログラム・プロジェクターに力任せに叩き込んだ。
「再生しなさい、カール!」
空中に浮かび上がったのは、専務のプレゼン資料とは似ても似つかない、生々しい「真実」の記録だった。
「これは……1号機の機体ログか? バズ大尉の音声が入っているぞ」
最前列に座る、厳格そうな老将軍が身を乗り出した。
「ええ。バズ大尉はAEの資産を私物化し、軍内部の権力争いのためにネオガンダムを実戦投入した。専務、あんたはそれを黙認し、あまつさえ第2事業部の工員たちの命を危険にさらして証拠隠滅を図った。……これが、あんたの言う『開発成果』の正体よ」
投影された映像には、漆黒の2号機が暴走し、月面を焼き払う光景が映し出される。そして、そこにあたしが設計したRX-F91A……シルエットガンダム改が介入する。
「シルエットガンダム改。……かつてデータ盗用の汚名を着せられた機体を、現場の意地で組み直した、AEの本当の誇りよ。サナリィの真似事じゃない、あたしたち独自の技術が、今まさにバズ大尉の暴走を食い止めている。……どちらが連邦軍の次期主力に相応しいか、この映像を見れば一目瞭然よね?」
「貴様ぁっ! デタラメを!」
専務が壇上から駆け寄ろうとするが、すでに将軍たちの視線は冷淡なものに変わっていた。
「待て、エルマ専務。……アイリス君と言ったか。このデータの整合性は、我々の情報部で検証させてもらう。……もしこれが事実なら、アナハイム社との契約は白紙、君の言う『証拠隠滅』についても厳重な捜査が必要になるな」
老将軍の言葉に、あたしは心の底で小さくガッツポーズをした。
あたしたちが深夜のドックで油にまみれ、本社の嫌がらせに耐え、月面を逃げ回った時間は、無駄じゃなかった。
「……さて。専務。あんた、さっき『ネオガンダムは1号機、2号機ともに損失した』って言ったわよね?」
あたしは不敵に笑い、通信ボタンを押した。
「トキオ・ランドール(トキオ)! 聞こえる!? 今、あんたの姿を最高にカッコいい画質で、軍のお偉いさんたちに見せてあげてるわよ! ……ド派手にキメなさい!」
会議室のメインスクリーンが切り替わる。
そこには、月面のクレーターを背に、傷だらけになりながらもバズの1号機を組み伏せた、シルエットガンダム改の姿があった。
「了解だ、アイリス。……お前のプレゼン、こっちにも聞こえてたぜ。……おい、大尉。大人しくしな。お前の『おもちゃ』は、もう動かないぜ」
トキオの声が、会議室に響き渡る。
それは、どんな綺麗なグラフや美辞麗句よりも説得力のある、現場の勝利宣言だった。
宇宙世紀0113年。
巨大企業の暗部で蠢いていた陰謀は、一人の技術者の「倍返しのプレゼン」によって暴かれた。
「……あー、すっきりした。カール、帰ったら最高のディナーを奢ってあげる。……あのアゴ専務の退職金、あたしたちのボーナスに回してくれないかしらね」
呆然と立ち尽くす専務を背に、あたしは会議室を後にした。
けれど、戦いはまだ終わっていない。
月面では、追い詰められたバズが、ネオ・サイコミュの最後の禁忌に触れようとしていた。