機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世で一番馬鹿げた『美学』、知ってる? それは、刺し違えてでも敵を討つなんていう、時代遅れの騎士道精神よ。開発者の端くれとして言わせてもらえば、最高の機体っていうのはね、ボロボロになっても、無様になっても、最後にはパイロットを笑って生還させる機体のことなのよ」
地球連邦軍(連邦軍)フォン・ブラウン基地の管制室。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、モニターに映し出された月面の地獄絵図を睨みつけ、血が滲むほど唇を噛んでいた。
宇宙世紀0113年。月面の「静かの海」は、今や静寂とは程遠い、電子の悲鳴と熱核反応の光に支配されていた。
モニターの中では、バズ・ガレムソン(バズ)大尉が強奪したRX-99……ネオガンダム1号機が、不気味な青白い光を放っている。機体各所のサイコフレームが、パイロットの歪んだ殺意を吸い込んで臨界点を超えようとしていた。
対峙するのは、無人で暴走を続けるネオガンダム2号機(2号機)。
そして、その2機の怪物の間に割って入り、ボロボロになりながらも立ち塞がっているのが、トキオ・ランドール(トキオ)の駆るRXF91A(シルエットガンダム改)だ。
「アイリスさん! 1号機、ネオ・サイコミュのフィードバックがマイナス側に振り切れています! バズ大尉の脳が、機体システムの負荷に耐えきれず焼き切れる寸前です!」
隣でカール・シュトレーム(カール)が、絶望的な数値を指して叫ぶ。
「自業自得よ、あんな男! でも、あいつが自爆したら、巻き添えでトキオまで……!」
画面の中、1号機が手にした最強兵器、G-B.R.D(ジーバード)が、その巨大な砲口を2号機、そしてトキオへと向けた。
ジーバードは、15メートル級MS(モビルスーツ)の携行兵器としては異常な出力を誇る。内部に独立したジェネレーターを備え、一撃で艦艇を沈めるほどの破壊力を持つ「動く砲台」だ。
「終わりだぁッ! 全て……俺の、俺の栄光のために消え去れぇッ!」
スピーカーから漏れるバズの狂声。
「……させるかよッ!」
トキオのRX-F91A(シルエットガンダム改)が、残された最後のヴェスバー(V.S.B.R.)を放つ。可変速ビーム・ライフルの高出力モードが1号機のシールドを貫くが、1号機は止まらない。
「アイリス! 1号機をハッキングしてエネルギーを止めろ!」
通信回線からトキオの叫びが届く。
「無理よ! 物理的な安全装置(安全装置)までバズがバイパスしてる! 今、あの機体を止める方法はたった1つ……物理的にコア・ブロック・システムを強制分離させるしかない!」
コア・ブロック・システム。AE(アナハイム・エレクトロニクス)が往年の名機、RX-78ガンダムの構造を小型MS時代に合わせて再定義した脱出機構だ。
「やってやる……アイリス、信じてるぜ。お前が仕込んだ『保険』、ここで使わせてもらう!」
トキオのシルエットガンダム改が、全推力を噴射して1号機へと突っ込む。1号機の放ったジーバードの閃光が、シルエットガンダム改の左腕と右脚を蒸発させる。それでも、トキオは止まらない。
「……今よ! トキオ、コード『救生(ライフ)』を入力!」
あたしの指が、キーボードを叩く。
その瞬間、1号機の右腕に接続されていたジーバードが、爆破ボルトによって切り離された。
「な、何だと……!? 俺の武器が、勝手に……!?」
愕然とするバズ。
あたしが密かにジーバードに仕込んだ真の機能。
それは、単なる大砲じゃない。
ジーバードそのものを巨大なブースター・ポッドとして機能させ、コア・ファイターとドッキングすることで、爆発の渦中から超高速で離脱するための「究極の脱出装置」だ。
「バズ大尉、あんたみたいな人殺しには、この機能は使わせないわ!」
あたしの遠隔操作によって、1号機のコックピット・ハッチが強制開放される。同時に、1号機の背中からコア・ファイターが射出された。
「行けッ、トキオ!」
トキオのシルエットガンダム改が、1号機から放り出されたバズのコア・ファイターを蹴り飛ばし、自らも2号機から距離を取る。
直後、臨界点に達した2号機の核融合炉が爆発し、月面に人工の太陽が出現した。
爆風に飲み込まれ、1号機の残骸が塵となる。
だが、その光の渦の中から、2つの小さな影が飛び出した。
1つは、あたしが遠隔操作でドッキングさせた、ジーバードと合体した1号機のコア・ファイター。
もう1つは、大破しながらも無事に着地したトキオのシルエットガンダム改。
「……はあ。……はあ。……ったく、心臓に悪いわね」
あたしは、ぐっしょりと汗をかいた背中を椅子の背もたれに預けた。
「アイリスさん、やりました……! バズ大尉のコア・ファイターも、軍の警備艇が回収しました。……生きてます、みんな」
カールが、涙を拭きながら笑った。
モニターの中、トキオがシルエットガンダム改のハッチを開け、月面の空に向かって親指を立てた。
「アイリス……。お前の勝ちだ。最高にカッコ悪くて、最高に『死なない』ガンダムだったぜ」
「……当たり前でしょ。誰が設計したと思ってるのよ」
あたしは震える声でそう答え、精一杯の強がりで鼻を鳴らした。
宇宙世紀0113年。AE第2事業部の意地が、最強の兵器を、最強の「盾」へと変えた瞬間だった。
技術者の勝利。けれど、それは同時に、あたしたちが愛した第2事業部の、終わりを告げる号砲でもあった。
「……さあ、帰りましょう。あたしたちの、最後の手仕舞い(クロージング)が待ってるわ」
あたしは、空になったコーヒーカップを片付け、管制室を後にした。