機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……バカなの? 死ぬの? というか、あたしたちをまとめて刑務所に送るつもり?」
アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の片隅で、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、端末の画面に映し出された文字列を凝視しながら、盛大な溜息を吐いた。
昨夜、副部長から手渡されたデータ・チップ。その中身をカール・シュトレーム(カール)と一緒に解析し始めたあたしを待っていたのは、煌びやかな設計図ではなく、宇宙世紀の犯罪史に燦然と輝きそうな「戦時条約違反」の香りがプンプンする代物だった。
「どうしました、アイリスさん。顔色が紙より白いですよ」
コーヒーサーバーから毒物のような色をした液体を淹れて戻ってきたカールが、怪訝そうに画面を覗き込む。
「これを見てよ。サナリィ(S.N.R.I.)の極秘プロジェクト……『フォーミュラ計画』の中核を成す、F91の基本コンセプト案と、試作機であるガンダムF90の実測データよ」
あたしの指が震える。F90は、全高14.8メートルという小型化を実現しながら、従来のMSを過去の遺物にするほどの高出力を叩き出した、あの「化け物」だ。
そしてF91。これはさらにその先、バイオ・コンピュータの搭載まで示唆されている、サナリィが総力を挙げて開発中の「究極の小型MS」の原型だ。
「これ、AEが正規にライセンスを取得したデータじゃないわよね。バイナリの隅々に、サナリィの社内サーバーを強引に突破した時のノイズが残ってる。……完全に『盗品』よ、これ」
「……うわぁ。やっぱりAE(うち)の上層部、なりふり構わなくなってますね」
カールが乾いた笑いを漏らす。
あたしたちは、その「盗品」をさらに深く読み解いていった。
そして、あたしは戦慄した。サナリィの技術者たちが、どんな「狂気」をもってこの機体を生み出そうとしているのか。
「すごいわ……。あたしたちAEが、既存のジェネレーターの出力をいかに上げるかという『足し算』の設計に固執していた間に、彼らはMSを構成するすべての部材を、根本から定義し直している」
例えば、マイクロ・ハニカム構造を用いた新素材の装甲材。これにより、強度を保ったまま劇的な軽量化を実現している。さらに、電子回路を機体フレームそのものにエッチングする「MCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)」の概念。
「これなら、機体内の配線スペースを極限まで削れる。その余ったスペースに、さらに高出力の反応炉を詰め込める……。まさに、合理性の塊ね。あたしたちのMSA-0120(120)が100人のエリートが会議を重ねて作った『高級セダン』なら、これはたった1人の天才が狂気に駆られて作り上げた『F1マシン』よ」
120は、第1次ネオ・ジオン抗争から第2次ネオ・ジオン抗争に至るまでAEが築き上げた、18メートル級MSの集大成だ。重装甲、高推力、そしてメガ・ブーストによる爆発的加速。それは確かに完成された形だった。でも、このサナリィの設計思想の前では、ただの「重くて鈍い恐竜」に過ぎない。
「アイリスさん、感心してる場合じゃないですよ。副部長が言ってた『シルエット・プロジェクト』って、つまり……」
「ええ。このサナリィの技術を丸パクリして、外側だけ『アナハイム製のガンダム』っぽく仕立て直せってこと。……プライドもへったくれもないわね」
あたしは椅子に深く背を預けた。
設計者としてのプライドが、そんな「汚れた仕事」は拒絶しろと叫んでいる。
でも、その一方で、120を否定されたあの日から燻り続けている「劣等感」が、別の声を上げる。
この、サナリィの「正解」を、あたしたちの手で超えてみたい。
盗んだデータだろうが何だろうが、それを使って、あたしたちをゴミのように捨てた本社のエリートたちの鼻を明かしてやりたい。
「カール。あたし、決めたわ」
「え、何をです?」
「この『汚れた設計図』に、AEがこれまで培ってきた『ドブ板根性』を叩き込んでやる。サナリィがスマートに作ったマシンが、泥臭いAEの意地に勝てるわけがないってことを、証明してあげるわ」
あたしは端末のキーボードに指を置いた。
画面には、サナリィの設計思想をベースに、AEの既存パーツを無理やり適合させるための、おぞましくも野心的なシミュレーション結果が展開され始める。
これが、のちに「シルエットガンダム」と呼ばれることになる、偽りの英雄の誕生。
その設計思想の根底にあるのは、AEという巨大企業の、醜くも切実な「生への執着」だった。
「アイリスさん、目が怖いです。悪役令嬢みたいな顔になってますよ」
「うるさいわね。まずはこのMCAのデータ、AEの劣悪な生産ラインで再現できるようにダウングレードしなきゃならないんだから。寝る間なんてないわよ!」
宇宙世紀0111年、11月。
月の裏側にある「吹き溜まり」のオフィスで、あたしたちは禁断の扉を蹴破った。
窓の外で、フォン・ブラウンの無機質な重工業地帯が、あたしたちの狂気を嘲笑うかのように冷たく光っていた。