機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……ねえ、これ、あたしの履歴書に『産業スパイ(実務経験あり)』って書かなきゃいけないやつ?」
深夜のフォン・ブラウン。アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の執務室で、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、ディスプレイに展開された眩暈のするような設計データの群れを前に、盛大な独り言を漏らした。
目の前にあるのは、サナリィ(S.N.R.I.)が社運を賭けて開発している最新鋭小型モビルスーツ(MS)、ガンダムF91の機密データだ。F91は、従来のMSを過去の遺物に変えるべく開発された「フォーミュラ計画」の到達点。バイオ・コンピュータの搭載や、金属剥離現象(MEPE)すら予見させる、オーバーテクノロジーの塊である。
それを、AE(うち)の上層部はどこからか「引っこ抜いて」きた。
「アイリスさん、冗談言ってる場合じゃないですよ。これ、本気でやるんですか」
隣でホログラム・チャートを操作していたカール・シュトレーム(カール)が、引きつった笑いを浮かべる。カールの手元では、サナリィ製の革新的なフレーム構造と、AE社内に転がっている旧世代の規格パーツを無理やり合致させるための、地獄のようなシミュレーションが走っていた。
「やるも何も、これが『シルエット・プロジェクト』の全貌なんだから。……笑っちゃうよね。技術のアナハイムが、新参者のゴミ箱を漁って『ガンダム』の形を整えるなんて」
あたしはキーボードを叩き、バイナリ・データの海に潜る。
サナリィの技術は、美しい。あまりにも合理的で、無駄がない。
一方、あたしたちの手元にあるのは、第1次ネオ・ジオン抗争時代から続く「重厚長大」なパーツの在庫の山だ。
「見てよ、カール。このサナリィ製の小型高出力ジェネレーター。これ一個で、あたしたちがコンペで落選したMSA-0120(120)の熱核反応炉1.5個分の出力を叩き出す計算よ。なのにサイズは半分以下。……魔法か何か使ってるんじゃないの、サナリィの連中は」
120は、18メートル級MSとしての完成形だった。だけど、それはあくまで「旧時代の頂点」でしかなかった。120に搭載された高出力ジェネレーターは、巨体を動かすには十分だったけど、小型機に収まるサイズではなかったのだ。
「そんな魔法の塊に、AE製の使い古されたアクチュエーターを組み込むなんて、F1マシンのエンジンに耕運機のタイヤを履かせるようなもんですよ」
カールの嘆きは正しい。だけど、あたしたちには拒否権なんてない。
その時、奥の応接室の重厚なドアが開き、2事の部長であるオズワルド・ウォーカー(オズワルド)が姿を現した。彼はかつてAEの黄金時代を支えた伝説の技術者だったが、今は政治闘争に敗れた、枯れ木のような老人だ。
「アイリス君。データの解析具合はどうだね」
「最悪です、部長。これ、ただの盗作じゃ済みませんよ。サナリィの設計思想をAEの生産ラインで再現しようとしたら、歩留まりが0.1%もいかない。会社を一つ潰す気ですか?」
あたしは椅子を回転させ、剥き出しの敵意を向けた。設計者としてのプライドが、この「汚れた設計図」をゴミ箱に放り込めと叫んでいる。
「……君の言う通りだ。これは誇り高きアナハイムの仕事ではない」
オズワルドは、力なく笑った。
「だが、アイリス君。今の2事は、本社から『成果を出せなければ即刻閉鎖』と通告されている。このプロジェクトが頓挫すれば、ここにいる老兵たちも、意欲を失った若者たちも、そして君の才能も、すべて宇宙の塵となる」
あたしは言葉を詰まらせた。
「さらに言えば、この工場の下請けで働く数千人の工員とその家族。彼らの生活も、君の描く『一本の線』にかかっているんだ。……汚れた設計図だろうが、偽りのガンダムだろうが、それが彼らの明日を繋ぐ唯一の光なのだよ」
沈黙が執務室を支配した。
ファンの回転音だけが、耳障りに響く。
……卑怯だ。技術者に、技術以外の重荷を背負わせるなんて。
「……わかったわよ。描けばいいんでしょ、描けば」
あたしは再びディスプレイに向き直った。
「ただし、条件があります。ただのコピー品は作りません。サナリィのデータを使って、サナリィの連中が腰を抜かすような、AE流の『化け物』に仕立て直してやるわ」
「頼むよ、アイリス君。君のその傲慢さこそが、今の2事には必要なんだ」
オズワルドが去った後、あたしはカールの端末からシミュレーション結果を奪い取った。
サナリィのスマートな設計図の上に、あたしは無理やり「AEのドブ板根性」を書き加えていく。
「カール、102室の試作パーツの在庫を全部洗って。特に、ヘビーガン(ヘビーガン)のフレームを転用できるか計算して。ヘビーガンは連邦軍の次期主力機候補としてAEが開発した汎用MSだけど、これをベースにサナリィの技術を『外装』として被せるのよ」
ヘビーガンは、サナリィの小型化要求に応えるべくAEが開発した15メートル級MSだ。だけど、その性能はジェネレーター出力不足で「ジェガンの小型版」に留まっている。これに、盗み出したF91の技術を強引に接合する。
「……狂ってますね、アイリスさん」
「最高の褒め言葉よ。見てなさい。サナリィの連中が血を吐いて作った最新技術を、あたしが最高の『ガラクタ』に昇華させてあげるから」
宇宙世紀0111年、12月。
あたしのペン先から、一本の汚れた線が引かれた。
それは、のちにRX-F91――シルエットガンダムと呼ばれることになる、虚飾に満ちた、しかし泥臭い生への執着を秘めた機体の胎動だった。
窓の外では、雪のような塵がフォン・ブラウンの街に降り積もっていた。
あたしたちの戦いは、まだ誰にも知られていない。