機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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シルエットの胎動

「……完璧。少なくとも、見た目だけはね」

 

フォン・ブラウン市の地下深く、アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の特別ハンガー。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、見上げるほど巨大な鉄の塊――いや、あたしたちが心血を注いだ「偽物」を前に、独りごちた。

 

宇宙世紀0112年02月。

ついにその機体は、ロールアウトの日を迎えた。

RX-F91、コードネーム「シルエットガンダム」。

 

この機体は、サナリィ(S.N.R.I.)のガンダムF91を徹底的に模倣すべく開発された試作MSだ。全高15.4メートル。ベースにはRGM-109(ヘビーガン)のフレームを転用しているが、内部には盗用したサナリィ製の小型高出力ジェネレーター技術が詰め込まれている。さらに、肩部にはF91の最大の特徴であるヴェスバー(V.S.B.R.)――「可変速ビーム・ライフル」のデッドコピーさえ装備されていた。

 

「アイリスさん、準備整いました。……正直、心臓が口から出そうです」

カール・シュトレーム(カール)が、タブレットを抱えて震える声で言った。

「情けないこと言わないの。あたしたちが作ったのは、AEの歴史を塗り替える一歩なんだから。……まあ、半分くらいはサナリィの歴史だけど」

 

あたしはコンソールを叩き、テストパイロットを呼び出した。

「トキオ・ランドール(トキオ)君、聞こえる? そっちのステータスはどう?」

 

「……ああ、最高だ。こんなに『中身』が詰まったMSに乗るのは初めてだよ」

コックピットから返ってきたのは、AEのテストパイロットの中でも一際冷静な、トキオの声だった。

彼はあたしたちが設計したこの「寄せ集めの怪物」を飼い慣らすために選ばれた、数少ない「本物」の一人だ。

 

「よし、システム起動。熱核反応炉、点火(イグニッション)」

 

重低音がハンガーに響き渡る。

モニタに表示される数値は、かつてあたしを絶望させたF90のそれに肉薄していた。サナリィのスマートな設計に、マクシミリアン・ベルン(マクシミリアン)たちが執念で仕上げた特注パーツが噛み合い、AEの既存規格の限界を超えたパワーを捻り出している。

 

「RX-F91、発進(テイクオフ)!」

 

ハンガーのゲートが開き、シルエットガンダムが月面の荒野へと躍り出た。

驚異的な加速だ。ヘビーガンのフレームが悲鳴を上げるのを、あたしが組み直した制御OSが無理やり押さえ込んでいる。

 

「素晴らしい……。まるで自分の手足のように動く。アイリス、この機体ならサナリィに勝てるぞ!」

モニタ越しに映るトキオの顔には、高揚感が溢れていた。

スラスターが蒼白い炎を噴き、シルエットガンダムが月面のクレーターを飛び越える。ヴェスバーが展開され、模擬ターゲットを瞬時に蒸発させた。

 

成功だ。あたしたちはやったんだ。

そう確信しかけた、その時だった。

 

「……? 待って。左脚部の油圧系にノイズ。……いや、熱膨張が許容値を超えてる?」

あたしの指が、コンソール上の警告(ワーニング)を捉えた。

サナリィの設計を模倣した小型高出力化は、AE製のパーツに想像以上の負荷をかけていた。

 

「トキオ、一旦停止! 各部の冷却を最大に……!」

「ダメだ、アイリス! スロットルが戻らない! システムがロックされた!」

 

モニタの中で、シルエットガンダムの動きが急激に不自然になった。

サナリィの技術であるMCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)――装甲材そのものに回路を埋め込む技術を、AEの劣悪な精度で再現した報いだ。設計段階では予見できなかった微細な放電現象が、電子回路をショートさせ、機体の制御を奪い始めていた。

 

「嘘……、MCAの干渉? 嘘でしょ、計算は完璧だったはずよ!」

「ぐっ……! 姿勢制御不能! アイリス、緊急停止コードを送れ!」

 

あたしは必死にキーボードを叩いたが、機体からの返答はない。

シルエットガンダムは月面で激しく転倒し、土煙を上げて沈黙した。

 

静寂。

コンソールに表示される「SYSTEM FAILURE」の赤い文字が、あたしの顔を冷たく照らした。

 

「……アイリスさん」

カールの震える声が響く。

あたしは立ち尽くした。サナリィを越えるために盗んだ「正解」は、AEという歪んだ器の中では、ただの「毒」でしかなかった。

 

「胎動」なんて、おこがましかった。

あたしたちが生み出したのは、産声すら上げられない死に損ないの怪物だったんだ。

 

「……撤収作業を始めて。トキオ君を救出するのが先よ」

 

あたしは、脂で汚れた自分の手を見つめた。

設計者としてのプライドを捨てて、汚れた手で掴み取ろうとした栄光は、あまりにも脆く、そして苦い味がした。

 

シルエット・プロジェクト。

その輝かしい出発は、月面の砂に埋もれた「未完の欠陥機」という、最悪の形で幕を開けた。

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