機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世には、設計図のバグより性質の悪い生き物がいる。例えばそう、政治の泥沼に生息する軍人とかね」
フォン・ブラウン市の地下深く、アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の冷え切った廊下。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、手にしたタブレットに映る不穏な機密ファイルをスクロールしながら、心底嫌そうな声を漏らした。
前回のロールアウト試験で無様に転倒し、砂を噛んだRX-F91……シルエットガンダム。機体各部の電子回路がMCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)の不完全な実装によってショートし、制御不能に陥ったあの「怪物」は、今もハンガーでバラバラに解体されて再調整を待っている。
なのに、だ。
「アイリスさん、そんな顔しないでくださいよ。……また胃に穴が空きますよ?」
後ろから、これまた不健康な顔色のカール・シュトレーム(カール)が、デカいダンボールを抱えてついてくる。
「カール、これを見てよ。さっき副部長から回ってきた『特別協力者一覧』。技術畑のあたしたちには一生縁がないと思ってた、アンダーウェッブ(闇のネットワーク)の住人たちの名前がズラリよ」
あたしたちが進めているシルエット・プロジェクト。それは単なるAEの「意地」を形にするための開発計画ではなかった。サナリィ(S.N.R.I.)が提唱した「フォーミュラ計画」によって、連邦軍内でのシェアを失いかけているAE上層部が、軍内部の反サナリィ派閥と結託して仕掛けた、巨大な「利権奪還作戦」だったのだ。
そんなドロドロの陰謀の中心に座っているのが、今日これから面会する男だ。
ハンガーの奥、応接室の重厚なドアを開けると、そこには軍服を脱ぎ捨て、高価なスーツを纏った「野獣」がいた。
「――よう。君がアナハイムの若き天才、アイリス・オーランドか。写真よりずっと、気の強そうな面構えだ」
ソファーに深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべる男。
バズ・ガレムソン(バズ)。
連邦軍特殊部隊の士官であり、軍内部の不正規工作を司る「闇のアンダーウェッブ」のキーマン。そして、後に「クロスボーン・バンガード」との戦いにおいて、シルエットガンダムを自らの欲望のために操ることになる男である。
「お褒めに預かり光栄です、バズ・ガレムソン大尉(バズ)。軍人さんがこんな『産業廃棄物集積所』に何の用ですか? ここは戦場じゃなくて、ただの解体屋ですよ」
あたしはわざとらしく鼻を鳴らして、彼の向かいに座った。
バズはあたしの失礼な態度を気にする風もなく、テーブルに1枚のホログラム・ディスクを置いた。
「戦場になるのさ。近い将来、な。サナリィのF91……あんなスマートな『貴族のマシン』に連邦の未来を預けるのは、現場の人間としては納得がいかなくてね。必要なのは、多少不格好でも圧倒的な火力と、AE社特有の『エグい政治力』だ」
「……そのために、あたしたちの不完全な『偽物』を買い取るつもり?」
「偽物? ハッ、上等じゃないか。サナリィから盗んだ最新技術に、AEの泥臭い火力を上乗せする。……俺はこのプロジェクトに、軍内部の非公式予算を流すことにした。AE上層部の専務とも話はついている」
あたしは戦慄した。
設計者としての純粋な向上心や、2事を守るための切実な願い。そんなものを嘲笑うかのように、シルエットガンダムは「軍閥の政争の具」として定義されようとしていた。
バズが去った後、あたしはハンガーに戻り、解体されたシルエットガンダムの胸部装甲を見上げた。
この狭いコックピット。
以前、テストパイロットのトキオ・ランドール(トキオ)が「中身が詰まっている」と評した空間。
サナリィのF90が目指した機能美とは正反対の、AE流の無理やりな詰め込み設計。ヘビーガン(ヘビーガン)のフレームを無理やり拡張し、盗んだF91のMCA技術をパッチワークのように貼り付けた、歪な骨格。
「……アイリスさん。あの大尉、目が笑ってませんでしたね。あの人は技術なんて見てない。ただの武器として、敵を殺すための道具として、この機体を欲しがってる」
カールの言葉に、あたしは拳を握りしめた。
「わかってるわよ。……でもね、カール。資金がなければ、このプロジェクトは明日にも潰される。バズ大尉の『汚れた金』だろうが、今のあたしたちには命綱なのよ」
あたしはタブレットを叩き、MCAの絶縁処理アルゴリズムを書き換えた。
バズとの結託。それは、あたしが設計者として、さらに深い闇へと踏み込んだことを意味していた。
「見てなさいよ。ただの武器として消費されてたまるもんですか。……バズ大尉も、AE本社の専務も、サナリィの連中も。全員が腰を抜かすような『本物』に、あたしが仕立て直してやるわ」
宇宙世紀0112年03月。
外ではフォン・ブラウンの無機質な重油の匂いが漂っている。
あたしの描くシルエットは、軍部という巨大な闇に飲み込まれながら、より鋭く、より冷徹な輝きを放ち始めていた。