機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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現場の誇り

「……はあ。この世で一番信用できない言葉、知ってる? 『理論上は完璧です』っていう設計者の台詞よ。ええ、もちろんあたしも含めてね」

 

フォン・ブラウン市の地下。アナハイム・エレクトロニクス(AE)第2事業部(2事)の整備ハンガーは、溶接の火花と冷却材の匂いに満ちていた。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、ヘルメットを脱ぎ捨てて、目の前の鉄の巨人を睨みつけた。

 

RX-F91、シルエットガンダム。サナリィ(S.N.R.I.)から盗み出したデータを、AE社内の旧式パーツと強引に接ぎ木した、言わば「禁断のキメラ」だ。

 

「アイリスさん、そんなに怖い顔しないでください。機体に穴が開きますよ」

カール・シュトレーム(カール)が、汚れきったウエスで手を拭きながら苦笑いする。

 

「穴が開くならまだマシよ。この子の『嘘』が、あたしの神経を逆撫でしてるの」

 

あたしは、コックピットから降りてきたばかりの男に視線を移した。

トキオ・ランドール(トキオ)。AEのテストパイロットであり、このじゃじゃ馬を乗りこなせる数少ない人間だ。彼は耐圧服を脱ぎながら、いつも以上に険しい表情でこちらを見ていた。

 

「……アイリス。今日のシミュレーション結果、数値上はどうだった?」

 

「加速性能、出力ともにF90を5%上回ってるわ。サナリィの技術をAE製の大型コンデンサで無理やり増幅させた結果ね。……満足?」

 

トキオは首を横に振った。

「いや。数値はいい。だが、この機体は『嘘』をついている」

 

「嘘?」

 

「ああ。スロットルを開けた瞬間、一瞬だけ反応が遅れる。コンマ数秒の世界だが、その後に来るGが不自然すぎるんだ。……まるで、誰か別の設計者の意図を、機体が無理やり拒絶しているような、そんな気持ちの悪さがある」

 

あたしは言葉に詰まった。

その「気持ち悪さ」の正体は、設計したあたしが一番よく知っている。

 

シルエットガンダムは、サナリィのF91をコピーした機体だ。F91は、機体そのものを電子回路化するMCA(マルチ・コンストラクション・アーマー)を前提に設計されている。MCAは装甲材と複雑な電子機器を一体化させ、機体を劇的に小型・軽量化する技術だ。

 

だけど、あたしたちが作ったRX-F91(シルエットガンダム)のMCAは、サナリィの技術を外見だけ真似た「パッチワーク」に過ぎない。中身はヘビーガン(ヘビーガン)から転用した旧世代のフレームに、盗んだ制御プログラムを強引に流し込んでいる。

 

「……サナリィの設計思想を、AEの製造規格に無理やり落とし込んだ歪みよ。F91のデータは、バイオ・コンピュータの搭載やMEPE(金属剥離現象)を前提とした極限のバランスで成り立っている。それを、あたしたちは『形』だけパクって、AE流の物量で埋めた」

 

あたしは機体の脚部装甲を蹴飛ばした。

「この子はね、トキオ。サナリィの魂を持ったまま、アナハイムの身体を無理やり着せられてるの。……気持ち悪いのは当たり前よ。あたしたちがやってるのは、設計じゃなくて死体の繋ぎ合わせ(フランケンシュタイン)なんだから」

 

トキオは黙って、シルエットガンダムの鈍く光る装甲を見上げた。

 

「……それでも、俺はこの機体で飛ばなきゃならない。サナリィの『正解』を、お前の『執念』で塗り潰すために。そうだろ?」

 

「……相変わらず、嫌な言い方するわね」

 

あたしは背を向けて、コンソールに向かった。

胸の奥がチリチリと焼けるように痛む。設計者としてのプライド。現場の誇り。そんな綺麗な言葉で飾っても、この機体が「盗品」をベースにしている事実は変わらない。

 

サナリィのF90が見せた、あの淀みのない、美しい機動。

それと比較して、目の前のシルエットガンダムはいかにもAEらしい、力任せで、重厚で、そしてどこか歪んでいる。

 

「カール、脚部のアクチュエーターの反応曲線、もう一度見直すわよ。トキオが感じた違和感を、AEの泥臭いプログラムでねじ伏せる。……サナリィの模倣じゃなくて、AEの『欠陥』を武器に変えるのよ」

 

「了解です、アイリスさん。……性格悪い設計(アプローチ)ですね」

 

「最高の褒め言葉よ」

 

あたしたちは、再び脂と火花の海に飛び込んだ。

宇宙世紀0112年04月。

月の地下にあるこの「吹き溜まり」では、今日も偽りのガンダムが、設計者の罪悪感と現場の意地を吸い込んで、より醜く、より力強く育っていた。

 

窓のないハンガーの外では、AE本社の専務たちが、この「嘘つきな機体」を軍に売り込むための真っ黒な計算を始めている。

 

あたしは、自分の汚れた指先を見つめた。

……嘘をついているのは機体じゃない。あたし自身だ。

だけど、その嘘を突き通した先にしか、あたしたちの「逆襲」はないのだから。

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