機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……ほんと、この会社の偉い人たちって、自分たちの机の上が宇宙のすべてだと思ってんじゃないかしら」
フォン・ブラウン市のAE本社ビル、地上100階を超える特別会議室の重い扉を前に、あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、安物のネクタイを締め直すフリをして悪態をついた。
宇宙世紀0112年05月。
今日の議題は「経営戦略会議」。聞こえはいいけど、実態は「金食い虫の第2事業部(2事)をどうやって始末するか」の打ち合わせだ。あたしは技術担当の末席として、データのバックアップ要員という名目で呼び出された。
会議室の中は、高級な葉巻の残り香と、それ以上に鼻をつく「保身」の匂いで満ちていた。
円卓の奥、もっとも上質な椅子に座っているのは、AE本社の専務、アルバート・エルマ(専務)だ。
「――さて、2事の諸君。RX-F91……『シルエットガンダム』の進捗は、一応の成果を見せているようだがね」
専務が冷淡な視線をこちらへ投げる。
シルエットガンダムは、サナリィ(S.N.R.I.)から盗用したデータをベースに、AEの泥臭い技術で無理やり形にした小型モビルスーツ(MS)だ。
「ですが、専務。前回の試験では制御系に重大なエラーが出ております」
あたしの隣で、2事の部長であるオズワルド・ウォーカー(オズワルド)が、いつになく弱気な声で報告する。
「エラー? そんなものは現場の調整不足だろう。私が求めているのは、連邦軍(連邦軍)内部の反サナリィ派に提示できる『確固たる証拠』だ」
専務は手元のホログラム・ディスプレイに、非情な収支報告書を展開した。
「現在のサナリィ優位の状況を覆すには、AEが独自に小型MSの量産体制を整えたという事実が必要だ。2事には、そのための『人身御供』になってもらう。プロジェクトの進捗データを本営の第1事業部(1事)へ統合する。そして……」
専務の口元が、獲物を仕留める獣のように歪んだ。
「第2事業部は、今期末をもって解体。プロジェクト失敗の全責任を負い、データ盗用の疑惑もすべて2事が独断で行ったこととして処理する」
「なっ……!?」
オズワルドの顔が、紙より白くなる。
トカゲの尻尾切り。
本社の上層部は、2事に汚い仕事をすべて押し付け、美味しい成果だけをかっさらって、最後には証拠ごと焼き払うつもりなのだ。
あたしは、テーブルの下で拳を握りしめた。
あたしたちが、脂にまみれ、徹夜を繰り返し、下町の職人たちと意地をぶつけ合って作り上げたあの機体を――あの「偽物のガンダム」を、このおじさんたちは単なる数字の駒としてしか見ていない。
「……専務。一つ伺ってもよろしいでしょうか」
気づけば、あたしは立ち上がっていた。
「アイリス! 控えなさい!」
オズワルドが制止するが、あたしは止まらなかった。
「その『成果』とやらを1事に渡して、まともに動くと思っているんですか? RX-F91は、規格外のパーツと無理なプログラムの綱渡りで成り立っているんです。設計思想を理解していない連中がいじれば、ただの鉄屑ですよ」
専務は面白そうに鼻を鳴らした。
「小娘、技術の価値を決めるのは君ではない。市場と政治だ。……君たち2事の人間には、もう一つだけチャンスを与えてやろう」
専務は一枚の指示書を放り出した。
「次回の性能試験だ。ここで軍の査察官を唸らせるスコアを出せ。そうすれば、解体時期の延期くらいは考えてやろう。……ただし、機体の安全マージンはすべてカットし、限界出力(オーバーリミット)で回せ。壊れても構わん。必要なのは『数字』だ」
会議室を出た後、あたしは壁に思い切り拳をぶつけた。
痛みが走るが、胸の内のムカムカは消えない。
「……アイリスさん」
後を追ってきたカール・シュトレーム(カール)が、沈痛な面持ちで立っていた。
「聞いたわね、カール。あの専務、シルエットガンダムを、そしてトキオ・ランドール(トキオ)を、使い捨ての道具にするつもりよ」
「でも、逆らえば僕たちは明日には無職です。下町の職人さんたちへの支払いも止まってしまう……」
「わかってるわよ! だから……やるしかないんでしょ」
あたしは自分の震える指を隠すように、強く握りしめた。
「最高にエグい設定(パッチ)を組んであげるわ。専務の牙が届かないくらいの、バケモノみたいな数字を叩き出してやる。……でも、その代償を払わされるのは、いつも現場なのよね」
宇宙世紀0112年05月。
月の裏側では、AE本社の汚い欲望が渦巻いている。
あたしは、ハンガーで出番を待つシルエットガンダムを思い浮かべた。
あの機体には、もう「嘘」をついている余裕なんて残されていない。
あたしたちは、牙を剥いた巨大企業という名の怪物から、自分たちの居場所を守るために、さらなる狂気へと足を踏み入れる。
「カール、102室の試験用リミッターを全部外して。明日から、死ぬ気でテストプログラムの書き換えよ。……トキオには、あたしから話すわ」
あたしの声は、冷たい廊下に空虚に響いた。
サナリィとの戦いの裏で、あたしたちの本当の敵は、自分たちが所属する組織そのものになりつつあった。