君は完璧で究極の式神   作:スギ花粉ナイトメア

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3章 少女は呪いの、頂点に挑む
愛と天与と呪いの人形


 

 突然変異呪骸パンダは、実のところ突然変異ではない!!

 

――では真の()()()()とは一体どんなものか。

 

 

 

 2018年9月。東京都立呪術高等専門学校。

 

 

 年季の入った長い廊下を、星野アイは一人で歩いていた。

 特級の問題児の証、白いセーラー服に身を包んで。

 

 アイは半年間の“普通の高校生活”を終え、正式に復帰する手続きのために高専を訪れていた。

 校舎中のそこかしこから呪力の気配がする。

 

「……あー。帰ってきたって感じ」

 

 一般高校は楽しかった。

 授業も、放課後の買い食いも、意味もなくコンビニに寄る時間も。

 だが同時に、アイは自分がそこに長く留まれる人間ではないことも理解していた。

 

 「(クラスのみんなはお別れ会とか開いてくれたし、……あれはもう友達ってことでいいんだよね?)」 

 

 そんなことを考えて一人で微笑んでいると、廊下の角からポニーテールの少女が現れる。

 

「よう」

 

 眼鏡に鍛え上げられた肉体。

 手には長物呪具のケース。

――呪術高専2年、禪院真希。

 

 アイはぱっと表情を明るくする。

 

「あー! 真希ちゃん!」

 

「おう。久しぶりだな。……少しは『人間社会』ってやつを勉強してきたか?」

 

「いやー。難しいけど頑張ってきたよ。空気とか読めないからさ、私。――元気してた?」

 

「変わんねーよ。ぼちぼちだ」

 

『星野アイの母親』は『禪院真希の父親』の妹である。

 つまり二人は従姉妹だった。

 

 アイは男勝りで正々堂々とした真希の気質を好ましく思っていたし、真希も自由奔放なアイの性格を気に入っていた。

 頻繁に連絡を取り合っているわけではない。必要以上に踏み込まない関係が、お互いに心地良かったのだ。

 

 真希は壁に寄りかかりながら、じっとアイを見る。

 

「なぁ、アイ」

 

「んー?」

 

「今更だけどさ。おまえ私に遠慮してるだろ」

 

 アイの足が止まる。

 

「えー? そんなことないよ?」

 

「……下手なごまかしだな。おまえ上層部に私の昇級。推薦しただろ?」

 

 真希は鼻で笑った。

 

「いらねぇよ、そういうの」

 

 アイは数秒黙った。

 そして困ったように頬を掻く。

 

 真希はさっぱりと言った。

 

「私は呪力が()()()()()のこの体で、誰よりも強くなる。そして家のやつらを黙らせてやる」

 

 その声音には迷いがなかった。

 

 呪力をほぼ持たない落ちこぼれ。

 禪院家から出来損ないと蔑まれ続けた少女。

 

 アイはその横顔を見る。

 

 呪術師でなければ人間扱いされない家で育った真希。

 呪術など何の価値もない家で疎まれて育ったアイ。

 

 生まれも境遇も違う。

 だが、互いに“生まれ”というものに振り回されてきた点では、少しだけ似ていた。

 

 真希はハッと何かに気づくと、続けて言った。

 

「……私はとっくに割り切ってるけどさ。真依はどうだかわからない」

 

 そう呟く声は、明朗快活な真希にしては少し、か細かった。

 

「伏黒やおまえと比較されることも多かったからな」

 

 禪院家の人間は、才能で人を見る。

 禪院家の歴史上最も()()とされる相伝術式『十種影法術』を継いだ伏黒恵と星野アイ。

 その二人と本家嫡流の真希と真依は幾度となく比べられてきた。

 

 アイは小さく息を吐く。

 

「……そっか」

 

 短い沈黙。

 そしてアイは、いつもの軽い調子で言った。

 

「ねえ真希ちゃん。お父さん達を倒してさ。禪院家乗っ取る気になったら、私に声かけてよ」

 

「……はぁ?」

 

「全部蹴散らしてあげるから」

 

 真希はキョトンとして、目を瞬かせる。

 

 アイは冗談を言ったみたいに「ふふっ」と笑っていた。

 だが、その発言が冗談では済まないことを、真希は知っている。

 

 この女は禪院家を正面から叩き潰すことができる。

 それができるから()()なのだ。

 

 真希は口角を上げて獰猛に笑った。

 

「頼もしいねぇ。特級術師様は。呼び出すのはそう遠い未来じゃねーぞ?」

 

「いいよ、いつでも。乗っ取ったら引っ越そうよ。何か呪力がジメジメしてて苦手なんだぁ。今の禪院家」

 

「はっ! いいぜ! 港区のタワマン買おう! 新たな呪術界の先陣を切ろう!」

 

 腹を抱えて笑いながら、そんな冗談のような夢を二人は語り合った。そんな時。

 

 ピリリリリ――。

 真希のスマホが鳴った。

 

「……ん?」

 

 真希は画面を見て、わずかに眉をひそめた。

 アイが横から覗き込む。

 

「誰?」

 

「……学長だ」

 

 真希は通話ボタンをタップして電話を受ける。

 夜蛾は突然の連絡を詫びると、こう切り出した。

 

『……断ってくれても構わん。依然として安全は保障できん状態だ。だが、可能性の話だが――お前にも呪力が扱えるかもしれん。協力して貰えないだろうか?』

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 突然変異呪骸パンダには通常の呪骸と異なり三つの核がある。

 この三つの核が互いを観測し、補完することで、呪力を自力で生成し、自立稼働を可能にしているのである。

 そしてこれは純粋に夜蛾の技術によって、()()()に組み込まれたものである。

 しかしこの技術は『自立稼働する呪骸の軍団』に繋がりかねない危険なものであるので、夜蛾は表向きは「パンダは偶然できた突然変異呪骸である」と言い張っているのだった。

 

 呪術高専東京校学長――夜蛾正道は、学長室で頭を抱えていた。

 彼はこの半年、一体の呪骸に振り回されていた――。

 

 夜蛾は彼にとっての娘のような少女――星野アイに頼まれて、この春、3体の呪骸を共同で作った。

 勿論、傀儡呪術学の第一人者である夜蛾と、初心者未満のアイではできることに差があり過ぎる。

 ある程度分業しなければ夜蛾が一人で全部やってしまい、合作にならない。

 

 よって、器となるぬいぐるみの作成と呪術によるプログラミングを夜蛾が担当し、核となる部分に魂を吹き込む作業をアイが担当した。

――娘の思い付きに片手間で付き合ってやろう。

 最初はその程度の考えだったが、いざ作業を始めると熱が入ってしまい、特級案件の自立稼働ギミックまで組み込んでしまった。

 

 そしてアイの精神をベースにして生まれた、個性的な呪骸たち。

 

 1号『ハッピー』

 

 2号『タリス』

 

 夜蛾もアイも大いに喜び、それぞれ知人に贈られた。

 

――問題は三体目で起きた。

 

 それは真の意味での()()()()()()

 白い包帯のような呪符でぐるぐる巻きになったピンクのウサギ。

 アイの「解放欲求」から産まれた、きまぐれウサギちゃんシリーズ3号。

 

――『ディープ』

 

 

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