君は完璧で究極の式神 作:スギ花粉ナイトメア
「せっかく戻ってきた所悪いんだけどさ。このままじゃ、交流会出られないよ。アイ」
「ええー!? 久しぶりに京都の子たちと交流できると思って、ずっと楽しみにしてたのに……!」
「……君が去年やり過ぎたからだよ? 延々と雷落としたり、影に沈めたり。このままじゃ向こうの学長が君の参加を絶対認めない。賭けてもいい」
「そんな……」
「そこでだ。僕にいい考えがある」
眼帯の男――五条悟は不適に笑った。
東京京都姉妹校交流会団体戦『チキチキ呪霊討伐猛レースwith特級!!キラーーン!!』
【ルール説明】
・東京校と京都校はそれぞれのチームに分かれ、指定された区画に放たれた2級呪霊を先に祓ったチームが勝利となる。
・敷地内には3級以下の呪霊も複数おり、日没までに勝負がつかなかった場合、呪霊の討伐数が多いチームが勝利となる。
・双方のチームは任意のタイミングで、特級呪術師を『制限時間付の助っ人』として召喚できる。
・助っ人は定められた制限時間以外でレースに干渉することができない。
・五条悟は京都チームの助っ人として8分間本気で戦い、東京校を妨害する。
・星野アイは東京チームの助っ人として12分間本気で戦い、京都校を妨害する。
・相手チームの殺害、再起不能の怪我を負わせる行為は反則とする。
・2級呪霊が祓われた時点でレースは終了とする。
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2018年9月。呪術高専東京校、京都側ミーティングルームにて。
畳敷きの和室には重苦しい空気が流れていた。
窓の外では
だが室内にいる誰一人として、その景色を眺める余裕はなかった。
「宿儺の器、虎杖悠仁は危険すぎる。手筈通り殺せ。ただタイミングはよく考えるように、良いかの?」
楽巌寺は静かに言った。
その言葉に、部屋の空気がさらに冷える。
「……」
吉野順平の肩がわずかに震えた。
加茂憲紀は冷静に顎へ手を添える。
「初手で五条悟を召喚して東京チームを蹴散らすのが安定でしょう。学長、彼がルールを守る保証は?」
楽巌寺は静かに答える。
「五条と星野とは縛りを結んである。ルール違反はありえんとみてよい」
「いやでも……」
三輪霞が恐る恐る手を上げる。
「あの、これこちら側が有利すぎませんか? 例えば五条悟が3分で星野さんを倒しちゃったら、残り時間で東京チームを全滅させちゃうんじゃ……」
西宮桃が「あー」と気怠そうな声をあげた。
五条悟。現代最強の呪術師。
たった1人だけで術師社会の力関係が崩壊するレベルの存在だ。
対して星野アイも規格外ではある。
だが、それでも“最強”と真正面から比較されるほどではない。
楽巌寺は低く唸る。
「当然そうなるじゃろう。だがこのルールを提案してきたのは五条悟自身じゃ。油断はできんぞ……」
その言葉に真依が眉をひそめた。
「これをむこうが提案してきたってことは、五条悟は星野アイを相当高く評価しているってことよね」
東堂葵が鼻を鳴らす。
「まあ、わからんでもないな」
彼は巨体を壁へ預けたまま続けた。
「乙骨を『挑み甲斐がある高い壁』とするならば、あの女は『底の見えない奈落の落とし穴』と言った所だ」
真依が嫌そうに顔をしかめる。
「何よその例え」
「実際そうだろう」
東堂は真顔だった。
「あれほど空気が読めない女を俺は知らん。去年の交流会はひどいもんだったぞ。……乙骨がかわいく見えたくらいだ」
「……」
順平は黙ったまま俯いている。
虎杖を殺せ。その言葉が頭から離れない。
虎杖悠仁は友人だ。
自分を救ってくれた人間だ。
脳裏に、笑いながら「また映画見ようぜ」と言った虎杖の顔が浮かぶ。
東堂はそんな順平をちらりと見る。
そして露骨につまらなそうに舌打ちした。
「……まぁ、いずれにせよだ。下らん! 勝手にやってろ!」
突然立ち上がる。
「高田ちゃんの散歩番組の時間だ。順平! お前も来い!」
「えっ」
順平が顔を上げた瞬間。
東堂は順平の制服の襟首を掴み、そのままずるずる引きずり始めた。
「ちょ、東堂さん!?」
「女の趣味の悪い連中の謀略策略に、俺たちが付き合ってやる義理はない!」
「いや歩けます! 歩けますから!」
「黙れ!! 高田ちゃんが待っている!!!」
襖が勢いよく開かれ、そのまま二人は廊下へ消えていった。
室内に妙な静寂が残る。
三輪がぽつりと呟く。
「……東堂先輩って、たまにまともですよね」
「極々ごーーーく。たまにね。……順平にはつらい状況だわ」
真依が渋い顔をして言った。
加茂は深く息を吐く。
「――話を戻すぞ? 問題は星野アイだ」
その名前に、全員の表情が引き締まる。
「五条悟が8分。星野アイが12分。星野アイが8分間逃げに徹し、五条悟が打ち漏らした場合。残り4分を我々で引き受けなくてはならない」
西宮が眉をひそめた。
「いやいや、さすがにそれは星野を盛りすぎじゃない? 五条悟よ?」
真依が吐き捨てるように言う。
「でもアイの術式って、禪院家の記録と照らし合わせても意味分かんないのよ? 式神の数もおかしいし」
メカ丸の電子音声が響く。
「さらに星野アイは、通常の十種影法術使いではなイ」
「……魔虚羅」
三輪が小さく呟いた。
空気が張り詰める。
禪院家の秘奥中の秘奥。
歴代術師で誰一人調伏できなかった最強の式神。
それを星野アイは既に使役している。
「加えて“反転術式”や“結界術”の精度も異常ダ。単独継戦能力が高すぎル」
メカ丸が分析を続ける。
「五条悟でも、短時間で無力化できる保証はなイ」
真依は小さく舌打ちした。
「……ほんっと化け物」
楽巌寺は静かに目を閉じる。
「だからこそじゃ」
老いた声が重く響く。
「五条悟と星野アイ。この二人が真正面から激突した混乱に乗じて虎杖悠仁を処分し、長年に渡ってこの国を脅かしてきた、両面宿儺の忌まわしき遺物を何としてでも消し去る!」
誰も反論しない。
楽巌寺は最後に言った。
「各員、心して臨め。今回の交流会は、もはや単なる学生同士の催しではない」
その言葉を最後に、京都校の面々は部屋を出ていく。
最後に残ったメカ丸は、去りゆく仲間たちの背を――じっと見つめていた。