君は完璧で究極の式神   作:スギ花粉ナイトメア

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今回は過去編です。



愛とスパイと恋心

 

 交流会の数日前。東京都立呪術高等専門学校――応接室にて。

 

 

 年季の入ったソファーに腰かけ、三輪霞はガチガチに緊張していた。

 

 隣には究極メカ丸。

 そして対面には空席が二つ。

 

 三輪が壁の時計を見ると、約束の時間をすでに15分過ぎている。

 二人は交流会の事前打ち合わせのため、楽巌寺学長の付き人として、東京校に来ていた。

 

 学長の要件が終わり、せっかくなので東京観光でもと考えていると、メカ丸は他に用事があるらしかった。

 このところ様子がおかしいメカ丸を心配し、三輪も付き合うことにしたのだが――彼女は正直後悔していた。

 

 ガチャリ。

 

 応接室の扉が開く。

 

「いやぁ、遅れて悪いね。ちょっと急用が入ってさ」

 

「……ごめんねー」

 

 入ってきたのは、長身で白髪の男と、眠そうな白いセーラー服の少女。

 

 五条悟と星野アイ。

 まるで災害と災害がタッグを組んで入室してきたようだった。

 三輪は反射的に立ち上がる。

 

「い、いえいえ!! 特級ともなれば大変お忙しいでしょうし!! 全く問題ないです!!」

 

「……こちらから無理を言って呼び出したんダ。十五分程度、責めるほどでもなイ」

 

 メカ丸が静かに言った。

 

「そ? じゃあセーフだね」

 

 五条は悪びれもなくソファーに腰掛ける。

 アイもその隣にどさっと座った。

 

「眠……」

 

「やめてよ、僕まで眠くなる」

 

 三輪は目を泳がせた。

 呪術界最強。

 そして、もう一人の特級。

 

「(サインできるもの、持ってくればよかった。三輪のバカ)」

 

 ミーハーな三輪は内心で興奮していた。

 

 五条はテーブルに肘をつきながらメカ丸を見る。

 

「で? わざわざ二人同時にアポ取ってまで何の用?」

 

 アイは興味なさそうにテーブルへ突っ伏した。

 難しい話は五条に投げるつもりらしい。

 三輪はだんだん居たたまれなくなる。

 

「(コンビニでノートとペン買ってきて外で待ってよう。終わったらサイン貰おう)」

 

「あの……私は本当に場違いだと思うので……その……」

 

 そろそろと立ち上がり、退出しようとした。

 

 しかし。

 

「待テ、三輪」

 

 メカ丸が呼び止める。

 

「お前にも聞いておいてほしイ」

 

「へ?」

 

 三輪はきょとんと振り返る。

 メカ丸は数秒沈黙した。

 機械の身体がわずかに駆動音を鳴らす。

 そして静かに言った。

 

「――俺に、夏油傑から接触があっタ」

 

 応接室の空気が止まった。

 アイがテーブルに伏せていた顔を上げる。

 

「……へぇ」

 

 眠そうな表情が消え、感情が読み取れなくなる。

 五条は逆に、楽しそうに口角を上げた。

 

「ほーう、なるほどね。続けて」

 

 軽い声音だが、眼帯の奥では六眼がメカ丸を凝視している。

 メカ丸――与幸吉(むたこうきち)は静かに語り始めた。

 

「奴は俺に取引を持ち掛けタ」

 

 機械の指を軋ませて、人差し指を立てる。

 

「夏油は呪霊の術式を使って、俺を天与呪縛から解放すル」

 

 三輪が息を呑む。

 メカ丸は続けた。

 

「その代わり、俺は夏油のスパイとして高専の情報を流シ、奴らが高専へ潜入する際の手引きをすル」

 

 彼は淡々と感情を押し殺すように説明する。

 

「ほーん」

 

 五条は頬杖をついたまま聞いている。

 

「俺から追加で出した条件が一つ。“京都校の生徒と教員には危害を加えないこと”」

 

 三輪の顔色が変わった。

 メカ丸は本当にロボットになってしまったように言った。

 

「――俺は、その内容で……提案に乗っタ」

 

 三輪が立ち上がる。

 

「メ、メカ丸!? 何言って――」

 

「……すまない三輪、事実なんダ」

 

 遮る声は静かだった。

 

「俺は夏油側の内通者ダ」

 

 重苦しい静寂が応接室を満たす。

 

「でー?」

 

 五条は続きを促した。

 

「それだけじゃないんでしょ」

 

 メカ丸は頷く。

 

「……俺は奴に縛りを結ぶことを要求しタ」

 

 呪術師同士の契約。縛り。

 それを破れば大きな代償を支払うことになる。

 

「だが夏油は応じなかっタ。――だから理解しタ。奴は最初から約束を守る気がなイ」

 

 メカ丸の声がスピーカー越しでも感じ取れるくらい、か細く震える。

 

「俺は利用されるだけダ」

 

 アイは真偽を見定めるように、メカ丸を見つめながら言う。

 

「そんな時にディープの話を聞いたんだ」

 

「そうダ。星野アイの呪骸が、天与呪縛を断ち切れる可能性を持つと知っタ」

 

 機械の視線が五条へ向く。

 

「それが決め手だっタ――俺は夏油を裏切ル」

 

 三輪が呆然とメカ丸を見る。

 

「二重スパイとして情報を流ス。どんな汚れ仕事でもやル。その代わり――」

 

 機械の拳が震えた。

 

「俺の仲間を保護し、俺を……天与呪縛から解放してほしイ」

 

 五条は数秒黙った。

 それから口元だけで笑みを作る。

 

「ずいぶん身勝手な言い分だね。呪詛師予備軍のペッパー君?」

 

 その一言は鋭かった。

 

「東京校の生徒を売って、自分の周りだけ助けようとしてたやつがさ。もう一回裏切るから助けてくれって?」

 

 三輪が、我が事のように苦しそうに俯く。

 メカ丸は五条の言葉を否定できない。

 

「……あア。俺は、自分の事ばっかりの最低の呪詛師ダ……」

 

 応接室の空気が重く沈むようだった。

 そんな中。

 

「ねえ、何で三輪ちゃん連れてきたの?」

 

 アイが口を開いた。

 

 メカ丸は何も答えず、機械の駆動音だけが小さく響く。

 そしてしばらく間を置いて。

 

「……耐えられなくなっタ」

 

 ぽつりと呟いた。

 

「隠し事を続け、仲間を欺くことニ」

 

 三輪の肩が小さく揺れる。

 

「仲間に――三輪に本当のことを伝えておきたかっタ」

 

 三輪は何も言えない。

 彼はゆっくりと言葉を絞り出す。

 

「俺の本当の目的は、最初から変わっていなイ」

 

 機械の視線が、自分の手のひらへと落ちる。

 

「京都校の皆と――直接、顔を合わせたイ。一緒に歩いて、話して、笑っテ……それだけダ。それだけがどうしても諦められなイ……」

 

 三輪の目から涙が零れた。

 メカ丸の機械の身体が、小刻みに軋む。

 

 誰もすぐには口を開けない――そんな中。

 アイはテーブルに身を乗り出して、正面の三輪をじっと見た。

 

「ねえ三輪ちゃん。どんな人がタイプ?」

 

 唐突にアイが言った。

 

「はい?」

 

 三輪はびくっと肩を跳ねさせる。

 

「……へ? え。ええ!?」

 

 話題の急旋回に、三輪の脳が止まる。

 五条が吹き出した。

 

「ははっ! なに急に恋バナ始めてんの?」

 

「人間性を見極めるには大事なことだって。……東堂くんが」

 

 アイは平然としている。

 三輪は顔を赤くしながら視線を泳がせた。

 

「えぇー!? そ、それは……その……言わなきゃまずい感じですか?」

 

「うん。おしえて」

 

「そりゃ……かっこいい人が好きですけど……」

 

 声がどんどん小さくなる。

 

「でもやっぱり、私にはこの人しかいない! って思えるかどうかが大事ですよね……」

 

 そこまで言ってから、自分が何を口走ったのか理解したらしい。

 

「やだ!! 恥ずかしい!!」

 

 三輪は両手で顔を覆った。

 五条はニヤニヤしながら話の流れを見定めている。

 アイは小さく「ふーん」と頷いた。

 

「あなた本当の名前何だっけ?」

 

 今度はメカ丸へ視線を向ける。

 

「……与だ。与幸吉」

 

「そう。幸吉君はどんな人がタイプ?」

 

 応接室が静まり返る。

 メカ丸はしばらく何も答えなかった。

 機械の身体から、微かな駆動音だけが響く。

 

 三輪が「え、ちょっと、恥ずかしがってる場合じゃないかもよ!メカ丸!」と慌て始めた頃。

 

「……三輪ダ」

 

 メカ丸ははっきりと口にした。

 三輪が石のように固まる中、彼は続けた。

 

「三輪。幸せになってくレ」

 

 機械の指先が震えていた。

 

「どんな形であれ、オマエが幸せなら……俺の願いは叶ったも同然ダ」

 

 沈黙。

 三輪の顔が一瞬で真っ赤になる。

 

「…………へ?」

 

 彼女の脳は完全に処理落ちしていた。

 五条は吹き出しそうになるのを堪えながらも、口を挟まず肩を震わせている。

 アイはメカ丸をじっと見つめた。

 

 そして、ぽつりと言う。

 

「……じゃあ助けるね」

 

 メカ丸の震えが止まった。

 

「幸吉君はさ」

 

 アイは真っ直ぐ言った。

 

「生きて皆に会いたいんでしょ?」

 

 メカ丸は答えない。

 だが、その沈黙が何よりも答えだった。

 アイは五条を見る。

 

「先生、いい? 普通に生きたいって変なことじゃないし。信用できるよ」

 

 五条は肩を竦める。

 

「ま、ディープは別に僕の管轄じゃないし?

 

――でも流石に条件付きかな」

 

 空気が変わる。五条は真剣な顔になっていた。

 

「まず、与幸吉の本体は直ちにディープの影で拘束する」

 

 三輪が息を呑む。

 アイも静かに頷いた。

 

「ディープは“再構築”を始めると長いみたいだから。幸吉はしばらく影の中から出られない。期間は未定。下手すれば数年単位」

 

 五条が続ける。

 

「当然、その間は自由行動不可。監禁に近い扱いになる」

 

 メカ丸は静かに聞いていた。

 

「私からもいいかな?」

 

 アイはソファーの背もたれに再び身を預ける。

 

「三輪ちゃんはディープと一緒にいて?」

 

「へぇ!?」

 

 三輪が素っ頓狂な声を上げる。

 

「三輪ちゃんが幸吉君を監視する」

 

 メカ丸が即座に否定した。

 

「待テ。三輪への負担が大きすぎル」

 

「あと幸吉」

 

 有無を言わさず、五条が遮る。

 

「君、これからは()()()と京都校の生徒を守るんだよ」

 

 眼帯の奥で眼が細まる。

 

「二度と裏切るな。今度こそ本当に()()()になれ」

 

 メカ丸はしばらく沈黙し、小さく呟く。

 

「……三輪にそこまで背負わせるわけには」

 

「私はやります」

 

 三輪は躊躇(ちゅうちょ)なく言った。一同の視線が集まる。

 彼女はまだ少し顔を赤くしながらも、真っ直ぐ前を見ていた。

 

「私、ずっと一緒だったのに……何にも気づけなかったから」

 

 拳を握る。

 

「苦しんでたのも、悩んでたのも、全部。だから責任取ります!」

 

 三輪はぎこちなく笑った。

 

「それに……」

 

 彼女はメカ丸を見る。

 

「いつかメカ丸が普通に歩けて! 普通に学校行けて! みんなで遊べるなら! 私はなんだってできます!」

 

 

――仲間って言ってくれたでしょ? メカ丸。

 

 

 機械の身体からは表情が読み取れない。

――ただ、スピーカーから嗚咽(おえつ)するような音が聞こえた。

 

「じゃ、ディープにお願いしよっか」

 

 アイは今日初めて、心から笑みを浮かべた。

 

――――――――――――――――

 

 

 数日後。

 

 京都の町中を、三輪霞が歩いていた。

 

「うぅ……やっぱり視線感じる……。この年でウサギのぬいぐるみは、ちょっと恥ずかしい」

 

 彼女の腰にはピンク色のウサギが、コアラのようにぴったり抱きついていた。

 ディープはぼーっとした顔で景色を眺めている。

 そして時折。

 

 じぃーっ。

 

 そんな感じで三輪の顔を見上げていた。

 

「え、な、なに?」

 

 ディープは何も答えない。

 ただ、三輪へぎゅっとしがみつく。

 

 そんな彼女の影の奥深くで。

 

 メカ丸の本体――与幸吉は、長い長い眠りについた。

 

 

 

 




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きまぐれうさぎちゃんシリーズ3号
『ディープ』(突然変異)

・夜蛾正道、星野アイの合作。(9割夜蛾)

・背中にキーチェーンがついた小さなピンク兎のぬいぐるみ。(腰やバックにつけるとかわいい)

・鳴かないので鳴き声は不明。

・意図せずに危険な能力を持ってしまい、夜蛾が封印していた。

・穏やかな性格で、ボーっとしている。ちょっとこだわりが強い。

・能力行使があまり好きではないが、頼まれると断れない。(猫ひろしは押しが強かった)

・実はうさぎちゃんシリーズ随一の人格者であることに誰も気づいていない。
(1号は陽キャ風来坊、2号はツンデレお嬢様なのでだいぶ癖が強い)

≪能力≫影兎の契約破壊(シャドウギアスブレイク)

・同意なき契約を破壊する。
・触れることで一時的に契約を凍結する。
・身体欠損の修復や体質の調整が必要な場合は対象者を影の中に保護する。
・その間対象者の意識はディープに宿るが、基本的には何もできない。(特殊な才能があればその限りではない)
・近くの他者の呪力を少しずつ吸い取り、蓄える。
・それを用いて対象者を分解し、適した形に再構築する。
※1猫の両足で半年かかる。※2対象者が呪術師の場合は対象者の呪力も使う。

≪補足≫
・うさぎちゃんシリーズの核は『アイの感情』『脱兎の分霊』『莫大な呪力』で構成される。

・ディープはアイの『解放欲求』を司る。

・3体のうさぎちゃんシリーズはどれだけ離れていても互いの魂を観測し、補完する。


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