君は完璧で究極の式神 作:水際
「鵺! 落として!」
激しい大音響とともに天から稲妻が降り注ぐ。
それも一撃ではない。連続する雷鳴が、執拗なほどに何度も何度も大地を撃ち抜く。
空気が焼け、地面が焦げ、視界が白く染まる。
魔虚羅の全身を、雷撃が包み込んでいた。
「……」
アイは笑顔を崩さないまま、震える指で目元を拭った。
先ほどから玉犬たちが、アイを逃がそうとパーカーを引っ張っていたが、
アイはそれを制止して、雷が落ちる先をじっと見つめる。
そして、
―――ガコン
一度。
さらに
―――ガコン
二度。
その音を聞いた瞬間、アイは理解した。
――もう、鵺の雷撃は通じない。
魔虚羅が上空へ顔を向け、大きく口を開く。
次の瞬間、降り注いでいた雷撃が、その口内へ吸い込まれていった。
「……雷を食べてる。ほんとになんでもありだ」
呟きながらアイは距離を取り、思考を回す。
魔虚羅は全身に電気を帯びて、雷撃を鵺に打ち返し始めた。
鵺はひらひらと躱しているが、すでに防戦一方な様子が伺えた。
しかし、魔虚羅が鵺に気を取られている今が最後のチャンスなのだと、アイには思えた。
改めて気づいたこともある。やはり
半端な攻撃は無意味で、倒しきるにはなるべく規模の大きな攻撃で全身にダメージを与える必要がある。
アイは上空に視線をむけて意識を集中する。
鵺が生み出した日光を遮る雷雲の下に呪力をこめて、影を広げる。
そして十種影法術最大級の式神を、顕現一歩手前の状態で待機させ、更にありったけの呪力を注ぎ込む。
影の内部では濃密な呪力を餌に巨大な質量が膨れ上がり、臨界を迎える。
そして制御不能に陥った超巨大なゾウーー式神『満象』が、雲間から落下した。
さながらそれは巨大な隕石だった。
『『落下のエネルギーは、高度と質量に比例する』
そんな学校で習ったことを思い出したアイは、呪力も気力も、ありったけを絞り出して魔虚羅にぶつけるつもりだった。
脅威度の高い鵺の対処に集中していた魔虚羅は、迫りくる満象を認識し、標的を変えた。
魔虚羅の口が大きく裂けて、砲門のような形状に変化すると、雷光が閃き、満象を稲妻が襲う。
だがそれはビルよりも巨大な象の落下を妨げるには至らなかった。
魔虚羅はそれを悟ると、回避行動をとろうとする。
――その瞬間を、アイは見逃さなかった。
アイは最後の呪力を振り絞り、片手で大蛇の影絵を結ぶ。
「来て、大蛇!!」
白い大蛇の式神が、上空に気を取られた魔虚羅の足元から突如顕現し、魔虚羅の左足を食いちぎる。
体勢が崩れた魔虚羅は迫りくる『“空そのものが落ちてくる”ような巨象』を前に、成すすべもなかった。
圧倒的な質量を背に受け、うつぶせに倒れこむ最強の式神。
轟音とともに、大地が陥没し、クレーターが形成される。
周囲の木々がなぎ倒され、衝撃波が遅れて押し寄せる。
アイはその余波を、影の中に半身を沈めてやり過ごす。そしてその正面で玉犬『白』がアイを庇い、衝撃を受け止める。
さらに、玉犬『黒』が鬼気迫る勢いでクレーターに飛び込むと、ほとんど原型をとどめていない魔虚羅の首を――鋭い爪で切り落とした。
静寂が訪れる。
なにも動く気配はなかった。
アイは影から身を乗り出すと、クレーターの底をのぞき込む。
「……全部ぶつけた。立ち上がらないで……どうか私の力になって」
――祈るようなその言葉は……届かなかった。
―――ガコン
クレーターの底から音がして。
満象を持ち上げながらゆっくりと――
――首のない魔虚羅が、立ち上がる。
圧し潰されたはずの肉体は、すでに修復されている。
そして最後に胴体の断面から新しい顔が、何事もなかったように再生した。
「……は、は」
アイの乾いた笑いが漏れる。
貫牛、鵺、大蛇、満象、
すべて適応されてしまった。玉犬の爪も牙も、もう通らないだろうことがわかる。
魔虚羅が迷いのない動きでアイへと歩を進める。
あらかたの適応を終えて、大元を叩いて終わらせるつもりなのだろう。
もうアイには呪力も気力も残っていない。足元がおぼつかず、ふらふらとよろける。
――ああ。これは、むりだぁ……。
アイは生きることをついに諦めた。
これは勝てない。やっぱり先生の言うことは聞くものだ。
勝ち方があるならだれか教えてほしい。
そんな思考がアイの頭をよぎった。
無論、歴代、誰も答えを出せていない。
つまりこれは、絶対勝てない相手による、理不尽な蹂躙だった。
アイは魔虚羅に挑んだことに後悔はなかった。どうせあの無力感を抱えて、生きていくことなどできなかったのだから。
考えるのは、この先のこと――どう死ぬかだ。
アイは玉犬たちを呼び寄せ、膝をついて抱きしめる。
最後は家族と一緒が良かった。
眩暈を堪えながら、頬を寄せる。
すると、少女の涙ぐんだ声と、少年の怒りの声が脳裏に響く。
「……ごめんね。結局なにも変わらなかった。でもあなた達がいてくれて嬉しい」
アイは朧げな意識の中で、こみ上げてくる暖かな感情に、心地よさを感じる。
――そうか、もしかしたらこの気持ちが……言葉にしないと……
アイの意識はそこで途切れた。
糸が切れたようにアイが崩れ落ちると、
その体は左右の玉犬たちに優しく受け止められる。
すると、アイの全身が玉犬たちと混じりあうようにして影へと沈み、一拍の後、少年の声が影より響く。
―――――領域展開『君は完璧で究極の偶像(アイドル)』
影が広がりあたりを飲み込む。夜空のように黒い外殻が形成され、星がスポットライトのように全天から降り注ぐ。
地面はサイリウムのようにピンク色に光る花畑で覆われていき、中央に円形のステージがせり出す。
魔虚羅は適応する対象を探すように周囲を探るが、この空間に魔虚羅を害するものは何もない。
混乱するように眼の存在しない相貌をステージに向けると、そこには包帯や絆創膏で治療された「痛々しくも巨大なピンクのハート」が浮かび上がっていた。
あれがこの領域の核であると判断した魔虚羅は、巨体からは想像もつかないようなスピードで接近すると、ハートを袈裟懸けに切り捨てようとする。
すると魔虚羅はどういうわけか、このハートが
精神攻撃を受けていると魔虚羅に組み込まれた本能が警戒し、適応を始めようとするも、頭上の法陣は微動だにしない。
これは、そもそも適応すべき攻撃が存在しないことを意味する。まるで理解の及ばない状況に混乱する魔虚羅をよそに、状況が動く。
突如として眼前のハートに無数のナイフが突き立てられたのだ。血を流しながら崩れ落ちるハート。
魔虚羅の根幹たる部分に見知らぬ誰かの慟哭と引き裂かれるような悲しみが流れ込む。
魔虚羅はその白い巨体を小さく小さく丸めて、ピンク色の花畑に、赤子のように倒れた。
すると魔虚羅の足元に、二つの小さな影が立っていた。
魔虚羅の脳裏に二重に重なった声が、重苦しい鐘のように響く。
「「アイを殺した奴は、必ず見つけ出して、苦しめて苦しめて殺してやる」」
一面の花畑は消え去り、魔虚羅は真っ暗な水中に浮かんでいた。呼吸など、はなからしていないのに、息が苦しい。
さらに深い水底のほうから真っ黒い手が複数伸びてきて魔虚羅の上半身を掴む。
魔虚羅は真っ逆さまに水中に沈みながら、身に覚えのない罪悪感が、理不尽なほど膨れ上がっていく。そして。
―――――爆発した。
あとには魔虚羅の足首から先だけが残った。
◇
巨大なスプーンに抉り取られたような、クレーターの傍らで、その少女は眠っていた。
焼け焦げた土の上に横たわるその身体を、二匹の玉犬が囲んでいる。
一匹はせわしなく動き回り、周囲を警戒するように耳を立てている。
もう一匹は彼女の胸元に身体を寄せ、まるで鼓動を確かめるかのようにぴたりと寄り添っている。
――やがて、少女の指先が、わずかに動いた。
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以下設定。
領域展開『君は完璧で究極の偶像(アイドル)』
・アイはこの領域を任意で発動することができない。
・アイはこの領域を認識することができない。
・この領域はアイが意識喪失時に玉犬2体の同意によってのみ発動する。
・この領域に囚われた時点で『アイの敵』はアイを愛する。(必中)
・この領域に顕現する『仮想アイ』が破壊されると、『アイの敵』は自責の念で爆発する。(必中)
・この領域に顕現する『仮想アイ』は一定時間で自壊する。
・この領域に囚われた時点であらゆる防御は無効化される。(必中)
チート式神には理不尽領域をぶつける(ゴリ押し)