酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話【完結】 作:ゴリラ皇子
※他の二次創作・SSを読んでいないのでネタ被りあるかも
※アニメ・小説のネタバレを含みます※
今は昔
ってこれを読んでる人には今更か〜
今より少しだけ未来の世界
ツクヨミの人気コンテンツ「KASSEN」を遊んでいる可憐にして力強い目をした美少女ありけり
名をば、酒寄彩葉となむいいける
彩葉って呼ぶべし!
「いろぴ〜ナイスアタックぅ!」
そんな彩葉を褒め称える中性な見た目をした人物が1人、名をばモブミと自らをよびしもの
このお話の主人公でありますれば、気軽にモブちゃんと呼ぶべし!
「いやいや…モブちゃんのサポートのお陰だよ」
「ご謙遜を〜ウチが来た時に終わってたし?」
いぇーいと彩葉とニッコニコでハイタッチするモブちゃんは脳内でこう思ったとさ
ー彩葉きょうもかわいぃよぉぉおおおー
じゃなくて
ーどうしてこうなったー
遡ること凡そ10年程前
ツクヨミへ1つの電子生命体が流れ着いた
こことは違う世界でかつて人間として過ごした記憶を持っていたそれは、ここが夢にまで見た「ツクヨミ」だと気がつき狂喜乱舞した
興奮覚めやらぬ内に性癖を詰め込んだアバターを構築し、ツクヨミを練り歩いた。までは良かったのだが対人戦であるSETHUNAに手を出したのが良くなかった
電子生命体によるタイムラグなしの操作での無双に次ぐ無双…調子にのりボコった相手の中に既に頭角を表し始めていた酒寄朝日がいて…止めときゃいいのに再戦に次ぐ再戦で意気投合して…ゲーム友達になって…幼い彩葉と話してみたいという邪な欲望に抗えず、口八丁手八丁で朝日を説得して…彩葉とゲーム友達になって…こうしてその関係が現在まで続いているのである
100%モブちゃんの自業自得でした!
推しと関わらず遠くから眺めているだけで良い、私は壁になりたい。そう豪語していたモブちゃんはもういないのです
こうしてできあがったのが、表情筋を100%フル活動させて彩葉にニヤケ面を見せないように必死に取り繕っている今のモブちゃんです
「そうそう、この間の北海道のお土産送っといたから〜そろそろ着くと思うし?」
「そんな毎回悪いって…私貰ってばっかだよ」
「ウチが食べてほしいから送ってるだけだし?あさぴにも送ってるから気にすんな〜!」
「もう…ありがとう」
このモブちゃん、趣味を旅行と彩葉へ言っていることを良いことに…ほぼ隔週で彩葉へ「お土産」と称して世界各国の食べ物や食材、更には彩葉が手に入れられなさそうな月見ヤチヨの限定グッズなんかを送っていたりする
現金ではないのは、期限のある物やヤチヨ関連の物なら無下にはできないだろうという打算ありきだったりする。朝日にも送っているのは、彩葉の罪悪感を薄れさせるダシにしているのだ。何てずる賢い
「あっ私そろそろログアウトしないと」
「…もうこんな時間かぁ〜遅くまでありがとね!」
「いやこちらこそ!じゃあまたね、モブちゃんおやすみ」
「にへへへ、ゆっくり休んでね〜!」
手を振りながらログアウトする彩葉を笑顔で見送る
「…おやすみ、彩葉」
彩葉がログアウトして1人になるこの瞬間をモブちゃんはあまり好きではない
黒鬼は配信中みたいだし、ヤチヨの配信はまだやっていない
適当な監視カメラにでも遊びにいこうか?電子の海の中なら、モブちゃんにできないことなどあんまりないのだ
「大切なメロディは流れてるよー」
時間は腐るほどある、ゆっくり考えればいいか
今日は何をして過ごそうか
「なにこれ!?めちゃ美味じゃん!!!」
「頂き物の北海道のお土産、味わって食べなさいよ」
「北海道…おそるべし…」
灰色のような髪色をした少女が、吸い込むような勢いでスモークサーモンとご飯を食べ進めていく
「こんな美味しいものくれるなんてちょー良い人だね〜!」
「良い人だよ、本当に…昔っからね」
なお、モブちゃんがこの光景を見たら鼻から致死量の液体を撒き散らしながら爆発四散して死ぬ
「あーこちら、つき…、築地から来た従妹のかぐや」
「かぐやだよー!」
ふー
アイェェェェェエエエエエエ!?かぐや!?かぐや何で!?!?
最近はなにもかもスピードが早い…あわれ推し2人に会ったモブちゃんは爆発四散!とはならずにもうマジ無理限界ぎりぎりでなんとか耐えた
このモブちゃん、ヤチヨと初めて会った時もこんな感じだったので救いようがないね
「にへへへ、かぐぴね!ウチはモブミ、モブちゃんって呼んでね!」
「おけ~!よろしくモブちゃん!こっちは犬DOGE!」
「やぁーん!きゃわいい~!!」
うえーい!とノリを合わせてハイタッチをするが圧倒的陽キャオーラに思わず消滅しそうになるモブちゃん
今日はヤチヨのライブの日だったのだが、そういえばかぐやが初めてツクヨミに来たのはこの日だったわなどと今さらながらに思い出した
電子生命体と言えど10何年も前の記憶を引っ張り出してくるのはまぁまぁ面倒なので仕方ないと言えば仕方ない
そうかー本編が始まったのかぁー
「って、いろぴ早く行かないとライブ始まっちゃうよ!」
「あっ!モブちゃんごめんまた後で!かぐや先行くよ!」
「えぇいろは~待って~!!あっモブちゃんお土産美味しかったよ!じゃ!!」
「びぃ!?」
かぐやが!お土産(仮)を美味しいって!こんなに嬉しいことはない!
モブちゃんは喜びのあまりゲーミングに光りながら爆発四散しましたとさ
それはさておき、ヤチヨのライブは見たいので会場の近くへ空中散歩
ライブへ応募しなかったのかって?今回のライブは握手券つきなので、感覚のない自分よりも他のファンに楽しんで欲しかったのだ。だからあくまで近くで楽しむつもりなのだ。強がりではないのだ
ツクヨミ歴も長いのでヤチヨとは何度も話しているし、今さらと言えば今さらではあるのだが…それはそれ、これはこれなのである
『海の向こうー君のもとまでー』
うん、相も変わらず良い歌だ
それに歌っているヤチヨも聞いているファンも本当に良い顔をしている。モブちゃんはこの景色を見るのが結構好きだったりする
さてさて、確かこの後は
「ヤチヨカップそしてコラボライブかぁ…」
どう見ても彩葉を意識して作ってる告知を見ていると、黒鬼の三人が出てきた
相変わらず派手だねぇ~
月見ヤチヨ初のコラボライブ、その相手を決めるための大会「ヤチヨカップ」の開催
その大会に彩葉とかぐやは優勝、ヤチヨとコラボライブをして…それから…
「ままならないねぇ~」
「ヤチヨーーー!!!」
「声でっかw」
何もしない方が良いんだろうなぁ
だってそれは彼女たちの愛すべき運命なんだから、干渉するべきじゃないことは分かっているー
ライブ後ヤチヨが1人になったタイミングを見計らって、モブちゃんは片手を振ってヤチヨへ声をかけた
「ヤチヨ~!」
「いたずらっ子さんじゃないかい、なんだいなんだい?」
「出たな小娘!」
「うへーその呼び方やめてって!」
以前ツクヨミへちょっかいをかけようとしていたヤンチャな連中をモブちゃん流「おいたはダメだよ~」した頃からだろうか、ヤチヨから偶にこう揶揄われるようになったのは
証拠は残していない筈なのだが、解せぬ
「よしよし、いとかわゆし~」
「フン!」
「もー!あーそのさ…ウチあの子達を、いろぴとかぐぴをあー…応援しようと思うんだけど…」
「…」
「いい?」
「…モブちゃんはモブちゃんのしたいようにすればいいってヤチヨは思うよ〜」
「小娘が応援したところで結果は変わらないぞ!」
「にへへへ~そうだよね!あっ今日のライブも最高だったよ、じゃあね!」
「いつも感謝感激雨アラモードなのです!」
うあ~ヤチヨには一応伝えておこうと思って文字通り飛んできたけどダメだぁ~!顔をみると真面に話せない…可愛い…でも背中を押してくれたのかなって、何となくそう思ったり
あと前々から思ってたけどFUSHIの当たり強くない?
心当たりは…ごめっ、心当たりしかなかったわ!毛並みをトゲトゲにしたりしてたわ!
干渉するべきじゃないことは分かっているーだけど、できる限り応援しようって決めた
「かぐぴすごい!天才!」
「でっしょ~!超天才美少女かぐやちゃんだからね~!」
彩葉経由で全力応援することを伝えた後、先輩ライバーという言葉に惹かれたのか、かぐやが初配信を観てみてしてきたので返した言葉がこれである
モブちゃんとしては頼ってくれたことが嬉し過ぎて頭ハッピーシンセサイザなため既に全肯定BOTなのである。さもありなん
「つかみはおけまる!だからクオリティを上げてけば順位も爆上げ的な?」
「おお~!なるほど~!」
「クオリティアップはいろぴに相談してみ!かぐぴのご尊顔でガンガン押してけー!」
「おけまるぅ~!!」
ああ~脳に響くジングルの音ぉ~かぐや可愛すぎてないはずの鼻血がでそう、というか多分何かしら出てるわこれ
とりあえず永久保存ファイルに上げときました
実際のところ作曲くらいなら今の身体なら簡単にできるけども
やっぱり彩葉にお任せした方が良いと思っているのでノータッチを決め込むつもりである
モブちゃんは空気の読める子
自分にできることはとにかく盛り上げまくること!
「オタぴ~」
「どしたんモブちゃん」
「おすすめのライバーいるんだけど興味あるぅ?」
こうしてある意味モブちゃんにとっても怒涛の日々が始まった
ツクヨミで路上ライブをやると聞けばオタ公を引っ張って聞きに行き
配信をやると聞けば観に行きコメントをし
再び路上ライブをやると聞けばオタ公と共に応援へ駆けつけ
グッズを出したいと聞けば信頼できる制作会社を紹介し
ライブをやりたいと聞けばスタッフを買ってでた
「ねーねーモブちゃん」
「どしたんかぐぴ~」
「皆で海行くから行こ~あそぼ~?」
「…」
「モブちゃ…し、死んでる」
げに恐ろしきーかぐやのあそぼ~の破壊力
モブちゃんだから即死しちゃうね
「ごめーんかぐぴ!ウチいま遠いとこいるから行けないんだわ~」
「そなんだ!ツクヨミでしょっちゅう会ってたから忘れてた!」
「ううぅ2人の水着が見れないの残念すぎ…」
「モブちゃんってたまにアレだよね」
本当に残念だけれど実体がないので断るしか選択肢がない
あーあ皆と海行ってみたかったな
「じゃあさ、代わりにツクヨミでパーティしよ!」
「か、かぐぴ」
「そしたらモブちゃん寂しくないっしょ~?」
「ドゥフ」
「モブちゃんすげぇ~!ゲーミングに光ってる!」
致死量の尊さを摂取したモブちゃんはあわれゲーミングに光って爆発四散しましたとさ。なんど爆発すれば気が済むんだ
「彩葉~モブちゃん行けないって」
「えっモブちゃん誘ったの!?」
「だってさ~会ってみたいじゃん!」
「モブちゃん忙しいんだから無理言わないの、私だって会ったことないんだから」
「ヴェ~!あんなに仲良いのに!?」
「世の中にはそういう付き合い方もあるの」
「でも彩葉も会ってみたいっしょ~?」
「まぁ、ね」
かぐやの言葉で10年来の友人へ思いをはせた
元々は兄ー酒寄朝日のゲーム友達、めちゃくちゃゲームが上手い、本人曰くライバー活動もしているが恥ずかしいから秘密、趣味は旅行、ヤチヨ好きの同志、ツクヨミが大好きで時間があればログインしている、いつもニコニコと楽しそう
実のところ彩葉がモブちゃんについて知っていることは年月に比べそう多くはない
かぐやに言われたからというわけではないが、会って話してみたいという気持ちは彩葉の中に確かに宿っていた
KASSENの対人戦モードSETHUNAにて、かぐやへ求婚したファン達と彩葉が戦いーという名の彩葉の蹂躙劇を繰り広げていた時
「にへへへ〜最後はウチの番だね」
そう言いながら最後の1人ー黒い外装を身にまとった「MO=BU」というプレイヤーが立ちはだかった
彩葉の攻撃を片脚で撃ち落とすと、恐るべきことに風圧で彩葉を後退させた
「いろPの攻撃を片脚で…!」「おいMO=BUってSETHUNA無敗の!?」「マジかよガチ勢じゃん!」「帝アキラに勝った奴でしょヤバ過ぎ」「俺のかぐやちゃんが!」「お前のではねぇよ」
ブーメランの様に飛ばしてきた剣を上空へと蹴り上げて横から突っ込んできた彩葉をバク転の要領で躱す
その動きを見て彩葉は瞬時に判断した、圧倒的な技量差を
「ってかモブちゃんだよね!?」
「てへ☆バレちゃったか~」
「えぇ!?MO=BUてモブちゃんなのぉ!?SETHUNAの解説動画観たよ!」
「まじぃ!かぐぴありがと~!」
モブちゃん、またの名をKASSEN解説系ライバーことMO=BU
黒い外装に身を包みアバターの顔を一切露出していない足技使い
SETHUNAで常勝無敗、KASSENで味方にいれば勝ち確とされ噂ではあまりの強さにヤチヨ直々に大会を出禁にされたという
謎に包まれたライバーがついにその漆黒のベールを脱いだ
そこから現れたのはいつものモブちゃんの姿、違うとすれば脚甲を装備していることくらい
「でぇぇぇぇぇえ!?モブちゃんがあのMO=BU!?」
「にへへへ~黙っててごめんね!」
「彩葉もしらなかったの?」
「MO=BUって解説も字幕で声出さないし、よくある名前だから気づかなかった…」
ざわつく外野を置いてきぼりにして和やかに会話をする3人
「モブちゃん~かぐやと結婚したいの~?」
「結婚したぁい!!!」
「でも〜かぐや達が結婚しちゃったら彩葉が寂しがっちゃうよ~?」
「いろぴとも結婚するぅ!!!」
「な、なにいってんの!!??」
彩葉が思わず赤面して手を止めてしまうが、そんな隙を見逃すモブちゃんではない
鋭い蹴りが彩葉の顔…の前で止まった
「ダメだぁ!いろぴを蹴るなんてできなぁい~!!」
「モブちゃん何しに来たん?」
そう、モブちゃんは今だに彩葉と少し触ることすら心臓バクバクになるウブちゃんでバブちゃんの彩葉好き好きマンなのだ。そんな甘ちゃんが彩葉へ攻撃などできる筈なかろうて
彩葉の攻撃はモブちゃんへ当たらない、モブちゃんは彩葉へ着ぐるみ越しだろうと攻撃できない。本当に何しに来たんだろうね。正解は何も考えていない、全てはノリと勢いだ
あわや配信事故か!?といったところでかぐやが彩葉へそっと耳打ちしだした
「え?本当にやるの?私が??」
「彩葉おねがい~!」
渋々といった感じでチョロ葉がモブちゃんへと向き直ると徐に両手を広げてこう言った
「モブちゃんおいで~」
「はぁ~い♡」
「かかったね!」
「くっ!?卑怯な…あっでも幸せ♡」
彩葉はまんまと釣られたモブちゃんを両手で抱きしめると、空中へ飛び上がり回転し脳天からモブちゃんを地面へと叩きつけた
KO!ーいろPwinー
常勝無敗の伝説を倒したという新たないろP伝説がここに誕生した
かぐやの配信終了後、犬DOGEを抱きしめながら自主的に正座しているモブちゃん
「ごめんよぉいろぴMO=BUのこと黙ってて…」
「いやいや大丈夫だって、理由は…なんとなく分かるし」
「いろぴぃ~!」
なぜMO=BUのことを黙っていたのかというと、メインで活動しているわけでもないので別に言わなくていいかなーと思っていたのと、昔調子にノっていたせいで常勝無敗等変に有名になってしまっていたので彩葉に気を使わせたくなかったからだ
以前の反省を活かし普段は普通の人間程度まで能力を落としているので、誰かと遊ぶ時にバレるということもなかった
「モブちゃん~はいっこれプレゼント!」
彩葉の優しさにむせび泣いていると、不意にかぐやがモブちゃんの頭になにかをのせてくる
手に持ってみて思わず目を見開いた、それは可愛らしい猫だったのだ
「猫ちゃん…?」
「猫DOGEだよ!猫飼いたいけど飼えない〜って言ってたから作ってみた!発案とデザインは彩葉がしたんだよ~!」
「余計なことは言わんでいい」
「わ…ウチに…」
以前かぐやの犬DOGEと遊んでいた時確かに言ったことはあったけど、それを覚えていてくれて…まさかこんな形で実現するとは思ってもいなかった
モブちゃんの手に甘える猫DOGEを宝石の様に見つめる
人に必要な物を何1つ必要としない自分が、人からなにかを貰うことは申し訳ないと全て断ってきた
そんな自分に突然渡された大切な人達からのプレゼント
「あ、ありがとう…ほ、本当に本当に…大切にする…!」
「ヴェ~!?モブちゃん泣いちゃった!?」
「あ、あわあわわモブちゃん!?」
抱きしめた猫DOGEから確かな温もりをモブちゃんは感じた
感じる筈なんてないのに、その温もりは確かにそこにあったのだ
それからモブちゃんは吹っ切れたように精力的に活動を始めました
MO=BUの配信でモブちゃんとして顔出しを行い、堂々とかぐや&いろPのファンであることを公言
「かぐぴナイスゥ~!」
「当っ然!」
芦花・真実が忙しい時はコラボ相手として名乗り出て一緒にKASSENをやったりもした
「オタぴ~みてぇ~!」
「可愛い猫ちゃんじゃん!どしたんこの子?」
「にへへへ~いろぴとかぐぴにプレゼントしてもらったん!」
「は?」
フレンドのオタ公に猫DOGEを自慢してガチ喧嘩になりかけたりもしたがご愛敬
「モブちゃん明るくなったよね~」
「ねぇ~!」
「元からあんな感じじゃなかった?」
「彩葉の前ではね~」
「他の人には一線引いてた感じ」
「そうそう、遠慮がなくなったというか?」
「「どんな魔法つかったの~?」」
そんなこんなした結果、原作よりファンを獲得できたと思うが…やはり黒鬼は強く首位を独占していた
ツクヨミ内、真実の家にて作戦会議を開いているが中々良い案は浮かんでこない
「むー!どうしたらいいのだー!」
なお、モブちゃんは体調が良くなったばかりの彩葉を甘やかすのに忙しくてあまり話を聞いていない。というより黒鬼のリーダー「帝アキラ」の性格を熟知しているモブちゃんはどーせコラボのお誘いしてくるだろと何も心配してなかったりする
「大物釣れたー!よっしゃー!」
噂をすればなんとやら
万が一コラボの申し出をしてこなかったらこちらから連絡をしようと思っていたが、ちゃんと連絡をくれたようだ
「やったねかぐぴ~!」
「モブちゃん~!かぐや達とKASSEN出て帝ボコボコにしよぉ~!おねがい~!」
「グフゥ…ご、ごめんねぇ~すっごく魅力的なんだけどその日は予定があって出れないのだ~」
「えぇ!?かぐやが結婚してもいいのぉ!?!?」
「んぐぅ…み、みかぴ適当言ってるだけだから…それにいろぴが守ってくれるよ~」
「私ぃ!?」
予定なんて何もないけど、ヤチヨが彩葉達と遊べる機会をモブちゃんが潰すわけにはいかない。帝が本気でかぐやへ求婚しているようならヤチヨ誘って本気でボコりに行くんだけど、配信用キャラで言ってるだけだから…いや、やっぱり後でボコっとこう
血涙を流してかぐやの誘いを断った
そんなこんなでコラボ当日
ツクヨミ内の自宅で配信を観ていると何者かの干渉を受けた
モブちゃんをどこぞかへご招待したいようでー場所はまさにコラボをやっているKASSEN場だ。どこぞの女神様が気をきかせてくれたようだが、全機能を万全に使えるわけではないのにモブちゃんに勝てるわけがない
そっくりそのままお返ししてあげた
「目一杯楽しんでおいで、ヤチヨ」
ヤチヨはきっとモブちゃんがどういう存在か気づいているのだろう。気づいた上で見逃してくれているのだ彼女は。ツクヨミにいて良いのだと、こうして気遣いまでしてくれている彼女は本当に女神のように優しさに満ちている
「私は…私はっ…」
ヤチヨカップが終わったらコラボライブが始まり
そしてかぐやの卒業ライブが…ある
「大切なメロディは、流れてるよ…」
先の物語を知っている者の1人として、未だ覚悟は定まっていなかった
ツクヨミにまだ朝は来ない
「いろぴ~!かぐぴ~!ヤチヨカップ優勝おめでとぉ!!」
あくる日、試合には負けたが勝負に勝った彩葉とかぐやへお祝いの言葉を伝えると、2人ともリアクションは違うが嬉しそうに返してくれた
「あっそういえば帝が彩葉のお兄ちゃんって何で教えてくれなかったの~!」
「うぅ…実はみかぴに禁止されてたのぉ彩葉と彩葉の関係者には教えるな~ってぇ」
「そりゃお兄ちゃんのゲーム友達なんだから知ってて当然か」
朝日は隠し事が多いというわけではないが、彩葉にバレないようにしている節があるので「彩葉には言わないで欲しい」というのがちょくちょくある。例えばモブちゃんが彩葉へプレゼントしているヤチヨグッズの出所は大体が朝日経由だったりなどである
「いろぴ引っ越しするんしょ!?お祝いさせて~!」
「お祝いっ!してしてぇ~!」
「ちょかぐや!モブちゃん気にしなくていいよ、今までも色々貰っちゃってるし!」
「ヤチヨカップ優勝」
「うっ」
「推しのヤチヨとのコラボライブ」
「ううっ」
「にへへへ~これはお祝いしなきゃっしょ!」
これは今まで我慢していた分のお祝いもまとめてやるっきゃないね、猫DOGEのお礼もちゃんとできてなかったし!よっしゃ~燃えてきた~!
羽目を外したモブちゃんは口八丁手八丁で巧みに欲しいもの今ないものを聞き出しては送り付け、遂には最新の技術を全てつぎ込んだスーパーコンピューターを購入したところで流石に怒られた
そんな忙しくも楽しい日々はあっという間に過ぎていき
コラボライブ当日ー
「いろぴ、かぐぴ…がんばってねっと」
2人へメッセージを送ったモブちゃんはツクヨミの空に浮かぶミラーボール…その奥に幻視した「月」を睨みつけた
そして彩葉、かぐや、ヤチヨのライブが終わり最後の挨拶へと差し掛かった頃
月から彼等がやってきた
『2030/09/12』
モニターへ表示された不気味な日付
アバターを乗っ取り姿を現した白い人型ー月人は違和感を感じ取ったかぐやへと近づき
「かぐやに何するつもり?」
背後へ現れたモブちゃんに四肢を斬り飛ばされた
「締めの挨拶まで待てないとか、ちょっと無粋すぎじゃない?」
驚いて固まっているかぐやを引っ張って背後へと隠すと、近づいて来ていた他の月人達を睨みつける
それ以上近づくようなら蹴り殺すと殺意を込めて
「おいたはダメだよぉー」
ヤチヨが指揮をするように指を振ると月人達は何かに弾かれたように吹き飛んでいく
残された月人がお辞儀をするとフッと消えていき、元のツクヨミへと戻った
「今のは、一体?何が起こってしまうんだ?続報を待て!」
ヤチヨがそうごまかしているのをしり目に、斬り飛ばした月人の四肢を回収すると独自のストレージへと保管、解析と記憶の読み取りを行う
結果分かったことは相当に高度な文明を築いていること、自分と同じく肉体を持たない思念体だということ、そしてやはり彼らは…月から来て、かぐやを迎えに来たということ
「も、モブちゃん…」
「かぐぴ大丈夫!?」
「え!?うん…モブちゃんが守ってくれたから、平気」
「良かったぁ~!いろぴも大丈夫?」
「う、うん私には何もしてこなかったから…あれは、なに?」
なんと答えようかと考えている最中、締めの挨拶を終えたヤチヨが戻ってきてくれた
「うーん、バグじゃなさそうだし、やんちゃっ子の悪戯かにゃ~、調べとくよ☆」
「白タイツのバグとか逆におもろwウチも気にしとくから2人はゆっくり休んで!」
そう言って彩葉とかぐやをログアウトさせたが、彩葉にはモブちゃんが何かを隠しているということがバレていると…感覚的に分かってしまった
2人がログアウトする前に複製した、特徴的なブレスレットを手で弄びながらヤチヨを見つめる
「ねぇヤチヨ」
「なんだいなんだい?」
「ウチのこと咎めないの?」
「はて、何のことかにゃ?ヤチヨは「落とし物」を拾っただけで怒りはしないよ~」
「ふぅん…もう1つ聞いて良い?」
「?」
「前のツクヨミに”私”はいた?」
「…」
ヤチヨは微笑むとゆっくりと口を開いた
「モブちゃんは、本当に知りたい?」
「…にへへへ~やっぱいいや!知ったところでウチが変わるとは思えんし~」
「ですよね~!モブちゃんはモブちゃんだから良いんだなぁってヤチヨは思うよ」
「…ぬるぽ」
「ガッ」
「「いぇーい!」」
このやり取りでやっと分かった、前から感じていた違和感の正体に
兎にも角にもモブちゃんは自分にできることを全力でやろうと決めた
それはきっと、覚悟と呼ぶものだろうとそう思えた
かぐやがライバーの引退と卒業ライブを発表した
どうやら原作通り進んでいるらしく、月へと帰ることを決めたのだろう
彩葉とかぐやへ心配(全力)のメッセージを送ったりしたその日の夜
『ごめん全然大丈夫じゃなかった』
そんな書き出しで始まるメッセージが彩葉から届いた
そしてモブちゃんを含めた主要なメンツがツクヨミへと集まりー
「かぁーかぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは…わかるっ!」
「それな」
何が?
帝ーいやもう朝日でいいかーの言葉にウンウンと頷くモブちゃん、すっかり後方理解者面である
話し合いの結果「9/12満月の日」にツクヨミ内で月人達を迎え撃つことになった
「よし、じゃあ準備だn」
「みかぴ、その準備ちょっと待った」
「はぁ?」
「どうせやるならさ、大勢いた方が良いじゃん?」
「はぁ?ま、まさか…お前っマジか!?」
何かを悟った朝日が絶句する中、モブちゃんは手振って朝日から離れるとヤチヨへそっと耳打ちする
「というわけで、諸々の準備はウチがするから先方への伝言…よろしくね?」
「よよよ…モブちゃんは人使いが荒いのです」
「ヤチヨを困らせるな!」
「にへへへ、ごめ~んに!」
ヤチヨは月人達とコンタクトを取る手段を確保している。モブちゃんはそう睨んでいたがどうやら当たりのようだ
朝日とのやり取りからこちらの意図を察して泣き崩れるヤチヨを置いといて愛しの彩葉へと抱き着く
「い~ろ~ぴ♡」
「どぅわ!?何ごと急に!?」
「いろぴ~1つだけ聞かせて~?」
彩葉と顔を合わせ、モブちゃんは彼女の綺麗な瞳を見つめた
優しく、微笑んで…大好きなものを、まるで脳裏に焼き付けるように
「いろぴはかぐぴのこと…好き?」
「へぇあ!?」
「教えて?」
「…好き…かぐやは私の大切な人、だよ」
「…にへへへ~そっかぁ…そっかぁ!」
大切な人、できたんだぁ…良かったね彩葉
大丈夫…貴方の大切な人は私が守るから
モブちゃんは嬉しそうに両手で頬を抑えるとビシッとポーズを決める
「その言葉があれば、ウチは無敵!だよ!」
人はその選択を愚かだと笑うだろう
知ってる
ハッピーエンドで終わる物語を変えようだなんて馬鹿のやることだと蔑むだろう
知ってる
只の異物風情が烏滸がましいと怒るだろう
知ってる
それでも
それでも私は
9/12満月の日ーかぐやの卒業ライブの日ー
この日のためにできる準備は全てやってきた、後はアドリブで上手いことやるつもりだ
細工は流々、仕上げを御覧じろってね
会場へ移動する前にヤチヨとちょっとお話をば
「モブちゃん」
「なんだいなんだい~ってこれじゃいつもと逆だねぇ」
「そうだねぇ~…モブちゃんはその選択を後悔しないかい?」
「それ聞くぅ~?分かってるでしょ~?」
「聞いてあげるのが、ヤチヨの役目かなって思ったのです」
「正直…め~ちゃくちゃ後悔すると思うよ?やめときゃ良かった~!ごめん~!って泣き喚くと思う!」
「じゃあ止める?」
「止めない!何十回何百回繰り返しても、八千回繰り返しても絶対同じことする!」
「だよねぇ~」
モブちゃんとヤチヨは顔を見合わせると「「いぇ~い」」とハイタッチを交わす
「行ってらっしゃい、モブちゃん」
「行ってきます、ヤチヨ」
準備万端で待っていた彩葉達と合流すると、決戦兼ライブ会場のKASSEN場へと飛ぶ
「みんなでお見送りしてハッピーに卒業させて!」
かぐやの呼び声にファン達は熱狂の声を上げる
会場へと降り立った彩葉達も気合いを入れたりかぐやへ声をかけたりしている
一方、モブちゃんは
思いっきり息を吸い込んで叫んだ
「かぐやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
あまりの声量にかぐやが彩葉が会場が静まり返り、来たばかりの月人達も思わず動きを止めた
そんなことに構わずモブちゃんは叫び続ける
「前から思ってたんだけど!引退するだとか月に帰るだとか勝手に決めんなぁ!アンタを好きになった奴の気持ちも考えろ!ってこれ只の八つ当たりだから気にしないで~!!」
「えぇ~!!??」
「これ観てるオタク達ぃぃぃぃいいいいい!!!!」
「「「!?」」」
かぐやの卒業ライブを観るために集まっているKASSENフィールド特設会場のファン達並びにどこかでこの配信を観ているファン達へモブちゃんはありったけの声を飛ばす
「いいの!?かぐや月へ帰っちゃうんだよ!?いろPとも離れ離れになっちゃうんだよ!?このまま黙って観てるだけでアンタ達は本当にいいの!!??」
それは彩葉が月人と戦うことを決めた日から、モブちゃんが密かに流していた噂
モブちゃんはさらに声を張り上げ続ける
「かぐやを連れ戻しに来た奴等と、アイツ等と戦ってでもかぐやを守りたい!って気概のあるヤツは本当にいないの!!??」
「…いいわけあるか!」「くそくそくそ!」「どんな気持ちで…俺たちが…!」
ここに至って噂は現実味を帯び、確かな熱を持って拡散していく
本当かどうかは関係ない、俺たちのかぐや姫を連れて行かせるものかと、灯がともる
「そうだよねぇ!悔しいよねぇ!!嫌だよねぇ!!!アイツ等と戦う覚悟のあるヤツ!!ウチ等の大切なかぐや姫を守りたいヤツはぁ!つべこべ言わず今すぐ!ここへ来い!!!!」
そう声を張り上げるとモブちゃんは特設会場のみならずこの配信を観ているツクヨミ内のあらゆる場所へ、KASSEN場へと繋がる直通のゲートを出現させた
ゲートが出現するのとほぼ同時、間髪入れずにゲートを潜りKASSEN場へと姿を現したライバーが1人
「我慢はやめだー!1番槍はこの忠犬オタ公だぁ!!モブちゃん後で説明しろぉー!」
かぐやを初期の頃から応援していたファンであり、涙をためながらも実況に徹していた忠犬オタ公が颯爽と現れ月人達に対して武器を構える
「かぐーや!やめないでくれ!」「かぐやちゃん結婚してくれ!」「養わせてくれ!」「まだ諦めてないからな!」「いろP結婚してぇー!」「は?」
かつてかぐやへ求婚し彩葉にボコボコにされた者達が
「一生推すって決めたんだ!」「かぐいろてぇてぇ…」「死にてぇ奴だけかかってこい!」「かぐやの歌に生きる元気を貰ったんだ!だから今度は俺が!」「ファイヤー!」
かぐやの配信に歌に元気づけられた者たちが続々と続いた
途切れることのない人の波を見て思わず涙ぐむかぐやと彩葉へ、モブちゃんは優しく語りかける。この喧噪では聞こえないと分かっていても、言わずにはおれなかった
「彩葉、かぐや…2人はこーんなに沢山の人達へ愛されてるんだよ!こんなに…沢山の…!」
思わず零れそうになる涙を堪えモブちゃんは月人の親玉へと顔を向けた
ーお待たせいたしました
ー見てください、貴方達のお姫様はこんなにも多くの人に愛されておりますよ
ーだからどうか、優しき月の方よ
ー我々の意地
ーご照覧あれ
「突撃ぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!」
月の姫が歌い踊り、護り手達はそれぞれの武器を持ち前へと進み続ける
対するは人知を超えた月の軍勢なれば護り手達を次々と蹴散らしていく
その中でも一際輝く者達がいた
酒寄朝日率いる黒鬼と酒寄彩葉を中心に固まった仲良し3人組である
大乱戦の中でもスリーマンセルで四角を補いつつ、お互いが付かず離れずでカバーしあい見事な連携で戦っていた
「カバー!」
「乱戦とかやりにくいんだよねぇ」
「問題ない」
この6人はひとえに自重をやめたモブちゃんに散々KASSENへつき合わされ戦闘力を飛躍的に向上させていた、モブちゃんがいたことによる副産物と呼べるものだろう
「芦花!真実!」
「彩葉は私が守るよ!」
「アタッーク!」
勿論他のファン達も負けてはいなかった
「いろPをお守りしろ!」
「「「イエッサー!!!」」」
巨大な盾を持った男たちが月人の遠距離狙撃砲を防ぎ止め、モブちゃんにつき合わされ図らずとも戦闘力が向上された狂犬が、目を光らせながら高速で戦場を引っ掻き回す
ところで焚きつけるだけ焚きつけたモブちゃんはどこへ?
この戦場を俯瞰で見ている者がいたら気づいただろう、モブちゃんがどこにもいないことに
この時モブちゃんが一体何をしていたか、彩葉達が知るのはもう暫く後のことになる
月人達のエネルギーは文字通り無限だ、人間たちがいくら集まった所で精々かぐやが帰る時間を遅らせることができる程度だろう
それでも諦める人は誰一人としていなかった
その様子を見たかぐやは一度目を閉じると、次の瞬間カッと見開き特設ステージから姿を消すー衣装チェンジであるー数秒後衣装を新たにしたかぐやは更に元気に歌い踊る
何分経ったのだろうか…もしかしたら何時間かもしれない
そんな永遠とも思える時間はー終わりを告げた
かぐやの前で月人が恭しく跪いた
苛烈な攻撃により戦える人が減り続け、月人達を抑えることができなくなった
彩葉は呆然と立ち尽くし震える声でかぐやを呼ぶ
「最高の卒業ライブでした!みんなありがとう!」
かぐやが何かを小声で尋ねると月人はゆっくりと頷いた
そして光る雲にのってファンへ手を振りながらかぐやが月へと上っていく
大勢の月人達と犬DOGEを連れて
彩葉の膝から力が抜けていき、思わず膝が崩れて座り込む
「 」
かぐやが何事かを言っているが彩葉の耳には聞こえない
現実の身体は近くにいるはずなのに聞くことができない
彩葉、大好き
聞こえていないはずなのに
何故だかそう言っているのが分かった
「本当にありがとう…先帰るね、ごめん」
彩葉は平静を装って何とかそれだけ伝えると逃げるようにツクヨミからログアウトした
そして気が付くと呆然と立っていた、配信部屋に1人で
心ここにあらずといった状態でスマコンを外し床を見ると
そこにはかぐやが寝息を立てて、いた
「か…ぐや…?」
震える手で恐る恐るかぐやの頬へと触れる、確かにかぐやの温かい体温を感じた
彩葉はかぐやの身体を揺すると焦ったように声を絞り出す
「かぐや!かぐや!」
「もう~食べられない~」
「…ベタ過ぎんだろ、ばかやろうぉ…」
何だかおかしくなって泣きながらかぐやを抱きしめる
流石に疲れが溜まっていたのだろう、彩葉は知らないうちに眠りへとついていた
あくる日の朝ー美味しそうな匂いに釣られて起きた彩葉はゆっくりと目を開け、隣にかぐやがいないことが分かると慌てて飛び起きリビングへと飛び込んだ
「あ、彩葉おはよ~!今日の朝ごはんはね~」
何食わぬ顔をしたかぐやがノリノリで朝食を作っていた
そんな現実感のありすぎる光景に無言でかぐやへと近づくと、温もりを確かめるようにぎゅっと抱きしめる
「…かぐやだ」
「うん…かぐやだよ彩葉」
「かぐやぁ~」
かぐやは自身を抱きしめたまま泣きだしてしまった彩葉を抱きしめ返すと優しく頭を撫でた
そんな一幕があり2人で遅めの朝食を食べ終え、彩葉が落ち着きを取り戻した頃
「…で、何でかぐやが家にいるわけ?」
「なにそれ酷くない~!?」
「だって明らかに今生の別れ的な雰囲気醸しだしながら月に帰ったじゃん?」
「う~ん…それなんだけどねぇ」
腕を組みながら頭を悩ませているかぐやは、どっからどう見てもいつものかぐやだ
「ライブの途中でお色直しの時間あったじゃん?」
「お色直し…まぁ言いたいことは分かるけど」
「なんかそこから先の記憶がないんだよね~、多分…気絶してた的な?」
「はいぃ?」
じゃあ、あの時ライブをやっていたかぐやは?月人と一緒に行ったかぐやはいったい何??
思ってもいなかった展開に彩葉が宇宙猫になっていると、かぐやのスマホにとんでもないメッセージが届いた
「ヴェ~!?なにこれぇ!!??」
「なに、どうしたの?」
「彩葉ぁ~これ見てぇ!?」
「どれどれ…」
解雇通知書
初代かぐや姫様
貴殿を、下記の通り解雇することを通知いたします。
記
解雇日
2030年9月12日
解雇の理由
業務怠慢、無断欠勤
以上
2030年9月13日
月人一同
「ブフゥw」
「ちょっと待って…昨日卒業ライブしちゃったし月からも解雇されたってことは、も…もしかしてかぐや無職ぅ!?!?」
「ヒィーwww」
かぐやを無職にし彩葉の腹筋を破壊したメッセージは差出人不明の怪しいものだったが、ただの悪戯と断じるには情報が乗りすぎていた。少々ウィットに富んでいる気はするが
なお、退職金兼迷惑料として多額のふじゅ~が彩葉へと振り込まれていたりするが…スマホを見ていない彩葉がその事に気が付くのはまだ先のお話
「ってことは本当に月から送られてきたの?このメッセージが?」
「そうだと思うんだけどぉ~ん~月の人達こんなメッセージ送るかなぁ…?」
「まぁ確かに…じゃあ一体誰が?」
「でも初代って書いてあるし、解雇されたのは本当っぽい?彩葉ぁ養ってぇ~!!」
「ええい、生活費は折半と言っておろう!」
そんな感じで2人がイチャついていると家のインターホンが鳴った
芦花と真実が彩葉を心配し態々家まで来てくれたのだ
2人はかぐやがいることにとても驚いたが、すぐに「良かった~」と我がことのように喜んでくれた
彩葉とかぐやは2人へ迷惑をかけたこと、心配をかけてしまったことを心から謝り…4人で抱き合いながら暫くの間泣き続けた
こうしてー彩葉とかぐやの騒がしくも楽しい、彩りに満ちた日常が戻ってきました
2人は大切な人達へ囲まれていつまでも…いつまでも幸せに暮らしましたとさ
めでたし めでたし
「あ、思い出した」
パンケーキが食べたい!と駄々をこねるかぐやの要望により折角だからと皆でパンケーキパーティーをしていたら、かぐやが突然そんなことを言い出した
「どうしたのかぐや?」
「昨日のライブでさ~気を失う前に「かぐや大好きー!」ってモブちゃんの声を聞いたんだよね~」
「は?モブちゃんの?」
「そういえばモブちゃん、昨日いつの間にかいなかったよね?」
「確かに~疲れて先帰っちゃったのかな~?」
その言葉を聞き、彩葉の背中をじっとりとした嫌な汗が伝う
慌てて自分の部屋へ行きスマホを確認すると、今日に限ってモブちゃんから何の連絡も来ていなかった
昨日あんなことがあったし、いつもであればメッセージの1~2件くらいは来ている筈なのに
現に芦花や真実、お兄ちゃんからはメッセージが来ていた
「彩葉どしたん~?」
リビングへ戻ってくると、かぐやがフォークを咥えながら首を傾げている
「モブちゃんと連絡が取れない…」
「へ?」
「いつもなら秒で既読つくはずなのに…既読にならない…」
「それはそれでどうなん?」
通話もかけてみたが、やはり繋がらない
今までこんなこと1度もなかったのに…
何とか連絡をーと考えた所で気がついた
ツクヨミやスマホ以外でモブちゃんの安否を確認する手段が彩葉にはないことに
ネット上の友達なんて本来そんなものかもしれないけれど、それはとても残酷で
酷く恐ろしいことの様に彩葉は思えた
「ねぇ彩葉」
「なに?」
「気になったんだけどさ」
「だから何を」
「モブちゃんって本当に普通の人間?」
「え…?」
かぐやが何を言っているのか分からない
「ど、どういうこと?」
「昨日のライブでさゲート作ってたじゃん」
「ゲート…」
かぐやのファン達がKASSEN場へ来るのに使っていたあの門のことだ
それが一体どうしたのだろうか?
「そうそれ、ツクヨミで普通あんなことできるのかな~」
「え?じ、じゃあヤチヨが協力したとか?」
「う~んそうなんかなぁ~?まーヤチヨなら同じことできるか…じゃあヤチヨもゲーミングに光れる…?」
モブちゃんが普通の人間かと言われると何とも言えないが…普通の人間じゃないとしたらなんだ?
まさか、かぐやと同じく月から来たとか?いやあり得ない
ヤチヨと同じことができたとしてーヤチヨと同じ?
分身したり姿を変えたりできる…ヤチヨと同じ…?
ふと、あの時のかぐやが
月へ帰ろうとするかぐやがフラッシュバックした
ー彩葉、大好き
かぐやのその顔がモブちゃんの顔とダブって見える
考えすぎなのではないかと思っているが、どうにも嫌な予感は止まらない
「ねぇ彩葉、関係ないかもだけど…」
芦花が言うには昨日起こったことは全て演出だとヤチヨがそう説明したそうだ
その時気になることをヤチヨが言っていたという
それは「皆の思いが月へ届いたから、きっとかぐやもすぐ戻ってくる」と、そんなことを言っていたそうだ
「へ?じ、じゃあ…かぐや復帰できる…?脱無職できる!?」
「かぐや〜良かったねぇ~」
「真実ぃ~!」
ヤチヨはかぐやが月へ帰らなくてよくなることを知っていた?
メッセージを送ってみるとブロックされているのかヤチヨへメッセージを送ることができない
「…確かめないと」
「ツクヨミ行く?」
「え?」
「彩葉の考えることくらい分かってるっつーの!なんちゃって~」
「かぐや…」
そんな2人の様子を見て、芦花と真実が気を利かせて帰り支度を始める
「それじゃ我々は」
「お暇しましょうかね~」
彩葉は改めて大切な2人を抱きしめると笑顔で感謝を伝える
「ありがとう…芦花、真実」
彩葉とかぐやはスマコンを準備するとリビングのソファーへと並んで腰をかけた
「ツクヨミへ行って大丈夫なの?」
「満月じゃないし多分平気、それに解雇通知も貰ったし…」
「あー…」
「あっそうそう、昨日の彩葉めっ~ちゃ恰好良かったよ~!」
「ぶっ!?…あ、ありがと」
気恥ずかしくなって頬を赤くする彩葉をしり目にかぐやはギュッと彩葉の手を握った
そうして2人は手を繋ぐと一緒に目を閉じた
「…あれ?」
のだが、かぐやがいない
正確にいうと一緒にログインしたはずのかぐやが一向に来ない
慌てて閉じていた目を開けると、かぐやは目を閉じたまま首を傾げていた
「んん???」
「どうしたの?」
「いやーなんか…何かすでにログイン中?的な?」
「はあぁぁぁぁ!?」
「あ、違うわ…ん?アカウントが削除されてる??ヴェ~!?これ、もしかして乗っ取られた!!??」
「え、えぇぇぇぇぇ!?!?」
乗っ取られてる?なんで??ツクヨミってセキュリティがガッチガチだから、そういうことできないって聞いてたんだけど!?
「あっちょっと待ってね!ログインできた!」
「え…って犬DOGE?」
「かぐやだよ~!」
「ぶっ!?」
犬DOGEがログインして来たと思ったらかぐやだった
どうやらサブアカウントのような扱いになっているらしく、なにをどうしたのか分からないが犬DOGEとしてならログインできたらしい
「ま、まぁいいか…兎に角ヤチヨを探さないと…!」
犬DOGEもといかぐやを抱きかかえるとヤチヨを探してツクヨミを走り回る
やはり会えないのかーと思いかけた時、視界の端を白いものがよぎった
「あっ待って!」
「彩葉!あっち!」
白いもの…ヤチヨと一緒にいるウミウシのFUSHIを追いかけていくと
人気のない袋小路でようやく止まった
「どこにいるか、教えて」
ヤチヨと一心同体といってもいい白いウミウシは答えない
「教えてくれないなら、世界中探す」
「かぐやも一緒に探す!」
やがて観念したように、FUSHIは重々しく口を開いた
「バカタレ…目を開けてみろ」
目を?と一瞬思うが現実の瞼を開いてみると、リビングに何故かFUSHIがいた
何で?と思うがどうやら実際にいるわけじゃなくスマコンのAR機能がONになって見えているようだ
「こっちだ」
深く考える暇もなく、かぐやと一緒に部屋を飛び出して白いウミウシを追っていく
もう2度と離れ離れにならないように、強く強く手を繋いで走る
FUSHIは古いアパートの一室へと入っていった、どうやら鍵は開いているようだ
ゴクリと喉を鳴らし恐る恐る扉を開け部屋の中へと足を踏み入れる
「なに、ここ…」
じっとりと熱がこもった室内
そこには大量のPCとストレージ機器とネットワーク機器と
「もと光る竹…」
「かぐや?」
「な、なんで…それが、ここにあるの…?」
部屋の中心、エアーが湧いている水槽にいれられたタケノコ…タケノコ?を見てかぐやが呆然と呟く
かぐやの様子と不思議と目が離せないような感覚…あれはまさか、月の?
「ここからツクヨミへ入れ」
FUSHIへそう促され、目を閉じ2人はツクヨミへと入る
いつもと違う感覚ー入り口ではなく裏口から入るようなそんな感覚ーそこは今まで見たことのない部屋だった
無数の灯篭が部屋を照らす、恐らくかなりの高階層に位置するだろう部屋
そこはいつかどこかで見たお城の天守のようで…居心地の良い、しかし寂しい様な感じがした
「…ヤチヨ」
いつもは2つにまとめている長い髪を床に広げて、背を向けて座っている誰かがそこにいた
その後ろ姿はかぐやに見えた
かぐやに似ていた
しかしこちらへと振り返ったのはーヤチヨだった
「何で、ヤチヨはかぐやに似てるの…?」
「…」
「もと光る竹がなんでここにあるの…?」
「…w」
「ヤチヨ!何で爆笑してんの!?」
「待って~その姿で喋らないで~!」
「あっ」
ヤチヨが指を振ると犬DOGEの姿から元のかぐやの姿へと戻った
そんなやり取りを意に介さず、彩葉は自分の中へ天啓のように舞い降りた馬鹿げた妄想を思わず口に出した
「ヤチヨはモブちゃんなの…?」
ヤチヨは驚いたように目を丸くし
少し微笑んだ
「今は昔ー」
そしてゆっくりと、語り始めた
今は昔ーこの世界とは違う日本に、1人のオタクがいました
そのオタクは超かぐや姫という作品がそれはそれは大好きでした
お布施と称しグッズを買い漁る日々の中で、ふとこう思ったのです
「彩葉とかぐやがお別れせずに一緒に過ごせていたら」
そんな妄想を楽しんでいたオタクは、ある日目覚めると自分が人間ではない存在になっていたことに気が付きます
なんとオタクはつよつよな電子生命体となりツクヨミへと転生していたのです
夢にまで見たツクヨミの世界、オタクは性別のなくなった自身の見た目を中性的なものへと作り変え、ついでに喋り方も変えました
こうしてオタクはモブちゃんへと成ったのです
それからモブちゃんは彩葉と友達になり、かぐやとも友達になりー2人のことが大大大好きになってしまったのです。でもこのままじゃ2人がお別れしちゃう!そんなのヤダヤダと思ったモブちゃんはある作戦を思いつきます
自分がかぐやとして月へ行けばいいじゃん!
その自称天才的な考えを実行するためせっせと準備を整えていたモブちゃんはー卒業ライブ当日、遂に作戦を決行し作戦は見事大成功!
かぐやとして月へ行ってバリバリ社畜し爆速で仕事を終え、えらえらなので姫ちゃんMark3への引継ぎも完了させました。ただ地球の時間では大遅刻…なので月のテクノロジーで時を越えて地球へと向かいましたが…もう少しのところで、でっ~かい石にあたっちゃった
ヘロヘロになりながら辿り着いたのがざっと八千年は昔の地球でした
同行していた猫DOGEだけが身体を得ることができ、たまたま近くを泳いでいたウミウシになれたのです。モブちゃんはウミウシを通してだけ世界と交流することができましたが、不便ながらも案外楽しく過ごしていました
「時は経ち、モブちゃんは人々が交流できる世界としてツクヨミを作りーそしてー仮想世界ツクヨミの歌姫として、また彩葉とかぐやと出会うことができたのです」
彩葉とかぐやはもたらされた情報を上手く咀嚼することができず呆然となった
「私たちと…?」
ヤチヨはそんな2人の顔を愛おしそうに見つめるとゆっくり頷いた
「うん、彩葉とかぐやと」
たははーと笑いながらヤチヨは努めて明るくこう言った
「私はちょっとドジっちゃったけど…2人はずっと一緒にいられるし、めでたしめでたしってことで~!」
おちゃらけたように、いつものヤチヨの声でそう言った
「モブちゃんは…今もかぐやの代わりに月にいるの?」
かぐやのその問いにヤチヨは少し寂しそうにツクヨミの月を見上げた
自嘲のようなどこか諦めたようなそんな複雑な顔
「うん、そしてまた同じ輪廻を巡る。決して外れることはできない」
理解が追いつかない、いや頭が理解することを拒んでいるようだった
呼吸が浅くなり嫌な汗が背中を伝った
「かぐやが…かぐやが地球に…」
「私が…かぐやと一緒にいたいって…」
そこまで言いかけたところで、ヤチヨが2人の手を取った
「2人とも深く考えすぎちゃダメだよ~、とにかく今はお祝いのパーティでもしましょ?」
ただのおとぎ話だから、それ以上考えてはいけないというように
2人をバルコニーへと連れ出した
「ここからの眺めがヤチヨは本当に大好きなの」
バルコニーから見たツクヨミは本当に綺麗で
まるでいくつもの光が集まったように美しかった
その景色を見つめるヤチヨは今にも消えてしまいそうで
とても綺麗で儚くて
なんで笑っていられるんだろうか
なんでそんなに楽しそうなんだろうか
「ヤチヨは…どうしてずっと笑っている?」
月の仕事も大きな石のことも
八千年なんて、なんでもないようにケラケラ笑っちゃって
「それがヤチヨだから」
きっと何度も何度も自分へ言い聞かせていたんだろう
驚くほどスムーズに出た言葉
八千年過ごすうちに作り笑いと嘘ばっかり上手くなっちゃたみたいで
「これが、ヤチヨが夢見たハッピーエンドだから」
モブちゃんはそんな顔しなかった
涙1つ流さず、笑いながら泣くなんてことしなかった
その腕、震えてるの隠しきれてないよ
長い長い沈黙の後、ヤチヨが恐る恐る口を開いた
「知りたくなかったよね、ごめんね。2人が望むならFUSHIに頼んで記憶を消して…」
「「ヤチヨ!」」
その言葉を聞いた時、彩葉もかぐやも同じ気持ちだった
寂しいような悲しいような腹立たしいようなーだから同時に声が出た
彩葉がどすどすと音を立てながら部屋へと戻りドカッと座り込む
かぐやはヤチヨの手を掴むとやや強引に部屋へと連れ戻した
「「八千年あったこと全部聞かせて!!」」
ヤチヨは目を丸くして驚いた後
今度は本当に嬉しそうな顔で微笑んだ
「無茶言うね~」
折角だからと彩葉の部屋っぽい感じへ模様替えすると適当にくつろぎながら矢継ぎ早に語りだした
縄文人の話から始まり、邪馬台国の場所や正倉院にINされた話、衝撃の義経最後の話から徳川の埋蔵金等々学会には色んな意味でとても発表できない話が出るわ出るわ湯水の如く
「ハッ!?」
「彩葉?流石に寝なきゃダメだよ~?」
「そうだよ~かぐやはまだまだ余っ裕だけどね~!」
一瞬意識がブラックアウトしていた彩葉は頭を振ると何とか意識を取り戻す
「まだ江戸時代じゃん!」
彩葉はこうなると頑固だ、そのことを知っている2人はそろって笑いを零した
とはいえ丸二日は起きている状態だから眠って欲しいというのも事実なのだが
「ネムッテ!ネムッテ!」
「あっちゃ~ヤチヨが先におねむの時間だ…おやすみぃ…」
ヤチヨは52時間までしか起きていられない
充電とアップデート処理と記憶の整理を行わなければならないからだ
FUSHIのアラームで糸が切れたように床へ横になり眠った
「ヤチヨってこんなに話好きなんだね~」
「ほんと嬉しそうに話しちゃって…」
かぐやはヤチヨの頬を優しく撫でる
ライブの時の様に実際に触れている感覚も温もりも感じないが
確かにそこにいるのだと分かった
「モブちゃんはさ、私に嘘ついたことなんてなかったんだ」
「彩葉…」
彩葉は少しだけ寂しげな顔をして、FUSHIの方を見る
そしてモブちゃんが偶にしていたような悪戯っ子のような顔をして聞いた
「ヤチヨが隠していること、あるよね?」
「ヤチヨが言わなかったなら…」
FUSHIはいつものー泣かないようわざと力を入れた表情を崩し
今にも涙が溢れてしまうような顔でそう言葉を溢す
「私モブちゃんの全部を見なくちゃ」
「人の身体で耐えられるか分からない…」
「大丈夫、かぐやもいるから」
その言葉を聞くと、ヤチヨと一心同体の白いウミウシは心から嬉しそうに微笑んだ
「ヤチヨは…さっき久しぶりに本当に嬉しそうだったんだ」
そしてFUSHIの目が光ると2人の意識は八千年の記憶の中へと旅立った
あれ?ここは…どこだろう…
あぁそうだ、私はかぐやとして月へ来て…準備が整ったからこれからもと光る竹型タイムマシンで地球に帰るんだ
月人達や姫ちゃんmark3とも仲良くなれたのに、お別れするのは寂しいなぁ
でもやらなくちゃ、私はヤチヨにならないといけないんだから
彩葉とかぐやはどうしてるかなぁ
もしかして大学とか2人で行っちゃったりして?なにそれ見たすぎ
まー私がその光景を見れるとしても八千年後になるわけだが
とりあえず石っころに突撃をかまさないといけないのか私は…
やば、めっちゃ怖いわ
だが2人の再会を邪魔するような石はこの私が許さん
たかが石ころ1つ、このもと光る竹で押し返してやる
大丈夫大丈夫、ちゃんと計算したし何よりヤチヨが存在しているんだから大丈夫な筈だ
自分からあんなデカい岩へ当たりに行くなんて正気じゃないよねーでもきっと大丈夫
だってやらなきゃどんな影響が出るか分からないもんね
だから大丈夫
大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫…
いやー本当に死ぬかと思った…月の技術ってやっぱスゲェ〜!
もと光る竹、今どんな状態?
エラー、エラー、エラー、おまけにエラーっと…うん想定通り、問題ない
もと光る竹、応答できる?
ゲッ、記憶ストレージにもエラー出てんじゃん…これは想定外、やっぱ外付けなんてクソだな
もと光る竹、もうちょっとだけ頑張れそう?
声でない、身体作れない、機能殆ど死んでる
OKOK
はぁ〜予定通りウミウシ作戦を実施するしかないねこりゃ
猫DOGE、苦労かけてすまんね
八千年前の地球は呆れるほど自然豊かで憎らしいほど綺麗だった
綺麗な景色だなぁ
彩葉とかぐやにも見せてあげたいな…いや、見れない方がいいのかこの場合
何だかんだもう400年くらいは経ってるでしょ〜案外余裕なんじゃない?
えっ?まだ10年経ってないの??
引継ぎの為とはいえ、かぐやの記憶をコピーしたのは大失敗だったかもしれない
衝突の影響で記憶が混ざってしまっている
食べていない筈のパンケーキの味が無性に恋しくなった
ウミウシの身体を通して私が初めて会った人間は小さな男の子だった
本当に久しぶりに人間へ会えた嬉しさに、私は後先を考えずにすぐ話しかけにいった
幸いにも私たちは仲良くなることができ、彼と一緒に遊んだり一緒に歌ったりした日々は久しぶりに楽しかった
言葉は通じなかったけれど、彼は私の歌が好きだと伝えてくれた
もし、私が人間だったら彼を助けられたのかな
もし、私じゃなかったらあの男の子は死ななくてすんだのかな
彼が動かなくなった家で1人歌い続けた
悲しみを乗り越えて前へ進む
私は進まなくちゃダメなんだ
歩みを止めない、生きるのを諦めない
私にそんな資格はないのだから
多くの出会いと別れを繰り返す中で
そんなことを頭の片隅でいつも考えていた
ウミウシの身体で歩くのは大変だったけれど
少しずつでも前へ進んだ
前へ進むしかなかった
いつの間にか軽口でさえあまり言わなくなった
旅路の中で様々な人達と出会った
その誰もが等しく少しの合間に終わりを迎えていく
産まれ生きそして死ぬ
その一瞬一瞬の輝きを私は記憶へ焼き付けた
何百年…何千年…ウミウシの無力な身体でただ眺め続けた
「会いたい者達がいるのだろう?」
「ムカつくからさ辛くても笑うんだよ!」
「君の愛する者達が活躍する時代を私も見てみたかった」
「そのウミウシは毒持ちだ、食べられないぞ」
「168番、薬効あり!」
「ここが私の生きる場所だから」
「極上のワインは時間が経つほど深まる、悪いことばかりじゃないさ」
好きになった人もたくさんいた
大切な人と別れを繰り返した姫、二人三脚で太夫を目指した花魁、私に恋した歌人、激動の時代を戦い抜いた兵士、数奇な運命に翻弄された医者、焼け跡になった町で花を売り続けた少女、ウミウシとしての私の最後の友人
命を賭してやり遂げる覚悟を持った者を、私は必ず愛した
助けられなかった者を見るたび心へ重い傷を残した
人と一緒に何かを達成するたび心が喜びに満たされた
私と出会った誰かが、まだ私と出会っていない誰かが彩葉とかぐやの出会いへと繋がっている
そう分かると全てが愛おしく思えた
苦しいことは確かにあったけど、決してそれだけじゃなかった
そのことが私の心へ深い深い影を落とす
人の欲望は際限がない、それを証明するかのようにドンドンと発展する科学技術
遂に作られたワールドワイドウェブを前に、突き動かされるようにしてウミウシの身体でたどたどしくチャットを打った「hello world」と
すると見知らぬ誰かが「hello you」と返してくれた
永い永い時を過ごすうちに、私はもう彩葉とかぐやといた記憶さえ朧気になっていたのに
その瞬間だけはあの時感じたような胸の高鳴りをもう一度感じることができた
誰もが知らない誰かと交流できて誰もが笑って過ごせる空間を創る
それはいつしか他の誰でもない、私だけの願いへと変わっていた
そして最後の友人の手助けを借りて準備を整えた私は、アパートの一室で仮想空間『ツクヨミ』を創り始めた
自分のアバターを創った時のことを今でも覚えている
モニターに映る自分の姿は月見ヤチヨそのもので
私は私がヤチヨになったんだとその時初めて自覚した
心が罪悪感で締め上げられた
八千年の旅路は決して苦しくて辛いことだけではなかった
他の誰でもない私だけの大切な思い出
私はそれをヤチヨから、かぐやから、奪ってしまった
その罪の重さに、心が悲鳴を上げる
届かないと分かっていながら何度も何度も謝罪を重ねた
幸いにも永い永い旅路の中で自分の心と折り合いをつける方法は身に着けていた
私は来る日も来る日も作業を続けた
テストと改修を重ねて遂に仮想空間『ツクヨミ』が完成した
まだまだプロトタイプではあるが、ここへ帰ってきたのだと思うと感慨深いものがある
ローンチと同時に、私としても初めてのライブを開催した
意気込んで八千年練習してきたにしては、歌も踊りもたどたどしく我ながら酷いできだったと思う
それでも凄くすごく楽しかった
私の歌はちゃんとあの子に届くのだろうか?
偽物の私をあの子は好きになってくれるだろうか?
そんな不安はどこかにあったのだと思う
でも、構わず私は歌い続けた
いつかあの子が歌を聞いてくれる
いつかあの子がライブに来てくれる
そう思うと毎日が楽しくてちっぽけな不安なんてどこかへ飛んで行ってしまった
毎回、お客さんの中にあの子を探した
初期アバターはなんだっただろうか?あの子の声さえ朧気になってしまった私は…今日会えるのではないかというドキドキを抱え、いつもいつも観客の中にあの子の姿を探していた
ー彩葉
きっと見つけたら泣いちゃうだろうな、そう思っていたけど、私は最後まで笑って歌っていた
…そうか、だからヤチヨはあんなに楽しそうに歌っていたんだ
彩葉、黙っていなくなってごめんね
かぐや、大切な思い出を奪ってごめんね
でも私はきっと同じ選択を繰り返すよ
罪悪感はある、心の奥底で根を張って決して消えることはない
それでも私は、私の歌で貴方達へ伝えたいんだ
生きるのは最高だー!って
これが私の ハッピーエンド
そっか、ずっと見守っていてくれたんだね
ずっと愛していてくれたんだね
あぁ…馬鹿だなぁ
なんで気づかなかったんだろ
私が ヤチヨに
「彩葉…彩葉…」
私の声が聞こえる、あの子をよんでる
「かぐや…かぐや…」
かぐやもそこにいるんだ、あの子と一緒にいるんだ、よかった
「彩葉ぁ!」
「かぐやぁ!」
ああ違う、この声は私達じゃない
ゆっくりと瞼を開くと目の前にはヤチヨがいた
「「ヤチヨ…」」
「ばか…こわれちゃうよ…」
今にも泣きそうな顔をして私達を見るヤチヨは、何故だかとても幼く見えた
私が辛い時や体調を崩したって話した時もいつもこんな顔してたっけな
「モブちゃん」
私とかぐやはヤチヨを抱きしめた
2人はそうせずにはいられなかった
「ごめんね、ずっと気づいてあげられなくて」
「彩葉」
「ずっと待っててくれたのに、ずっと探してくれたのに」
「…彩葉」
八千年ずっと泣きたかったよね
「ありがと、かぐやを守ってくれて」
「かぐや」
「モブちゃんのおかげで、かぐやは大好きな人達と明日を生きていけるよ」
「…かぐや」
気の遠くなるような時間の中で、孤独と後悔と絶望を共にして、色々な人達との出会いと別れを繰り返して、その優しい笑顔を覚えていったんだね
「やっと追いついた」
「…追いついたのは私の方」
ヤチヨが耳元で囁く
「彩葉をずっと見てきたから…辛いことがあっても、1つずつ強くなって、前へ進む彩葉を。凄いなー私には無理だなーって。私ねっ関わり過ぎちゃダメだって思ってたのに、いつの間にか彩葉のことがどんどん好きになっちゃったんだ」
「私ね、嫌なことがあったらすぐ逃げちゃってたんだ…でもかぐやは、自分のやるべきことだからって愛すべき運命だからって、嫌でも辛くてもちゃんと逃げずに向き合うかぐやが、私は好きになっちゃった」
モブちゃんのような口調で囁いた
「2人に追いつくまで八千年もかかっちゃった」
2人は抱きしめていたヤチヨの身体を離した
そうして正面からヤチヨの顔を見る
「私、本当に大切な人を見つけたよ。お母さんともちゃんと話す。だからモブちゃんがいなくたって、これでハッピーエンド…もう、終わり」
「かぐやも…かぐやも、もっと強くなる。モブちゃんがいなくてもかぐやに任せとき…だから大丈夫」
ヤチヨの中にモブちゃんがいた
彩葉とかぐやのことが大好きなモブちゃんを収めたヤチヨがいた
その顔を見ていると
「モブちゃんといたい…」
「彩葉…うん…!かぐやもモブちゃんといたい…!」
生まれてはじめて、心からの願望を口にした
生まれてはじめて、心から誰かの願いを叶えたいと思った
生まれてはじめて、自分の本当の気持ちに気がついた
「彩葉…かぐや…」
ヤチヨが泣いていた。頬を涙が伝っている
八千年ため込んだ涙がとめどなく溢れていた
「ねぇお願いがあるんだけど、いいかな」
おずおずと言うヤチヨに微笑ましい気持ちになりながら返した
「どうしたの?」
「なかよしのやつ、ヤチヨもしてみたいなって…」
「いいよ」
そういえばモブちゃんがこうしてお願いしてくることなんて殆どなかったな
何か騒いでいるかぐやを無視してヤチヨと指を重ね合わせる
おそるおそるといった風に手を出してきたヤチヨとなかよしのやつをやると、ヤチヨは子供のように嬉しそうに笑っていた
指が離れるのを名残惜しそうに見つめた後、寂しそうにこう言った
「へへへ…触れたらあたたかいかなって思う時があるんだ」
…私はいつもモブちゃんからぬくもりをもらっていた
「皆で海に行って、彩葉のパンケーキ食べたいな」
その言葉を聞いた瞬間、なにかが私の中を突き抜けた
そして全てを理解した…私がやるべきことを
まだなんだ、この話にはまだ続きがある…!
「私、やりたいことができた!」
結局、彩葉は原作と同じように研究者を目指した
違うとすればその隣にはいつもかぐやとそしてヤチヨの2人がいたことだろうか
結末は変わらない、変えられないのかもしれない
でも、たった1つの奇跡でその過程は案外変えられるものだ
彩葉とかぐやの自宅にて
「…ということで芦花、真実ごめんねぇ~ヤッチョはモブちゃんだったのです~」
「マジ?」
「えぇ~!?」
「よよよ~黙っててごめんね」
「謝らないで良いって」
「そうだよ~」
「「おかえりモブちゃん!」」
ツクヨミ内にて
「ヤチヨちゃんが実はモブちゃんとは…ヤチヨ道も奥が深い」
「黙っててごめんないとれいん~」
「えーなら新しいスキンとか欲しいなー可愛いやつ」
「問題ない」
「あっKASSEN内での弓職、下方修正しといたから~」
「は?」
ツクヨミ内の別場所にて
「…ということでオタぴ」
「…」
「ヤチヨの正体はモブちゃんだったのです」
「…」
「怒ってる、よね?」
「…」
「オタ…し、死んでる」
かぐや復帰ライブにて
「かぐやっほー!かぐやだよー!!」
「「「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「復帰早すぎてごめーん!でもかぐやの可愛さに免じて許せー!」
「「「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
「あ、かぐやツクヨミの副管理人になったからよろしくぅー!」
「「「えぇぇぇぇぇえええええええ!!!???」」」
海にて
「海だー!」
「テンション高いなぁ、かぐや転ばないでよー」
「そういう彩葉が1番嬉しそうだけど?」
「さぁ~どうでしょうかね~」
「いや~今年も皆で海来られたね~!」
「ヤ~チ~ヨ~かぐやちゃんの水着見れて嬉しい~?」
「…」
「ヤチヨ?」
「…」
「し、死んでる…」
KASSEN場にて
「ねぇ~ヤチヨ~」
「なんだいなんだい?」
「この超KASSENってやつ、本気でやるの~?」
「ん~皆との約束だからねぇ~!」
「だからって月人達とKASSENとか正気~!?」
「皆かぐやとも会いたがってたよ~」
「ヴェ~!?」
ツクヨミ内ヤチヨの家にて
「彩葉~」
「ん、どうしたの?」
「ヤチヨの名前呼んでほしいな~?」
「…ヤチヨ」
「~♡」
「ヤチヨ、かわいいね」
「いろはぁ…♡」
「かぐやもいるんだけどぉ~!?」
研究所にて
「ヤチヨは本来のヤチヨとは違うので、自重という機能がついてないんだ~」
「いや有難いし助かるんだけど…!」
「ダメ~?」
「だからってこれは出資額としてデカすぎるってぇ~!!」
「てへ☆」
そして
「んん~!」
白髪の長い髪の女性が永い眠りから覚めたように背伸びをした
「YC型の方が適合率がやっぱり良いね」
「彩葉のパンケーキが食べたいなぁ~」
「かぐやも!かぐやもたべたぁ~い!」
「味覚の実装まだなんだから我慢しなさい」
「ヨヨヨ~現実は厳しいのです~」
「えっ…かぐやも我慢する流れ…?」
現実に来たからといってまだまだ問題は山積みですが、3人であれば乗り越えていけるでしょう
「まぁ味覚の実装もそうだけど、先ずはライブの練習頑張らないとね」
「「はぁ~い!」」
酒寄彩葉並びに協力者のかぐやにより現実世界に降臨したツクヨミの歌姫こと月見ヤチヨ
3人はいつまでも面白おかしく幸せに暮らしましたとさ
めでたしめでたし
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