酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話【完結】 作:ゴリラ皇子
本作を既読された方向けとなります
細かい設定等矛盾があるかもしれませんが雰囲気重視でお楽しみください
かぐやの卒業ライブから約1か月後
ツクヨミに現れた超新星、ヤチヨカップ優勝者
かぐやの引退を嘆く者は多い
流れ星のような彼女の輝きに目を奪われた者達
未だに誰もかれもが心にかぐやロスを抱えていた
ある者は己の不甲斐なさを嘆きKASSENに明け暮れた
ある者は月へ行くため宇宙飛行士を目指した
ある者は空いた穴を埋めるように新しい推しを探し始めた
時間の流れだけが、この痛みを癒してくれるのだろうか?
そんな風に考えていた時
ツクヨミ管理人…月見ヤチヨから唐突にメッセージが届いた
『ヤオヨロー!突然だけど2週間後の予定空いてる?お休みとれそう?かぐやの為に戦ってくれた貴方へ、素敵なイベントの招待状を送るよー!絶対参加してね!』
このようなメッセージが届いたことにも驚いたが
もっとも彼等を驚かせたのは開催されるというイベントの名前
そのイベントの名前は『おとぎ話の、その先へ』
KASSEN特別会場に集まった人々は期待と不安で一杯だった
ヤチヨの配信でも詳細は特に明かされず、結局そのまま当日を迎えてしまったからだ
あのメッセージとイベント名の「おとぎ話」から
もしかして彼女へ会えるのではないかと…胸が緊張で飛び出しそうだった
そして…後世まで語り継がれるイベントの幕が上がった
イベントのカウントダウンが終わると同時に
ヤチヨの声が会場へと響いた
今は昔ーと言っても1か月前くらい~?
月からやってきた「かぐや」という
超可愛くて歌と踊りが超上手いライバーがいました
地球で毎日面白おかしく過ごしていたかぐやですが
とうとう月へと帰らなければいけない日が来ました
かぐやとお別れしたくない皆は
お迎えに来た月人達と懸命に戦いますが
奮戦むなしく…
かぐやは月人達に連れられて
月へと帰ってしまいました
皆の心へ輝きをもたらしたかぐやは
いつまでもいつまでも…その心の中へ
そして皆、かぐやとの思い出を胸に
前へと進んでいくのでした
めでたし めでたし
『って、これじゃあ終われないかぁ~!』
ヤチヨのその言葉と共に
ツクヨミの暗い空に満月が輝いた
あの日と同じように
月が現れると同時に、会場の中央へ作られたステージへ赤い鳥居が出現する
現れた鳥居が光りを放ち輝いたかと思うと
あの日かぐやを迎えに来た異形…月人達が鳥居から歩み出てきた
その姿を見た何人かが反射的に腰を浮かせるが、イベント中だと思い出し席へと座りなおす
鳥居から出た月人達は
道を作るかのように左右へと広がり跪いていく
そうやって最後の月人が跪くと
シャン
音が聞こえた
シャンシャン
鈴の音が聞こえた
彩葉が手に神楽鈴を持ち、鳥居より歩み出てきた
巫女の様な装束を身にまとった彩葉は、少し進んだところで立ち止まると
後ろを振り返り神楽鈴を空中へと手放した
シャン
痛いほどの静寂
誰もかれもが固唾を飲んで見守った
彩葉は両手を胸の前で組むと
ゆっくりと息を吸い込み
『昨日のつづき』
歌いだした
歌うというよりどこかへ…誰かへ伝えるように
ゆっくりと声を紡いでいく
『(喋りたかった)』
そんな彩葉の声に合わせて
誰かが輪唱していく
『くだらなくても』
『(ちょうどよかった)』
『『本音をきかせて』』
声が重なった
『『ただ叶えてみたいから』』
そして彼女が
鳥居からツクヨミへ帰ってきた
『この一瞬を最高のパーティにしよう!』
かぐやだ!
十二単を着たかぐやが
光り輝く鳥居より現れ、元気に手をふっている!
『みんなぁー!たっだいまぁー!!!』
「「「「うぉぉおおおおおお!!!!!」」」」
絶叫に近い歓声が、声にならない感情が
会場中から爆発した
誰もが、気づけば立ち上がって声を上げていた
『当たり前の結末なんて』
『いらないって笑ってた』
それはあのライブの続き
もう2度と見られないと思っていた
あの日の続き
『同じエンドに連れてってくれる』
『そう思ってたけど』
あの夢の続きを
もう1度!
『聞き分けのいい』
『フリはもうできない』
『飛び立つ背中』
『追いかけてみたい』
さっきとは逆で彩葉の輪唱が聞こえる
いろPが歌った!?
『本音を聞かせて』
『ただ叶えてみたいから』
かぐやと彩葉は見つめ合いお互いに微笑んだ
ツクヨミへ戻ってきたかぐやへ「おかえり」と
言っているようなそんな感じがした
『この一瞬を最高のパーティにしよう』
『そしてそっと同じ明日へ地図をつなごう』
観客は笑っているのか泣いているのか、もう自分でもよく分からないまま
いつの間にか手にしていたペンライトを夢中で振り回した
かぐやがいる、ただそれだけのことが嬉しくて
楽しくてしかたがないと一目で分かる程
笑顔で飛び跳ねる彼女を目に焼き付けて
『ありふれてる好きなものにずっとまみれて!』
かぐやが全力で歌い踊り
彩葉が彩とりどりの音を奏でる
『君といたあの部屋へ電子の海へ』
『もう一度飛び込んでタカラバコにしちゃおう!』
キラキラしたかぐや姫が彩葉と両手を繋ぐ
そして共に上へと手を掲げる
『また新しい景色の』
『物語を描こうー!』
月のお姫様、堂々の帰還!
引退帰還まさかの1ヶ月とちょっと!
そうして曲が止まり
割れんばかりの拍手が鳴り響く
それと同時に溢れ出した観客達の魂の叫び
「「かぐやぁぁあああ!!!」」「「待ってたぞー!」」「「おかえりー!!」」「結婚してくれぇー!」「「かぐやちゃーん!」」「帰ってきてくれてありがとう!」
会場が割れんばかりの喜びの声を聞き
かぐやは瞳を潤ませた
『みんなありがとー!みんなのおかげで…帰ってこれたよっ!!』
「「「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」」」
事実、皆が月人と戦って稼いだ貴重な時間があったからこそ…モブちゃんはかぐやの代わりを努めることができた
だから…この瞬間は皆で掴んだ、奇跡の時間なのだ
『もっともっと配信も!ライブも!するぞぉー!!』
「「「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」」」
そう言って嬉しそうに笑うかぐやと、しょうがないなぁと苦笑する彩葉
その光景を見た月人達は、心なしか嬉しそうに微笑むと
フッとステージ上から姿を消した
かぐやは消えていく彼等へ微笑みを送ると指を鳴らした
次の瞬間、ステージが光り輝き…かぐやと彩葉の衣装が変わる
いつもの服装へと戻った2人は、始まりとも言える「あの曲」を次の演目へと選んでいた
『朝起きて今日はなにしよう?』
『好奇心おさえらんない』
『踊りだすハートは制御不可能!』
彩葉が曲を作って、かぐやが歌詞を書いた
2人だけの初めての曲
『テンプレは丸めて捨てて』
『スキップで踏んづけちゃおう』
『地球全部塗り替えちゃおう!』
それは、かぐやが大好きだと言った曲
それは、彩葉が愛おしそうに語る曲
『ねぇみんなぁぁあ!一緒に踊ってぇぇええ!!』
そう言ってかぐやは頭に手を持っていくと
慣れ親しんだ振付を披露した
『心拍数上げて生きようよ』
『退屈奪っていこうよ』
『ウザイのも沼って好きになっちゃうよ☆』
会場全体で楽しそうに踊ってる様子に、知らず知らず彩葉も笑顔がこぼれた
この曲を作った頃はこんな規模で歌って踊るなんて想像もしてなかったな、などと考えて
『誰も止められやしない』
『歌わずにはいられない!』
楽しそうなかぐやを見ていると、不意に彩葉の瞳に涙が滲む
ーもっともっと彩葉と歌いたかったよ
かぐや、あの時そう言って笑ってたよね
だからさ…もっと沢山、やりたいことやろう
一緒に!
2人で初めて作った曲の演奏が終わると
拍手が鳴り響くなか、会場全体が暗くなった
静寂が訪れ、ステージへと続く通路をスポットライトが照らす
スポットライトの光を浴び、そこへ佇むのは…
ツクヨミの歌姫 月見ヤチヨ
いつもより豪華な着物に身を包んだヤチヨは
高下駄を履いた足を半円を描くようゆっくり動かす
目が一瞬で奪われる…なんと雅な姿なのだろうか
これこそは、友と練習した内八文字
刮目して見よ
月見ヤチヨ、最初で最後の太夫道中 …!
「綺麗…」
聞こえてきた呟きは誰のものだっただろうか
それは観客の総意だったのかもしれない
誰しもがその姿へ見惚れている中
ふと、ヤチヨと共に歩む人影を幻視し…人々は目を疑った
「えっ…」
派手な着物をきてヤチヨと並んで歩く笑顔の女性
教科書で見たような太古の服を着た少年
神職のような服を着て琵琶を携えた男性
力強い瞳で優しく微笑む着物をきた女性
仁平を着て面白そうに周囲を見る細身の男性
古ぼけた服を着た儚げな少女
口の端をあげて笑う眼鏡をかけた金髪の男性
他にも多くの者達が
ヤチヨと共に時代を駆け抜け、生きた者達が
彼女と共に歩いていた
ツクヨミが魅せた白昼夢
彼等が誰なのか…ヤチヨと彩葉とかぐや、そしてFUSHIの3人と1匹しか知らない
だけど、それで良いのだろう
語られることのない歴史の1ページでも
ヤチヨの中に
ヤチヨと共に
確かに生き続けているのだから
そしてー永い永い旅路の果て
ヤチヨは辿り着いた
彩葉とかぐや、2人の元へと
気が付けば人影は消え…ステージにはヤチヨと彩葉とかぐやの3人だけが残った
ヤチヨは2人へ微笑み、ゆっくり口を開いた
そして…いつものように笑って歌を紡ぐのだ
『幾千の時を巡っていま僕ら出会えたの』
『ほら見失わないように』
『手をはなさないで』
彼女の歌を聞いた瞬間
観客はその歌声に、思わず鳥肌が立った
月見ヤチヨの代名詞ともいえる、お馴染みの曲
お馴染みの筈なのだが…今回は何かが違った
無理やり言葉にするのならば、今までとは「次元」が違う深みがある
そんな風に観客は感じた
彼等がそう感じたのも無理はない
大好きな彩葉とかぐやと再び出会えたこと
大好きな2人へ自身が愛されているということ
それ等全てがヤチヨの歌を新しいステージへと導いていた
『ねぇ耳をすませて』
『星の降る音が聞こえるでしょう?』
聞き惚れるとはこういうことを言うのかと
実感できるほど観客は一瞬で心を奪われた
そして…そんなヤチヨに導かれるようにして
かぐやも新しいステージへと歩を進める
ヤチヨの八千年の旅路を体験した彼女は
ヤチヨからの愛を十全に理解し、全力で愛を込めて歌声を響かせた
『もっと近くにきて』
『誰も知らない世界が待ってるの』
ヤチヨとかぐや…歌姫2人による究極のデュエット
極上のハーモニーが観客の情緒を破壊する
知らず知らずのうちに
ただ涙が流れていた
ヤチヨが2人を思って作った曲
歌詞の意味全てを理解はできなくても
曲に込められた愛をより深く感じ取ることができた
『『宙、海のにおい君に届くかな』』
『『距離なんてないのかな』』
『『どんな時もきっとどこかで』』
『『見守っているからさ』』
彩葉も演奏しながら自然と涙が溢れ出していた
ヤチヨは本当にずっとずっと見守っててくれたんだ
ずっと…愛してくれていたんだなぁ
『ほら、くしゃくしゃになって笑う日を』
『集めて紡いで未来へ踏み出す先も』
運命だからと諦めていた、見守っているだけで良いんだって
本音を隠した心を2人が見つけてくれた
大切な思い出をこれからもっと増やせるように
これからずっとずっと笑って過ごせるように
彩葉…かぐや…
大好きな人達と一緒に
『『君と心ふるわせて』』
『『叶うさいま物語を巡ろう』』
曲が終わり万雷の拍手の中で
ヤチヨと彩葉とかぐやが嬉しそうに手を繋いで笑いあった
拍手が落ち着いた頃を見計らって
かぐやが進み出て観客へと手を振った
『かぐやっほー!かぐやだよー!』
「「「かぐやっほぉぉおお!!!!」」」
『えへへ、神々の皆ヤオヨロー!月見ヤチヨでーす!』
「「「やおよろぉぉぉおお!!!!」」」
『い、いろぴー…いろPです…』
「「「「いろぴぃぃぃいいいいい!!!!!!」」」」
『いろh…いろP~!』『いろP~♡』
『ちょ、やめてよ!恥ずかしいからっ!?』
顔を真っ赤にして照れながら挨拶する彩葉に、会場中の人間はメロメロだ
特にかぐやとヤチヨがメロメロだ
『かぐやちょっと休憩してくるから、さらばーいー!』
『それヤチヨのやつ~!?』
お決まりの言葉をかぐやにとられてしまい
泣き崩れるフリをするヤチヨ
『ヨヨヨ…いろPにぎゅっとして慰めてもらわなきゃ…!』
『何言ってんの』
2人のやり取りを見て観客は思った「あれ、なんか2人の距離近くないか?」と
でも推し達が幸せならOKです
『かぐやがいない間どうする~?2人だけでもう1曲やっちゃう~?』
『良いけどさ、かぐやが拗ねない?』
『その時は…一緒に謝って♡』
『あはっ、仰せのままに』
彩とりどりのライトが2人を照らし
彩葉が演奏を始める
この曲は2人にとって特別な曲
『焦がれてやまなかった誰かの背が遠くにいっても』
『ぬかるむ水たまり乾いていつかは頭上に虹かかる』
もう届いたからお役御免だと思ってた
もう2度と歌うことはないと思ってた
大切な人へ贈る曲
『壊れてしまったら直そう自転車を』
『萎れてしまったら水やろう花びら』
この曲があったから生き延びられた
この曲があったからヤチヨに、かぐやに、出会えた
大切な人から贈られた曲
『あなたの世界はそこでは終わらない』
『眩しい日々がどこかで待ってるから』
きっとこの曲が、誰かの道標になるから
だから…ヤチヨにはまた歌ってほしいんだ
彩葉はそう言って笑っていた
『大切なメロディは流れてるよ』
『あなたのハートに』
『鼓動のよう途絶えずにあふれてるよ』
『ラーララーララーララー』
どうか、この曲があなたの道を照らしてくれますように
曲が終わり…なぜか大号泣の彩葉
「うぅ~ヤチヨ~!」
「何で彩葉が泣いてるのかにゃあー!?」
「あ、あの頃の思い出が走馬灯のように…」
「よしよし~大丈夫だよ~」
観客に聞こえてないことを良いことにイチャつく彩葉とヤチヨ
聞こえてないけど観客は「イチャついてんなぁ」と思っていた
『こら~!かぐやがいないのにイチャつくの禁止ぃ~!!』
救世主か?
いや、休憩から戻ってきたかぐやだ
「イチャついてないわ!人聞きの悪い」
「えー彩葉ヤチヨとめでたししたくないのー?」
「めでたししちゃう~♡」
「かぐやも!かぐやもめでたしする~!」
「後でね~ほらほら進行進めて~」
3人になってもやっぱイチャついてんなぁ
でも、そうやって3人でわちゃわちゃしている姿がとても楽しそうで
ヤチヨの嬉しそうな顔がとても眩しく映った
自分が進行役だということを思い出したのか
かぐやは誤魔化すようにゴホンッと大きな咳払いをする
『えーと、次が最後の曲になるんだー!』
「「「「ええええぇぇぇぇぇー!!!」」」」
観客の心の底からの大絶叫に、かぐやもつい満面の笑みである
『今日は本っ当に楽しかったー!皆もそうでしょ?』
「楽しかったー!」「最高!」「かぐやー!」「毎日ライブしてくれー!!」「かぐやー愛してるぞー!」「いろPー!」「ヤチヨー!」「ありがとうー!」
『この時間が終わっちゃうのは、ちょっと寂しいけど…今日でさよならじゃないんだ!これからも楽しいこと沢っ山やるぞぉー!』
「「「「うぉぉぉおおおおおおお!!!!」」」」
『あっ、かぐやツクヨミの副管理人になったから~応援よろしくぅ☆』
「「「「えぇぇぇえええええええ!!!???」」」」
悪戯が成功したように笑うかぐや達の衣装が、水着のような夏っぽい衣装へと変わる
衣装が変わると同時に、ステージのみならず会場全体が空を含めて明るくなった
KASSENを除いて常夜の国であるツクヨミには珍しい、まるで夏の晴天のような晴れやかさだ
最後の曲は皆で!というかぐやの要望で彩葉、ヤチヨだけでなく帝、乃依、雷、芦花、真実が続々とステージへ上がってくる
会場のボルテージは最高潮!
ステージにいる皆も、観客の皆も、最っ高に良い顔をしている
その中でも特に楽しそうな彼女…ヤチヨの楽しそうな顔を見て…かぐやは嬉しくなって話しかけた
「ヤチヨ~!」
「なんだいなんだい?」
「楽しいねっ」
「うんっ!」
ヤチヨは本当に…本っ当に嬉しそうに笑ったんだ!
でも、これで満足しちゃダメだよ~?
もっともっと素敵な世界が待ってるんだからさ♪
『最後の曲はー』
ねえ、あなたはこのお話ハッピーエンドだと思う?
案外このあとすぐ喧嘩別れしちゃったり~?
はたまた、もっとハードな展開に遭遇しちゃったり~?
それは…まだ先の分からない未来の物語
あなたの物語だってそうじゃないかな?
これが誰かの書いたお話じゃない私達だけのお話
ひとまずこのお話はここでおしまいです!
タイトル?
タイトルはー
『酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話』
以上で全て完結となります
少しでも面白いと感じたら、高評価・感想いただけると嬉しいです
最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました
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