第1話
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彼方の夕日が、連山の端にかかっていた。青空はその橙色の光に照らされてじんわり温かに染まり、低いところを緩やかに流れる雲の底部は、陰翳のために灰色になっていて、白い部分とはっきりしたコントラストを成していた。
辺り一面に繫茂する下草が風にサラサラ揺れる。少し向こうには、群生する真っ直ぐ伸びた竹の線形の影が見えている。ひと気はひどく乏しく、この辺は野原のようだった。
下草を穏やかに踏みしめて、栗毛の馬が一頭現れた。馬には上下一体型の丸襟の服を着た人が乗っていて、それは若い男で、長い髪を後頭部で括り、腰に帯刀して、武人のようだった。眉毛が凛々しく、頬のラインがスマートだった。
彼は眩い夕日を望み、たそがれているようであり、また、ただ疲れてボーッとしているようでもあった。彼は旅人か何かで、どこかに向かっている途中のようだった。
竹の群がっている方角に、数軒の家屋が見え、そこは小さい集落のようだった。男は目を付け、止めていた馬を動かして、そこに向かわせた。
……。
野原にポツンとある集落。数軒の建物はどれも小振りで、白い石の積み上げで成り立っており、馬に乗った男がゆっくり近付いてみても、依然としてひっそりしており、けれど、どこか妙だった。何もいないわけではなく、何か潜んでいるようで、けれど、この集落は、健全な生活の形跡がなく、微かな凄味に覆われていて、廃墟じみていた。
風が立ち、それはひんやりした風だった。夏の時期に相応しくない冷風で、その流れは、静かに知らせを男の耳に運んでくるようで、彼は耳を澄まし、感覚を鋭敏にして、そろりと馬を下りると、腰の剣の柄に手をかけ、流し目で辺りを睥睨した。
「出てこい。いるのは分かっている」
男が洞察して言うと、ヒヒヒと下卑た薄笑いの声が聞こえて来、建物の物陰から、数人の薄汚い身なりの男たちが湧くようにして出てきた。
「よく気付いたな」、と白髪交じりの髪を妖怪のように伸ばした男が、わざとらしく感心したように言う。他の者どもも、彼と似たような健全さとは遠縁の外貌で、肥満だったり、極端に小柄だったり、老齢でもないのに腰が曲がっていたりした。彼等は皆、武器を持っており、けれど、槌は粗末で、小刀は刃こぼれしていて、槍は柄のところが折れていた。
「隠れていたのか」、と旅人風の男が敵意を滲ませて言う。
「そうさ。野原に現れたお前を見ていた。なぜ一人でいる。旅人か?」
「答える義務はないだろう」
「まぁ、そうだ。どの道お前はここで殺される!」
そう宣言して、長髪の妖怪男はゲラゲラ笑い、刃こぼれした刃物をいびつに夕日で光らせながら、旅人風の男に、仲間と共にジリジリと近付いていく。
旅人風の男は目を細めて周囲を窺い、乗ってきた馬のそばにいる彼は、シュッとしていて、威勢はいいようだけど、たった一人で、複数人を相手取るのは、明らかに不利だった。
夏の日は長かった。
彼には勝機があるようだった。
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