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奏文たちが仕事を手伝うことになった家は、養蚕業と紡績業を営んでいるようで、彼等に家を案内した農業従事者と思しき男は、四十歳くらいの家の主人で、家の者曰く、彼は桑畑と蚕を飼育する小屋の面倒を見に行ったらしかった。彼は彼で忙しいようで、夕方家に戻ってくると、奏文に呼びかけ、次の日から糸繰作業を抜けて同行するように指示した。彼はその作業は許義と岩良に任せ、男の言に従うことにした。
手伝う限りは衣食住が保障され、許義たちのボロは麻布の衣服に替えられた。食事は雑穀と漬物という極めて質素なもので、寝る時はむしろを敷いてその上に横になるのだった。
……。
「仕事はどうだった?」、と朝、畑への道中、男が尋ねた。
「なかなか骨が折れますね」、と奏文。
整備された平坦な町の道路には、人々が行き交い、誰もがそれぞれの仕事場に向かっているようで、挨拶の言葉があちこちで飛び交っていた。
「だろ? しかもおれたちがせっせとこしらえた絹は、お上に献上せにゃならん」
「税としてですか?」
「あぁ、そうだ。おれたちは地主様に土地を頂く代わりに、生産物を対価としてお納めするのさ」
「虚しいですね。せっかく精を出して作ったものが、上に吸い取られるというのは」
「仕方ないさ。世の中そういう仕組みになってる……!?」
ふと、男が立ち止まって、妙に思った奏文が遅れて立ち止まって振り返ると、男のそばに、三人の男が立っていた。彼等はこぞって金属の防御板が付いた鎧を纏って帯刀し、兵士たちのようで、どこか傲然としていた。そんな彼等に向かって、男はどこかオドオドしていた。
「今から仕事か」、と一人の兵士。
「は、はい。左様にございます」
「精勤しろよ。お前たちの永続的忠誠と物品の献上が、我らの国の安寧を担保しているのだからな」
「重々、承知しております。此度も不足のないよう、品物をお納めしますので、よろしくお願いいたします」
「よろしい」
兵士たちは満足そうに笑むと、去っていき、一連のやり取りを興味深く見ていた奏文は、彼等とちょっとだけ目が合い――刹那だけだったが――互いにどこか気に食わない感じがしたようだった。
フゥ、と男は額に浮いた脂汗を拭って奏文の隣に来ると、歩き出し、「あの人たちは」、と説明しだした。「常駐の兵士に加えて、ちょくちょく監査に来ている地主様のところの兵士さ」
「監査に?」
「あぁ。常駐の兵士がいるが、入念に、ということなんだろう。つくづくお上っていうのは、いつも下々を信用せず、監視したがるものなのさ」
「――ちょっと待て」
突然背後より声がかけられ、男はビクッとして、奏文は彼と共に振り向いたが、いるのはさっきの兵士たちだった。今度は奏文に用があるようだった。彼等は互いに目と目を合わせ、微かに陰険な雰囲気であった。
「訪問者が来ているという話があったが、お前のことだな。馴染みの顔ではない」
「はい。奏文と申します。現在放浪中の身で、今回わけあってこちらに寄せていただきました」
「流浪人か」
常駐の兵士は、どこか軽蔑するようにそう言った。
「そうです」
「どこに向かっているのだ?」
「どこに、という目的地はこれといってございません。荒れた現世を生き抜く術を知るために、諸国を巡っている、というところでしょうか」
「ハッハッハ」と兵士は大笑した。「流浪人というのは気楽なものだな。多くの人々は、国に属し、忠誠を誓って日々刻苦勉励しているというのに」
彼の嘲弄の調子のこもった言葉を聞き、奏文はいい気分ではなかった。
「いえ、決して気楽とは限りませんよ。その日暮らしで生計を立てているものですから、飢えに喘ぐ時がございます」
「それは気の毒なことだ。まぁ、村に害を成さない限りは、滞在に異とするところはない。だが、拠り所とする者がいなければ、働かねばなるまい」
「存じております」
「なら、結構。出来れば訪問時にわたしのところまで挨拶に来るべきだったな。それをせずに勝手に滞在して、お前の印象はよくない。後、それを許したお前もだ」
「す、すいません」
睨まれて、農業従事者の男が深々とこうべを垂れる。
その様を奏文は見ていたが、その内彼も睨まれていること、そして頭を下げねばならないことを、遅れて察知し、同じようにこうべを垂れた。そうすると、兵士たちはまた大笑し、その品のよくない笑い声は、くるりと転回して、次第に遠のいていき、すっかり聞こえなくなってから、ようやく奏文たちは、頭を上げることが出来たのだった。
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