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収穫された桑の葉は、荷車で村内に持ち帰り、指定の家屋まで運ばれた。
指定の家屋は李転の女房たちがこぞって苦役に従事しているあの家の隣にあって、夥しい数量の桑の葉が搬入され、積み重ねれば天井にまで届くほどであったが、蚕も夥しい数が飼育されており、この無数にある好物の葉をあっという間に平らげてしまうのだそうだ。
桶を長大にしたような容器に、うじゃうじゃ白い蚕が蠢いており、そこに飼料である桑の葉が詰められていた。朝と夕、奏文たちは葉を桶に入れてやるのだが、朝、桶が満杯になるほどやっても、夕方にはすっかり食い尽くされていて、彼は感嘆したものだ。それだけたくさん食べるので、蚕の成長は著しく、何回も脱皮を繰り返して大きく生育するようだった。
数日経てば、蚕が繭を作るということで、奏文はどれくらいの日数働くか決めていなかったが、報酬は期待出来そうだった。使えないでくのぼうであればとっくにお払い箱になっていただろうが、奏文も、許義も、岩良も、何とかこの養蚕と紡績の仕事に順応して、人材としての価値を示し、やっていくことが出来ていた。
……。
ある夜のことだった
奏文はうまく寝付かれず、何回も寝返りを打ってそわそわ落ち着きがなかった。岩良はそういったことになった試しがなく、毎夜目を瞑った途端に安眠出来る性質であり、奏文の様子など露知らずという具合だったが、許義は、奏文の隣に位置してよく目に付いたことがあり、怪訝に思ったようで、「どうかしましたか」、と皆が雑魚寝する空間の中、彼に小声で尋ねた。
「寝付かれないようですが」
「うむ」、と奏文。「ひとつ憂慮があるのだ」
「というと?」
「それは……」
奏文は、暗闇の中で許義と対話し始めたが、彼の目にぼんやり見える許義の容貌は、いささか変わっていた。彼は女性たちに悉く醜悪と罵られ、長かったチリチリの髪を刈り整え、さっぱりしたのだった。長い髪では妖怪のようだったのが、短くすると様変わりし、若々しく見違えるようだった。
「わたしは、お前たちと同行することになったが、そもそも、わたしはお前たちの仲間をあやめている」
「……」
奏文の言葉に、許義は沈黙し、しんみりと黙想するようだった。
「確かにそうです。ですが、あの状況では仕方のないことでした。おれたちは敵対していましたし」
「わたしは、今更ながら仇敵として寝首をかかれまいか危惧するようになったのだ」
「おれたちが、奏文さんの寝込みを襲うってことですか?」
許義の問いに、奏文はまた「うむ」と頷き、すると、許義はカラカラと笑った。
「亡くなった連中は、おれにとって、ただの道連れでした。これといった深い関係性はなく、ただ負け戦から逃亡する時に、偶然いっしょに行動した縁で、その後も連れ立っていたんです」
「それでも、協力し合う仲間だろうに」
「それは、確かにそうでした。けど、貧すれば窮するというように、戦に敗けて帰る場所もなく、適当な廃墟に転がり込んだおれたちは、食うものもなく、次第に人間がすさんでいきました。どこかでこいつらとは物別れになるだろうな、と、そういう感じが常々していたものです。お互いにね」
「わたしが現れたことは、そのきっかけになった、と?」
「えぇ。けど、岩良だけは、もう兄貴もご存知でしょうけど、ずっと兵士だったし、並外れた体格と強面を持っているというのに、ずいぶん変わったやつなんです。こいつだけは、皆がすさんでいく中で、聖域のようにその純朴さというか、抜けたところを変えずに来た……」
奏文は、複数の寝息やいびきが交差する真っ暗闇の中に、一際大きい寝姿の影を認めた。岩良のものだった。彼の巾のある肩から腕にかけてが、寝息に合わせて規則的に上下していた。彼が寝返ると、必ず隣人に干渉するので迷惑極まりなかったが、彼は気を揉んで、出来る限り動かないで目覚めまでいられるよう、小さく縮こまっていた。
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